梶原英之の政治一刀両断レポート(2)『原発事故が菅下ろし政局の主役だった!ー原発解散になるとみる理由』
梶原英之の政治一刀両断レポート(2)
『原発事故が菅下ろし政局の主役だった!
ー原発解散になるとみる理由』
梶原英之(経済評論家)
(2011年6月23日)
菅首相の退任時期を占う国会の延長幅が六月二十二日、「七十日」で結着した。思い起こせば六月二日の内閣不信任案の否決から政治記事は菅首相の「人格問題」による菅下ろし一色になった。一転「七十日」の結着で菅首相の続投も決まった。
ボクシングと同じで政治にもラウンドがある。政治家の権力争いの仕切り時間のようなものだ。そのラウンドを政局という。政権(首相)の長期の命運とは別に各ラウンドという時間のなかで勝ち負けはある。
● 菅首相の惨勝、マスコミの文明論的完敗
今回は菅首相の勝ちである。もちろん、菅首相の勝ちはぼろぼろの勝ちであり「惨勝」であろう。が首相の「惨勝」はその後の歴史に大きな結果や傷跡を残しやすいものである。
一般の国民は結着の翌日二十三日朝刊で国政、行政のメカニズムのなかで「七十日」延長はどういう意味があるのか。なぜ、こうなってしまったのかを専門の政治部記者のぎりぎりの取材で聞きたかったのに、そういう分析記事はなかった。
この一月、いや二ヶ月国民はマスコミから「菅不適任」説ばかり聞かさせてきた。不信任案否決の後は「首相はいつ止める」一色である。
「70日延長」は政界での菅下ろしの中断で局面の転換なのだからマスコミは当て外れの反省をさせられるのだからイヤだろうが、苦労して欲しい。国民は政治だけでなくマスコミへの信頼も失っているのである。
筆者は各紙各局が自由に書くことは大賛成だが、全新聞、全雑誌、全テレビ、NHKも含め、「首相辞めろ」の大合唱の二ヶ月。これは情報ファシズムだ。しかも首相は続投。これではマスコミの存在の危機。しかも国民のかなりは「菅さん辞めないよ」と見ていた。これではマスコミははなから信じられていないということだ。「誰かの高わらいが聞こえる」と国民は感じていた。「誰か?」それが報道建て直しのスタートにしてほしい。
筆者は全マスコミが結果として、脱原発をテーマとする原発解散の否定に手を貸したということを批判せざるを得ないのだ。それが本論の主題である。
●ガマンの限界が猛暑で来る
このことを、経済側からの政治観察者としては、延長幅に対する民主党側の希望が120日→50日→70日と転転したのは、菅首相の独善や幹事長との意思の疎通の悪さの問題を超えて重要な意味を持つと考えている。
八月末はこんな時期だと考えているからだ。---放射能を出し続けている福島一号は、八月末に重大な危機を迎えるのではないか。あるいは八月末に放射能からの避難、節電で住民のガマンの限界に達する。いくらなんでも菅首相や民主党幹部は、こういった原発事故が生む困難がガマンの限界に達する時期を官僚機構から聞いていると見るべきである。
そうでなければ政府ではない。国会議員も感じているが、マスコミに言わないだけである。それが分からないからマスコミはとりあえず、菅が悪いと言えばすむと考えているのだったら原発事故に対する危機意識の希薄さが恐いほどである。
●放射能で頭がいっぱいなのを政治家は知らないのか
いま東日本は福島一号の事故終息と放射能の健康被害という先進国史上初めての戦いの中にある。北は福島県から南は東京までの住民は放射能の危機で頭がいっぱいである。福島県では行政の指示による集団避難が行われているが、危機感はそれ以上である。
校庭に土はがしが地方自治体の判断で進み、県独自の放射能の健康調査を始めている。南の関東圏でも個人が「ガイガーカウンター」を買って身の安全を図っている。「ホットスポット」探しは一時的な流行語だろう。この間の東京電力の失敗続きでは「ホットスポット」は「ホット面」になり、「ホット地域」になるだろう。「放射線検査」が行政への最大の要望になってきた。
日本の国民はまだ慌てていないが、記事を見ていると危機感は日々高まっている。放射能が止まる兆しがないのだから、当然のことである。
国会で政党がスッタモンダしているうちに、次の総選挙で原子力発電をどうするかが主要なテーマになることは、この六月の状況で決まってきたのだ。
決めたのは誰の意思でもなく止まらない放射能、東電の工事のモタモタぶりである。放射能を逃れて福島県では多くの人が住み場所を失っているのだ。住む場所を失えば、かならず貧困になる。日本中の人はテレビ、新聞でその惨状を見ているのだ。ネットにはもっと恐い情況が山ほどある。
しかも原発は福島県にだけあるのではない。北海道、四国、九州にもあって住民は「原発は国策というから作らせたが、事故の時国がしてくれるのは、これだけか」と見ているのだ。
● 菅首相が恐い
ところが国会の延長幅が問題になっている六月後半、民主、自民の議員から、いま放射能の噴出停止ができないどころか、東電の失敗続きのなかで原発行政をどうするのかの声は聞こえない。これが次の総選挙のテーマにしたくないので解散しかねない菅をやめさせたいの一心だったのだ。
「菅政権は何をやっても遅い」一ヶ月これだけであった。菅批判については3・11直後の菅首相の視察に文句をつけたり、東電本社に乗り込んだりしたのを間違った行動だったように自民党が問題にしたときからヘンだと感じた。首相が現場に行くのはあたりまえのことだ。確かにあの頃議員は被災地の地元に入ってなかった。首相の現場視察はジェラシーなのだろうが、それが後に海水の注入を止めさせたとの奇妙な話になった。しかし民主党が自民党に取り合わなかったのも異常である。
野党の取り合うと、さらに不利は話が出てくるので国会でも”上手に”答えるのに終始したのだろうが、これでは国会の意味がない。もっと重要なことが隠されている。政府は隠していると国民が感じているのは当然である。
フクシマ一号をナントカしろという声は六月中、日本中を覆った。別に反原発派が力を回復したわけではなく命の問題だからである。そう考えなかったのは国会議員だけである。
自民党の大島副総裁は六月十八日テレビ東京の『週刊ニュース新書』に出て「原発は選挙のテーマとしてなじまない」と語った。
大江麻里子アナが自民党にも責任のある原発問題は次の選挙のテーマになるのではと食い下がったのに対し副総裁は「なじまない」と誤魔化そうとした。大江アナが時間もないのか“それはないだろう”という表情をした。
大江アナはおとなしそうだが、眼と間(ま)の演技で古手のお笑い芸人を相手に一歩も引かないガンコ女であることを大島副総裁は知らなかったのだろう。
菅首相を辞めさせたかった国会議員心理も簡単である。一つは市民政治家の菅は異質な政治家であることが一年たって分かり内閣不信任案に対して解散権に手を掛けようとしたのを見て恐怖心を持った。
もう一つは中部電力浜岡発電所の停止決定をみて監督官庁と業者と相談してゆく自民党のやりかたと180度違う政治家を見たのである。これでは菅は原発を選挙のテーマにするのではないかと恐れた。民主、自民、公明党は「それはないよね」と岡田幹事長を通じて確約したかったのだ。それが六月いっぱいのスッタモンダである。
●原発で国民の期待を裏切ったときはサドンデス
しかし菅も手放しの勝利でなく「惨勝」にすぎない。原発解散に自由度を持っていないと、こんどは東電に弱腰とみられ世論の総スカンでサドンデスだ。首相の方が民主、自民の議員より厳しい状況にあるから世論を選んだ、ともいえるのだ。
八月解散総選挙の声が二十二日駆け巡ったというが、それが議員の心配の種だった。
一方国民は燃えさかる原発を前に国家が何をしてくれるのか。してくれなければ政府に何をさせなくてはならないか、節電の暑さの中で悩まなくてはならない夏が来るのだ。
筆者は四月に出した本「日本経済の診断書」(PHP)の中で2010年の猛暑しかも熱中症で多くの人が亡くなる中で代表選を行った「民主党は現場で働いた経験のない議員の集団だ」と批判したが、菅首相と民主党は二度夏の暑さをものともせず権力の座に固執するのである。
首相ポストに執着する以上、これから原発に起きることを引き受ける覚悟はあるのだろう。
起きてしまった原発事故が次の最悪の事態の発生が国民のコンセンサスとなったら政府が動かざるを得ない。政権の危機の主役は原発である。
●三つの危機
すでに三つの危機が説得力をもってマスコミに浮上している。第一は小出裕章京大原子炉実験所助教が指摘した「溶けたウランの塊は格納容器の底をも破り建屋のコンクリートの土台を溶かしつつ地面にめり込んでいる」という危惧だ。外から水を掛けても核燃料を冷やすことが出来なくなっていている。
しかも核燃料が地下水に達すると放射能汚染が海に流れ出し、地下水で汚染が拡散する危険がある。対策は地下に三十メートルの鋼矢板の遮蔽壁を作ることで東電の工程表を大変更せざるをえない事態に陥っているという。これは核燃料が地中に向けて燃え進むチャイナシンドロームの前駆症状のような恐い話である。
●電力危機もパニックの原因になる可能性
第二には被爆の危険性について従来の研究以上の危険を示すデータが世界の研究者から寄せられて来ることだ。
目の前で事態の悪化が進んでいる以上、反原発派の妄言として蓋をすることはできない。子供を持つ親の心配はすでに移転を考えるほど深刻で、新データはすぐに広まり政府批判となるのは当然のことだ。
第三は来年度の夏に通常の経済活動の下で電力不足が起きるのか、今年八月十五日あたりには分かることだ。フクシマの現状では点検中の原発が再開することは期待可能性がない。むしろ原発全てが休止する情況がありうる。菅首相が熱を入れる「再生可能エネルギー法」の効果は来年には間に合わない。電力不足は今そこにある危機だ。政府も電力業界も国民の節電協力で「供給責任」を責められないだけだ。
要するに世界屈指の工業国家を維持し、世界のサプライチェーンに迷惑を掛けないためには、緊急に火力発電の能力増強、増設しか手がないのだ。電力の供給不安は空洞化を招くというが、それは先のことだ。八月に中小企業のパニックが起きることも決して推測ではない。原発対外の能力増強は避けられないのだから経産省は早く計画を発表すべきだ。
筆者は三つの問題とも、パニックを呼びかねない緊急事態だと考える。
しかも、どれも反原発派とか原発推進派とかの感情的対立を生んだ時は、時すでに遅しのテーマだ。電力不足について経済産業省と東京電力の幹部の発想は硬直的といわざるをえない。失敗すれば事故についての経産省・東電への責任追及は、六月の日ではなくなる。
それぞれ組織分割の危機(それを筆者は「敗戦」的危機と言うのだが)を感じていると思えない。
危機における政治の意思決定が試される。三テーマとも危機管理のタイムリミットが符節を合する如くに八月末に訪れる。危機を引き受けた菅首相が張り切るのは”当然”だが、パニックが起きれば解散で乗り来ることなど出来ない話なのである。
(敬称略)
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