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『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』❹ 壬午事変後の清国側の『大院君拉致の非を論ず』(明治15年9月8日)

      2021/05/01

  

『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史

日中韓のパーセプションギャップの研究』❹

 

130年前の以下の記事は、現在のアジア情勢と何と似ていることか。

日中韓の対立と紛争、清仏戦争、藩屏の安南(ベトナム)と清国との戦争、
中華思想により属国視されていた朝鮮、琉球をめぐる日本との対立と、
<核心的利益政策>によって大清帝国時代の領土を奪還したいと
膨張政策をとる現在中国の行動のルーツがこの論説に表れており、
日中韓150年対立のパーセプションギャップの原点がここにある。

以下の記事は壬午事変の後に、清国は大院君を

拉致して連れ去ったが、その非を論じている。

 

壬午事変

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%AC%E5%8D%88%E4%BA%8B%E5%A4%89

 

  1882(明治15)年98日光緒8年、壬午726日『申報』

 

『大院君拉致の非を論ず』

 

最近煙台の友人から来た手紙によれば,呉小軒【長慶】軍門は朝鮮で大院君を軍艦見学に招待したが,船内ではすでに罐(かま)をたいて出航準備を整えていて.大院君が到着するや.直ちに外輪を始動させ煙台に向かって出航したので.大院君は神妙に縛に就いた,ということだ。

愚考するに,このようなやり方は.国家の体面を大いに傷つけ.用兵には.詐術を用いてもかまわないという古来の説を援用したとしても.このような奇計を正当化して自己弁護することはできない。朝鮮の内乱に対して,中国政府は反乱の陰謀を鎮めることを念願していたが,正々堂々の陣を張ってこれに当たるべきであり.そのようにすれば,おそらく属邦の期待に応じ,騒乱の芽をつむことができたかもしれないのに,どうしてそのような策を講じなかったのだろうか。

陰謀をめぐらして目的をとげたことは.かえって朝鮮人の心服を得られないばかりか,日本人の反感を買うことにもなり.その上、西洋諸国の嘲笑の的となるのに.どうして当を得た方策だったなどと言えるだろうか。

 

そもそも用兵の道は,正道と奇策の2つの方策のうちいずれかだ。王者の軍隊は出兵するだけで戦わず.仁徳を重んじて武力を尊ばず,仁義を示して武威を誇示しないのが用兵の正道だ。 

列国が相争い.紛争が激化しても.仁徳をもってすでに人心を収攬することができず.信義をもっては人を感服させることができない事態に至ってやむを得ず武力で威嚇するのであり.敵を欺く狡猾な権謀術数は初めてこのために行われるのだ。

 

戦国時代に秦は縦横家の張儀を派遣して,楚の懐王に商の地方600里を割譲する約束を与え.策を用いて懐王を秦に誘い込み.長い間閑中に抑留して帰国させなかった。その結果,楚人の恨みを買い,「たとえわずか3戸しか残らなくなっても.楚国は必ず秦を滅ぼす」と楚人に言わしめた。だが、戦国時代には7国が覇を争い東西に帝が並び立ったので,詭計を用いたのもやむを得ないことだったかもしれない。

しかし,後世の人々の話題にのぼることは避けられなかった。今日.各国は互いに通商し.ほとんど1つの家庭のようで,中国の一挙手一投足が外国の注目を浴びているので,中国政府は危機に瀕した朝鮮を援助して動揺を鎮めるべきであって,そうすればおそらく大国が小国を愛護する道義に背かないことになるのだ。

しかも大院君が誅伐されなければならないことは,もとより衆目の認めるところだ。

朝鮮はイギリス.フランス.アメリカ諸国と通商を結び,

中国がこれを助け.朝鮮国王がこれを主宰しているのに.独り大院君だけが旧来の陋習を墨守し,頑迷にも保守的態度を固執して開明的ではなく.国王の父親という身分をもって反徒の一味の領袖となっている。

この点から論ずれば,大院君は朝鮮国王にとって罪人であるばかりではなく,実際には中国にとっても罪人だ。そこで.当時中国はすでに軍艦を動員して統々と朝鮮に派遣したので,武力を大いに誇示し,気勢も大いにあがっていた。

したがって.本当に大院君の罪行を問責するつもりならば,武官を派遣して大院君を呼び寄せ.その罪状を摘発すれば,それでよかったのだ。

 

たとえ大院君の傲慢不遜な態度が習い性となり,招かれても来なければ.1個旅団の軍隊を派遣してその本拠地を攻撃し,その首領を貯らえて軍門にさらし首にすることによって,反乱討伐の大義を明らかにしてもよかった。

 

ところが案に相違して,このような措置を講じないで,軍艦の見学にかこつけておびき出し,大院君を強迫して朝鮮から拉致したのだ。罪人はすでに連行され,詭計はすでに実施されたが.どうして大国としての体面を傷けるようなことをしたのだろうか。

(中略)

中国と朝鮮の関係もどうしてこれと異なるところがあろうか。中国がどうして詭計をめぐらさなければならなかったのか,甚だ理解に苦しむ。

事の是非について論ずるならば.大院君は反徒の一味の首領であり,中国が問責の師を起こし.彼を捕らえて処刑することこそ正しい道だ。しかるに今.おびき出して拉致したことは,彼と同様にわが中国も非道を歩んだことになる。これが第1の誤りだ。次にその強弱について論ずならば,朝鮮が中国の属国であり,あえて中国に対抗しないことは言うまでもなく.その兵力について論ずるならば.朝鮮は昔ながらの軍備でまにあわせ,精鋭な艦船もないのに対し,中国は精鋭堅固な艦船を有しているので.どうしてこれを制圧することができないだろうか。

しかるにかえってあのような愚劣な術策を弄したことは,第2の誤りだ。さらに,日本が朝鮮に野望を抱いてスキをうかがっていることは.今に始まったことではないが,もし中国が大国としての体面を保持することができて,日本に乗ずる隙を与えなければ.その野望も果たせない。

 

ところが今.中国が詭計を弄するからには,日本はこの機会に乗じ仁義を盾にとって朝鮮と結ぶことは必至であり,朝鮮も中国から離れて日本と提携するに至れば,中再はどのようにこれに対処するのだろうか。これが第3の誤りだ。

また,大院君をすでに中国に連行した後.中国が策を講じて監禁すれば,むだに物資を供給しむやみに食糧を浪費することになるが,それは無意味なことではないだろうか。

もしその罪行を問責して彼を処刑すれば,大院君は殺されても朝鮮にいる守旧党の一味が次々に挙兵して反乱を起こさないと,どうして保証することができるだろうか。そうなれば,大院君を処刑してもなんの役に立つのだろうか。

 

さらに.もし一時的にだまして拉致してきても,結局のところ後日朝鮮に送還するのならば,それ自体矛盾することになり,賢明な方策とは言えない。これが第4の誤りだ。

 

まして中国はここ数年来武器を製造し,装甲艦を購入するなど,旭日昇天の勢いで発展しており,これによって戦場で勝利を収めることができるので,たとえ日本が強勢を誇っても,日本と雌雄を決することは難しいことではない。

 

にもかかわらず,取るに足らぬ朝鮮の反徒の首領に対して.兵力をもってこれを制圧することができないで,どうして詭計などを弄したのだろうか。

 

現在すでに罪人を連行したが,いかなる処置を講じるのか,中国政府にはもとより方策があるはずだ。私ごとき者の不合理・非現実的な主張などは,なんの役にも立たないだろう。

 

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