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日本リーダーパワー史(316)「全政治家、リーダーの必読の(国家戦略論)を読む」ー百年先を見通した石橋湛山の警世の大評論

   

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日本リーダーパワー史(316

3/11から1年半「原発を一切捨てる覚悟があるか」④
          「全政治家、リーダーの必読の(現状分析・国家戦略論)を読む」
 
<植民地帝国主義から自由貿易主義へ。開国・TPP参加へ>
百年先を見通した石橋湛山の警世の大評論

『一切を棄てる覚悟があるか』
『大日本主義の幻想(下)』を読む
 
-<朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、中国や、シベリヤに対する
干渉もやめろーいう驚くべき勇気ある主張を貿易デなどで
実証的に論じた歴史的な大論文>
 
 
 前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
 これは石橋湛山の「東洋経済新報」の「社説」大日本主義の幻想大正10730日・86,13日号「社説」の全文である。
 
第一次世界大戦後(1914―1918年))の日本は欧米各国が戦争中のスキに中国に「対華21ヵ条要求」を突き付けて満州利権を独占、青島も占領し「五・四運動」、中国の民族独立運動に火をつけ、欧米から猛反発を受けた。
 この事態に米国はワシントン軍縮会議を提案して、日本の姿勢をけん制した。

 日本の帝国主義的、武力的な強引な姿勢「大日本主義」に、石橋は一貫して反対して、軍事力ではなく相互貿易主義の「小日本主義」を唱えて、「朝鮮、台湾、満州を棄てる、支那(中国)から手を引く、樺太も、シベリヤもいらない」という先駆的な「一切を棄つるの覚悟」「大日本主義の幻想」の警世の大評論を掲げた。

 この「大日本主義」は明治の『富国強兵」「軍国主義」の延長線であり、結局、「大日
本帝国の滅亡」につながるとして「小日本主義」『覇道から王道政治への転換』「軍縮論」を大胆に唱えのである。その意味では、日本の未来を予見した石橋のジャーナリストとしての大慧眼が示されている。

 この論議は今でいえば「原発から全面撤退せよ」の主張と同じである。そして、「原発からの撤退とクリーンエネルギーへの転換」「TPP,FTAに加入しての全面開国」「核廃絶、原子力廃絶」を主張したのと同じである。原発をゼロにしても大丈夫、日本はやっていけるし、「核廃絶」と『脱原発、全面クリーンエネルギー政策転換』こそ日本の21世紀国家戦略として世界をリードしなければならない。
 
 
 
『大日本主義の幻想』()(『東洋経済新報、大正107
30日・86,13日号「社説」(下)
 
 
 
 
吾輩の、主張に対する反対論の第二点は、列強が広大なる殖民地または領土を有するに、日本に独り狭小なる国土に局(足に局),足に背(きょくせき)せよと言うは不公平であるという論である。既に吾輩の述べ来れるところで読者は推測せられたことと信ずるが、吾輩が我が国に、「大日本主義を棄てよ」と勧めるのは決して小日本の国土に満足せよとの意味ではない。
 
これに反して我が国民が、我が国土として活躍するためには、すなわち大日本主義を棄てねばならぬと言うのである。それは決して国土を小にする主張ではなくして、かえってこれを世界大に拡げる策である。

しかしながら世界には現前の事実として、大いなる領土を国の内外に所有し、而して他国民のここに入ることを許さぬ国がある。されば日本もまた彼らと同様に領土を拡げねばならぬではないかという論の起るのである。
 

大日本主義の幻想これに対しては、吾輩は三つの点から答、毒第一は前既に説ける如く今になってはもはや我が国
は、領土を拡げたいにも拡げられない、これを拡げることはかえって四隣の諸民族諸国民を敵とするに過ぎず、実際において何ら利するところなしということこれである。
 
第二は、これまた前に述べた如く、列強の過去において得たる海外領土なるものは、漸次独立すべき運命にある、彼らが、そを気ままになし得る時期は、さまで久しからずして終るだろうということ、これである。
 
第三は既に第一の如く、いくら他国の領土の広いことが羨ましいとも、今更その真似をすることが出来ぬとすれば、我が国は宜しく逆に出て、列強にその領土を解放させる策を取るのが、最も賢明の策である、それにはまず我が国から解放政策を取って見せねばならぬということこれである。

前々号にも説いた如く、たと、えば我が国が朝鮮、台湾に自治を許し、あるいは独立を許したりとせよ。英国は果してインドや、エジプトを、今日のままに維持し行けようか、米国はフィリピンを今日のままにしておけようか。

 
さればもし英国や米国が、海外に領土を有するが故に我が国は彼らに比し不利の地位にあると言うならば、我が国は人道のためなどいう、えらい事でなく、単に利己のためにも列強の海外領土は総て解放し、その諸民族に自由を与うる急先鋒となるがよい。
 
列強の真似をして、能くそれに対抗し得るだけの有利なる海外領土が得られるならば、大日本主義も、まだ多少の意味はあろう、しかし朝鮮、台湾、樺太または満州という如き、これぞという天産もなく、その収入は統治の費用を償うにも足らぬが如き場所を取って、而して列強にその広大なる領土を保持する口実を与うるは、実に引き合わぬ話である。されば吾輩は言う、我が国は宜しく列強してその海外領土を解放させる如くせねばならぬと。
 
それには武力をもってこの解放を強制するか、あるいは道徳をもってこれを余儀なくせしむるかの外に道はない。しかし武力をもって、これを強制することは、到底我が一国の能くするところではない。しからば残るはただ道徳の力である。而してその道徳の力は我が国まず我が四隣に対して解放政策を取ることによってのみ得らるる。
 
道徳はただ口で説いただけでは駄目だ、またお前がこうするなら、おれもこうするという如き弱きことでは駄目だ。他人には構わず、己まず実行する、ここに初めて道徳の威力は現るる。ヴェルサイユ会議において、我が大使が提案した人種平等待遇問題の如き、わけもなく葬り去られた所以はここにある。
 
我が国は、自ら実行していぬことを主張し、他にだけ実行を迫ったのである。だから当の米国英国が反対しただけではない、支那からも、どこからも、真面目な後援を得なかった。もしこれらの国から心からの後援を得たならば、彼の問題は、ああ無残に破れはしなかったであろうと信ずる。
 
 
 かく言わば、あるいは言うであろう。仮に列強いずれも、その海外領土は解放するとするも、なお米国の如き自国の広大なるところがある。また解放せられたるそれぞれの国も、あるいは皆その国境を閉して、他国の者を入れぬかも知れぬ。
 
これらに対してはどうすると。これについては吾輩は次の如く答うる。たとえば米国が、その広大なる国内に、日本人を入れぬ、支那人を入れぬと言うが、それは移民についての話である。商人が、米国内で商業を営むに、何の妨げもない。前号にも述べたる如く、米国からは年々八、九億円に及ぶ商品が我が国に来、またこれに匹敵する商品が我が国から行く。我が国の貿易表上、米国は実に第一の取引国である。
 
どうして米国は、我が国民を排斥しっつありと言うのであろう。普通の経済関係から見る限り、そは全く根拠なき説である。ただ移民については、いろいろの苦情を言えるは事実であるが、これは、かの国民の立場から言えば無理もない点がある。
 
我が国にしても、風俗習慣言語を異にし、しかもあまり教養のなき外国の労働者が、多数に部落をなして国内に住むとすれば、ずいぶん迷惑を感ずるであろう。
 
しかしこの議論はしばらく措きて、我が国は、ただ我が国の立場から考うるに、労働者を移民として外国に送り出し、しかもその生活程度の低さことを唯一の武器として、外国労働者と黄争させるなどいうことは、前号にも述べたる如く決して利益でもなければ、名誉でもない。
 
我が国が米国を経済的に利用するには、かくの如き方法によらずとも、立派に商売の道によれるのである。一人の労働者を米国に送る代りに、その労働者が生産する生糸をまたはその他の品を米国に売る方がよい。またあるいは米国から棉花を輸入して、その労働者に綿糸を紡がせた方がよい。米国は普通の商売の道によって、その原料を我が国に供給することに、また良好にして廉価なる我が品を買うに、決して躊躇しない。
 
而してこれは独り米国ばかりでない。広大なる国土を有する国が、その国境を閉すであろうという心配は無用である。
 
 
いかなる国といえども、その国内で消費し切れぬ品物は外国に売らざるを得ず、国内で生産するよりも有利に輸入し得る品は輸入せざるを得ぬからである。かく考えれば、列強が大いなる海外領土を有するということも、実は問題とするに足らぬのである。あるいは言うかも知れぬ、自国の領土でなければ、そこで或る種の産業は営むことが出来ぬ、
 
たとえばいずれの国でも鉱業の如きは、外国人の経営するを許さない、あるいは仮に経営し得たりとするも、少しくそれが盛んになれば、何のかのと言うて妨げられる、あたかも米国における日本人の農業の如き、それであると。これは、いかにももっともの苦情である。
 
吾輩は、我が国からが率先して、この種の制限を、外国人の企業に加えておることを、宜しくないことに思っておる。これも是非各国に撤廃させねばならぬ。しかし吾輩の見るところによれば、仮令かくの如き制限は、各国に行われておるとい、えども、なお外国人が、経済的に、そこに活動する範囲は相当に大きく開かれておる。
 
欧州戦争の数年前、米国政府の調査したところによれば、同国は、鉄道その他に対し、英国から三十五億ドル、その他の欧州諸国から二十五億ドルの固定放資(1時の金融を除いた以外の放資)を得ておるということだった。すなわちそれだけの企業は、米国内において、少なくも間接に外国人によって営まれていたのである。かくの如く、仮令種々の制限はあるにしても、資本さ、去るならば、これを外国の生産業に投じ、間接にそれを経営する道は、決して乏しくないのである。
 
而して投資さ、与れば、それに応じただけの生産利益は受けられる。必ずしも外国へ自ら出かけて行って、直接事業を営まねばならぬことはない。要は我にその資本ありや否やである。而してもしその資本がないならば、いかに世界が経済的に自由であっても、またいかに広大なる領土を我が有しても、我は、そこに事業は起せない。ほとんど何の役にも立たぬのである。
 
 
 
しからばすなわち我が国は、いずれにしてもまずその資本を豊富にすることが急務である。資本は牡丹餅(ぼたもち)で、土地は重箱だ。入れる牡丹餅がなくて、重箱だけを集むるは愚であろう。
牡丹餅(ぼたもち)さえ沢山に出来れば、重箱は、隣家から、喜んで貸してくれよう。而してその資本を豊富にするの道は、ただ平和主義により、国民の全力を学問技術の研究と産業の進歩とに注ぐにある。兵営の代りに学校を建て、軍艦の代りに工場を設くるにある。陸海軍経費約八億円、仮にその半分を年々平和的事業に投ずるとせよ。
 
日本の産業は、幾年ならずして、仝くその面目を一変するであろう。
 
以上の諸理由により吾輩は、我が国が大日本主義を棄つることは、何らの不利を我が国に醸さない、ただ不利を醸さないのみならず、かえって大なる利益を、我に与うるものなるを断言する。

朝鮮、台湾、樺太、満州という如き、僅かばかりの土地を棄つることにより広大なる支那の全土を我が友とし、進んで東洋の全体、否、世界の弱小国全体を我が道徳的支持者とすることは、いかばかりの利益であるか計り知れない。もしその時においてなお、米国が横暴であり、あるいは英国が騎懐であって、東洋の諸民族ないしは世界の弱小国民を虐ぐるが如きことあらば、我が国は宜しくその虐げられる者の盟主となって、英米を庸懲すべし。

 
この場合においては、区々たる平常の軍備の如きは問題でない。戦法の極意は人の和にある。騒慢なる一、二の国が、いかに大なる軍備を擁するとも、自由解放の世界的盟主として、背後に東洋ないし全世界の心からの支持を有する我が国は、断じてその戦に破れることはない。

もし我が国にして、今後戦争をする機会があるとすれば、その戦争はまさにかくの如きものでなければならぬ。しかも我が国にしてこの覚悟で、一切の小欲を棄てて進むならば、恐らくはこの戦争に至らずして、騒慢なる国は亡ぶるであろう。今回の太平洋会議は、実に我が国が、この大政策を試みるべき、第一の舞台である。

                             (おわり)
 

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