『日中台・Z世代のための日中近代史100年講座④』★『宮崎滔天の息子・宮崎龍介(東大新人会)は吉野作造とともに「大正デモクラシー」を牽引し「柳原白蓮事件」で「大正ロマンの恋の華」となった」★『炭鉱王に離別状を朝日新聞に大々的に発表、男尊女卑の封建日本を告発した<新しい女の第一号>で宮崎龍介と再婚した』
2014/07/23 2015/01/01「柳原白蓮事件」を再編集した。
明治維新後、一応士農工商は廃止され、四民平等になったとはいえ、実質上は
天皇制の立憲華族主義の実態、日本の旧弊の家族制度、男尊女卑、
女性差別、公娼制度、男女自由恋愛の御法度など封建的身分制度、きびしい
男女差別、女性の非参政権は1945年8月の全面敗戦によって、米国に大改革されるまでは、日本人の手によって民主化することはできなかった。NHK「花子とアン」では、日本の近代的な負の部分、柳原白蓮が戦ってきた封建的な男女差別、身分制度、公娼制度、女性の就職口といえば女工哀史か、売笑婦か女中位しかななかった影の部分にほとんど光を当てていない。BSによる海外のドキュメンタリーやドラマと比較するといかにNHKや韓国ドラマもそうだが。ディレクターに歴史的、民主的な的な視点が欠落しているのではないかと思う。
華族とはいえ妾の子にうまれて「不幸な差別された人生を送った」柳原白蓮は大正デモクラシーの一端に触れて、社会の影で抹殺されていたひどい男女差別の実態、人権蹂躙に目覚めて、西欧社会ではすでに獲得されていた人間の平等、自由、権利の主張に勇敢に立ち上がった。
当時の新聞、資料で社会のNHKがあえて無視した影の部分をそのまま紹介する。文語体、旧漢字などはわずか100年前の事なので古文で読めなければならない。英語などはそのまま読んでいるのに。自らの言語の何でも現代文に改めるのは古典理解につながらず、知の衰弱につながる。
柳原白蓮
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%8E%9F%E7%99%BD%E8%93%AE
白蓮事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E8%93%AE%E4%BA%8B%E4%BB%B6
「私は青春の日をしらない」柳原 燁子(白蓮)『女性』大正15年5月号
私の若い日のおもひで、それは薄暗い淋しいおもいでばかりが、諒闇の絵巻のやうにつゞいているばかり。私には楽しい青春の日はなかった。幼い日からようように人生の春に目醒めようとしたとき、私もその楽しかるべき日を何とはなしに待っていたようでもあった。
しか、し私には麗らかな春の光りは見出せなかった。人として生れ甲斐ある、まして女として美しく生れて来たことを悦楽の春もしらなかった身は誰に感謝しようぞ、髪は黒く長くのび、面影は艶やかに、我身ながらも時としては、鏡の前にぽつねんと、よそ人にでも向き合った時のように飽かずながめ暮した日もあった。
けれど楽しかるべき青春の日は遂に来ないで、それと気のついたときはいつかしらぬまに、この若い日はもうすぎ去ってしまっていた。
我身をこの大地の上に強く踏みしめ、頭から足のつまさきまで、輝やかしいこの太陽を体中一ばいに浴びながら、風は動く、雲は走る、花のかをりは何所ともなくたゞよう中に、これぞ我人生だ、いまこそ我世界と、この大空の月も陽もわがものでなくて何であらう、
我身あってこその鳥の歌だ、花の色香だと思ひあがっては、こういう世の中に自分は一日でも長く生きていたい、またいなければならない身の上だと、そう思って歓喜に踊ったとき、私の青春はもう、とくに姿を消してしまっているではないか。
おお私の青春の日よ、お前はいつこの私を訪づれてくれたことがあったらうか、追うてかへらぬ日ながら、知らぬまに消え失せてしまったわが青春の花は黒い喪の花であったのか。如何にこの恵まれなかった私にも、それでも若い日はあった筈だ、その日私は不断の悲哀に疲れはてて夜も眠らなかった晩が幾度あったであらう。
夜な夜なの枕の下に敷いた私の黒髪は常に私の涙ではぐくまれ成長していたのである。幼子としてやや仕合せであった私は、童女の頃からして、同じほどの学校友達などの及びもしらぬ程の悲しみを持っていた。
その童女はやがて少女の日となった。青春のあかるい光りに照らされて、草木でさへ、鳥でさへ、悦楽の春であらうものを、あはれ薄幸の日の私の姿は暗かった。
怖ろしい狼は常に私の肉を喰はうとねらってゐる。恐い鷲は隙さへあれば私の胸を引き裂かうと身横へている。その前にいつもおののいているかよわい私、其の頃の遠い遠い学校通ひに疲れきった体を、夜の目も合はさずにこの毒爪から逃がれようために戦った。
そして何かはしらず神のみ手づからさづけられたと思ふ玉とも宝ともいつくしむ処女の生命を最も勇敢に守護した。
あのやさしい年をとった成さぬ仲の父と母とは、私のこの苦しみをちっともしらない。まして自分の息子が、私の為めには世界中で一番怖ろしい狼であり鷲であらうとは。二人の親のいつくしみの影にさへいつも氷のやうな胸を抱いてゐた。
私の目の前にゐるその人は、私のためにはいひなづけ許嫁の夫であった。私の何もしらぬうちに、私はそれと定められてしまってゐたのであった。
女はみんな大人になれば男のお嫁さんにならねばならぬもの、そんな怖ろしいいやなことは、もう私等の大人になる頃にはすっかり止めになればいい、丁度御維新前のお大名がお廃止になったやうに、さうなれば第一私はどんなに助かるであらう、とその頃の私はこんな事を希ったりもした。
男が女の体に対して何か必要なことがある、男と女とには何か異様な怖るべき戦ひがある。
そんなことをおぼろげに少女の私は悲しくも知った。自分の学校友達の涙と笑ひは無邪気なそれであったけれども、私の涙と笑ひにはいつも声を立てることすら出来なかった。
親のいふことはきくもの、長者の命は絶対なもの、と教へた人々があった、親と長者なくては自分もないやうに思ってゐた私は、さういふ風に導かれた教育を恨む、己れなくして何の長者かと、今の反逆心はその時の種が芽をふき枝をはり大木となった影であらう。
そんな我まゝをいふのなら平民にやってしまふぞ!。これが私を生みの家の人々の言葉であった。あの人達はたわいもなく泣きむづかる幼な子に、鬼に喰はしてしまうぞとおどかして泣き止めさせようとする人たちであった。
平民-それは怖ろしい名である。自分のよく知らぬ世界人である。およそ平民とは、朝な朝なの学校への通ひ路に行き合ふあはれな納豆売の子、あれが平民の子ではあるまいか。それほど私は愚かであった。
先の日の血と涙と戦ひ、それは誰の為めに戦った貞操であったらう。こればかりは神さへ許し玉ふべきに人の親は許さなかった。
宝とも玉ともいつくしむ処女の生命はたうとう奪はれてしまった。私の一生涯の悲しみの種はこの時蒔かれたものである。
私は満十五才と何ヶ月かで人の子の母となった。
二十一から先は婚嫁を待つ娘に似たやうな日を暮った事もあった。以前に半端で無理に止めさせられた学校を、ここで取り戻して女学校に入れて貰った。
そこでは幾多の若い処女たちと遊びもし戯れもした、それでも私に心からの歓楽のあらう筈はなかった。
この純な美しい清い処女たちに立ち交って、常に。私の胸はうす暗い秘密を貯へてゐなければならなかった。なぜならば私も人並に清い美しい処女のやうな顔をしてゐたから。私は青春の日をしらない。
『女性』大正15年5月号

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