<歴史張本人・坂西利八郎の日中歴史認識>講義⑥」「100年前の清国(中国)の農民,商人の悲惨な環境」を語る⑥
2015/01/01
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日中両国民必読の歴史張本人が語る
「目からウロコの<日中歴史認識>講義」⑥
袁世凱の政治・軍事顧問となった坂西利八郎
(在中国25年)が「100年前の清国(中国)の
農民,商人の悲惨な環境」を語る⑥
以下は坂西利八郎が1927年(昭和二)二月十八日に「大阪毎日新聞社講堂」
で行った講演の全文。<「日中友好の捨石、秘録 土肥原賢二」芙蓉書房
昭和47年」に収録>
農民商人の窮状-でたらめな税金取立て、軍隊のピンはね横行
そうして見れば、支那のこの動乱はなお暫く続くのですが、その結果は何うなりますか。1言にして尽せば商売が出来ないのであります。折角、品物を持って行っても奥地に入られない。鉄道もない。船舶もない。ラクダの背中、ラバの背中によるか、大きな大八車によるか、小さな舟で行くか、何れにしても奥地まで行くことがますます不便になって来ます。同時に、先方の農民がこしらえたものをこっちへ出すことが出来ないのです。
もっとも特例がありまして、綿の安いのが買えた、米の安い売物があるということも聞きますが、それはあの広い支那のことでありますから、値段が安いものもありましょう。殊にこの節は兵隊が商売をするということがあります。それは鉄道で品物を運ぶというよりは、もっと手数のかからない貨車を奪ってしまうことです。
例えば甲の地点から、乙の地点まで鉄道がかかっている。この間には兵隊がいくつも駐在している。ここからこっちは奉天軍、ここから向うは山東軍が駐屯している。そしてその同じ奉天軍の中で、やはり甲の師団、乙の師団があり、こちらにも、甲の師団、乙の師団があり、こちらにも甲の師団、乙の師団がある。また独立の長官がある。
これらの長官たちは自分が守僻している鉄道の範囲内では、その貨車の融通を自分の部下にやらせる。仮りにある商人がこの地点から彼の地点まで貨物を運びますには、その間に独立した軍隊が四つあるとするとその四つの独立した軍隊に、それぞれ掛合わなければ品物が目的地に行かないのであります。
現に北京から北、張家口の方にまいりまして、それから西に折れて山西の大同を経て綏遠城、包頭という黄河の縁まで行きます。
鉄道の如き、以前は天津まで貨物を出すのに、一貨車が僅に三百円足らずでしたが今日ではその十倍を払わなければならない。三千円払わなければならんのみならず、三千円払っても完全に運べるかど
うか判らぬのであります。
しかし奥地には物が欠乏しているから、マッチつが十銭、二十銭にしても、競って買う。また例えば甘草、牛の皮とか馬の皮というようなものを出せば、その貨車に満載して持って来れば、三千円かかっても、それだけの取返しはつくのでありますが、それを運ぶ道中で、ここでも税を取られ、かしこでも税を絞られ、それがしかもその税額がちゃんときまっていない、隊長のその時のフトコロ工合で運賃をきめられる(笑声)それを出さないと貨車を停める。
二日も三日も放って置く。商売人は堪らないから不当と思っても金を出すというわけであります。甚しきは、こちらの奉天軍から一柄の貨車を送る時には先方の山西軍からも一輌の貨車を取らねば、貨車は通さないというようなことをやります。そのために交通は殆んど出来ない。
騒乱を続けている結果は、交通が十分に出来ない。産業は止まる。商業も止まる。工業も止まる。すベて止まってしまう。更に困ることは、百姓が農作をやれなくなってしまうことであります。
百姓は仮に農作をしたところで外へ出せないから、耕作がやれないのみならず、軍憲が百姓に向って要求するところの税が非常に高いのである。山東の地方の例を申しますと、以前1両、わが国の一円四十銭ばかりの税を納めるものは、今日は八元を納めわはならぬ。六倍を納めなければいけない。ところが、それを取る県知事の役所のものは、納税には元の銀貨ではいけない、銅銭を持って来いという。
銀の代りに銅銭を持って来いというと大変いいようでありますが決していいのではない。毎日相場は遣いますが、
銀貨が一銭銅貨三百六十位に当る、それを自分等の手数料を加えて五百持って来いという。そうすると、これも何割かの増税になるわけであります。しかし単に十倍ならまだ忍べるのですがお前は、今年分の税は納めたが、俺の方ではまだ金が要るから来年の民国十六年分の税も持って来い。
それでもまだ足りないから、十七年度も納めろ。十八年度も持って来い。まだ足らぬから十九年度、二十年度の分までも持って来いというので、昨年十月の話でありますが山東では丁度その頃までに民国二十年度まで、すなわち四年先の分の税金まで百姓は取られているということであります。
その後、聞くところによると、最近には、もう前のは帳消しだ新たに今年度の税を納めろといっているということであります。借金の棒引ということはありますが、租税の先取の棒引ということは余程珍らしい。
そういう風に税を取られるから、農作を試みようとすると小作人の賃銀が非常に高い。それは高い筈です。着物を着るにも外
から材料が来ない、土地からは物が余計出来ない、食うものも着るものも高い。以前は支那の小作人というものは年に十両、高いのは二十両一年すなわち十五元から三十元位のものでありました。
その小作人が、今日では1日1元でなければ働かなくなったのだから、算盤をとってやる百姓は、どうしても小作人を使う農作はしない。自分がただ食うを以て足れりとして、自分等だけで小さくやって、その日を暮すということになりましたが、これは自然の成行でありましょう。農民はかくの如く窮している。
憂うべき思想の変化―教育の遅れ
この農民の窮状は無論気の毒でありますが、さらに他の恐るべき一つの現象は、思想の変化であります。人心みな不安、この不安のために商業も振わわは、工業も振わない。農業も振わない。すなわち産業が一向振わない。みた丁度夕陽の沈む如く、だんだんにすべてのことが凋落して行くのであります。
人間が非常に悲観的になり、精神に異状を呈して来る。そこで、何等か慰安の道を求めようとして、昨今では或は仏教を研究し、或は道教を研究し、或は霊魂学を研究するものがふえてまいりました。
一体、支那には、あまり仏教が盛でない、支那の坊さんは、ただお経を上げて商売にしているのであります。
ことに北方の支那僧侶はそういうもので、仏教を研究するものは居士と唱える学者であります。ところが近来はその居士について、数は少いが、坊さんのうちの偉いのが仏教の研究をやり、読経の研究をやり出した。或は霊魂学、日本で昔申しましたコックリさんというのと同じようなことが非常にはやることになってまいりました。これすなわち何等かの方法によって自分の精神に慰安を求めようとする反証でありましょう。
つぎに、思想の変化のみならず、われわれが将来に向って最も憂慮すべきは、教育が停滞していることであります。これは丁度、ヨーロッパ戦争に、食うものがなくなったため、ドイツの子供等の体格を悪うしたと同じように、教育をされない不健全な国民が沢山に出来るということは、将来の支那のために最も憂うべきことであります。たまたま教育されても、その中に赤がまじるとか、青がまじるとか、黒がまじるとかいうようなことになって、正しい真っ白な教育というものが行われないということが、最も憂うべきであると思うのであります。
ただ赤の教育をやる、青の教育をやると申すとちょっとお解りにならんだろうと思いますが「青」の教育ということは、青すなわち支那語の「緑」すなわち緑林、緑林即ち馬賊、-馬賊上りを赤に対して青というのであります。いかに支那と申しても、まさか馬賊の教育をする学校もあるまいけれども、とに角そういう俗な言葉が支那にはあります。
それは一場の笑話としまして、とに角真面目でない教育が行われて、正しい教育が停滞しているために、自然、支那の子弟等は、横道に走るというのが今日の状態であります。現に北京にある国立学校の九つは経費が一文も出ませんから、みな門を鎖している。金があると門を開く。従って中流階級の、ことに知識階級の人は、自分の子弟を学校にやることを非常に考える。しかも、その政府の学校が、時としては赤になり、青になる。
それでなくても、支那には国民の教育の主義とか、方針とかいうものは何にもなく、国民にも主義がない。昔から支那の書物には、天下は一人の天下にあらず、天下の天下なりということを書いている撃攘の歌にも、目出而作、日入而息、鑿井而飲、耕田而食、帝力何看於我哉というような、極くのんびりと気楽な趣はあるが、国民が一の中心をいただいて団結し、しかして国家民族を強くしようというような考えも、また組織も、今日まで出来ていない。従って教育もどっちかといえば散漫である。これすなわち赤のつけ込み易いゆえんであります。
つづく
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