『リーダーシップの日本近現代史』(179)記事再録/★ 『本田宗一郎(84歳)』ー画家シャガール(97歳)に会ったいい話「物事に熱中できる人間こそ、最高の価値がある」★『私は生きていく大きな自信をもったのは貧乏な家に生まれたからだ』★『貧乏はクスリ、人生も企業も、一度貧乏とか不況とか克服すると一層強くなる』
百歳学入門(105)の記事再録
スーパー老人、天才老人になる方法—
本田は74歳の時、フランスの画家シャガール(94歳)の自宅を初めて訪ねた。9シャガールは本田から硯、墨、筆をもらい、喜々としてアトリエに入って、画業に熱中して出てこなかった」ーその姿に本田は感動した。
「物事に熱中できる人間こそ、最高の価値がある」「好きこそものの上手なれというが、これは未来に続く基本の理念でしょう」(本田の言葉)
前坂 俊之(ジャーナリスト)
本田宗一郎【84歳)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E7%94%B0%E5%AE%97%E4%B8%80%E9%83%8E
マルク・シャガール【97歳)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB
本田宗一郎の名言「貧乏はなによりの薬」「人生も企業も、一度貧乏とか不況とか克服すると一層強くなる」
私は私なりに、生きて行くことへの大きな自信をもっている。どうしてそういう自信が生まれたかと書かれれば、やはり貧乏な家に生まれたからだというはかはない。
貧乏だと、結局、自分以外にたよるものがないのだから、丈夫でいこうという自戒と、独立心が当然盛んになってくるわけだ。ふるい言い方だが、やっぱり「貧乏は何よりの薬」だと思う。
したがって、人は貧乏を悲観することはない。貧乏をしてヒネくれてしまっては困るが、しっかり根性をすえて、貧乏をプラスにかえることさえできたら貧乏は一応だれしもやってみるべきである。
人生でも企業でも、一度貧乏とか不況とかを立派にくぐり抜いてきたものなら、そいつはどこまでも信用できる。大きくなる。貧乏時代こそ人も事業も将来へ大きく伸びる絶好の準備時代である。貧乏しているが、体だけはピンピンしてる、気持だけはノビノビしてるという奴は、まったく頼もしい。
「物事に熱中できる人間は「創造的な人間になり」長寿となる
「人間が物事に熱中できるということ-」に本田宗一郎は絶対的な人生の価値観を見出していた。「ホンダの経営」はとっくの昔に若手にまかせて、悠々自適し日本画に熱中していた本田は74歳の時の1980年12月、好きなフランスの画家シャガールの自宅を初めて訪ねた。このシャガール邸を訪問した時、20歳も年上ながら94歳のシャガールの若々しく画業に熱中するその姿に強烈なショックを受けた、という。
本田は硯、墨、大小の筆をシャガールへのオミヤゲとして持参した。94歳ののシャガールは思った以上に若々しく。カタシャクとしていた。
シャガール夫妻は、愛想よく本田を応接間に招き入れた。こうした初対面でも本田は生まれつきの「天真爛漫」さで、大声で話し、笑い、泣く「日本人特有の遠慮がち」など態度は全くなかった。欧米人でも少しオーバーに思えるほどの派手なオーバーアクションであいさつした。
そのためか、初対面のシャガールとも、たちまち打ち解けた。通訳の言葉を待つより、本田のアクションジェスチャー、スマイルのほうがシャガールにはストレートに気持ちが伝わったのだろう。
「ムッシュー・ホソダ、私は広重などの浮世絵のラインは素晴らしいものだと思う。広賓は、あなたが私にくれたこういう筆で書いていたのか。これは私にとって、なによりの贈り物だ」
老画家は、本田の贈り物がことのほか気に入った。そうこうしているうちにシャガールは熱心に硯をすりはじめた。やがて嬉々とした足どりで、硯と筆をもって隣接するアトリエに入って行った。
本田は「あんまり喜んでいるので、その場で一枚描いてくれるのか」
と思っていると、シャガール夫人が言った。
「ムッシュー=・ホソダ、ごめんなさい。あの人はアトリエに入るともう出て来ませんよ。いつ出て来るのか、私もわからない。仕事になると食事もなにもないんだから……」
この夫人の言葉に、本田は、はっと我にかえり、すぐに感動がこみ上げてきた。九十四歳となった巨匠が、これほどまでに「仕事に熱中している」生涯現役の姿を目の当たりにみて、ショックを受けたのである。
本田はこの時、現役を引退しており、自分は熱中した仕事に対してはいまや過去形でしか話せなかったが、七十四歳の本田よりも二十歳も年長のシャガールは、仕事についてはまざれもなく「現在進行形、生涯現役」だったのである。
「心の底からシャガールをこの時はうらやましいと思ったね。たしかに、シャガールは俺にさよならも言わずにアトリエに消えた。人によっては、本田さん、シャガールはずいぶん失礼な人だね、と言われるが、俺は絶対にそうは思わない。自分も若いときはシャガールと同じだった。
仕事になれば失礼もへったくれもないよ。三旦二晩、一睡もせず、何も食べずに研究していたことが何回もあった。そのときは夢中だ。自分が生きていることすら忘れてしまう。どうやらメドがついて部屋から出て来ると、初めて眠気と食い気に気がついて、なあんだ俺は生きているんだ、と思うんだな。
そんな経験があるから、シャガールの喜びと夢中になってアトリエに入って行った気持ちが理解できるんだ。俺は誰よりもシャガールを理解できたと思った。シャガールの絵のことは専門家の人々にかなわないが、シャガールという人間についての理解は、俺なりに自信を持ったが、そんなことよりもシャガールが本当にうらやましかったな」
さて、このあとがいかにも本田らしい。
シャガールがアトリエに入ってしまって、本田宗一郎はシャガール夫人と応接間に取り残されてしまったが、そこでシャガール邸を辞する前に、本田らしいサービスをシャガール夫人に披露した。
本田はいきなり、ソファから立ち上がると、シャガールが筆と硯を手に持って喜んでアトリエに入って行くさまを真似してみせた。あまりにもおどけた本田の姿にシャガール夫人は笑い転げた、という。この物まねジェスチャーは正し言語コミュニケーションをこえた「ボディラングエッジ」(肉体言語)で二人の間には、言葉以上の心が通じ合ったという。
九十四歳のシャガールの姿に本田はよほど感動したのである。
「熱中できるものには二種類ある。趣味でやるのと、なんらかの使命感を持ってやるのとだ。たしかに趣味も熱中できるが、使命感のある仕事の熱中には及ばない」とも語っている。
「策では絶対大きくならん。やっぱり好きこそものの上手なれです。好きなものに情熱を燃やし、仮に燃え尽き灰になったところで、いっこうに後悔しない」
「やっぱり好きじゃなければだめです。好きこそものの上手なれというが、これは未来に続く基本の理念じゃないでしょうか。どこの国に行っても、好きなものでないかぎり絶対だめだと思う。策では絶対大きくならんです。いっペんはふくらむだろうが、絶対ではない。あくまでも中のほうは空気で、炭酸入れてふくらませたようなものです。好きこそものの上手なれ。これはどこにも通用する真理だと思うな。命令されて働くのと、自主的に働くのではまったく違うんです。」
「経営とは何か」と質問されると、本田「俺はハソコさえ押したことがないんだよ、俺に経営なんかわからんよ」と、はにかんで答えたという。
「好きなものに情熱を燃やし、それを持続させる。具体的には子供のころから好きだった〃機械いじり〃を終生しつづけたい、そのためには会社をつくり、大きくして、新しいものへ次々と挑戦していかざるを得ない環境をつくる」 ー 本田にとっては、会社づくり、経営は〃好きなものをやる〃手段だったのである。好きなことに熱中し努力し、精進した結果がたまたま〝成功〃という二文字を手中にしたということなのだ。
<参考、引用 梶原一明著「本田宗一郎 男の幸福論」(PHP研究所.1982年刊)>
関連記事
-
-
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』ー『トランプ米大統領とホワイトハウスの内情を暴く『Fire and Fury』は全米でベストセラー1位に』★『ほら吹き、ナルシズム、攻撃的性格のトランプ氏の「精神状態」を専門家70人から「認知症検査」を求める声』
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 ドナルド・トランプ米大統領とホワイトハウ …
-
-
速報(284) ●『使用済み核燃料の再処理コスト「おカネの計算もいずれにしてもインチキ」 小出裕章(MBS)』ほか計5本
速報(284)『日本のメルトダウン』 ●『使用済み核燃 …
-
-
『オンライン/新型コロナパンデミックの研究』-『3ヵ月をきった米大統領選挙の行方』★『米民主主義の危機、トランプ氏は負けても辞めない可能性に米国民は備えよ」(ニューズウイーク日本版、7/21日)という「米国政治社会の大混乱状況』
『3ヵ月をきった米大統領選挙の行方』 前坂 俊之(ジャーナリスト) …
-
-
日本リーダーパワー史(178)『海軍を大改革した八代六郎の決断と突破力』『誰もやり手がないなら、俺が引き受る』
日本リーダーパワー史(178) 『海軍を大改革した八 …
-
-
『オンライン/日本史戦争500年講座』★『太平洋戦争と新聞報道』<日本はなぜ無謀な戦争を選んだのか、500年の世界戦争史の中で考える
再録『世田谷市民大学2015』(7/24)- 『太平 …
-
-
『リーダーシップの世界日本近現代史』(283)★『新型コロナウイルス戦争について歴史的に参考にすべき日本インテリジェンス』★『日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(22) 『川上操六は日清戦争は避けがたいと予測、荒尾精の日清貿易研究所を設立しで情報部員を多数養成して開戦に備えた』
2015/12/27日本リーダーパワー史( …
-
-
日本リーダーパワー史(229)<リーダー不在の日本の悲劇②>●『グローバルリーダー論・昭和前期のだめリーダーたち』
日本リーダーパワー史(229) <リーダー不在の人材倒産 …
-
-
片野勧の衝撃レポート『太平洋戦争<戦災>と<3・11>震災⑱』 『なぜ、同じ過ちを繰り返すか』 原町空襲と原発<上>
片野勧の衝撃レポート 太平洋戦争<戦災>と …
-
-
日本リーダーパワー史(80) 日本の最強の経済リーダーベスト10・本田宗一郎の名語録
日本リーダーパワー史(80) 日本の最強の経済リーダーベスト10・本田宗一郎の名 …
-
-
日本リーダーパワー史(339) 水野広徳『日本海海戦』の勝因論②—東郷平八郎長官と秋山真之参謀、国難突破の名コンビ
日本リーダーパワー史(339) ● 政治家、企業家、リーダ …