「百歳・生き方・死に方・臨終学入門(117)斎藤緑雨、司馬江漢、正岡子規、高村光太郎の死に方入門
2015/08/30
「百歳・生き方・死に方-臨終学入門(117)
明治の作家、斎藤緑雨(36)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%8E%E8%97%A4%E7%B7%91%E9%9B%A8
は、「万朝報」「読売新聞」などの記者で、幸徳秋水の友人。樋口一葉を評価し、明治29年)1月に手紙をやりとりし始め、緑雨は直截な批評を一葉に寄せるようになる。恋愛感情を持ったのでろう。樋口家を訪問しては一葉と江戸文学や当時の文壇について語り明かした。]、一葉没するまで2人の交流は続く。明治32年に、「一葉全集」の校訂を引き受け、遺族の生活を請け負っている。
奇行の多い人で、その性癖は、人生の最期においても発揮された。重病にかかったとき、友人が親切に、「東大病院に入れ。金のことは心配するな」と申し出たのに、「そんな道草をしないで、日暮里へ直行しようよ」とこの好意をことわった。当時、日暮里に、火葬場があったのだった。
いよいは臨終という時、病床から家人に命じて、東京の各新聞につぎの広告を出させた。
1904年(明治37)4月13日、馬場孤蝶に口述筆記させ「緑雨斎藤賢、本日目出度死去致候 此段謹告仕候也」、死亡広告を遺し、東京本所横網町の自宅で、36歳の若さで病死する。
緑雨はほんとうに死んだからよかった(?)が、死ぬ予定がないのに、死亡通知を出した変人がいる。
江戸時代後期の洋画家で、蘭学者で、自然科学者、〃万能の天才”型の人だった司馬江漢(71)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E9%A6%AC%E6%B1%9F%E6%BC%A2
は、晩年のあるとき、何を思ってか、知人たちに自分の死亡通知を送り、以後、はほとんど家に閉じこもって暮らした。
たまたま外出したところ、その通知を送った知人の一人に出会ってしまった。知人が声をかけても、返事をしないで過ぎようとする。何度も声をかけてくるので、たまりかねて、
「死人がロをきくか!」。この江漢は無言道人″という号をもっていた人でもある。
明治の俳人で歌人の正岡子規(31)は
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E5%B2%A1%E5%AD%90%E8%A6%8F
半生を寝たきりで過どし、三十代半ばで亡くなった。死の前年に、かれはつぎのようなことを書いた。最後の著『墨汁一滴』にのっている、深刻にしてユーモラスな短文である。
1、人間一匹
右、返上申すべく侯。ただし、ときどき幽霊となって出られるよう、特別にお取りはからい下さるべく候なり。
明治三十四年 月 日 氏 名
地水火風御中
自分の死を他人のそれのように傍観し、客観視している、そこがス〈無心〉死生を超えた『達観』突き抜けた心境を感じさせる。
彫刻家で詩人の高村光太郎(73歳)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%9D%91%E5%85%89%E5%A4%AA%E9%83%8E
は、戦争が敗戦に終わると、岩手県の片田舎に掘立小屋をたて、そに七年も独りで住んで、そこで死んだ。「自分を捨てた」というふうに、かたくなに自分を閉じこめ、ことさら無為に徹した。
そこは、五、六十センチも掘れば水がわくという湿地で、まわりにはマムシがウヨウヨとおり、村人さえもが住もうとはしない土地であった。雪がつもれば、道もなくなる。食生活も、飢えをしのぎうる最低のものであった。
この小屋で、『或る墓碑銘』と題する詩を書いた。1種の辞世というものであったろう。
一生を棒に振りし男 此処に眠る。
彼は無価値に生きたり。
彼は唯人生に遍満する不可見の理法に貫かれて動きたり。
彼は常に自己の形骸を放下せり。
彼は詩を作りたれど 詩歌の城を認めず
彼の造形美術は木材と岩石との構造にまで還元せり。
彼は人間の卑小性を怒り
その根源を価値感に帰せり。
かかるが故に彼は無価値に生きたり。
一生を棒に振りし男 此処に眠る。
戦争に協力する詩をつくった自分を攻めて、攻めて、地の果てに蟄居して自嘲、後悔、悔悟、責めさいなんだ末の魂からの叫びが聞こえてくる。
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