『日本を救え、最悪のシナリオから考える④』ー生き延びるための知恵をー福島原発を軍事学的視点から見る(池田知隆)
『日本を救え、最悪のシナリオから考える④』
生き延びるための知恵ー福島原発を軍事学的視点から見る
池田知隆(ジャーナリスト)
●福島原発の問題は「いま、そこにある最も難しい危機」
「最悪のシナリオ」について語ろうとすれば、どうしても不安を煽りかねません。しかし、日本という国家がどうやったら、もっともリスクを少なく抑え、生き延びられるのかをまず冷静に見つめなくてはなりません。難局を打開していくには、最悪の局面から解決の道筋をさぐることが欠かせません。
いまもなお、福島第一原発の原子炉がどうなっているのか、あまりにもわからないことが多くあり、何が起きても不思議ではない事態が続いています。こんなときこそ、いわゆる軍事的な視点から危機を乗り越える道を探る必要があります。
日本において戦後、軍事学はあまり関心をもたれず、本気で学ぼうとする人はほとんどいませんでした。もう戦争について考えるのはこりごりだ、という思いが国民の間に強かったからです。日本は平和国家の旗印を掲げながら、強大なアメリカの軍事戦略に頼ってやってきました。そして国家の生存をかけるような難局を迎えることもありませんでした。
しかし、福島原発の問題は「いま、そこにある最も難しい危機」なのです。いわば、日本国民が生き延びていくための厳しい『戦争』状態に置かれている、といえます。この場合、敵とは「核」ということになります。いうまでもないことですが、原子力は「地球上には自然にない(宇宙レベルでの)反応」を利用したものです。そこで半減期が2万4000年とか天文学的な数字がでてくるようです。原子力はいわば「地獄を飼い慣らす技術」といえますし、飼い慣らせなくなったら、地獄がでてきます。いわば、「地獄の王」との戦いに直面しているのです。
あのチェルノブイリの事故は、原子炉で爆発炎上してしまい、悲惨な事態をひきおこしましたが、それは爆発後の「後始末の戦争」でした。しかし、福島原発問題は現在進行中の「いま、そこにある危機」ですし、敵(核)の状態がよくわからないまま、息の長い戦いを迫られています。しかも、一基が爆発(水素、水蒸気)すると、その周辺には近付けず、他の原子炉も連続的に爆発するとみられ、その放射能汚染の被害はチェルノブイリを大きく上回るとみられています。
●6月から9月までの処理は「希望」的な目標で、実現不可能か!?
いまは、敵(核)が何を起こすかわからないとき、もっともリスクを少なくするにはどうすればいいのか。東電は収束にむけた行程表を公表し、6月から9月までの間、水による冷却をつづけ、「冷温状態」にしたあと、核燃料をとりだすのが目標といっています。
しかし、それはあくまでも「希望」的な目標です。その間、現場では膨大な水を炉内に注ぎ続け、汚染水の処理に果てしなく追われ、大気中にも放射能汚染物質を放出し続けます。しかし、それはこの記事の第一回目でも書いたように「腐りかけた肉体に絆創膏を貼っている」状態といえます。
ほんとうにそれ以外の対策はないのか。その間、再臨界、炉心溶融、水素爆発、水蒸気爆発がいつどんな状態で起きるか、わかりません(一般的に戦時状態では、ある作戦を展開する際には、途中で不測の事態が生じたときにはどうするといったような、可能な限り対応策を考慮に入れておくそうです)。爆発などが起きる恐れが十分にあるものの、あえておこらないとする希望的観測は、まるで見通しのたたない戦場にひらすら兵士を増援していったかつての日本陸軍の拙劣な対応を思い起こさせます。
もし水素爆発が生じたらどう対応していくのか。相対的にもっともリスクの少ない選択とはなにか。現場からもたらされたデータの内容がどのようにでも読み取れる場合、最も悪い方に受け取って対策を考えていくべきでしょう。将棋や囲碁でも「まずは自分にとって一番いやな手を読み、そのとき指し手を考えよ」といいます。そうやって、自ら生き延びていくための戦略を立てていくのが基本です。
●深海に投棄し、海水によって放射性物質を封鎖以外の選択はあるのか
一番大切な視点は、放射能汚染を相対的に少なくなり、日本民族が一人でも生存していくためにはどういう選択が可能か、ということです。
戦争は「自らが生き延びるために敵を倒す戦い」です。かつて日本では「玉砕」「散華」という形で死そのものを美化してしまったこともありましたが、戦争とはあくまでも生存を求めて、「敵なるもの」に立ち向かっていくものです。
まず放射能汚染の被害を最も抑えるための選択とは何でしょう。「核燃料棒」はいったいいつ、どこで処理していけばいいのでしょうか。大気中か、大気圏外か、地中か、海中か。大気中は直接、多くの人間に触れ、影響が大きすぎます。また、大陸間弾道弾やロケットに積み込み、大気圏外に放出することは可能かもしれませんが、失敗すれば、空から放射能物質をふりまくことになりますので、それもできません。
地下に埋めるのも、地下水汚染の問題が残されますし、冷温状態で運ぶための時間的余裕があるのか。そのように考えた時に、深海に投棄し、海水によって放射性物質を封鎖するしかないように思えます。それ以外の選択はあるのか、ぜひとも教えていただきたい。
リスクを最小に抑える打開策とはなにか。そのためまずはこの難題を広く提起し、世界から英知を結集してほしい。それともこのまま、何も考えることできない状態が続いていくのでしょうか。
関連記事
-
-
日本リーダーパワー史(638)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(31)<川上参謀総長からロシアに派遣された田中義一大尉はペテルスブルグで活躍<ダンスを習いギリシャ正教に入信して情報収集に当たる>②
日本リーダーパワー史(638) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(31) …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(164)記事再録/『袁世凱の政治軍事顧問の坂西利八郎(在中国25年)が 「日中戦争への原因」と語る10回連載』●『万事おおようで、おおざっぱな中国、ロシア人に対して、 日本人は重箱の隅を小さいようじでほじくる 細か過ぎる国民性が嫌われて、対立がエスカレーとし戦争に発展した』
2016/09/13日中韓 …
-
-
『Z世代への遺言』★「日本史最大の国難を4ヵ月で解決した救国のトップリーダー・鈴木貫太郎首相(78歳)を支援、終戦を実現させた昭和名僧、山本玄峰(95歳)(下)』★『禅坊主の死に方を見せてやる」(遷化(せんげ)」★『遺書には「正法(しょうぼう)興るときは国栄え、正法廃るときは国滅ぶ』
2021/10/01 「オンライン・日本史決 …
-
-
『日本の外交力の弱さの復習問題』★『日清戦争の旗をふった福沢諭吉の日清講和条約(下関条約)から3週間後の『外交の虚実』(『時事新報』明治28年5月8日付』を読む』★『三国干渉(ロシア、ドイツ、フランス)の強盗外交に日本は赤子の手をひねられるように屈し、臥薪嘗胆する』
2019/01/31 記事再録/ …
-
-
「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース⑨」「開戦1ゕ月前の『米ニューヨーク・タイムズ』の報道」』★『日本はいずれ国運をかけてロシアと戦わなければならず,シベリア鉄道がまだ十分に開発されていない現在が,勝てる可能性が高いと見ている』
2017/08/19『日本戦争 …
-
-
「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース⑦」★『『開戦2週間前の『ロシア・ノーヴォエ・プレーミャ』の報道」-『英米に支援された日本とわが国の戦争が迫っている。日本はその過剰な人口を移住させるために朝鮮を必要としている。英米は商品を売るために満州と朝鮮の門戸開放を必要としている』
2017/01/13   …
-
-
日本リーダーパワー史(604)『安倍・歴史外交への教訓(10)「世界史の中での日韓関係のパーセプションギャップ⑤」ー「日本の対中国、対朝鮮外交は、ほとんどウソで固められてきたといって過言でない。これを知ったうえで、戦後の外交を再検討、再出発する必要がある。(大宅壮一)
日本リーダーパワー史(604) 『安倍・歴史外交への教訓(10) 「世界史の …
-
-
『百歳学入門』(222)佐藤一斎(86歳)の『少(しよう)にして学べば、則(すなわ)ち 壮にして為(な)すこと有り。 壮(そう)にして学べば、則ち老いて衰えず。 老(お)いて学べば、則ち死して朽ちず』
『百歳学入門』(222) 「学びつづけること」が心も身体も健康にする。 「学ぶ …
-
-
●『徳川封建時代をチェンジして、近代日本を開国した日本史最大の革命家・政治家は一体だれでしょうか講座④『西郷隆盛の即断即決のリーダーシップ➂』『山県有朋が恐る恐る相談すると、西郷は言下に「至極、結構なこと」と了解し、断固実行した」(徳富蘇峰『近世日本国民史』(明治の三傑))
2012-03-24 /日本リーダーパワー史(246)記事再録 & …
