前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日中ロシア北朝鮮150年戦争史(46)『日本・ロシア歴史復習問題』★ 「満州を独占するシベリア大鉄道問題」-ウィッテ伯回想記から 『李鴻章と交渉に入る』『ニコライ皇帝と李鴻章の謁見と敵国 の日本の密約締結』

      2016/10/17

 

日中ロシア北朝鮮150年戦争史(46)

『日本・ロシア歴史復習問題』★

 「満州を独占するシベリア大鉄道問題」-ウィッテ伯回想記から

『李鴻章と交渉に入る』『ニコライ皇帝と李鴻章の謁見と敵国

の日本の密約締結』

 

1896年(明治29年)、ニコライ二世帝即位の戴冠式が行はれる時がきた。

式例によって親交のある世界の各国は皇族または大官を派遣して、この盛儀に参列させた。支那からは李鴻章を派遣するといふ通告があった。李鴻章といへば、当時の支那では官位権勢ともに比肩する者のない実に国家柱石の大官である。

 

支那がかういふ大官を派遣するのは異例のことである。それは、日清戦争の終局した後にロシアが日本に圧迫を加へて、支那の領土保全と外債募集に尽力したので、新皇帝に謝意を表する意味であることはいふまでもない。

 シベリア大鉄道の工事は着々進捗した。遠くバイカル湖の東まで完成し、その先きをどの方向に向って敷設するかを決定せねばならぬ時が来てゐた。あらたに成立した露支の親善関係が、私をしてこの鉄道を、蒙古・満洲を貫通して直線的にウラヂウオストクに向けるがいいと考へさせたことは、不思議ではあるまい。

 

かくすれば同鉄道はその完成期日を著しく短縮することが出来るばかりか、それによって

はじめて同鉄道は東は日本及び極東の各地と、西はロシア並に欧洲の各地を連絡して、名実ともに世界的交通路となり得るからである。もっとも、この目的を達するには相互間の商業的利益を基調とした平和手段に依らねばならぬこと勿論である。

李鴻章と交渉に入る

 

いよいよ交渉を開始する時が来た。私は或日の李鴻章との会見において、まづ今度ロシアが支那に与へた援助が、いかに彼れの国のため有利であったかを説いた。今度我々が強調した支那の領土保全といふ主義がいかに彼れの国の声威を保持する上に有効であるかを説いた。

 

また我々が一とたび支那の領土保全を宣言した以上、それは将来永久に持続して変はることなき意志であることを明言した。更に私は言った。

 「しかし、この支那の領土保全を維持するためには、我々が必要に応じて支那に助力を与へうる地位におかれねばならぬことは自明である。それには先づ第一に-彼我の間に完全な交通路、すなはち鉄道を敷設することを必要とする。この設備を欠く間はロシアは支那のために有利な友邦とはなりえない。

ロシアの兵力は常に欧露に集中されてゐるのであるから、一朝有事の際に支那の救援に赴かうとするには、欧露(ヨーロッパ・ロシア)とウラヂウオストクとの両方面から兵力を必要の地点に移動する必要を生ずる。ところが現時

の様に交通機関が不備な状態ではどうしても、有効且つ敏速な活動を為しえない。たとへば、現に日清戦争の際にロシアが万一の場合を顧慮してウラヂウオストク駐屯兵を吉林方面に移動しようとした時の如きも、道路のないためにその兵は戦役の終る頃に至っても、まだ吉林に到達し得なかった。

 

であるから、支那の領土保全を確保するため当面の急務は鉄道の建設である。その鉄道は最短距離をもってウラヂウォストクに到達するものであることを要する。それは蒙古及満洲の北部を通過することになる。さうしてこの地方を貫通する鉄道は軍事上の必要に応ずるのみでなく、露支両国の繁栄を増進する機関となるであらう。それは鉄道の通ずるところ産業の開発を促進するのは既定の事実だからである。

 

のみならず、この鉄道の敷設は決して日本の反対を惹起すことはあるまい。日本はすでに久しくヨーロッパの文明をうけいれ、特にその科学を利用することを怠らないものである。したがってこの鉄道によってヨーロッパ諸国に接近しうることは日本の悦ぶ所であって、決して嫌悪する所でないのは明らかである』

皇帝の李鴻章謁見と締約

 

李鴻章は容易に私の説に応じはしなかった。彼れはいろいろの故障を並べ立てて私の所説に応苦しがたい理由を述べた。しかし私は彼れの語気によって、もし我が皇帝陛下がこれを望まれるならば、彼れは必らず応諾するであらうと看て取った。

そこで私は陛下に謁見して交渉の経過を言上し、且つ最近に李に謁見を賜はらんことを請ふた。

 その後何かの機会で群臣に謁見を賜はったことがあって、私が陛下の前に近づいたとき、陛下は私と握手をしながら小声で、李鴻章に逢って話をして置いたよ』-と言った。

 その後間もなく私はまた李鴻章と会見した。いろいろと交渉した末、支那との秘密協約について大要のやうな原則案をつくった。

 

  支那はロシアがチタ=ウラヂウオストクを最短距離をもって連絡するために、支那の領土を貫通して鉄道を敷設することを承諾する。

しかしこの鉄道は私設会社の手によって建設さるべきことを必要条件として、鉄道を敷設することを承諾する。この鉄道は私設会社の手によって建設されるべきであることを必要条件とする。

 李鴻章はどうしても、この鉄道を国家が建設し、国家が所有するといふ私の説に承諾しなかったので、止むをえず東支鉄道会社を創立することにした。同会社が実際において政府の管理するものであることは、今日見る通りである。

 

が、すでに私設会社である以上大蔵省の管轄に属してゐても、その社員は官吏として待遇されない。たまたま官吏にして同会社の事務を執る場合には出張員として待遇されることとなった。

 

  、この鉄道の敷地として相当の附属地を設定する。この附属地内においてはロシアが主人たるべきこと。この附属地がロシアの支配に属する以上、ロシアはその地域内においては自己の警察を有しまた自己の守備兵を配置する自由を有する。この附属地の地域は鉄道の運用に必要な程度に従って設定するが、同地域内においてはロシア側-正しくいへば東支鉄道会社は、主人たる地位を占める。

鉄道線の方向は削ま調査の上最後の決定をするが、成るべくチタ=ウラヂウオストク間を直線的に連絡するに努力すること0支那は鉄道の建設並にその運用に関しては何らの責任を負はぬ。

 一方、ロシアは日本の侵略的行動に対して支那を防護する責任を持つことになった。故に露支両国は日本に対して防守同盟を結ぶことになったのである。[中略]

                                                  つづく

 

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(570)『憲法9条(戦争放棄)の最初の発案者は一体誰なのか④』 マッカーサーか、幣原喜重郎か?(再録)

日本リーダーパワー史(570) 一連の「安全保障法制案」が閣議決定され、本格的な …

no image
  日本リーダーパワー史(774)『金正男暗殺事件を追う』―『金正男暗殺で動いた、東南アジアに潜伏する工作員たちの日常 』●『金正男暗殺事件の毒薬はVXガス マレーシア警察が発表』★『金正男暗殺に中国激怒、政府系メディアに「統一容認」論』●『  金正恩は金正男暗殺事件の波紋に驚いた? 「国際的注目を浴びるはずない」と考えた可能性も』

  日本リーダーパワー史(774)『金正男暗殺事件を追う』   金正男 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(120)日清戦争はなぜ起きたか、清国海軍に対抗して宮廷費を削減し軍艦建造費に回した明治天皇

 終戦70年・日本敗戦史(120)                   <世田谷 …

「チャットGPT」で「リープフロッグ」せよ』★『AI研究の第一人者・松尾豊・東大大学院教授は「インターネット時代には日本は遅れたが、AI時代には「リップフロッグ」(カエルの二段とび)でフロントランナーなれる」★『絶好のチャンス到来で、デジタル日本経済の起爆剤になる』

前坂俊之(ジャーナリスト)   「チャット GPTの出現で、「ホワイト …

no image
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟の清国への影響」⑦1902(明治35)年2月24日 『申報』『日英同盟の意図は対ロシア戦争ーこの機会に乗じて富強に尽力すべし』★『日本はロシアを仇とし『臥薪嘗胆』しロシアを破ることを誓っているが、自国の戦力、財源は 豊かではないので、イギリスを盾にした。』

   ★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟は清国にどうはね返るか …

no image
終戦70年・日本敗戦史(86)陸軍反逆児・田中隆吉の証言⑥『紛糾せる大東亜省問題――東條内閣終に崩壊せず』

  終戦70年・日本敗戦史(86) 敗戦直後の1946年に「敗因を衝くー軍閥専横 …

no image
  日本メルトダウン( 967)『東京五輪、反対してもいいですか?「やめる」を納得させる5つの理由』●『「悲惨なアメリカ」を証明した、二つの衝撃レポートの中身 大統領選の行方にも影響アリ?』●『ドゥテルテ大統領来日で再確認!アジア外交の主役はやはり日本だ 中国はこの接近に焦っている』●『  スマホが子どもにもたらす「隠された3つの弊害」』●『ウェブメディアの「検索回帰」が始まったワケーSNSのアルゴリズム変更に高まる不信感』●『ネットニュースの虚実に迫れるか 「Google News」に「ファクトチェック」タグ導入』

  日本メルトダウン( 967)   東京五輪、反対してもいいですか? …

no image
速報(207)『日本のメルトダウン』『レヴィ・ストロースで読解くー日本にリーダーがいない理由』『ユーロ危機、三十年戦争の教訓』

速報(207)『日本のメルトダウン』 ●『レヴィ・ストロースで読み解くー日本にリ …

no image
日本記者クラブで坂本団 弁護士が「マイナンバー、その可能性と危険性」- 自己情報は誰のもの」と題して講演、記者会見した(4/20)

日本記者クラブで坂本団 弁護士が「マイナンバー、その可能性と危険性」- 自己情報 …

no image
『世界ランキング中の日本の順位②』ー『日本最下位のレットカードが増加中!?』★『世界の名目GDP(USドル)ランキング3位』★『 世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング22位』★『日本の生産性は、先進国でいちばん低い』★『日本は132位”仕事への熱意度ランキング”139ヶ国中で最低クラス』★『国連が衝撃発表!国連「日本の最低賃金は先進国最低。生存基準を下回っている」』★『WHOも苦言…世界最低レベルの日本の受動喫煙対策が進まない理由』★『【世界最低レベル】日本の男女格差は一体いつ解消されるのか』

『世界ランキング中の日本の順位』ー『日本最下位のレットカードが増加中!?』 &n …