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池田龍夫のマスコミ時評⑰ 「日本政治の劣化」を危惧  民主党政権への期待感が揺らぐ

   

池田龍夫のマスコミ時評⑰
「日本政治の劣化」を危惧  民主党政権への期待感が揺らぐ
 
ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 
     
 
 鳩山由紀夫・民主党政権発足から五カ月、国民の期待感が高まるどころか、下落傾向の現状は嘆かわしい。
景気低迷に加え、小沢一郎幹事長がらみの政治資金疑惑騒動が、暗い影を落とす。政界浄化と民生安定を願って「チェンジ」を期待したはずだが、停滞する政治・社会状況に国民はウンザリしている。
景気対策のほか、沖縄・普天間基地移設問題などの難問をどう打開するか。…〝小田原評定〟が続くばかりの「時代の閉塞感」に国民が活力を失い、ひいては国際的地位の低下を引き起こす危険性を孕んでいる。オバマ米大統領も内外の重大案件の処理に四苦八苦。一月末に「オバマ一般教書」、「鳩山施政方針」演説があったばかりで、両国に共通の難題があることを痛感させられた。
 
  米大統領演説「競争相手は、中・独・印」
 オバマ大統領は、雇用・金融・財政赤字対策など内政問題に演説の三分の二を割いた。出口の見えない景気低迷によって米国民に不安が高まっている現状を踏まえ、その打開策を懸命に訴えた姿は印象的だ。「国内経済」の項に、中国の台頭などに警戒感を示す個所があったが、日本への言及がなかったことに、些かショックを受けた。
 
「米国がもたついている間も、中国は経済改革を待ってはいない。ドイツもインドも立ち止まってはいない。これらの国々は数学や科学を重視し、インフラ整備を進め、雇用創出に向けてクリーンエネルギーに投資している。米国は、第二位に甘んじるわけにはいかない」と語り、技術革新や温暖化対策などを重点課題とし、「五年間で米国の輸出を倍増させ、二〇〇万人分の雇用増につなげる」と強調して、米国民の協力を訴えた。
 
「失われた二十年」と言われる、日本経済の長期落ち込みを裏書きするような屈辱ではないか。オバマ大統領の〝日本無視〟と思いたくはないが、「これからの競争相手国は、中国・ドイツ・インド」との指摘に、日本は目覚めなければならない。日本の技術力や環境対策などの水準が高く評価されているのに残念でならないが、その要因が「政治の貧困と無策」に根ざしていることは明らかだ。
 
 小沢幹事長の政治資金めぐる大騒動
麻生太郎・自民党政権下の昨年三月、「西松建設不正経理」に端を発した、「小沢一郎・民主党代表の政治資金法違反疑惑」が、一年もの長きにわたって日本政治を揺るがしている。総選挙(09・8・30)で民主党が圧勝して鳩山政権が誕生したが、東京地検特捜部は追及の手を緩めず、過剰とも思えるマスコミ報道が続いて、「民主党vs検察庁」の対立構図が世間を騒がせてきた。この間の経緯は連日報道されてきたが、マスコミ報道の行き過ぎについても甲論乙駁の議論が続いている。
 
小沢幹事長の会計責任者だった秘書・石川知裕氏(現衆院議員)が政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で逮捕され、小沢氏に強制捜査が伸びるとの観測も流れていたが、東京地検は二月四日、石川容疑者ら秘書三人の起訴だけにとどめ、小沢氏は嫌疑不十分で不起訴処分となった。
 
これで小沢氏の疑惑が晴れたわけではなく、検察側は今後三人の公判を通じて〝小沢氏の関与〟を執拗に追究していく構えだが、「不起訴」決定の現実を、検察捜査の節目と冷静に捉えるべきだ。「小沢氏の勝利」「検察の敗北」といった論評を軽々にすべきでないことは当然だが、それどころか小沢氏を「灰色に近い黒」と決め付ける中傷誹謗が国会審議で飛び交う異常な状況には呆れる。「推定無罪」原則に反する「人権無視」の言動ではないか。
 
 
 「労働なき富」は、社会的大罪だ…
「民主党vs検察庁」の大騒動によって、政治が停滞し、具体的政策が後手後手に回っている現状に、国民は辟易している。

鳩山首相の「施政方針演説」(1・29)が、国民の支持と期待を呼び戻す契機になったろうか。「いのちを守る」をキャッチフレーズとし、「地域主権、社会保障制度改革、教育改革、緑の分権改革」など〝鳩山カラー〟を盛り込んだ内容に〝新鮮さ〟を感じるが、具体策に欠けるのは遺憾だ。冒頭、首相自身の「政治資金処理の不手際」に陳謝したものの、国民が注視している「政治とカネ」への言及は不十分で、「普天間基地」のほか、「マニフェスト不履行」などの難題に踏み込んだ説明のなかったことが物足りなかった。
 

中でも、マハトマ・ガンジー師の「七つの社会的大罪」を引用して、「まさに、今の日本と世界が抱える諸問題を、鋭く言い当てているのではないでしょうか」との演説口調に、反発する声が強い。
ガンジーの崇高な言葉に照らし、鳩山首相は「社会的大罪」二番目の『労働なき富』に当たるとの指摘であり、弁解の余地はあるまい。資産家の鳩山家を攻撃するつもりは毛頭ないが、「政治とカネ」について自らの姿勢を明示し、その反省に立って企業団体献金禁止などの抜本改正を断行することを公約すべきだ。その上で、「いのちを守る」ための具体策を推進してほしい。
 
 政策の「優先順位」を決定、実行に移せ
政府・与党の「官僚依存から脱却し、政治主導を推進」「事業仕分けによるムダの排除」など、五カ月間の取り組みに反対ではないが、実効が上がっているとは言えない。「マニフェスト」にこだわるあまり〝総花主義〟に陥って混乱している印象だ。
 
「政策価値が総花的で議論が発散的な時、多くの会議体による議論は政策の八方ふさがりをもたらす。鳩山内閣では政府内に多くの会議体がある。仮にその結論に対し尊重姿勢で等しく接すれば、会議体の相互けん制構図となり、いずれも十分に尊重できない中途半端な結果をもたらす。政策形成への国民的信頼性を失い、経済社会に対する政策効果も低下させる原因となる。
 
国民の信頼を確保しつつ中途半端な政策に陥らないためには、
①政府の価値判断を明確にするため政策的な優先順位を判断する参照基準を具体的に明示する
②地域主権や行財政改革等縦割りを超えた制度設計に対しては他の会議体に比べ、より高い実質的権威を付与する
③尊重しても反映できない場合は政府として経緯を含め詳細な説明責任を果たす――などが必要となる」と、宮脇淳教授(北海道大公共政策大学院)が、「国政の決断力」と題する貴重な一文を毎日新聞(2・6朝刊『経済観測』)に寄稿している。政府・与党内での調整に基づき、「優先順位をつけて政策を決断することが国民の信頼につながる」との指摘は示唆に富む。

「コンクリートから人へ」という政策目標の具体策を迅速、着実に積み重ねていけば、閉塞感を吹き飛ばす展望が見えてくるはずだ。政策に不慣れな民主党政権を非難するだけでなく、国民、マスコミからの建設的提言とサポートの必要性を痛感している。

 
「関係者によれば…」の〝落とし穴〟
最後に、「マスコミ報道」について若干触れておきたい。「小沢氏の政治資金疑惑」に関する東京地検の動きを追うことは報道機関の責務だが、「関係者によれば、小沢氏関与の疑いが濃い…」といった表現を乱発し過ぎていなかったか。
 
報道機関それぞれに調査報道に徹し、多くの事件関係者に裏づけ取材して「公正な報道」に努力したと信じたいが、取材競争の激化が引き起こす〝過剰報道〟〝誤報〟のケースが、従来の事件報道より目立つのが気になる。「検察のリークなくして書けないような、密室取調べの具体的記述」が、「関係者への取材で…」として紙面化され過ぎたことに、「記事の行き過ぎ」を指摘する声が高まっていることを無視できない。特定の社を非難するわけではないが、恐るべき一例を取り上げておきたい。
 
読売新聞1・26朝刊社会面掲載の「訂正」は、〝間違い〟を認めた証拠だ。

「25日夕刊の『石川議員、手帳にホテル名』の記述で、『東京地検特捜部が押収した石川知裕衆院議員の手帳には中堅ゼネコン水谷建設の元幹部らが同議員に5000万円を渡したとする2004年10月15日の欄に、授受の場所とされるホテル名が記されていた』とありますが、手帳は、04年ではなく、05年のものでした。
 

ホテル名が記載されていた時期も同年4月でした。石川議員関係者側の取材に基づくものでした。記事と見出しの当該部分を取り消します」との訂正文に驚かされた。『読売』1・25夕刊社会面トップ記事のミスで、『日経』社会面も同様な記事を報じ、すぐ「訂正」していた。
 
このほか『産経』大阪本社版1・22朝刊1面記事の中で『小沢容疑者』と誤記したことは、一片の「おわび」では済まされぬ大失態でる。「リークがあったか、否か」の論議には、論証不能の限界はあるが、今回の過剰報道の問題点をマスコミ内部で検証、より厳正な報道姿勢を確立してもらいたい。
 
                                                                      (池田龍夫=ジャーナリスト)
 

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