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『なぜ日中韓150年の戦争・対立は起きたのか』/『原因」の再勉強ー<ロシアの侵略防止のために、山県有朋首相は『国家独立の道は、一つは主権線(日本領土)を守ること、もう一つは利益線(朝鮮半島)を防護すること」と第一回議会で演説した。これは当時の国際法で認められていた国防概念でオーストリアの国家学者・シュタインの「軍事意見書」のコピーであった。

   

記事再録/日本リーダーパワー史(701)

日中韓150年史の真実(7)

「福沢諭吉の「西欧の侵略阻止のための日中韓提携」はなぜ「脱亜論」に一転したか」⑧

<ロシアの侵略防止のために、山県有朋首相は『国家独立の道は、一つは主権線(日本領土)を守ること、もう一つは利益線(朝鮮半島)を防護すること」と第一回議会で演説した。これは当時の国際法で認められていた国防概念でオーストリアの国家学者・シュタインの「軍事意見書」のコピーであった。

  2016/04/21  

                        前坂俊之(ジャーナリスト)

 

1889年(明治19)10月24日ーノルマントン号事件は有色人種差別の典型

http://www.maesakatoshiyuki.com/longlife/16181.html

  • 明治21年、山県有朋は『軍事意見書』を政府へ提出。「シベリア鉄道竣工の日はロシアが朝鮮に侵略を始める日」と述べ、軍備増強を訴えた。
1890年(明治23)11月25日、第一回帝国議会が開かれ、山県有朋首相が施政方針演説を行い「日本の主権を守るため朝鮮に利益線を確保すべき」と述べた。
http://meiji.sakanouenokumo.jp/blog/archives/2006/11/post_367.html

1890年(明治23)11月25日、第一回帝国議会が開かれ、山県有朋首相が施政方針演説を行った。

その演説で、「予算歳出額の大部分を占めるのは陸海軍に関する経費である。(中略)国家独立の道は、一つは主権線を守ること、もう一つは利益線を防護することである。主権線とは国境のことであり、利益線とは主権線の安全と堅く関係しあう区別である。

日本の安全を確保するためには主権線、つまり国家の領域を防衛するだけでは不十分で、その安危に密接にかかわる利益線を守る必要がある。国家の独立を維持するには、ただ主権線を守ることで足りるのではなく、必ず利益線を保たなければならない。

したがって陸海軍費に、巨大な金額をさかなければならないのは、まことにやむを得ないことであり、諸議員の賛成を願う。」http://meiji.sakanouenokumo.jp/blog/archives/2006/11/post_367.html

という要旨である。

これが『朝鮮の利益線』の演説だが、詳しくは次のようになっており、現代文に直して掲載する。

以下は山県有朋「外交政略論」による。

http://chushingura.biz/p_nihonsi/siryo/0951_1000/0990.htm

『国家の独立・自衛の道二つある。
1つは主権線を守備し、他国の侵略を防ぐこと、
2は利益線を防護して自国の勝利を勝ち取る。これが主権線といい、彊土(きょうど、国境の意味)である。
もう1つは利益線という、隣国との接触の勢いが、わが主権線の安危(安全,危機)と緊密に関係する区域(領土)のことである(ここでは朝鮮をさしている

大部分の国で主権線を持たない国はなく、利益線をもたない国もない。外交、軍備の要諦はもっぱらこの二線の基礎に存立する。また列国との国境線をひき国家の独立を維持しようとおもえば、主権線を守備するだけでは足りず、かならず利益線を防護し、常に勝利の位置に立たなければならない。

利益線を防護する道はどうすればよいのか、各国の行動で自国に不利なる者(国)があるときは、われは責任をもってこれを排除し、やむを得ない場合には戦力を用いてわが意志を達成する。

しかし、利益線を防護することが出来ない国は、主権線を退却するか、また他国の援助によりすがることで侵略を免れるしかなく、完全なる独立の国を望むことはできない。

わが国の現況は屹然と自らを防衛して、何れの国もあえてわが彊土(領土)を侵略する念がないことは何人も疑意を入れないところだが、進んで利益線を防護して自衛の計画を固くするのは、不幸に全く前に異なるもの(国)のあることを観なければならない。

わが国の利益線の焦点は実に朝鮮にある。

シベリア鉄道はすでに中央アジアに進み、その数年を出ずして建設開始になれば、ロシア・ペテルブルグを発し十数日にして馬は黒竜江の水を飲むことが出来る。

われわれはシベリア鉄道完成の日は、即ち朝鮮に多事(戦争が起きる)なることを忘れてはいけない、又、朝鮮が多事になる時は、即ち東洋に一大変動を生ずる時であることを忘れてはいけない。朝鮮の独立はこれを維持するに何等の保障があるか。これはわが利益線に向って最も緊急、最大の危機を感ずる者である。

(中略)わが国の利害がもっとも緊切なるのは朝鮮国の中立である。

明治八年の条約は各国に先立て、その独立を認めた。以来、時に緊張があったといえども、この路線を進み、明治十八年の天津条約の締結となった。

ところが、朝鮮の独立はシベリア鉄道の完成する日と共に、薄氷の危機が迫せまろうとしている。朝鮮は独立を維持する能力はなく、ベトナム、ビルマ(ミャンマー)とこれに続くならば、東洋(アジア)の上流は西欧列強の植民地で占められる。そして、直接にその危険を受けるのは日清両国であり、わが対馬諸島の主権線は頭上に刃(ナイフ)をつきつけてくる勢になる。

清国(中国)の状況を見ると全力を用いて他国の占有を抗拒する決意を持っている。又両国の間に天津条約を維持するは至難の情勢を生じている。朝鮮の独立を保持しようとすれば、天津条約の互に派兵を禁ずる条款は正にその障碍となる。

将来の戦略として果して天津条約を維持するか、更に一歩を進めて連合保護の策に出て、朝鮮をして公法上恒久中立の位置を保つべきか、これは今日の問題である。

(中略)上に述べた所の利益線を保護する外交政治に対し、必要欠く可らざるものは第一は兵備(軍備増強)、第二は教育である。

現今七師団の設置を持って主権線を守禦(守備)することを期す。漸次、完充し、予備、後備の兵数を合わせて数二十万人を備える時には、利益線を防護するに足る事になる。

海軍の充実を怠らず、年を期して目的を一定し事業を継続し、退歩しないことが最も必要とするところである。国の強弱は国民忠愛の風気(精神)が元気でなければならない。国民父母の国を愛恋し、死を以て自国を守る信念がなければ、公私の法律ありといえども、国を持って一日たりとも存続することはできない。

国民愛国の念は独り教育の力を以てこれを養成保持することができる。欧州各国を観るに、普通教育によりその国語と歴史と他の教化の方法に従い、愛国の念を智能・発達の初期に薫陶し、以て第二の天性を形成させている。

故に兵となるときは勇武の士となるべく、以て官に就くときは純良の吏となるべく、父子相伝へ隣に愛感化し、一国を挙げて党派の異同各個利益の別があるに拘はらず、その国の独立、国旗の光栄を以て共同目的とするには、すべて皆帰一の点に融合しなければならない。国の国たるは唯この一大、元質あるによるのみ』

以上はオーストリアの国家学者・シュタインの国家論であり、利益線は国際法で認められていた概念である。

この朝鮮への『利益線』の確保は、日本独自の朝鮮侵略の第一段階と思われがちだが、それは違う。これは当時の万国法・国際法に照らして、山県の指令で『陸軍参謀本部』(川上操六参謀本部次長)の福島安正少佐らが慎重に極東地域紛争の原因、歴史、将来の見通しのシュミレーションを行った結果の戦略分析からまとめた国防計画の一環であり、山県首相(禅陸軍参謀総長、陸軍大将)が国家危機管理を演説したものであった。

その根拠になったのはローレンツ・フォン・シュタイン(1815-1890)で、オーストリアの国家論学者であり、専門は歴史法学だが、国民経済学、財政学、行政学なども修めた碩学である。シュタインは憲法調査の目的でヨーロッパに滞在した伊藤博文が、約2ケ月にわたりシュタインに師事したことで知られる。 

以下は『日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 No.5, 100-111 (2004) 明治期日本における
国防戦略転換の背景 -朝鮮を「利益線」とするに至るまで-
村中 朋之 日本大学大学院総合社会情報研究科』の論文からのも孫引きである。
村中氏に感謝する。

http://atlantic2.gssc.nihon-u.ac.jp/kiyou/pdf05/5-100-111-muranaka.pdf

大山梓『山縣有朋意見書』(原書房、1966 年)の『斯丁氏意見書』などを参考にすると、

伊藤は斯丁氏(シュタイン)に心酔し、彼を明治政府の最高顧問として日本に招聴しようとした。明治16年10月、シュタインは在墺太利日本公使館付として日本政府に雇い入れられ、山県有朋も明治21年12月から翌年10月まで、地方制度調査の目的でヨーロッパ諸国を外遊中にシュタインのもとを訪問して、教えを乞うた。

この際、山県が『軍事意見書』を求めたのに対してシュタインがこれに応えたのが『斯丁氏意見書』である。この2人の間を通訳したのは当時、ドイツ領事館駐在武官をしていた福島安正少佐であった。福島は山県の伝令史(通訳兼情報参謀)であり、超機密情報は文書ではなく、口頭で山県と川上操六に報告していた参謀本部きっての情報将校であった。

。山県の「利益線」概念はこの時のシュタインの意見にある「利益疆域」概念のコピーしたものであった。

シュタインは「権勢彊域」(主権線)と「利益彊域」(利益線)とを、こう定義した。

『凡ソ何レノ国ヲ論セス又理由ノ如何ヲ問ハス、兵力ヲ以テ外敵ヲ防キ以テ保護スル所ノ主権ノ区域ヲ権勢彊域、ト謂フ、又権勢彊域ノ存亡二関スル外国ノ政事及軍事上ノ景状ヲ指シテ利益彊域、ト云フ故二軍事ノ組織ハ二個ノ基礎二根拠セスンハアル可ラス、即チ第一自国ノ独立ヲ保護シ自己ノ権勢彊域内二於テ他人ノ襲撃ヲ排除セサル可ラス、第二危急存亡ノ秋二際シ万己ムヲ得サルトキハ兵力ヲ以テ自己ノ利益彊域ヲ防護スへキ準備ナカル可ラス(前掲村中論文)

シュタインは、当時の国際法によってこの「権勢彊域」(主権線)と「利益彊域」(利益線)の概念は認められているものだという。

『既に日本は西欧国際秩序という近代国際社会に身を置いた以上、例え自国の主権の及ばぬ領域であっても、その領域の動向が自国の独立にとって脅威となる場合は、自らその領域を「利益彊域」として兵力を以て防衛しなければならないという新たな国防概念であり、それは「外交上の干渉」と並び「軍事上の干渉」として当時の国際法が認めているものである』という。

その上に、日本の「利益彊域」(利益線)は「朝鮮」にあると述べた。これは山県をはじめ日本陸軍参謀本部の国防概念と同じ論理である。

『日本ハ其地形上ヨリ論スルトキハ、東亜二於テ陸戦ヲ為ス者アルモ又ハ大陸上所有主ノ更迭スルコトアルモ又、言ヲ換ヘテ言へハ露国ガ満州二進ムモ又ハ一時「ペトヂチ」湾二田ルモ、又ハ清英合シテ海陸トモニ露ト戦フモ我重大ノ目的ト為ス所二変更アルニアラサレハ、痛痒相関セサルカ如シ其目的トハ則チ朝鮮ノ占領是レナリ(前掲村中論文)

また、朝鮮の重要性についても、

『日本ノ外交利益士二於テ最モ重要ナルハ則チ比点二在ルコトヲ一言セサル可ラス、即チ愚考二拠レハ日本二於テ朝鮮ヲ占領スルニアラスシテ、各海陸戦闘国二対シ朝鮮ノ中立ヲ保ツヲ必要トス、蓋シ朝鮮ノ中立ハ日本ノ権勢彊域ヲ保全スルカ為メニ生スル所ノ総テノ利益ヲ満タスモノナリ、若シ一朝朝鮮ニシテ他国ノ占有二ナルトキハ日本ノ危険言フ可ラス故二、日本ノ利益彊域ハ朝鮮ノ中立ヲ認ムルニ在ルヲ以テ雖モ、之ヲ妨害セントスル者アルトキハカヲ極メテ之ヲ干渉セザレ可ラス(前掲村中論文)

これを、見てもシュタインの『軍事意見書』の通りの『山県外交政略論』が発表されたのである。このシュタインの意見書、山県の政略論の執筆者は山県本人ではなく。福島安正少佐が執筆し、山県が手を加えたものであろう。

以上、『日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 No.5, 100-111 (2004) 明治期日本における国防戦略転換の背景 -朝鮮を「利益線」とするに至るまで- 村中 朋之 日本大学大学院総合社会情報研究科』の論文

http://atlantic2.gssc.nihon-u.ac.jp/kiyou/pdf05/5-100-111-muranaka.pdf

に大幅に依拠した『福島の知られざるインリジェンス』である。この国防概念の実行によって「日露戦争」の勝利をつかむことが出来たのである。

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