前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

人気リクエスト再録『百歳学入門』(234) 『昭和の傑僧、山本玄峰(95歳)の一喝!②』★『無一物・無一文 ・無所有・一日不働・一日不食』★『力をもって立つものは、力によって亡ぶ。 金で立つものは、金に窮して滅び、ただ、 徳あるものは永遠に生きる』

   

  

 百歳学入門(51)―『百歳精神修養編』

<昭和の傑僧、山本玄峰(95歳)の一喝②  >

前坂俊之(ジャーナリスト

<山本玄峰(1866-1961) やまもとげんぽう-95歳は昭和の傑僧、禅宗の老師。臨済宗妙心寺派の管長となり、後に静岡県三島の龍沢寺の住職>

和歌山県東牟婁郡本宮町で、生まれてすぐ捨て子となるが、近所の人に助けられる。字を習うこともなく、百姓の手伝いや筏流(いかだし)をして成長。眼病にかかり、医者にも失明を宣告されたため、二十二歳で願をかけて四国を裸足で計七回もお遍路に回った。

このとき、高知の雪蹊寺(せっけいじ)で行き倒れとなり、「自分は目も見えず、読み書きもできないが、坊さんにしてもらえますか」と和尚に頼み込むと、「親から授かった目は年を取れば見えなくなるが、仏さまからさずかる心の目は一旦開かれれば、つぶれない。お前の心眼は修行次第じゃ」と弟子入りを許された。
この入信までは食べること・結婚・失明などのことがあり、つぶさに人生の艱苦をなめ、教育らしい教育は受けられなかった。

その後、静岡県三島の龍沢寺(りゆうたくじ)の住職となったアメリカに、印度に遊び、八十二歳で妙心寺派管長に推された。昭和三十六年六月三日入寂す、年95。以下はすべて高木蒼梧著『玄峰老師』(大藏出版 1963 年)からの現代訳である。

 玄峰は思想、信条を超えて、「来るものは拒まず」で救済した。一九三一(昭和六)年、血盟団事件の右翼の黒幕・井上日召の弁護に法廷に立ったが、武装共産党のリーダー・田中清玄(その後、日本の黒幕とも呼ばれる)はこの時の玄峰の話を聞いて感激して、弟子入りした。

ある日、老師が「お前は何のために修行するのか」と問うと、田中は「世のため、人のためです」と答えた。「フーン」また、しばらくたって同じ質問があり、同じ答えをすると、「ばか者、わしは自分のために修行をしとる。人のためではない」と大喝した。

 

一九四五(昭和二十)年四月、老師は鈴木貫太郎枢密院議長(元海軍大将、侍従長)に会った。「一刻も早く戦争を終わらせなければならぬ。負けて勝つのです」と献策、鈴木は1週間後に首相に就任。八月十二日に鈴木首相の使者が訪れ、終戦の決意を伝えたのに対して、

「これからが貴下の本当のご奉公。忍び難きを忍んで、行じ難きをよく行じて、国家の再建に尽くしていただきたい」との書状を托した。

 

私(浅井栄資)がまだ若かった頃、老師(玄峰)を静養中の温泉宿に尋ねて、同じ部屋に泊った。その翌朝早く目を覚ましたら、老師がタオルを下げて帰って来られて、「いい湯だよ、行っておいで」といわれるので、私は寝床から抜け出して、湯に入って来る。
部屋に帰ると、中はきちんと片づいている。途中で寄った洗面所や便所はきれいになっていて、便所のはきものはきちんと揃えてあった。

 

「さすがは老師のひいきになさる宿屋だな」と感心したが、少しして入って来た女中さんが、都農の内を見回して、『どうもすいませんでした』と謝ったので、「ハッと気がついた」。

赤面して、「老師が私の寝床まで」といいかけたら、老師は「うん」といわれたまま、すぐに話題を転じた。しかし私は、顔から火の出るような思いをした。

後になって分ったことであるが、老師は人の知らぬ内に、便所のはきものを揃えたりなさるし、一本の割ばしも、初めに使ったものを紙に包んで取って置いて、滞在中は決して新しい箸にまた手を付けなかった。老師はあらゆる機会に陰徳を積むことを実践しておられたのである。

ある時、話のついでに、「私の力が足りませんで」と口をすべらせたら、柔脚な顔で聞いていられた老師が、一瞬となって、「それは違う。力でなくて徳だろう」といわれた。頂門の一針とは、全くこのことである。(浅井栄資「平常すべてこれ説法」)

老師(玄峰)は初めて竜沢寺へ来ら当時、第一に植林に留意された。寺の樹々は今、相当に大きくなって、それが寺の財産となっている。

大工等が仕事していますと、老師は胸にかけられた頭陀袋(ずたぶくろ)の中から、「今日は少ししかないよ」といって、骨折りを下さいました。それが当時小僧であった大工たちの思い出となっております。

私(佐藤惣八)は子供が大勢でした。それで老師は、生活に困るだろうとの思いやりから、「上の学校へやると金がかかるだろう。多くは困るが、少しずつなら寺で貸そう」というありがたいお言葉で、それには涙が出ました。お礼を申して帰ろうとしたら、「遠慮するなよ。何なら返さんでもよいよ」とのお言葉でした。

このせちがらい世の中に、金を貸すから子供を教育せよ。金は都合で返さんでもよいという方があるでしょうか。私は拝借しませんでしたが、そのお言葉をカに、はたらきつづけて、御期待に添いたいと息いました。(佐藤惣八『深夜の木材選び』)

老師様(玄峰)は、旅へお出ましになる時、留守中への御指示に、「たとえ乞食(こじき)のような人がたずねて来ても、立って物をいうようなことのないように、お腹のすいた人が見えたら、何はなくとも、お客様に差し上げると同じようにして、出して上げて下され。

いつ来られても上げられるように、一人分くらいの食事は、いつでも用意して置くように、心がけて下され。

 

わしの苦い時、行脚をして、何日も食べずに歩いた時に、一椀(わん)の飯を恵まれた時のありがたさを、生涯忘れることが出来ない。どうぞそういうお人は、ねんごろにして上げて下され」と、しみじみと申されました。私(中川深雪)はそれを開いて、尊いおさとしに、心を打たれました。

ある時、「わしのとこへは、馬鹿と貧乏の集まるところじゃ。智慧者や金持は、寄りつくと損をするぞ」と申されました。(中川深雪「老師さまのおんことども」)

 

老師(玄峰)が犬山の瑞泉寺に居られた時のこと、犬山に大工場を建てるのに、地主の一人だけが、譲り渡しに応じないので、老師から話して貰うことにした。それで老師がお頼みになったが、それでも地主は、「先祖代々からの土地だから」といって承知しない。
 

そうしたら老師は、「ああ、そうかい」というなりその家の仏間へ行って、仏壇の蘭で坐禅をせられた。昼飯時になって、呼びに行ったが、石地蔵のように一黙不動である。夕刻になったのでまた呼びに行ったが、微動だにもせられない。

 

地主は驚いて、「老師様は、いつまで坐ってお出でですか」と怖る怖る間いたら老師は地主を見通って、「お前さんが、どうしても土地を売ってくれないなら、わしはもう坊主になっていられん。一たん引受けて来たのじゃから、断食して死んでお詑びする。跡はどうとも、よいようにしてもらいたい。」そういって、また坐禅を統けられた。これにはさすがの地主も我を折って、とうとう土地の提供を承諾した。(長尾大学「これ以上坊主になれぬ」)

 

老師(玄峰)は常に財布の底をはたいて、惜し気もなく人々にやってしまわれた。そして、「わしの金は日本国中に預けてある。だからどこへ行っても、不自由したことがない」と、常々いっていられた。ある時、東京から帰られて、数包みの布施を頭陀袋から取り出して、「預って置いてくれ」といわれるので、「何ほどありますか」と開いたら、「知らぬ。あるだけあるよ」とのことでした。

 

早速整理した上で、郵便局に預けて置きましたら、その後数回小僧の使が来、その都度渡して金のなくなったところで、老師にお目にかかといわれます。「もうありません」と申し上げたら、「ああそうか。ではまた東京へ出かけて、説教強盗をして来るかな」といって、かっかと大笑いされた。(倉田錦平「説教強盗でもするか」)


<昭和の傑僧、山本玄峰(95歳)の一喝① >
http://maesaka-toshiyuki.com/longlife/detail/1350

 

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『Z世代のための昭和史敗戦講座』★『太平洋戦争敗戦(1945/8/15)の日』★『斬殺された森近衛師団長の遺言<なぜ日本は敗れたのかー日本降伏の原因』★『日本陸軍(日本の国家システム中枢/最大/最強の中央官僚制度の欠陥)の発足から滅亡までを 日露戦争まで遡って考えないと敗戦の原因は見えてこない』

    2020/02/02 &nbsp …

no image
辛亥革命(1911年10月10日)百周年―日中関係逆転歴史資料②『社説一孫文氏を迎ふ』(毎日新聞)

  辛亥革命(1911年10月10日)から百周年― 逆転した今後の日中 …

no image
日本メルトダウン( 975)―『トランプショックの行方!?』●『日本は孤立没落の危機!トランプ時代の世界はブロック化する』●『トランプ新大統領、中国には脅威と好機 経済的・地政学的には両面の影響がありそうだ』★『「悪夢」「ブレグジットよりひどい」 トランプ氏当選、世界に衝撃』●『トランプ政権で、対シリア政策はどうなるのか』◎『NYタイムズ、トランプ次期大統領の「公正な」報道を約束』◎『トランプ氏、大幅軍拡を宣言 対IS計画は「就任後に軍が策定」』

   日本メルトダウン( 975) —トランプショックの行方!? & …

no image
<一連のオウム真理教事件の全解説>

1 『明治・大正・昭和・平成事件・犯罪大事件』東京法経学院出版(2002年7月刊 …

no image
<百歳学入門(86)>宮武外骨の『人生70、古来稀ならず』 ―日本史の<百歳健康長寿者調査表>

 <百歳学入門(86)>   宮武外骨の『人生70、古来稀な …

no image
速報(192)『日本のメルトダウン』世界軽蔑劇場―<オリンパス、大王製紙、巨人内紛、50年福島原発騒動>日本沈没上演中!

速報(192)『日本のメルトダウン』 世界軽蔑劇場―<オリンパス、大王製紙、巨人 …

no image
速報(58)『日本のメルトダウン』『放射能汚染水(殺人水)の海への流出を防げー梅雨と台風で困難な状況が続く』

速報(58)『日本のメルトダウン』 ●「放射能汚染水(殺人水)の海への流出を防げ …

no image
日本リーダーパワー史(810)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、リスク管理 、インテリジェンス㉕ 『日英同盟の核心は軍事協定で、そのポイントは諜報の交換』★『日露開戦半年前に英陸軍の提言ー「シベリヤ鉄道の未完に乗じてロシアの極東進出を阻止するために日本は一刻も早く先制攻撃を決意すべき。それが日本防衛の唯一の方法である。』

 日本リーダーパワー史(810)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦争に勝利』した …

no image
日本リーダーパワー史(402)●『原発廃炉国難に当たり<原発ゼロ>にリーダーパワーを発揮できるのは小泉元首相しかない

    日本リーダーパワー史(402) …

no image
『池田知隆の原発事故ウオッチ⑫』ー『最悪のシナリオから考えるー3号機の暴走について』

『池田知隆の原発事故ウオッチ⑫』   『最悪のシナリオから考えるー3号 …