前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

百歳学入門(24) 『画家は長生き』・奥村土牛(101歳) 「牛のあゆみ」で我が長い長い道を行く

   

百歳学入門(24)『画家は長生き』奥村土牛(101歳)牛のあゆみ」で我が長い道を行く
『スーパー長寿の秘訣はクリエイティブな仕事に没頭すること』
 
前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
60歳から代表作を次々に出した奥村土牛
 
長寿の秘訣は年を忘れること、年など考えるヒマもないほど熱中することです。60歳で定年になって、家でブラブラ退屈して、何もすることのない人は生に退くつして長生きしない。生きがいがないからですね。
 
クリエイティブな仕事をしている人にとっては定年に関係なく、毎日毎日が連続、継続で生きがいのある創造的な仕事をしているので長生きが多い。特に、画家には長寿が多く、晩年になってもなお、すぐれた作品を制作する作家たちが数多くいます。

芸術活動にはもちろん年齢制限などはなく、旺盛な創作意欲と創造力が長寿パワーとなって『生涯現役』『老いてなお創造力は衰えず』となるのです。もともと『老いると体力同様に創造力も衰える』と考えるのは誤解です。自分も年齢的には前期高齢者というわくにはいる年となりましたが、創作への情熱はますますわいてくることに逆に驚いています。奥村土牛に関心をもったのも、60歳過ぎてからのことです。

画家の年齢を調べてみると、確かに長寿者が多いね。長生きする職業を列挙すれば、画家はトップに来るでしょう。物書き、文筆家は画家ほど長生きでないと思うのはストレスがたまるのと、原稿料が安いせいでしょうね。

 主な画家の年齢をざっと拾ってみただけでも
ピカソ92歳、シャガール90歳、ミロ90歳ミケランジェロ89歳、ダリ86歳、モネ86歳、マティス85歳。日本では平櫛田中107歳、小倉遊亀105歳、北村西望(102歳)、上村松篁98歳。東山魁夷90歳、岩橋英遠90歳、横山大観89歳、小野竹喬89歳、中川一政98歳、梅原龍三郎98歳熊谷守一97歳などなど。これいがいにもゴロゴロいます。
 
「牛のあゆみ」で我が道を行く

奥村土牛 101歳1889218日~1990925日) 日本画家です。彼は自伝『牛のあゆみ』 で次のように語っている。

「私の仕事も、やっと少し分かりかけてきたかと思ったら、いつか八十路を越してしまった。かつて横山大観先生に、『天霊地気』という書を頂いた。
私は日ごろからこれを座右の銘としているが、最近は一層、この深い意味のことを思うのである。私はこれから死ぬまで、初心を忘れず、拙くとも生きた絵が描きたい。むずかしいことではあるが、それが念願であり、生きがいだと思っている。芸術に完成はあり得ない。
要はどこまで大きく未完成で終わるかである。余命も少ないが、一日を大切に精進していきたい」
 
 この言葉は、八十四歳の時のものなので、さらに十七年にわたって毎日毎日、土を耕す牛ごとく精進して、百一歳での長寿を達成した。まことに立派であろう。
 
奥村土牛という変わった名前は、父が寒山の詩「土牛、石田を耕す」から取った、という。土牛が丑年生まれであり、謹厳実直な生き方を息子に望んでのことであった。
 
土牛は何度も死にそうになった遅咲き芸術家である。幼い頃は病弱で、貧血とひきつけを繰り返し、主治医から気をつけないと十五歳まで持つまいといわれた。40、50歳ちかくまで長い間、貧乏に耐えて創作活動に専念していた。

長寿の画家に共通するのは、この貧乏というのもある。貧乏だから食えない。そのためには描かねばならない。描いて描いて描きまくる。それでも食えない。この下積み、画業の修行が高みに連れて行くのであろう。北斎のごとく、平櫛田中のように。

さて、土牛は日本美術院の同人にもなって、てこれからという五十一歳で、大病をして、一時は急性肺炎で重体にまでなったが、九死に一生を得ている。

 
長く、梶田半古門下の小林古径に師事した。大森の小林古径師の画室に住みこんで、日本画や東洋古典の高い精神的境地に眼を開かれると同時に、セザンヌに魅了されて、セザンヌに関するものなら何んでもというほどに打ちこんだ

若い時は貧乏から抜け出ることができなかった。自信を持った作品以外には一切発表しなかったからだ。家族の話では「一年に二枚くらいしか描けませんでしたので。これはという作品ができないと、画商にも渡しませんでした。写生はよくいたしましたけれど、よそに出す絵は二枚ぐらいがやっとでございました」
 
土牛は絵を描きだすと、自分で満足できる絵ができ上がらないうちは、家庭の生活、子供がどうあろうと見向きもしないという絵一筋の厳しいところがあった。
 
     芸術に完成はあり得ない。要はどこまで大きく未完成で終わるかである。
 
その技法は刷毛で胡粉などを100回とも200回ともいわれる塗り重ねをし、非常に微妙な色加減に成功した作品が特徴とされる。日本画とセザンヌ的芸術の融合と昇華という大事業を田を耕す土牛の粘り強く百歳まで続けたのである。
 
作家。近藤啓太郎によると、「煙草は好きでした。火鉢が全部埋まるくらい吸いがらがたまって、相当なもんですね。一日、七、八十本以上吸ってたんじゃないですか。年寄りはあまり水なんか飲みませんけど、ちょっと前まではコップに氷をいっぱい入れて、サイダーをがぶがぶと毎晩のように飲んでいました。三回くらい死にかかって、大観先生、小林先生なり、いらっして、本当にお葬式の用意までしたくらいですからね」ということのようだ(『奥村土牛』岩波書店一九八七年)。
 
画業に熱中し、長生きとか長寿など眼中になかったらしい。ところが、幼い頃から何度も死にそうになった体験を持ちつつ、百一歳になるまで長生きしたことになる。
日本美術院理事・理事長。文化勲章受章。実直な人柄で知られ、名誉欲などとは無縁の生活を送る。大の愛煙家。「好きな絵を描いていられれば幸せ」であり、これが長寿の秘訣。
101歳は晩年までも意欲的に創作を続け代表作の多くが、60歳を越えてから描かれていることからも、まさに「大器晩成」の画家である。
 
百歳長寿を達成した点について河北倫明氏は

奥村土牛の場合、養生したというよりも、とにかく、好きな絵のことだけを考えて生きてきた。そのためにはいやなことは一切やらなかった。つまり、ストレスをためないことが長生きの秘訣であったともいえよう。
 

文化勲章を受章するには、事前の運動資金に何千万円もかかるといわれた時代に、何の運動もしないで文化勲章を受章した稀有な存在といわれたのである。推薦者の家の門前に土下座して回るということが、いかに異常であるかと同時に、どれだけストレスになるか想像に難くない。そんな時間と金があったら、絵を描いていたいというのが、奥村土牛の生き方である。』
と『百寿記念展覧会』の前書きに書いている。
 
「絵のこと以外にはなにも考えませんので、着物も、うっかりしていて一人で着ますと、裏を着て平気でおります。京都から新幹線で帰りまして、うちの玄関に着きました々ホテルのスリッパをはいていたこともございました」(家族の話)
 
絵を描くこと以外には一切関心のない画業三昧が長生きの理由であろう。これが画家や芸術家、創造的な仕事に熱中した人間に共通した点である。
 
「宴会なども好きではなかったですし、省くものは省いて自分の目標を貫くという強さは感じますね。一番はやはり気力ですね。次に描く一枚に、今まで描けなかったものが描けるんじゃないか、ということの連続で、これまで来ているんじゃないかと思いますが、その気力はすごいですね」(家族の話)
 

 - 健康長寿 , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

  関連記事

hiragushidenncyuutokusunokki1
日本リーダーパワー史(565)『超高齢社会日本』のシンボル・107歳平櫛田中翁に学べ<ギネス世界長寿芸術家の気魄・禅語・長寿名言10ヵ条>

日本リーダーパワー史(565) 『超高齢社会日本』のシンボル・107歳平櫛田中翁 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(204)記事転載/『新しい女・青鞜』100年-日本女性はどこまで変わったのか①ー100年前の女性、結婚事情』★『働き方改革、女性の社会進出、少子化対策が叫ばれる現在とどこまで女性の地位は向上したのか』』

  2011/10/14  『新しい女・ …

no image
記事再録/日本リーダーパワー史(335)『リーダーをどうやって子供の時から育てるかー福沢諭吉の教えー『英才教育は必要なし』★『勉強、勉強といって、子供が静かにして読書すればこれをほめる者が多いが、私は子供の読書、勉強は反対でこれをとめている。年齢以上に歩いたとか、柔道、体操がよくできたといえば、ホウビを与えてほめる』

    2012/10/22 &nbsp …

no image
★『世界を襲う地球温暖化による異常気象』-『“ヒートドーム”に閉じ込められた北半球、史上最高気温続出』★『世界人口は2055年には100億人を突破。燃え上がる地球で人類は絶滅種族に向かう』

『青い地球は誰のもの、 青い地球は子どものもの、 青い地球はみんなのもの、 人類 …

no image
記事再録/知的巨人たちの百歳学(139)-百歳学入門(92)「国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」から学ぶ』★『⑨昔の武士は、身体を鍛えたが学問はその割にはしなかった。今の人のように、小理屈(こりくつ)を言うものは居なかった。一旦、国家に緩急の場合は決然と行動した。 ⑩学問に凝り固まっている今の人は、声ばかりは無暗に大きくて、胆玉(きもったま)の小さい。まさかの場合に役に立つものは殆んど稀だ。』

    2014/06/21 / 百歳学 …

no image
日本メルトダウン脱出法(763)「中国は将来、必ず崩壊していく 欲望が自らを蝕む原理」●「独自の世界観を流布し始めた中国 ジンバブエ大統領に授与された中国版「平和賞」が意味すること』(英FT紙)

 日本メルトダウン脱出法(763)   韓日首脳会談:「韓国を見下す日本」と「日 …

no image
★『緊急スーパー台風19号の進路速報!、神奈川県逗子から②』★『逗子市の高潮警報発令で、田越川周辺の住民に自主避難所を開設(動画)』★『台風19号、静岡か関東上陸へ=7都県に大雨特別警報-1人死亡、10人重軽傷 (10/12/pm16/)』

          &nbsp …

888888888888888888
『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(110)』 「パリ・ぶらぶら散歩/ピカソ美術館編」(5/3日)⑧ピカソが愛した女たちードラ・マール

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(110)』 「パリ・ぶらぶら散 …

127705493054a53d8c77a253.34570736107367688
人気リクエスト再録『百歳学入門』(233) -『昭和の傑僧、山本玄峰(95歳)の一喝!➀」★『法に深切、人に親切、自身には辛節であれ』★『「正法(しょうほう)興るとき国栄え、正法廃るとき国滅ぶ」「葬儀は絶対に行なわざること」(遺書)

    2012/06/01  記事再録 百歳学入 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(327)★『コロナパニックなど吹き飛ばせ』★『超高齢社会日本』のシンボル・世界最長寿の彫刻家/平櫛田中翁(107歳)に学ぶ」<その気魄と禅語>『2019/10月27/日、NHKの「日曜日美術館ーわしがやらねばたれがやる~彫刻家・平櫛田中」で紹介』★『百歳になった時、わしも、これから、これから、130歳までやるぞ!』と圧倒的な気魄!

 <世界のコロナパニック戦争で「長寿大国日本」の底力(長寿逆転突破力)を発揮して …