前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日中台・Z世代のための日中近代史100年講座⑤』★『世紀の恋の果たし状ー九州の炭鉱王の良人・伊藤傳右衛門氏に送った「筑紫の女王」柳原輝子の絶縁状の全文ー愛なき結婚と夫の無理解が生んだ妻の苦痛と悲惨の告白』★『1921年(大正10)10月23日「大阪朝日」朝刊掲載』

   

1921年(大正10)10月23日 「大阪朝日」朝刊掲載
朝刊新報の「筑紫の女王」燁子夫人が、良人伊藤傳右衝門氏に対して、身の廻り一切と共に送ったといふ絶縁状の全文は次の通りである。 伊藤傳右衝門https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E8%97%A4%E4%BC%9D%E5%8F%B3%E8%A1%9B%E9%96%80

 

『私は今あなたの妻として最後の手紙を差上げます。今、私が此の手紙を差し上げるといふことは、あなたに取って突然であるかも知れませんが、私としては当然の結果に外ならないので御座います。

あなたと私との結婚当初から今日までを回顧して、私は今、最善の理性と勇気との命ずる所に従って、この道を執るに至ったので御座います。
御承知の通り結婚当初から、あなたと私との間には全く愛と理解とを欠いてゐました。
この因襲的な結婚に私が屈従したのは、私の周囲の結婚に対する無理解とそして私の弱小の結果でございました。しかし私は愚かにも此の結婚を有意義ならしめ、出来得る限り愛と力とを此の内に見出して行きたいと期待し、且つ努力しやうと決心しました。
私がはかない期待を抱いて東京から九州へ参りましてから、今にモウ十年になりますが、其の間の私の生活は、唯やる瀬ない涙を以て掩はれまして、私の期待はすべて裏切られ、私の努力はすべて水泡に帰しました。

貴方の家庭は私の全く予期しない複雑なものでありました。私はここにくどくしくは申しませんが、貴方に仕へておる多くの女性の中には、貴方との間に単
なる主従関係のみが存在するとは思はれないものもありました。

貴方の家庭で主婦の実権を、全く他の女性に奪はれて居た事もありました。′
それも貴方の御意志であった事は勿論です。私は此意外な家庭の空気に驚いたものです。こう云ふ状態に於て、貴方と私との間に真の愛や理解のありやう筈がありませぬ。

私が是等の事に就き、漏らした不平や反抗に対して、貴方は或は離別するとか、里方に預けるとか申されました。実に冷酷な態度を執られた事をお忘れにはなりますまい。

又、可なり複雑な家庭が生む様々な出来事に対しても常に貴方の愛はなく、従って、妻としての値を認められない私が、どんなに頼り少く寂しい日を送ったかは、よもや御承知なき筈はないと存じます。

私は折々わが身の不幸をはかなんで死を考へた事もありました。併し私は出来得る限り苦悩と憂愁とを押へて今日まで参りました。其の不遇なる運命を慰むるものは只歌と詩とのみでありました。

愛なき結婚が生んだ不遇と、此の不遇から受けた痛手のために、私の生涯に所詮暗い幕のうちに終るものだとあきらめたこともありました。しかし、幸いして私にはひとりの愛する人が興へられ、そして私はその愛によって今復活しやうとしてなるのであります。

此のままのにしておいては、あなたに対して罪ならぬ罪を犯すことになることを恐れます。最早今日は私の良心の命ずるまゝに、不自然なる既往の生活を根本的に改造すべき時機に臨みました。即ち虚偽を去り真実に就く時が参りました。依って此の手紙により私は全力を以て女性の人格的尊厳を無視する貴方に永久の訣別を告げます。

私は私の個性の自由と尊貴を守り、且つ培ふ為に貴方の許を離れます。長い間私を御養育下さった御配慮に対しては、厚く御禮を申し上げます。

(二伸)私の宝石類を書留郵便で返送いたします。衣類類等は照山支配人の手紙に同封しました目録の通りすべて、夫れぞれに分け輿へて下さいまし。

私の実印はお送り致しませんが、若し私の名義となって居るものがありましたら、其の名義変更の為には何時でも捺印致します。
す。
伊藤傳右衝門様
                  二十一日 輝子

 - 人物研究, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(334)-『新型コロナウイルス/パンデミックの研究①-日本でのインフルエンザの流行の最初はいつか』★『鎖国日本に異国船が近づいてきた18世紀後半から19世紀前半(天明から天保)の江戸時代後期に持ち込まれた(立川昭二「病と人間の文化史」(新潮選書)』

  2020年4月22日                     前坂 …

no image
「エコプロダクツ2013」(12/12-14日) 「地球・世界を救う最先端技術を紹介する」②植物工場ハイブリッドLED管、驚異の節水ノズルほか

     ★「エコプロダクツ2013」(12/12 …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(62)●『厄介な福島原発4号機の燃料プール」●「脱原発依存のウネリ高まる」

 池田龍夫のマスコミ時評(62)   ◎『厄介な福島原発4号 …

no image
「日韓衝突の背景、歴史が一番よくわかる教科書」④記事再録/日韓歴史認識ギャップー「伊藤博文」について、ドイツ人医師・ベルツの証言『伊藤公の個人的な思い出』伊藤博文④-日本、韓国にとってもかけがえのない最大の人物

2010/12/05 の 日本リーダーパワー史(107) 伊藤博文④-日本、韓国 …

『オンライン/明治外交軍事史/講座』★『森部真由美・同顕彰会著「威風凛々烈士鐘崎三郎」(花乱社』 の背景を読む➄』日中友好の創始者・岸田吟香伝②『 楽善堂(上海)にアジア解放の志士が集結』★『漢口楽善堂の二階の一室の壁に「我堂の目的は、東洋永遠の平和を確立し、世界人類を救済するにあり、その第一着手として支那(中国)改造を期す」と大書』

     2013/02/19『リーダーシップの日 …

no image
日本リーダーパワー史(330)「尖閣問題の歴史基礎知識」⑤ 『30分でわかる日中尖閣百年戦争の謎と,関連ニュース

日本リーダーパワー史(330)   よくわかる「尖閣問題の歴史基礎知識 …

no image
日本のメルトダウン(530)「沈没中のガラパゴス・日本=2030年、生き残れるのか』(5年前の現状分析、今はもっと早まるか?)

    日本のメルトダウン(530)   …

no image
速報(248)『4号機・燃料棒取り出し困難さ「空中に釣り上げたら周辺の人達が死んでしまう被曝」小出裕章」3本

速報(248)『日本のメルトダウン』 ◎『「2月20日 4号機・燃料棒 …

『湘南ビーチ・ぶらぶら散歩は心が晴れるよ①』『鎌倉材木座海岸、逗子海岸、葉山森戸海岸からの富士山絶景ビュー』(葛飾北斎/スマホ写真版8変化)

鎌倉材木座海岸から江の島の右手、山上に三角形の白雪富士山が見えた。 2025/0 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊻』余りにスローモーで、真実にたいする不誠実な態度こそ「死に至る日本病」

   『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊻』 …