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梶原英之の政治一刀両断(4)ー『やらせメールが原発再開を遅らせた』

   

梶原英之の政治一刀両断(4)
 
やらせメールが原発再開を遅らせた』
 
             
 梶原英之(経済評論家)
 
 
●刑事事件だろう!?
 
それにしても九州電力は「やらせメール」という大事件を起こしたものだ。朝日は真部社長の辞任意向を7日夕刊で打った。辞任時期は11日に本人が判断するそうだが、ま、そうなるだろう。他地域では九電の反応の素早さ、深刻さに驚く人もいるだろうが、社長辞任ではすまない要素を持っている。
 
 「やらせメール」が報道されている事実どおり九電が上司指示の組織ぐるみで、地元意見聴取の場「しっかり聞きたい!玄海原発」(6月26日放映)への情報操作をしたのであれば、原子力発電の根本法規の一つ「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に違反する可能性が濃厚だからだ。
 
 同法には、罰則が山ほどある。立ち入り検査などについて事業者が正しい情報提供供について「拒み、妨げ若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者」には罰則がある。「一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」となっている。
 
 「しっかり聞きたい!玄海原発」が法律上のどの手続きの”変形”したものなのか経済産業省は説明していないが、九電の真部社長はすぐ自分の「コンプライアンス」上の責任を認めているから、しっかり法的な意味のある催しだったはずである。
 
●捜査の間は原発の再開は不可能だ
 
 「よろしくたのむ」と指示した上司(役員)が確定すれば、経済産業省か資源エネルギー庁は自らが警察に告発せざるをえない。
 
 しかし経済産業省が告発しなくても、市民団体や反原発団体が刑法の「偽計業務妨害」で告発すれば、警察は捜査に入らざるをえない。また佐賀県に対して住民から九電を告発すべしとの声が高まるだろう。
 
 警察が判断するのに必要な期間は、組織ぐるみの業務上過失事件の判断と同じで、超特急で半年。普通はニ、三年かかる。他省庁が警察に対して早く結論を出せという力はない。
 つまりそれまで玄海原発2、3号機の運転再開はできない。
 
 つまり九電の「やらせメール」自体が、原発再開のブレーキになった。これは日本経済にとって重要な事態である。脱原発派にも重要である。脱原発の全体が休止原発の当面の再開に反対という訳ではないからである。
 一番玄海2、3号機の再開を期待している九州電力が原子力法規の”被告”になるのであるが、それは同時に原発議論から時間を奪うことになり、議論がイビツになる可能性がある。
 
●「ストレステスト」の急浮上は作戦だろう
 
一方菅首相お好みの「ストレステスト」が運転再開を遅らせたと8日のマスコミではうるさいが、本当は「やらせメール」がストップをかけたことに注意すべきだ。
 
 「やらせメール」が発覚したのは4日の鹿児島県議会特別委員会である。九電本社側が派遣した執行役員がやらせを「否定」したが、地元九州では、疑惑は広がっていた。やらせ要請メールは早いものは6月22日に発せられていた。7月7日の衆議院予算委員会では再開のために6月18日に佐賀県に出向いた海江田経済産業相は、6日になって菅首相の心変わりのストレステストでハシゴを外され、涙ながらに辞任を示唆したことになっているがが、このストーリーは日付的にヘン。
 
●官僚はいつ「やらせ」に気付いたのか
 
 ここからは推測だが、経産省の官房が遅くも番組に対する視聴者のメールで再開希望者の数が反対を上回った時点で、やらせに気付いただろう。6月の内だ。その時海江田大臣は自分が佐賀県に行って打ち上げた「安全宣言」が空しくなっただろう。人のよい大臣でも九電の誰かは、やらせメールを仕掛ける決心をしていたに違いなかったのだと気付いたからだ。なぜオレを騙したのだ!九電の誰かは!
 経済産業官僚は「やらせメール」の展開が、大臣初め多くの登場人物を苦境に立たせることにとうに気が付いていた。特に赤旗が動いたことで緊急性が分かった。これに気付かなくては高級官僚ではない。事実全国ベースでは6日の赤旗がスクープした。
 
 そこで首相、海江田、細野が4,5日に次善の策を話し合った。首相に「ストレステスト」をすると、6日の国会で表明してもらった。安全宣言と全国の原発再開の息の根が止まるのを政治家に防いでもらったわけだ。
 
 
●ストレステストのうそと真実
 
 ただ、何らかの形で玄海原発の再開をストップしないと原発再開のシナリオが完全に崩れるのを防ぐためといいながら、「ストレステスト」を選んだのは菅首相だろう。ストレステストは6月にEUが始めた新手で、日本的ストレステストの内容はなにも決まっていない。時間軸は政府の手の中にあるのだ。
 
 肉(菅内閣)を切らせて、骨(自民党、民主党の原発推進派)を切る。
 
 肉を切らせて、骨を切るーの剣術試合の背景には、「やらせメール」の影響を少しでも小さくしたいという経済産業省の懇願があったと思われる。経済統制官庁は世論がノーコントロールになり反原発に進むことを、恐れている。
 
8日同省幹部によるインサイダー取引疑惑が証券取引等監視委員会の手で摘発されたことに、経済産業省は震えあがっただろう。政党は事件を切っ掛けに経済産業省の解体を狙うようなことを、考えがちだからだ。そういう時不思議と刑事事件が起きる。
 海江田経済産業相が起こっているのは、安全宣言を出す前に九州電力のやりかたをしっかり説明しなかった官僚への怒りではないのか。
 
●しばらく電力会社に広報・宣伝させないように法的措置を
 
 内閣は8日夕に菅首相が「国民に謝罪して」一たん収める積りだろう。これからの予想の話はいくらも出来るが、菅首相の場当たり、内閣不一致話にあまりに熱心になると、菅首相の肉を切らせて作戦にはまるだけだから、今日は止めよう。
 
 菅首相は腹をくくっているから、ストレステストでも、また奇手を考えつき脱原発世論と原発再開とを上手にコントロールすることを企てるだろう。中身のないストレステストを短縮させればよい。
 しかし菅内閣はそう長期には持たず、原発の綱渡り状況は仮に自公に政権が移っても、収まりが付かない。それほどフクシマ一号の放射線拡散状況が酷いからだ。
 
 そんなことより、政府は今後、九電やらせメール事件の反省に立って原発を持つ電力会社に対して、節電の役に立つ広報以外、全「広報・宣伝予算」を使うことを法律で禁止しすべきだ。例えば九州のマスコミも、九電から広告費もらっているから、原発再開に賛成なのだろうと言われるのは、片腹いたいだけで困っているはずだ。どの道、フクシマ事故のあと、九電力とも広告は自粛している。この状況はあと二三年続くだろう。
 
 もちろん九電「やらせメール」事件は今後日々真実が深まってゆき、もっと大変な事態も起きるかもしれない。どういういきさつで公聴会もどきの「しっかり聞きたい!玄海原発」がケーブルテレビとインターネットだけの報道になったのか。民放テレビを使うほどのカネがなかったのか。NHKなどが放送する公開シンポジウムにも出来たはずだ。
 「やらせメール」を前提としていたのならどこか官庁が関与していたのではないかとの疑惑が深まるだろう。
 
 原発の議論が国家的に決まるまでの期間、良い機会だから「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」でも改正して官庁、民間企業の原子力広報を規制すべきだ。当然政党も選挙運動に結びつけたいい加減な動きをすべきでない。関係会社を通しての政治献金の禁止を与野党は少なくとも申し合わせるべきである。

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