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池田龍夫のマスコミ時評(27) 特捜検察〝暴走〟の衝撃ー検察審査会の議決混乱も気がかり

   

池田龍夫のマスコミ時評(27)
 
特捜検察〝暴走〟の衝撃
 
-―「検察審」議決の混乱も気懸かり――
 
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 九月から十月にかけて、政治の根幹を揺るがす大事件が吹き荒れ、国民の不安を掻き立てている。「大阪地検特捜部の押収フロッピー改ざん事件」「検察審査会の小沢一郎氏強制起訴決定」の国内問題に加え、「尖閣諸島海域での中国漁船衝突」にからむ領土問題も急浮上。いずれも事態の収拾、解決に手間取る難題ばかりで、菅直人民主党政権は重大局面にさらされてしまった。
 
連日の大報道によって事件のアウトラインを知ることはできるが、背景分析、メディアの伝え方に問題点や疑問点はないか。各種情報を再点検して、考察を試みたい。
 
  「押収フロッピー改ざん」に驚愕
 
大阪地裁が、「郵便料金不正事件」の村木厚子被告(元厚労省局長)に関する大阪地検の供述証拠の大半を不採用にして無罪判決を言い渡したのは   九月十日。43通のうち34通の証拠が「検事の誘導で作られた」として採用されなかったことに驚かされたが、十日後の二十一日さらに前代未聞の証拠改ざん事件が発覚した。大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事が、証拠として押収したフロッピィーディスクを改ざんした疑惑が、『朝日』9・21朝刊スクープによって暴かれ、特捜検察〝暴走〟の衝撃が走った。
 
窮地に立たされた最高検察庁は同日夜、高等検察庁を飛び越えて、地検の検事を直接逮捕する事態に急展開した。この異例の判断と同時に、最高検と大阪地検が村木厚子氏について上訴件放棄の手続きをとったため、村木氏の無罪が確定した。
 
朝日新聞のスクープは特筆すべきことで、2010年度新聞協会賞(10月6日決定)に輝いた。『朝日』10・7朝刊によると、大阪本社司法担当記者が「押収したFDデータ改ざん」の情報をつかんだのは七月で、入念な調査報道に取り組んだ経緯を同紙記事から引用しておく。
 
「大阪地検からFDを返却されていた上村勉被告の弁護人を数週間かけて説得し、FDを情報セキュリティー会社に解析に出したのは、村木さん無罪判決から5日後の9月15日。18日になって、『FDが前田主任検事の手元にあったとみられる昨年7月13日に改ざんされた可能性が極めて高い』との結果がもたらされた。
 
翌9月19日、検察幹部に解析結果を示したところ『信じたくない』とつぶやき、天を仰いだ。翌20日午後、大阪中之島合同庁舎で主任検事への事情聴取が極秘に行われた。主任検事は『意図的ではない』としながらも、データを書き換えた可能性があることを認めた。
 
そこで取材班は深夜まで総力を挙げて21日朝刊を作成。この日夜、最高検が主任検事を逮捕(22日朝刊)。10日後の10月1日には、改ざんを意図的と知りながら隠したとして当時の大阪地検・大坪弘道特捜部長と佐賀元明副部長が犯人隠避容疑で逮捕され、事件は取材班の予想を超えて急展開した」。――このスクープ記事がなければ、「村木氏無罪判決」によって世論は沈静化し、〝特捜検察のトリック〟が闇に葬られたかもしれない。
 
その点で、『朝日』記者が、村木氏関与を立証するためシナリオに合わないFDの記述「09年6月1日」を「6月8日」に改ざんした前田検事の悪を炙り出した功績は大きい。
腕っこきの〝割り屋〟前田検事は、証拠隠滅罪で起訴され、懲戒免職処分となった。上司の大坪部長と佐賀副部長も犯人隠避罪で逮捕・起訴され、法務省は十月二十一日付でこの二人も懲戒免職にした。取り調べに乗り出した最高検が、身内の「悪」を果たしてどこまで糾弾できるか、国民すべてが注視している。
 
「小沢氏強制起訴」を議決した検察審
 
小沢一郎氏(元民主党代表)の政治資金疑惑に関し東京第五検察審査会は十月四日、二度目の「起訴議決」を公表。これによって小沢氏の強制起訴が決まり、世間に新たな衝撃が走った。検察審査会の在り方がにわかに論議を呼んでいるので、議決の経緯を振り返って、問題点を究明したい。
 
第五検察審査会の「小沢氏起訴相当」議決(4月)を受け、東京地検特捜部がさらに捜査した結果、「不起訴」と再決定したのが五月。検察審査会はこの判断に反発、新たな審査員による二度目の審査会を招集して再審議して出した結論が、今回の議決である。昨年五月の「改正検察審査会法」施行によって検察審の権限が強化され、検察当局が「不起訴」にした場合、検察審が再審査を行って「起訴議決」を二度決定すれば、強制起訴できることになった。
今回の「小沢氏強制起訴」は、この法的根拠に基づいた議決である。審査会法によると、有権者から抽選で選ばれた十一人で審査会は構成されるが、「審査に当たり、法律に関する専門的知見を補う必要があると認めるときは、弁護士の中から事件ごとに審査補助員を委嘱することができる」と規定している。
 
二度目の検察審で補助した弁護士は吉田繁実氏(東京第二弁護士会)で、その責任は重大だ。議決決定文書は公開されているものの、「審査員11人中、8人以上の賛成で『起訴』議決した」との発表だけで、審査経過は非公開。密室審議のため、憶測が乱れ飛び、「民意とは?」「市民目線とは?」との論議がかまびすしい。
 
従来の「特捜検察の起訴」と「検察審の起訴」を、同列に論じるのは危険である。検察審議決を受けても「直ちに起訴」できず、「起訴→裁判」手続きを進める一定の日時が必要だ。今後は東京地裁が指定する弁護士が検察官役となって小沢氏を起訴し、通常裁判と同様の手続きで公判に臨むことになり、検察官役の弁護士の責任は極めて重い。
 
〝特捜検察の代役〟の手腕が注視されるゆえんだが、「指定弁護士らの補充捜査によって新証拠発掘の見込みは、今回は特に困難」との指摘も出ており、前途多難である。〝有罪を立証する〟ため膨大な捜査資料を精査する時間が必要で、過去の検察審(明石市の歩道橋事故など)の事例と比較しても今回のケースは難しく、正式起訴するまでには少なくとも数カ月を要する案件で、初公判の期日を現段階では予測できない。
 
「マスコミは検察情報垂れ流し」との批判
 
このように「村木氏不当逮捕」と「小沢氏と検察審問題」は、特捜検察がらみの大問題となったが、マスコミの過剰報道に批判が高まっている。メディア側はこの現実を真摯に受け止め、報道姿勢・取材体制見直しの契機にしてもらいたい。
 
前段で取り上げた「FD改ざん事件スクープ」は称賛に値するが、一連の村木・小沢事件に関する特捜検察の一方的取調べ→垂れ流し報道には、多くの問題点が指摘されている。特に村木元局長逮捕(09・6・14)から起訴(同7・4)までの報道は、検察サイドからの情報が圧倒的で、村木氏への疑惑を増幅させた印象が強い。
 
ところが、一年後の大阪地裁第二回公判(10・5・26)で、元厚労省元係長らの供述調書の証拠請求が「取調べに問題があった」として却下されて検察側は一転劣勢に立たされた。その後報道は軌道修正されたものの、「マスコミは検察ワンサイドの報道しかしていない」との批判にさらされたのである。
大手五紙と共同通信が九月十一日以降、「供述報道、慎重さ必要」などと題する検証紙面を相次ぎ制作して、読者の疑問に応える姿勢を示した。『朝日』(9・11朝刊)は、「元局長の関与を認めたとされる元部下の供述調書の大半が『検事の作文』として証拠採用されない事態までは、予測できなかった。…公権力である検察をチェックできたのか、その批判には謙虚に耳を傾けたい」との反省を述べており、他紙のトーンも同様だった。
 
『産経』(9・23朝刊)は「当時、検察幹部は『すべて証拠でがんじがらめ。有罪は確実』と断言した。後の公判で、供述が相次いで覆されるまで、無実を予測できなかった。…捜査段階では、女性キャリア逮捕の衝撃や国会議員に波及する可能性もあり、報道合戦が過熱した。冷静さを失い、検察の構図に傾いた感を否めない部分もあった」と告白していた。
 
村木氏が無罪判決(9・10)後の会見で、「逮捕前後のマスコミ取材は強引だった。検察側情報がリアルタイムで実況中継されていた。検察情報を書くなとは言わないが、それ以外に何を書いてくれたのか、考えてほしい。『何ゆえに』という点は検証していただきたい」と語っていた。村木さんを五カ月余も身柄拘束した責任の一端が、センセーショナルな報道にあったことを謙虚に反省しなければならない。   
 
 「検察審査申立人・甲」のナゾ
 
特捜検察の失態は憂慮すべきことだが、チェック機能の役割を担うとされる「検察審査会」をめぐって新たな論議が巻き起こっている。
 
検察審議決を受けた十月五日朝刊、『朝日』社説は「小沢一郎・元民主党代表は今こそ、自ら議員辞職を決意すべきである。…まさに『世の中』の代表である審査員によって、小沢氏の主張が退けられたといえよう」と、議員辞職を迫っていたが、他紙社説も「小沢氏は身を引け」と述べていた。
 
『毎日』社説は「検察審審査について、一切、説明がないのは疑問だ。審査員の会見実施を含め、審査過程の一定の情報公開を求めたい」と断りながらも、「『公正な刑事裁判の法廷で黒白をつけようとする制度だ』との議決は、市民感覚を刑事訴追に反映させようという制度改正の目的と重なり合うものだ」と述べており、第一回検察審議決(『起訴相当』)の時と同様、各紙とも「市民感覚」に同調する論調の印象を受けた。
 
「検察捜査〝暴走〟」を正すためのチェック機関として、検察審査会の存在は理解できるものの、権限強化からわずか一年余りの検察審の役割を過大評価することに危惧を感じており、幾つかの疑問点を挙げておきたい。
 
公開された「検察審議決書」の冒頭に、
審査申立人(氏名)
被疑者 (氏名)小沢一郎こと小澤一郎
不起訴処分をした検察官(官職氏名)東京地方検察庁検察官検事斎藤隆博
議決書の作成を補助した審査補助員弁護士吉田繁実」
 
と記載され、「当検察審査会は、上記被疑者に対する政治資金規正法違反被疑事件につき、平成22年5月21日上記検察官がした再度の不起訴処分の当否に関し、検察審査会法第41条2第1項により審査を行い、次のとおり議決する」と明記し、長文の議決内容が記述されている。
 
 審査申立人が、「甲」という記載に驚かされる。これだけ重大な政治的訴訟の申し立てが、匿名で許されるかとの疑問がわく。正体不明なのが気懸かりだったが、『朝日』10・6夕刊によって、「真実を求める会」の存在が浮かび上がってきた。このほか「世論を正す会」「在日特権を許さない会(在日特会)」などの政治的動きもインターネット上で飛び交っており、〝危険な時代の空気〟を感じる。
 
小沢氏の政治資金疑惑だけでなく、「市民目線」に便乗した〝意図的告発〟が続出したら、社会は混乱する。その点で、公正な告発を担保するために「匿名告発」を認めるべきではないと思うが、間違いだろうか。 
 
  十一人の市民審査員が審議の前提として、事件の経緯を審査補助員の吉田弁護士から受けたに違いないが、その内容は一切公開されていない。司法へ市民の声を反映させようとの発想は否定しないが、「市民目線」偏重に流されると、逆に誤判・冤罪の危険性をはらむ。「政治とカネ」の問題と刑罰を科すことは別次元の話なのに〝小沢憎し〟の大合唱によって、「推定無罪」原則を無視するような風潮に歯止めをかけなければならない。これは「小沢氏擁護」ではなく、本来の法秩序を確立するための根源的課題であるからだ。
 
今回の検察審密室審議を探ってみて、審査員十一人の平均年齢は34・55歳(男性5、女性6)とのことだが、各人の年齢、職業まで公開してもよかったろう。さらに、「議決書」に審査経過を記載してほしかった。この点にこだわるのは、検察審の議決が、従来は(昨年5月まで)参考意見に過ぎなかったため密室でよかったかもしれないが、権限強化によって「起訴権」を持った以上は、審議内容を公開するのは当然で、それこそ公正な「市民目線」の趣旨にも応える道ではないか。
一方、小沢弁護団は「今回の起訴議決内容が、告発容疑と違っており違法だ」として検察審議決の無効を求める訴訟を提起するという。また村木事件で懲戒免になった前田主任検事が、「小沢事件」で元秘書を取り調べて逮捕した事例が明るみに出るなど難題が相次ぎ持ち上がっている。
 
両事件を通じて、「捜査の密室性」を批判する声がますます高まってきたことを謙虚に受け止め、容疑者取調べの可視化と情報公開を急がなければならない。同時に、メディア側には一方的事件取材の反省と、報道倫理の順守を強く求めたい。
 
この際、学者・有識者による「第三者委員会」を」設置して、検察組織全体を検証、抜本的司法改革を目指してほしい。
 
池田龍夫=ジャーナリスト)
 

 - IT・マスコミ論

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