前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『安倍・トランプ蜜月外交を振り返る②』★『グラント将軍((米大統領)の忠告ー『琉球帰属問題で日清両国の間に事をかまえるのは得策でない』★『なぜなら介入の機会をねらっている欧州列国に漁夫の利を与え、百害あって一利なし」

   

 
前回に続いて、グラント将軍の明治天皇へのアドバイスを続ける。
グラント将軍が来日した1879年(明治12)と言えば、国内では西南戦争(10年)で西郷隆盛が敗れ、翌11年までには大久保利通が暗殺で倒れ、木戸孝允も病死し、明治の三元勲がそろって歴史の表舞台から去った後。国際社会にデビューしたばかりの世界の田舎青年の明治新政府は国内内乱はやっと収拾できたが、今後の国内政治の改革や国際外交の方針については考える余裕もなかった。

 

グラント将軍を国賓として大歓迎した明治天皇、明治政府の狙いは今後の日本の長期戦略についてアドバイスをいただくことだった。
一方、観光気分で世界漫遊中のグラント将軍はアメリカ人の典型の陽気で素朴な「カントリーゼントルマン」(いなか紳士 )。西欧文明に汚染される前の徳川時代の自然風景がたっぷり残り素朴な日本人のおもてなしが気にいって、二ヵ月近く東京、関東各地を見て回り、すっかり日本びいきとなった。

 

明治天皇との2時間の会談は1問1答式で日本側では通訳の元駐米公使吉田清成が記録をつくり、アメリカ側では随行の記者が書きとめ、グラントもその旅行記(「グラント将軍日本訪問記」雄松堂書店1983年)などに出ている。
グラントは大統領時代は米国以外の世界について全くの無関心だったが、旅行に出て、ロンドン、ヨーロッパから中近東からインド、中国などが植民地にされた国々を回って衝撃を受けた。「ヨーロッパ列強がアジアの国々をこんなにひどく搾取していようとは、私は夢にも思っていなかった。」(同上書)
 
当時のアジアでは、わずかに中国と日本だけが、まがりなりにも独立を維持していたが、他のすべての劣等民族という烙印をおされ、ヨーロッパ列強の支配化下で苦しんでいた。
正義感の強いグラントは米国も英国、フランスの植民地となり苦労しただけに強い憤りとアジア諸国への同情心を持った。中国を訪れた時、李鴻章(首相)からも日本と紛争中の琉球問題について解決、斡旋を依頼されていた。
その対中国問題について、グラントは個人の意見と断わりながら、『琉球帰属問題では日清(中国)両国の間に事をかまえることは断じて得策でない』と強調した。『なぜなら両国が争うことは、介入の機会をねらっている欧州列国に漁夫の利を与え、百害あって一利なし」というのだ。

 

さらにアジア・モンロー主義(相互不干渉)とでもいうべき考え方を提言した。
「米国の政治家は、以前から南北アメリカ大陸の政治に欧州が干渉する危険を感じてきた。
そこで自衛の手段として、欧州のいずれの国もアメリカ大陸内の事件にかこつけて領土を増大、勢力を拡張することを禁止するという原則を立て、これを合衆国の国是としてきた」と説明し、東洋においては、中国と日本が同様の原則を打ちたてるならば、米国はこれに同意し、アジア各国の領土を保全し、独立を維持することを米国の政策とするであろう」と進言した。

 

さらに、植民地化を阻止するための方策として「エジプトの独立が英国によって浸蝕(エジプト、英国の共同出資で建設されたスエズ運河はエジプトが財政難に陥ると、1875年に英国が株式を買収し経営権を握った。イギリス帝国主義の第一歩)とされる経過を詳しく説明し、日本が欧州諸国で外債を募集することは、帝国主義に乗ぜられるもととなるので大いに気をつけるように」と警告した。
この点は現在中国が進めている「1帯1路」計画について「債務のわな」を警戒する周辺国との間でトラブルが起きているが、これと全く同じケースであろう。
琉球の帰属問題はこの時グラントから示された話し合い方針によって日中間で進められたが結局うまくいかなかった。しかし、140年前の時点で、グラントが提案した「日中両国の融合と協力がアジアの平和と独立のために不可欠なキーワードである」というのは今日まで続いている教訓であろう。
残念ながら、その後140年の「日米中・三国志」の歴史ではもつれにもつれて、中国との間では日清戦争から、日中戦争に発展、米国との間では日米戦争、太平洋戦争と戦争の歴史が1945年(昭和⒛)まで続いた。
その後は朝鮮戦争(1950年)で米中は戦い、安保条約による「日米同盟」を締結以降は、日本は世界第2の経済大国にまで躍進、一方、中国は1978年からの鄧小平による改革開放路線が成功し、2011年には42年ぶりに日本を抜き第2位の経済大国に躍進、今日の米中の覇権争いに至る三国興亡史のサイクルである。
トランプ米大統領の登場以来、南シナ海をめぐる日中間の対立から『米中新冷戦』が再燃し、この5月の対中の制裁関税25%引き上げ決定によって、ついに本格的な『米中貿易戦争」に突入している。 米中は「ツキジデスの罠」(急に国力を増大させてきた第2の覇権国(中国)と最強覇権国(米国)の間の対立がエスカレートして戦争に発展することを言う)にはまり、どちらかが倒れるまで戦い続けるのか?!

 - 健康長寿

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
百歳学入門(47)荻原井泉水(92歳)の『天寿・長寿10ヵ条』「随」の精神で「天」に感謝し「天」に随い「天」を楽しめば【天寿】となる

百歳学入門(47)      荻原井泉水(92歳)の『天寿・ …

『オープン講座/ウクライナ戦争と日露戦争➂』★『ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈された事件は「日露戦争以来の大衝撃」をプーチン政権に与えた』★『児玉源太郎のインテリジェンス・海底ケーブル戦争』★『マルコー二の無線電信発明(1895年)から2年後、逓信省は東京湾56キロの通信に成功、海軍艦艇の遠距離無線通信を完成』★『連合艦隊の32艦すべてに世界最新式の三六式無線電信機を配備した』★『日本海海戦で世界海戦史上最高のパーフェクト撃滅を達成した東郷平八郎司令長官』★『世界的な情報通信網と通信技術、インテリジェンスと英米日の三国同盟で日露戦争に勝利した』

  2011/11/30    …

no image
『オンライン/天才老人になる方法④』★『天才老人NO1<エジソン(84)の秘密>➁落第生 アインシュタイン、エジソン、福沢諭吉からの警告』★『天才、リーダーは学校教育では作れない』★『秀才、優等生よりは、落ちこぼれ、落第生の方が天才になれるのよ』

『リーダーシップの日本近現代史』(64)記事再録/    & …

no image
世界の最先端テクノロジー・一覧 ④『フェイスブックは「人生の幸福度を下げる」米研究結果』●『「勝手にWindows10」騒動、MSついに屈服? 「更新回避法」を動画で紹介する事態に』●『Twitterが140文字制限の緩和を正式発表』●『「プログラミング界のライザップ」で本当に人生が変わるのか体験してきた』●『最も危険なパスワード 利用者数は依然トップ』

      世界の最先端テクノロジー・一覧 ④   … フ …

『オンライン/渋沢栄一講座』★経済最高リーダー・渋沢栄一の『道徳経済合一主義の経営哲学に学べ』<晩年は社会慈善公益事業に財産を還元せよ>

日本リーダーパワー史(88回)   2010/08/20&n …

no image
百歳学入門③ー知的巨人たちの往生術から学ぶ③

  知的巨人たちの往生術から学ぶ③ 前坂 俊之             …

『Z世代のためのオープン自由講座』★〈内田百閒のユーモア〉『一億総活躍社会』『超高齢/少子化日本』の国策スローガンを嗤う 「美食は外道なり」「贅沢はステキだ」「国策を嗤いとばし、自己流の美学を貫いた」超俗の作家・内田百閒(81歳)〉

    2015/11/15 &nbsp …

「2022年コロナ・デルタ株終息後のパクスなき世界へ(上)」(2021/9/15 )★『デルタ株が世界的に猛威を振るう』★『デルタ株感染の45%は20歳以下に集中』★『地球環境異変が世界中に猛威』★『菅首相辞任から自民党総裁選、政治の季節へ』

2022年コロナ・デルタ株終息後のパクスなき世界へ 前坂俊之(ジャーナリスト) …

「Z世代のための百歳学入門」★『「少子超高齢社会」は「青少年残酷・老害社会」ー250年前の江戸中期、俳人・横井也有の<江戸の老人8歌仙と老害>で自戒する」★『70.80歳過ぎて、いつまでも地位や金やアンチエイジングにしがみつくな!』★『81歳を18歳に逆転する爆笑術!』

 2013/10/15    百歳学入門 …

no image
★「コロナ騒ぎの外出自粛令で、自宅で閉じこもっている人のためにお勧めする<面白い人物伝>★<超高齢社会>創造力は老人となると衰えるのか<創造力は年齢に関係なし>『 ダビンチから音楽家、カントまで天才が傑作をモノにした年齢はいずれも晩年』★『 ラッセルは97歳まで活躍したぞ』

  <創造力は年齢に関係なし、世界の天才の年齢調べは> 前坂 俊之 ( …