渡辺幸重の原発レポート⑥★☆ 『今こそ原発を全機停止し、総力で事故収束へ』
渡辺幸重の原発レポート⑥
『今こそ原発を全機停止し、総力で事故収束へ』
渡辺幸重(ジャーナリスト)
原発を全機停止し、総力を事故の収束へ
福島第一原発事故直後は毎週大きく取り扱っていた週刊誌も、このごろでは原発事故の記事を取り上げることがめっきり減った。
しかし、最近になって原発をめぐる重大な情報が次々と明らかになっている。それもこんなにもずさんだったのか、と驚愕するほどのひどい内容だ。原発にとって致命的な技術や管理に関すること、そして表にも裏にも飛び交う金にまみれた日本社会の構造がわかってきた。
逆に今こそ大騒ぎしなければならないときだろう。原発推進の立場であっても「世界最高の安全」をめざすのであれば「安全管理ができていない原発はいますぐ全機停止」となるはずだ。
マニュアルもなかった
「水素爆発予測せず」「ベント手順書なし」という見出しを見たのは8月17日のこと(毎日新聞)。事前に水素爆発を予測できた人はいなかったという証言が紹介されており、ベント(排気)についてはマニュアル(手順書)がなかったため設計図などを参考に作業手順などを検討したとあった。
一時中断していた非常用復水器(IC)が稼働していることを前提に対応していたことも判明。福島第一原発の吉田所長は「重要な情報を把握できず大きな失敗だった」と発言したという。
さて、このことは何を意味しているだろうか。我々が「当然やっているだろう」と考えていることさえできていない。「まさか」と思うようなことばかりで、危機管理体制がなっていないということだ。ベントを行うということは、放射性物質を外部環境に放出するという禁じ手・封じ手をやるのだから、水素爆発を防ぐにはそれしかないというぎりぎりの判断がなければならない。
よほどの非常措置なのだ。水素爆発を予測しないでベントすることはありえないし、そのマニュアルがないということは、そもそも原発を運転する前提が崩れていることになるのではないだろうか。そして、ベントをやったにもかかわらず、水素爆発が起きてしまった。
危機に対するシステムを活用せず
しかも動いていない複水器が動いていると思い込んで失敗を重ねている。準備だけでなく、起きてしまった危機に対応する組織体制もできていなかったことになる。9月3日毎日新聞朝刊によると、今回の原発事故に際して「緊急時対策支援システム(ERSS)」の解析結果を活用しなかったとある。
これは、事故の際に原子炉内の温度や圧力、水位などのデータを即時に入手して事故の進展や放射性物質の放出量を予測するシステムで、原子力安全・保安院が導入したものだが、解析結果は2,3号機については首相官邸に届けられたが活用されず、1号機については官邸にも届けられなかったという。
「緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク(SPEEDI)」の予測結果も公表されず、活用もされなかったこともわかっている。現場から指揮系統すべてにわたって危機対応体制が麻痺していた(なかった)のである。
天災にもケアレスミスにも弱い
設備の面でも、原発が地震や津波に弱いことがはっきりしてきた。津波だけでなく、地震の揺れによっても破壊が起きていることは多方面から指摘されているが、1号機を冠水(水棺化)できなかったことからだけでもわかる。3月の地震では事故にまで至らなかった女川原発も4月11日の余震で一時全電源が停止状態になった。
また原発はケアレスミスにも弱い。福島民友新聞(6月17日付)によると、福島第一原発2号機では昨年6月にも原子炉冷却に必要なすべての電源を喪失するという事故があった。その原因は、不要となっていたのにそのままにしていた古い電源系統の切り替えスイッチに作業員が誤ってわずかに触れたことだった。
原発は、設備面、システム面、運用面のどれをとってもきわめて危ういと言わざるを得ない。
全機停止して、安全チェックと福島への支援を
飛行機事故が起きると、世界中のすべての同型機をチェックし、厳しい原因究明が行われると理解している。放射性物質汚染を伴う原発事故はさらに厳格な対応が必要であろう。
たとえば、2007年の新潟県中越沖地震を教訓としたバックチェック(耐震安全性確認)は万全だろうか。浜岡原発ではそのバックチェックの報告書がなかなか出ず、裁判が長引いたと聞いている。福島第一原発事故の対応をみていると、国が決めた過去の安全策さえ対応できているのかどうかさえ疑いたくなる。
今回の事故では多くの問題点が浮き彫りになっている。ここは国内のすべての原発を停止して福島第一原発事故の原因究明と教訓を基にした今後の対応策を考えるのが常識であろう。
そして、全国の原発にかけている力を結集し、福島第一原発の事故の収束に集中すべきだ。そうすれば作業員も全国から参加することができるし、フクシマの教訓を関連業界の多くの人たちが共有することができる。徹底した情報公開によってその経過を国民が知れば、原発政策の方向性を決める重要な材料になるだろう。
大震災にも原発マネーにも負けない社会を
政府は泊原発の営業運転への移行を認めた。政治の世界は菅直人前首相の“脱原発依存”を無視して原発推進に舵を戻そうとしているようにみえる。国民の意思、世界の流れを無視した動きと言わざるを得ない。
8月1日、山口県上関町では中国電力の寄付金を原資に、町民1人当たり2万円の地域振興券が配られたという。原発マネーによる懐柔策が復活し、原子力マフィアが蠢いている。
福島第一原発事故というこれだけの犠牲を払っても私たちは原発社会から抜け出せないのだろうか。誰が首相になっても脱原発の流れに逆らえないほどの大きな潮流を作ることが、私たち一人ひとりに突きつけられた課題であろう。
関連記事
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(237)/『日本人に一番欠けているものは自由と正義への希求心』ー冤罪と誤判の追及に生涯をかけた正義の弁護士・正木ひろし氏を訪ねて』★『世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝12回連載一挙公開」』
2017/08/10   …
-
-
日本リーダーパワー史(440)安倍政権発足1年の採点表ー『30点』対『80点」 と評価は真っ二つで、激辛・激論・対談(12/10)
日本リーダーパワー史(440) 安倍政権発足1年の採点 …
-
-
『Z世代のための世界が尊敬した日本人(47)』100回も訪中し、日中国交回復の「井戸を掘った」岡崎 嘉平太(ANA創業者)
世界が尊敬した日本人(47) 前坂 俊之 (ジャーナリスト、静岡県大名誉教授) …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(132)』「今回の諸問題は、VWの役員会議室の中でスタートしている」(ニューヨーク・タイムズ」(9/25)
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(132)』 『独 フォル …
-
-
『Z世代のための日本興亡史研究②』★『海軍はなぜ戦争反対をおし通すことができなかったのか!?』★『日本を滅ぼした東郷平八郎元帥の「トラウマ・面罵事件」の真相』
前坂俊之(ジャーナリスト) ●東郷元帥の暴言 1931年(昭和6)、洲州事変がひ …
-
-
速報(470)『日本のメルトダウン』●『東電福島第一原発事故について船橋洋一氏がその背景を記者会見動画」
速報(470)『日本のメルトダウン』 &nb …
-
-
日中北朝鮮150年戦争史(15)日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。日本最強の陸奥外交力⑧『「蹇蹇録』の結論「他策なかりしを信ぜむと欲っす」(これ以外の策はなかった)最後の1戦だった」
日中北朝鮮150年戦争史(15) 日清戦争の発端ー日本最強の陸奥宗光の外交力 …
-
-
『世界漫遊/ヨーロッパ・パリ美術館ぶらり散歩』★『オルセー美術館編』★『オルセー美術館は終日延々と続く入場者の列。毎月第一日曜日は無料、ちなみに日本の美術館で無料は聞いたことがない』
2015/05/18 『F国際ビジネスマンのワールド・ …
-
-
渡辺幸重レポート(1)ビデオー避難生活するいわき市中央台南小学校でも追悼式(4月11日)
渡辺幸重レポート(1) 避難生活するい …
-
-
近現代史の重要復習問題/記事再録/「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス⑦」★『人間、万事金の世の中、金の切れ目が縁の切れ目、これが資本主義のルール』★『米中覇権争いもGAFA、国家、企業、個人の盛衰、格差拡大、階層の二分化もこの原則に従う』
「国難日本史の歴史復習問題」ー 『山座円次郎の外交力』●『山座が「伊藤公を叩き殺 …
