百歳学入門(72)「トマトの父」カゴメの創業者蟹江一太郎(96歳)『長寿はトマトを売り歩いた苦労のおかげ』③
2021/03/01
日本の食卓に長寿食トマトを広めた「トマトの父」
・ カゴメの創業者蟹江一太郎(96歳)の健康名言③
『長寿はトマトを売り歩いた苦労のおかげ』
前坂 俊之
(ジャーナリスト)
名言⑦80歳を迎えて『杖朝の齢 迎えて吾も亦 ぴんと一むち駒を進めん』
1954年(昭和29)、蟹江は八十歳に達したが、眼も耳ともしゃんとしており、腰も曲らず、毎日、出社して元気に釆配を振う張り切り社長であった。当時の平均寿命は60歳である。八十歳の高齢で、日々出勤している陣頭指揮していた社長は稀有の存在ではなかったろうか。
同年の正月、年賀客に囲まれた一太郎は、晴れやかな顔で、一首を詠みあげた。『杖朝の齢 迎えて吾も亦 ぴんと一むち駒を進めん』
「杖朝」とは八十代のこと、八十歳を迎えてなお一鞭あてて事業に精進しょうという覚悟の披歴である。
年賀客が感心して「このお元気だと百歳までは社長が勤まりますよ」というと、
「わしは何歳まで生きようとか、いつ死ぬだろうなんてことは考えませんよ。徳があれば長生きするであろうし、徳が薄ければ短命だ」と言って、大笑いした、という。
名言⑧「年をとってもチャレンジ精神を失わず、生涯勉強」
その「生涯現役」「元気、ヤル気満々」の蟹江は1957年(昭和32)9月、念願のアメリカ行きを決行した。「トマト産業の故郷はアメリカだ、死ぬまでに一度は行きたい」が口癖で出かけたのである。この高齢にしてベンチャー精神全く衰えていなかった。
経営者の海外視察について82歳というのは当時としては最高齢者ではなかろうか。
常務の蟹江光春らの二人をお共に、約四十日間、アメリカの各地にトマトの栽培地を訪ね、リッチモンド、デルモンテなどの大手食品加工企業の工場を見学して回った。
驚いたのは訪問先である。82歳の老人が杖も引かず、はるばる日本から訪ねてきて、農場や工場を意欲的に見て歩いたのにはビックリ仰天。大歓迎した。
一太郎も感激し、熱心に見て回り、そのケタ違いの工場の規模、大量生産、機械化、オートメイション、品質管理に驚き、思想的な大転換を遂げた。帰るや否や、「アメリカに、もう負けてはいられん」と、米国流を取り入れて機械化、近代化の一大改革と取り組んだ。「米国視察と大改革。これが一番会社の伸びた原因である」ーと関係者は回顧する。
昭和37年、蟹江は数えで88歳、米寿を迎えた。愛知トマト株式会社は名古屋の中区錦三丁目に、新社屋が完成し、合資会社以来五十年、坐りつづけた社長の椅子を当時37歳だった養子の一息にゆずった。
名言⑨ 長寿はトマトを売り歩いた苦労のおかげ
蟹江は「トマトは胃腸の掃除役」との信念を持っていた。ことわざに「トマトが赤くなると、医者が青くなる」とあるように、トマトはきわめて栄養価の高い健康野菜である。とくに最近では、がん予防のエースと呼ばれるトマトジュースには大量のリコピンが含まれている。リコピンとはカロチノイドの一種で、トマトの赤い色の源となって五葉だ。リコピンには血液中のコレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化やガンなどを予防する効用が証明されている
自らの健康長寿はトマトのおかげだと、蟹江は信じて疑わなかった。
自分の健康法について聞かれたとき、
「とくに健康法はありません。酒も煙草もやりませんし、食事は与えられたものを喜んで食べるという主義で、今日までやってきました。ただ、朝早く起きるのが昔からの習慣ですし、できるだけ自然な生活を送るよう心がけています」
「子供の頃から百姓で身体を鍛え、兵隊でその仕上げをし、トマトの商売をはじめますと、その見本を信玄袋にいれて、今日は大阪、あすは東京と、文字通り東奔西走して、身心を鍛錬したおかげであると思っています。
蟹江は80歳過ぎになっても地方の工場視察によく出かけた。朝早くから一日中工場内を歩き回っても疲れたようすはなく、その翌日にも早朝から出社するほどの健康長寿経営を最後まで続けた。
関連記事
-
-
『50,60,70歳のための晩年長寿学入門』★『エジソン(84)の<天才長寿脳>の作り方②」★『発明家の生涯には助産婦がいなくてはならない。よきライバルを持て』★『エジソンの人種偏見のない、リベラルな性格で、日本人を特に愛した』★『失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が全知全能力を傾けた努力の結果であるならば』』
2018/11/23 百歳学入門(96)記事再録 &nb …
-
-
『MF・ワールド・カメラ・ウオッチ(5)』「イタリア・ベネチアふらり、ぶらり散歩(4/19-4/28)「ベネチア・サンマルコ広場の巻➂」
2015/05/25 『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッ …
-
-
『長寿逆転突破力を発揮したスーパーシニア―』★農業経済 学者・近藤康男(106歳)―越え難き70歳の峠。それでも旺盛な研究力が衰えず、七十七歳のときからは目も悪くなったが、それも克服し七十歳以降の編著だけで四十冊を超えた。
2014/05/16 <百歳学 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(52)記事再録/日本風狂人伝⑳日本最初の告別式である『中江兆民告別式』での大石正巳のあいさつ
『中江兆民告別式』での大石正巳のあいさつ …
-
-
『ジョーク日本史・禅語の笑いはお腹のジョギング』★ 『一休さんは頓知の名人で不老長寿『一笑一若・一怒一老』
ジョーク日本史・禅語の笑いはお腹のジョギング 一休さんは頓知の名人で不老長寿 …
-
-
『百歳長寿経営学入門』(209)―『生涯現役の達人・渋沢栄一(91歳)の晩年・長寿力に学ぶ/『老人になれば、若い者以上に物事を考え、楽隠居をして休養するなどということは、絶対にしてはいけません。逆に、死ぬまで活動をやめないという覚悟が必要なのです』
2011/05/04記事再録 生涯現役の達人・渋沢栄一(91歳)の晩年・長寿力に …
-
-
知的巨人の百歳学(160)/記事再録/2010/01/25 百歳学入門⑨『10年前の日本超高齢社会の現実と過去と未来の考察』★『私なりの解決/研究本「百寿者百話」前坂俊之著 海竜社(2008年)を出版』
2010/01/25 百歳学入門⑨ …
-
-
日本リーダーパワー史(77) 『超高齢社会日本』のシンボル・107歳平櫛田中翁に学べー<その気魄と禅語>
日本リーダーパワー史(77) 『超高齢社会日本』のシンボル・107歳平櫛田中翁に …
-
-
3年ぶり★「ANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀・三浦大会」(11月11日―15日)歓迎動画』★『Kamakura材木座ウインドサーフィン(2021 /12/1正午)』★『国道134号上のサーフィンと白雪の富士山に向かって飛び、舞い上がれ!、エキサイティング!」
Kamakura材木座ウインドサーフィン(2021 /12/1正午)   …
-
-
知的巨人たちの百歳学(127)<カルピス王・三島海雲(96)の健康長寿・生涯現役\経営術>モンゴルで緬羊(めんよう)事業に着手、中国の排他主義で悪戦苦闘ついに事業から撤退、裸一貫に
知的巨人たちの百歳学(127) <カルピス王・三島海雲(96)の …
