2005年、ユビキタスビジネスが生む58兆円の巨大市場
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2005年、ユビキタスビジネスが生む58兆円の巨大市場
静岡県立大学国際関係学部教授
前坂 俊之
わが国でのインターネットは昨年からブロードバンド(広帯域)ネットワークの爆発的な
普及によって、新たな第二革命に突入し、『ユビキタス社会』が幕開こうとしている。「ユ
ビキタス」とはラテン語で、「いたるところに神は存在する(遍在)」という意味である。そ
こから、あらゆる情報機器が繋がることを指している。
過去20年間のコンピュータの発展を見てみると、1990年代初めまでの第一世代では
1台の大型コンピュータを中心に複数の人が共同で利用する形態、その後の第二世代
はパソコンの時代で、一人一台で、個人の思うままにコンピュータを扱い、インターネッ
トの登場により、遠距離との通信が簡単にできる様々なサービスが登場した。
今はインターネット時代であるためにパソコンとインターネットに目が向けられているハ
ード、ソフトやネットワーク関連の技術が、多くの分野で急速にユビキタス・ネットワーク
へ向けてシフトしている。その先に登場しつつある第三世代は、インターネットが進化を
遂げ、無線通信やブロードバンドが登場し、パソコンだけでなく、あらゆる機器がインタ
ーネットに接続出来る状態の『ユビキタス・コンピューティング』である。
これはデジタル情報化の究極の姿であり、その時にはITの中心であったパソコンは、
数多くのネットワーク端末の1つのものに「見えない存在」と化してしまう。これまでのパ
ソコンの時代から非パソコンへのパラダイムシフトが起こっており、大切な点は「コンピ
ュータを意識しないで」、利用できることで、すべての人たちが、どこからでもコンピュー
タに接するようになることだ。
パソコン、テレビ、携帯電話、カーナビ、STB(セットトップボックス)、デジタル放送、ITS
(高度道路交通システム)、プレステーションなどのゲーム機、PDA(情報端末)などか
ら、家庭内の冷蔵庫、電子レンジ、クーラー、掃除機、情報家電まで、ブロードバンドネ
ットワークスで結ばれ、「いつでも」「どこでも」「どこからでも」「だれとでも」「どんな端末
からでも」、自由自在に映像や動画像、情報の双方向のやりとりが可能となる環境を指
しており、ユビキタスネットワークスと呼ばれているのである。
IT 後進国として韓国、米国に大きく水をあけられていた日本のブロードバンド市場は昨
年夏以来、参入業者が相次ぎ、急速に立ち上がり、爆発的に増加し、ADSL(非対称デ
ジタル回線)でみると、昨年、一年間で150万件を突破し、2002年に入っても新規加
入者は毎月30万件のハーペースで伸びている。このまま進めば、今年中に900万人
を突破する見込みで、世界一といわれる韓国のブロードバンド人口800万人、それに
米国を抜いてトップに躍り出る勢いである。
この結果、わが国で2005 年から7年ごろまでには、このような「ユビキタス・コンピュー
ティング」「ユビキタス・ネットワーク社会」が到来すると予測されているのである。
野村総研によると、ユビキタスネットワーク化による効果は生産額ペースで58兆円と
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いう巨大市場を誕生させるという見通しを示している。
このユビキタス・ネットワークには膨大な数の機器が接続されるが、すべての機器をつ
ないでいくネットワークは有線ではブロードバンドなどの高速ネット、無線で構成された
ネットはIEE802.11b の無線LAN やブルートゥ-ス(Bruetooth)、IrDA と呼ばれる赤外線
による通信などで、これにカギを握る無限のIPアドレスを持つキーテクノロジーの
「IPv6」がドッキングすることで、「常時接続」の高速ネットの『ユビキタス環境』が完成す
る。
キーテクノロジーの次世代インターネットプロトコルの「IPv6」。このIP アドレス体系の現
在の主流はIPv4 という仕組みだが、このアドレス体系は32 桁の二進数で管理されて
いるので、約43 億しかない。世界の人口が50 億を超えている今、これまでのペースで
インターネット人口が増加すれば2005年には不足する事態となるため、アドレス空間
を4 倍の128 桁に広げたIPv6 が登場した。「IPv6」はIT 立国をめざす「e-Japan 戦略」
の中でも,基幹技術と位置づけられている。
これだと約43 億の4乗まで管理することができ、ほぼ無限に近いアドレスが可能になる。
人間だけではなく、地球上に存在するありとあらゆるもの、生産財、モノ、商品にもすべ
てアドレスをつけても不足することはなく、すべてを管理することが可能になる。IPv6 対
応のルーター、パソコン、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)からのIPv6 接続
サービスの提供など、「IPv6」仕様の商品が続々商品化されている。
次世代携帯電話「FOMA」はブロードバンド対応だが、屋外型データ通信では「IEE80
2・11b」の無線LAN規格が、携帯電話にとってかわって主役に踊り出る可能性が高い。
いま、東京の都心や街中の駅、ターミナル、ホテル,レストラン、喫茶店に続々無線LAN
の基地局が開設されている。半径百㍍が接続できるこの基地局設置は1台わずか10
万円前後で、第3世代携帯電話(3G)の1台数億円よりケタ外れに安いので、初期投
資がかからず、新規参入しやすい。
パソコンに専用カードを指しこんで電波を飛ばして、基地局からは毎秒11メガの高速
ネットに接続できる。データ通信速度は3Gの30倍、モバイル時代のデータ通信には
ぴったりのものである。しかも、携帯ネット接続は携帯電話に限られるが、無線LANは
パソコン、PDAやあらゆる情報機器に高速ネット接続が可能になり, 今年は「無線LAN
元年」ともいわれるように、今後のユビキタス化の大きな起爆剤となるだろう。
もう1 つ注目されるのが無線ネットワーク技術の一つである「ブルートゥース」
(Bluetooth)である。これだと2,4Ghzの周波数帯の無線を利用して最大10㍍の範囲
内の機器と1メガの速度で音声・データの両方の通信が可能となり、オフィスや家庭内
など近距離にあるパソコンや周辺機器を接続できる無線通信技術なのである。「ブル
ートゥース」は価格も安く、パソコン内蔵用のモジュールや既存のパソコンやプリンタを
ブルートゥース化するアダプタ、携帯電話と接続してハンズフリーでの通話ができるヘ
ッドセット型デバイスなど製品の分野は幅広い。「ブルートゥース」は携帯電話のみなら
ず、パソコン、モデム、周辺機器、PDA,AV 機器,ゲーム機、カーナビ、プロジェクターな
どあらゆるものに組み込まれている。「ブルートゥース」は携帯電話市場で35㌫とシェ
ア最大手のノキアや東芝など世界の代表的な企業9社が参加しており,携帯電話の世
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界の生産、販売の8割を押さえている。モバイル関連市場のアナリストたちは、ブルー
トゥースの市場はまもなく立ち上がり、2002 年ごろには企業はもちろん家庭でも、かな
りの人がブルートゥース製品を使うことになるだろうと予測している。
さらに、もう1つ必要なものは、あらゆるものにIPアドレスをつけるためにはRFID(無線
自動識別)のタグ(ICチップ)などのアドレスを記録できるデバイスである。ゴマ粒チップ、
2㍉角にも満たないごく小さなチップが無線タグ(RFID)と呼ばれるもので、電波誘導を
利用した無線による非接触での通信を行い、データ更新を可能にした新しい自動認識
技術。
これが膨大な数のモノ、商品に埋め込まれ、読み取られて書き込み装置を介してインタ
ーネットにつながり、ネットと現実世界の両方にハイパーリンクを張ることになる。
RFIDは物流管理、配達伝票やタグに情報を記録することで、リアルタイムの配送状況、
在庫管理を行う。ICに個人IDを記録することで、ユーザーはリーダーにカードをかざす
だけで個人認証ができ、セキュリティーの向上を図れる。電子マネーとしても、情報を
瞬時に読み書きできデータの改ざんが困難で、高いセキュリティーを持つ。交通システ
ムでは定期券として、ICカードの定期券、ETC(自動料金収受システム)と用途、応用
範囲が広い。
以上の『ブロードバンド接続』『モバイル』『常時接続』『バリアフリーインターフェイス』『I
Pv6』の5つのものが、シームレスに結びつくことによってユビキタス環境が完成するの
である。
野村総研のユビキタスネットワーク化による2005年の産業規模は生産額ベースで58
兆円と試算しており、わが国の生産額を5%押し上げるとしている。ユビキタス効果に
は新規の付加価値を生んでいくプラス効果と、既存産業を整理していくマイナス効果と
の両面があり、この差し引きが58兆円のプラスとなる、としている。
その内訳をみると、コンテンツ制作などを含む「通信系新サービス」が18兆円、従来の
電子部品や自動車部品にネット新技術やサービスを組み込んだ高付加価値部品が1
8兆円と大きな比率を占め、設備機器などのリースやレンタルが13兆円、ユビキタスネ
ットワーク事業の組み合わせの「仲介、イングデレーション」などが6000億円、金融1
200億円などとなっている。このユビキタスのプラス効果が全体で72兆円にのぼる。
一方、マイナス効果が出てくる産業は「SOHO」やいつでも情報のやりとりができるた
め、従来の事業所のコストは大幅に削減される「事務所サービス」が2兆円、新聞、出
版、広告などのマスコミが7000億円、旅客輸送5300億円、不動産仲介、管理業52
00億円、小売業4500億円など計14兆円あり、差し引き58兆円なのである。
ブロードバンド市場はユビキタス市場の一部に含まれてしまうが、今年2月末での総務
省総合通信基盤局の調べでは、ブロードバンドの急速な普及で、インターネットビジネ
スのマーケットは急拡大しており、1999年には21兆2000億円だったのが、2001年
で、2・3倍の47兆8000億円になり、2005年には6倍以上の132兆9000億円まで
拡大すると予想されている。
また、民間調査機関「イーシーリサーチ株式会社」がこの2月に発表したブロードバンド
インターネットの市場規模はIT 不況の中で、2001年で2125億円と前年比2・3倍と
唯一の成長株となり、2002年に6430億円と3倍に急成長する勢いは止まらない。2
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002年のコンシューマ向けのブロードバンドコンテンツ市場規模は1565億円で前年
の4・5倍になると発表している。このようにブロードバンドからユビキタス市場への発
展は着実にすすんでいる。
パソコン中心のインターネットの時代は「e-コマース」が新市場を誕生させたが、これ
からのユビキタス時代には、全く新たな「Uサービス」(ユビキタス・サービス)市場が生
まれるであろう、と野村総研では予測し、この「Uサービス」の新規市場は2005年で1
1兆円になるとの見通しも示している。
この内訳は個人市場を対象にした不安や悩み、生活の質を向上し、消費者の自己実
現を図っていくような「かゆい所に手の届くサービス」の『コンシェルジュ』型市場が3兆
円、企業は 「いたるところの知をかき集めて価値を生む『知産管理』型の市場が4.5
億円、ユビキタスネットワークの監視、交通需要、環境保全、国土管理などの機能を生
かした『大域計測』市場で3.5億円となっている。
これまでのインターネットの10年間は米国が先導したパソコンを中心のものであり、世
界のパソコン需要は年間1から2億台にのぼったが、2005年ごろからは非パソコンの
時代が到来し、その接続端末は世界で年間100億台を突破するだろう。非パソコンと
は、日本のお得意も情報家電やゲーム、携帯電話などの情報端末であり、ユビキタス
ネットワーク時代こそ日本企業の出番がまわってくるのである。
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