前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための日本金融史講座①』★『総理大臣と日銀総裁の決断突破力の研究』★『アベクロミクスの責任論と<男子の本懐>と叫んだ浜口雄幸首相は「財政再建、デフレ政策を推進して命が助かった者はいない。自分は死を覚悟してやるので、一緒に死んでくれないか」と井上準之助蔵相を説得した』

      2024/06/20

「逗子なぎさ橋通信、24/06/20/am800]

 『リーダーシップの日本近現代史』(112)』
政治家の信念とその責任のとり方の比較
i        

↑上の写真は井上準之助蔵相(日銀総裁)

統計不正問題で揺れる国会で2019年2月12日、安倍首相と立憲民主党会派の岡田克也元外相の間で久しぶりに激しい舌戦があった。安倍首相の「悪夢のような民主党政権だった」との発言に岡田氏はかみついて、「自民党の経済、原発政策の失敗に足を取られた。自民党にこそ責任がある。発言を撤回せよ」と詰め寄ったが、議論はすれ違いに終わった。論争のあと、「ちっちゃな首相だ!」と岡田氏は吐き捨てた。

3月末の期限が迫る中で、相変わらずEUとの合意なき離脱問題でもめ続けている英国議会に対して、しびれを切らしたEUのトゥスク首脳会議常任議長(大統領に相当)は2月6日、英国の離脱推進派には「地獄に特等席が用意されている」と発言し、英国議会は猛反発した。

一方、トランプ大統領の言いたい放題、強圧的言動はやまずメキシコ国境のカベの建設を巡って「民主党はテロ、犯罪者、不法移民の擁護者だ」と攻撃はエスカレートし、ついに国家非常事態宣言を発してカベ建設予算の増額した。米議会の混乱はまだまだ続きそうだ。

このように、世界中で大統領、宰相らの過激発言によって、政治不信が高まり、政治家の責任が改めて問われる事態となっている。

今からちょうど90年前の1929年(昭和4)にニューヨーク株式市場の暴落に端を発した世界大恐慌がおこり、世界中が不況に見舞われた「悪夢の1930年代」を思い起こさせる。

この時の『ライオン宰相』浜口雄幸首相の政治力、決断力は日本憲政治史上、稀有のものであった。
1929年(昭和4)7月2日、中国張作霖爆殺事件の責任者の処分をめぐって処分が軽すぎると昭和天皇から叱責された田中義一首相(政友会)は責任をとって総辞職し、野党第一党の民政党の浜口内閣が誕生した。
浜口は外務大臣に幣原喜重郎(国際協調派)、大蔵大臣に井上準之助(貴族院、日銀総裁)を、海軍大臣に財部 彪(条約軍縮派)据えた。 政策として為替相場を安定させるための金解禁の実施、国民生活を犠牲にした英米との海軍力競争に追従すべきでないとの軍縮実現、行財政改革、綱紀粛正、官吏減俸(国家公務員の減俸)などを「改革10大スローガン」を掲げて、翌昭和5年の総選挙では国民の圧倒的な支持を集めて絶対多数の273議席を獲得した。

浜口雄幸は土佐出身の「いごっそう」(快男児、頑固で気骨のある男)で無口寡黙正直一筋の不言実行のひと。板垣退助、吉田茂の宰相の流れの中間に位置する。東大法科卒で大蔵官僚となったが、大臣の予算を上げよとの上司の命令を拒否したため、地方へ飛ばされ左遷に次ぐ左遷となった。その間も英国タイムズの購読を続けて、世界経済を地道に勉強してきた。生来の無口訥弁も演説を猛練習して直した。節を曲げぬ剛直、清貧,知合一致の人格が後藤新平(内相、外相)に見込まれて、政治家に転出する。「政治は国民道徳の最高標準たるべし」を信念としていた。

浜口首相は大蔵大臣は井上しかできないと目をつけていた。「この内閣の最大の使命は財政整理だ。それには財政の専門家が要る、あなたしかいない。デフレ政策を推進して命が助かった者はいない。自分は死を覚悟してやるので、一緒に死んでくれないか」と誠心誠意、口説いた。

最初は断っていた井上もついに「そこまで自分を見込んでもらえるなら、私も命を投げ出しましょう」と引き受けた。浜口首相は実力本位の抜擢人事で派閥、根回しに頼らず、「唯一正道を歩まん」と反対を押さえて正面突破で政策を推進した。ところが、同年10月24日にニューヨーク証券取引所で株価が大暴落、「暗黒の木曜日」がおこり、世界は大恐慌に突入し、日本も深刻な不況に落ち込んだ。

浜口内閣は着々と政策を実行し、翌昭和5年1月11日、金本位制(金解禁)に復帰した。4月にはロンドン軍縮会議で米英日3国での軍備制限条約を締結した。ところが、これに猛反対する海軍の艦隊派の加藤寛治軍令部長の統帥権干犯問題が発生、右翼が一斉に声を上げ、浜口内閣打倒に動き出した。

「暗黒の木曜日」から3週間後の11月14日朝、浜口雄幸首相は東京駅で右翼暴漢からがモーゼル型拳銃で腹部を狙撃された。この時、「男子の本懐!」との有名な言葉を残した。銃弾が体内に残っていたため、三回もの大手術を行ったが、容態は回復せず、昭和6年1月、2月になっても衰弱が続いき、復帰できなかった。

政友会からは『総理が国会に来られない以上、政権を渡せ』と矢の催促。両党の対立が激化し、乱闘事件まで起きた。民政党は『必ず浜口は登壇する』と答えたが、浜口の容態は絶対安静でとても起きられる状態ではなかった。

城山三郎「逆境に生きる」(新潮社、2010年)によると、浜口首相は病床で「会期中に国会に出るという総理の約束は、国民に対する約束だ。自分は死んでもいいから国会に出る。邪魔しないでくれ」と医者、家族に決意を告げた。ところが、浜口は、靴を履くこともできず、靴が重くて、倒れてしまうほどの衰弱ぶり。靴なしで国会へは行けないので、家族で布を靴の形に切って墨を塗って、足につけるという前代未聞の悲壮な覚悟で登院した。

3月10日に開会中の衆議院本会議に出席してあいさつ、以後、連日出席して、鳩山一郎(鳩山由紀夫の祖父)らの長い質問に答え続けた。

疲労困憊、衰弱は限界に達し、4月に再び入院手術したが、現職復帰は困難となり、同13日についに総辞職した。浜口はそれから5ヵ月後の8月26日に61歳で不帰の客となった。この2週間後の1931年(昭和6)9月16日、関東軍が謀略のの満州事変を起した。『ブレーキが故障した軍閥国家」は「昭和15年戦争」(1941ー1に転落、破滅していった。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
昭和外交史③大日本帝国の最期③(03,10)

1 昭和外交史③  日本で一番長い日  昭和20年8月15日の攻防 ③ ――<大 …

『Z世代への昭和史・国難突破力講座㉗』★『本田宗一郎の名語録10ヵ条』★『成功は失敗の回数に比例する』★『どんな発明発見も他人より一秒遅れれば、もう発明、発見でなくなる。』★『時間こそすべての生命』★『頭を使わないと常識的になってしまう、頭を使って〝不常識″に考えろ』などなど』

日本リーダーパワー史(733)    2016/0 …

no image
日本リーダーパワー史(39)『日本敗戦の日、森近衛師団長の遺言<なぜ日本は敗れたのかー日本降伏の原因>

日本リーダーパワー史(39) 『日本敗戦の日、斬殺された森近衛師団長の遺言 &n …

『リモート京都観光動画』/外国人観光客への京都ガイドー清水寺の舞台から下って音羽の森に向かう』★『清水寺の北御門・月照の碑の裏にある石仏群』★『わが愛するイノダコーヒー・久しぶりで京都清水店で味わう「確かに絶品、究極の香り」』

外国人観光客への京都ガイドー清水寺の舞台から下って音羽の森に向かう① 外国人観光 …

no image
◎<タイ駐在の若きM国際ビジネスマンのアジアレポート➀>『タイの経済/生活ぶりは・・大卒の初任給が20,000バーツ/月。約7万円です』★『日産Note(小型車)で70万バーツ。月給よりも高いスマートフォンもこちらでは当然、生活必需品で、皆、ムリして買っています』

  <タイ駐在の若き国際ビジネスマンのアジアレポート➀>    野水弘 …

『オンライン/憲法改正講座』★『マッカーサーは 憲法は自由に変えてくださいといっている。 それを70年後の現在まで延々と「押し付け憲法」×「憲法改正反対」の壊れたレコードの『日本ゾンビ政治』★『1週間で戦後憲法を作った米国の超スピード主義』×『その憲法改正を70年間議論している『日本のバカの壁』★『憲法問題の核心解説動画【永久保存】 2013.02.12 衆議院予算委員会 石原慎太郎 日本維新の会』

  2016/03/10  日本リーダー …

no image
★10最重要記事再録/日本リーダーパワー史(812)『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス㉗『日本最大の国難・日露戦争で自ら地位を2階級(大臣→ 参謀次長)に降下して、 全軍指揮したスーパートップ リーダー児玉源太郎がいなければ、日露戦争勝利は なかった ーいまの政治家にその胆識はあるのか?』★『トランプ米大統領の出現で、世界は『混乱の時代』『戦国時代に逆戻りか」 に入ったが、日本の国民にその見識 と胆力があるのかー問われている」

                                         …

no image
百歳学入門(94)天才老人NO1<エジソン(84)の秘密>➁落第生 アインシュタイン、エジソン、福沢諭吉からの警告

   百歳学入門(94)  「20世紀最大の天才老人NO1<エジソン( …

no image
日本メルトダウン脱出法(885)『日本が核武装したら「世界の孤児」になる理由』●『ここ数年の市場混乱、非伝統的政策の無効性に関係か=米連銀総裁』●『汚染された大地に住む中国人の「チャイニーズ・ドリーム」』● 『コラム:リアリティ番組のスター、よき大統領になれるのか』

   日本メルトダウン脱出法(885)   日本が核武装したら「世界の …

no image
日本メルトダウン(924)『グローバリズム(国際主義)、ポピュリズム(大衆迎合主義)を勝ち抜くリーダーシップは・MLBの上原投手、イチロー流の生き方ー①『人気よりも実力、結果で示す』 ②『ユーモアとコミュニケーション上手」 ③『独立自尊し、謙虚に分をわきまえる』<真のリーダーとは『愚者」ではつとまらない。『賢者』 (スマート人間)で、『結果勝利」がなにより重要>

  日本メルトダウン(924)   『グローバリズム(国際主義)、ポピ …