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『日本の運命を分けた<三国干渉>にどう対応したか、戦略的外交(外交の要諦 )の研究』㉒』『★『歴史の復習問題ー日清戦争『三国干渉』後に、 ロシアは『露清密約』(李鴻章の巨額ワイロ事件)を結び遼東半島を入手、シベリア鉄道を 建設して居座り、日露戦争の原因となった』

   

2016/09/19 /中北朝鮮150年戦争史(35)再録
世界一の買収工作ーー『露清密約』(300万ルーブルの李鴻章巨額ワイロ事件)はロシア、清国(中国)と日本の外交力の巧拙、謀略戦の実態

明治28年の日清戦争下関講和条約の直後にロシア、ドイツ、フランス3国は武力・威嚇外交による『三国干渉』で、日本の遼東半島の領有を清国に返還するように要求、日本は涙をのんで返還した。

トンビに油ぶらげ、強盗国家連合(今でいうなら侵略国家連合)による一兵も出すことも弾丸を撃つをこともなく、恫喝外交で遼東半島を奪い去った。

ロシアは明治29年に清国と交渉して、李鴻章に300万ルーブルのワイロを送り「日本を第一敵国として戦う秘密同盟」の『露清密約』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%B2%E6%B8%85%E5%AF%86%E7%B4%84

を結び、旅順を租借地とし、シベリア鉄道を旅順まで延長する鉄道建設をおこない、満州を植民地として制圧してしまう。

この『露清密約』の300万ルーブルの李鴻章巨額ワイロ事件はロシア、清国(中国)と日本の外交力の巧拙、謀略戦の実態を知る上で、格好の材料だが、日本の日清、日露戦争本にはあまり触れられていないので、少し書くことにする。

この『露清密約』、李鴻章への巨額ワイロ事件はどのように行われたのか。

①  シベリヤ鉄道は明治24年5月、ウラジオストックを東部起点として工事が開始されるが、明治27年になってアムール河河谷の建設予定線が湿地と山岳が入り乱れた地形なので鉄道建設は不可能となった。もし、この事実がバレると、フランスなど多くの出資者から資金ストップになる恐れがあり、ウイッテ蔵相は危機感を募らせた。

⓶ 日清戦争に敗北した清国は日本への賠償金二億両(邦貨約三億円)を五ヵ年間で支払うと約束したが、清国の財政状態は一挙に悪化し、李鴻章は賠償金2億両の金策に弱り果てていた。

③  当時のロシアは、ウラジオ港が冬季凍結するので不凍港を朝鮮元山か、遼東半島の旅順に求めていたが、シベリヤ鉄道が満州内を通過できるという計画とセットにして、清国政府の金欠病につけ込む謀略作戦を練った。

蔵相ウィッテはこの解決策として、金を出し満州を通過して旅順に至る東部線の新設を清国側に認めさせようと考えた。

ところで、清国(中国)には千年以上にわたる悪習慣、ワイロ、汚職体質が根強く残り、李鴻章自身も汽船会社、開平炭鉱、その他銀行の経営等に巨額な私財を投資しており、常に金策に追われていた。今の習近平共産党トップの巨額ワイロ事件の続発とまるで同じ腐敗体質である。

④  ロシア側は李鴻章(75歳)を篭絡するため、この弱みにつけ込む一計を案じた。まずは李鴻章の大義名分がたつように彼の面子を最優先し、日本に大敗をした清国はすみやかに軍備を再建して、日本の再侵略に備える必要があるとたきつけた。

⑤  そのため、海軍力を完全に失った清国を支援し、ロシア太平洋艦隊が旅順軍港を使用する権利を獲得し、満州朝鮮方面に進出する日本陸軍を撃退するため、ロシア本国とウラジオ方面の両方から清国軍に応援するための鉄道を満州内に建設する。

⑥  敗戦再興資金(対日賠償金を含む)ロシアが清国に提供する。

⑦  露清両国の出資する露清銀行が東清鉄道会社(満州国内を通過する)に融資して会社経営を行う、鉄道建設以外にも木材、炭鉱の事業を幅広く満州全体の開発を行う。

⑧  極秘のうちに李鴻章に対し三百万ルーブルの資金を東支鉄道株式会社の特別勘定として保有させ、李鴻章の協約実行の謝礼として支払う。

以上のように、清国が大敗した弱みにつけ込み、李鴻章の面子保持と巨額ワイロを送るいう二重の奥の手で最高指導者を篭絡させた、露清銀行と鉄道会社には名目として清国人を参加させ、極力ロシアの野望を隠蔽する謀略戦であった。
ロシア、清国の密約調印工作

ロシアのニコライ二世の即位戴冠式は1896(明治29)年5月14日、ペテルプルグのクレムリン宮殿で行われた。各国は皇族、首相級の人物を派遣を、日本は山県有朋を全権として送った。清国は大宰相李鴻章の参加を決め、同年三月上海を出発し、四月スエズを通過してポートサイド港に着いた。

ロシアがここで出迎えたのは、季鴻章がロシアに行く前に他の国々を訪問して万一ロシア側の悪巧みが他国からバレないようにするため、直路軍艦で黒海のオデッサへ送り、貴賓用特別列車でロシア入りさせて最大級の大歓迎で出迎えた。

『清国が大宰相李鴻章を遠路わざわざロシャ皇帝の戴冠式に派遣したことは、まさに有史以来初めてのことである』と大々的に宣伝し、李鴻章を持ち上げた。ロシアは李鴻章の接待に全力をあげて、彼の宿泊・馬車・接待・歓迎会等は、他の強国に比べて飛び切り豪華を極めたといわれる。それもそのはず、この戴冠式にことよせて極秘裏にウイッテ蔵相(実質上の首相)と李鴻章の間で『露清密約』を結ぶためだった。

明治二十九年五月某日、この密約は調印され、外相ロマノアもウィッテ蔵相と共に立ち会った。本条約はこの密約を清国で準備した公使カシニーの名前をとって、カシ二ー条約と命名したのは、この密約を隠ぺいするための偽装工作だったのである。

では、カシニー条約(露清密約)の内容は次の通り。

第一条 東亜のロシャ領、支那及び朝鮮の領土に対し、日本によって進撃がなされた場合には、この条約は即時適用され、露清両国は一切の陸海軍兵力をあげて相互に援助する(対日相互防衛援助が目的)。

第二条 単独講和の禁止。

第三条 軍事行動中、必要あるときは一切の支那港湾はロシア軍艦に開放せられ、支那官憲はこれに便宜を供給すべきこと(本条は旅順軍港の使用がねらい)。

第四条 支那政府においてはロシア軍隊が脅威せられた地点に到着することを容易ならしめるため吉林、黒竜江の両省を経由してウラジオストックに至る鉄道の建設を承認する。

但しこの鉄道の建設及び開発はすべて露清銀行に委せらるべく、協定は在露清国公使と露清銀行との間において締結せらるべきこと(シベリヤ鉄道の北満通過と二国間協定の非難回避のための便法を規定)。

(以下省略)

第四条によるシベリヤ鉄道の北満通過に関する細部協定は明治二十九年九月八日成立した。

日本も世界もこの秘密同盟は全く知らなかったのである。

明治三十一年三月の東支鉄道支線(ハルビンー旅順間)の敷設権獲得に際して五〇万ルーブルの金が李鴻章に渡った事実は三〇〇万ルーブルの李鴻章資金の一部であった事実は、明治三十四年⒑月21日の李鴻章の死後、次の清国の実力者、慶親王側からの知らせで日本政府は初めて知ったのであった。

しかしロシャ側では皇帝が介在していたため、革命後になって初めてその詳細が明らかにされた。

(参考文献ーー島貫重節『戦略日露戦争』(上)原書房 1980年 34-47P)

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