前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日本世界史』-生麦事件、薩英戦争は英国議会でどう論議されたか②ー<英国「タイムズ」の150年前の報道>

   

 『日本世界史(グローバル・異文化・外交コミュ二ケーション史)』

<日本の現代史(明治維新からの明治、大正、昭和、平成150年)は

日本の新聞を読むよりも、外国紙を読む方がよくわかる>

 

生麦事件、薩英戦争は英国議会でどう論議されたか②ー

<英国「タイムズ」文久3年(1863722の報道>

 

 

  この記事は1920世紀にパックスブリタニカで世界の覇権を握ったイギリスの帝国主義、植民地主義的行動パターンを考えるうえで大変参考になる。

  19世紀のイギリスはアジア、中近東、アフリカに進出して「世界帝国」を築いたが、その過程は対外戦争、侵略地支配の繰り返しである。物資の獲得、貿易を目指して世界に進出して異民族、異文化と接触すると、摩擦、衝突、対立が生じて、殺戮、戦争に発展する。

  その面では、海賊のイギリスが「7つの海」を支配し世界帝国の確立のプロセスは海軍力の進出、対外戦争の歴史であり、一方「ユーラシア大陸」の北の巨熊・ロシアがヨーロッパから中央アジア、シベリア、樺太、満州までを侵略して、イギリスに対抗して日露戦争に発展したロシアの帝国主義・植民地主義も同じものである。

  150年前の生麦事件、薩英戦争は日本の最初の対外戦争である。台湾戦争、日清戦争(明治37)などよりよほど前である。薩摩藩の参勤交代の大名行列の前を乗馬した英国人らが横切って、斬り殺されたという「異文化衝突」の事件であり、この賠償金と犯人の処罰を巡って、薩英戦争に発展する。

  この英国議会での論議を読むと、まず世界に先駆けの民主主義・英国議会の情報公開による議員の知的レベルの高さと、英国の紳士道、大人の論議、自由闊達な意見交換と、公正な論議、合理的な判断力、その底にあるイギリス民主主義の市民意識、ディベイトのすごさを痛感する。

  150年後の今の日本の国会での日本の対外紛争の論議(対中国、北朝鮮などの)比較しても、これだけのレベルであるのかどうか。日本の政治は政治家は本当に成熟しているのか。国民も同じだが・・

  それにつけても、日本の国会レベルの論議で比較すると、いまから76年まえの日中戦争(1936年、昭和12年―この時、いまでも論争の続く南京事件も起きた)で斉藤隆夫議員が「聖戦とはなんぞや」としっもんして、議員を除名されたのと比較しても、150年前のイギリス議会での「ジャパンプロブレム」の論議は、いまのTPP参加問題などと比べても非常に興味深い。

 

1860216日,イースト・インディア・アンド・チャイナ協会書記はこう記している。

「私はオールコック氏が言及している.痛ましいできごとが発生したため,日本との貿易が停止されたことに対し当協会が深く遺憾の意をいだいていることをお伝えしなければなりません。当協会はイギリス政府と同様,日本との通商関係を開き発展させるという偉大な成功を収めたあと.商用でかの国へ赴くすべてのイギリス人が,日本側の攻撃や怒りの正当な原因となるような粗暴で乱れた行為を避けるよう,当然の期待を持っています。また当地の有力な諸団体は日本における自分たちの関係者に,争いや口論,暴力沙汰になりかねない行為はすべて避けるよう十二分の注意と警戒をするよう今後必ず強調することを保証いたします」

 

 そしてラッセル伯はこのように書いている。

 

「日本駐在のイギリス人商会の事務員あるいは代理人が,日本の習慣にそむく罪を決して犯さぬよう,われわれは十分注意しなければならないと,強く思います。なぜなら,彼らがそういう行為をやめない限り,われわれに対して加えられた不法行為を堂々と訴えることができず,両国間に満足すべき関係を維持していくことが不可能になるからです」

 

 私は,受けた不法行為を堂々と訴えることができないというラッセル伯の意見に同意するとともに,現在政府が日本に対してとろうとしている方針は正しいとは認められない。

 

日本の大名のうち,30人は766000人もの兵士を戦場に送り込むことができ,薩摩侯は毎年大箱200個分の銀貨を収入として得ていると言っても,政府は信じないかもしれない。

しかし日本人には兵士や金よりも強い武器がある。彼らには大義名分がある。もしわれわれが侮辱されたとしたなら,戦費がいくらかか占うと大した問題ではない。だがこの事件の場合,われわれは,政府が事を進めているその正確な根拠ならびにイギリス代表が.現在の事態をできるだけ迅速に終結させるよう指示を受けているかどうかを知るべきだ。私は通商条約に反対はしない。暴力行為もなく,日本人の感情を損ねることなしに条約が実行されるならば。

 

しかし,この条約が幸福に満ち足りて暮らしている国民の血を流すことによってしか守られないとしたら,そんな条約はぴりぴりに引き裂いてしまったほうがよいと思う。(謹聴,謹聴の声)終わりにあたって,コクラン氏は書類の採択を申請した。

 

 リデル氏はその動議を支持し以下のように述べた。審議が終了する前に政府からなんらかの声明を出してもらいたい。というのは,じきにわが国民が互いにこう尋ねるかもしれないからだ。

 

「なぜ日本と仲たがいしているのか?」とか「だれと戦おうとしているのか」とかである。最初の質問のほうが答えやすい。わが国が日本と仲たがいしている理由は,日本と性急に,また深く考えず条約を締結したからだ。アメリカ

人がまず条約を締結し,続いてわれわれの愛国的な誇りを清足させるためにエルギン卿が条約を締結した。それは,実のところ革命と言ってよく,日本人の恐怖につけこんでもたらされたものだ。

 

この条約は無分別なばかりか,性急に立案起草された条約であり,日本の最高権力者の裁可を決して受けていないということだ。エルギン卿が権限のある当事者と固く信じて条約を結んだ相手は,当時存在していなかった。

 

というのは大君はアメリカに譲歩したという理由で暗殺されていたからで,エルギン卿が

日本側の恐怖により条約を締結したとき.その死は秘密にされていた。それが最も重大な点だ。その条約は外国人に対し5港の開港を認めるものだが,そもそも日本人は長い間外国人に対して憎悪と不信の念しか感じていなかった。それはイエズス会宣教師の陰謀や.せり合うポルトガルとオランダ商人の詐欺のなせるわざだ。

 

イギリス海軍が攻めてくるかもしれないという日本側の不安につけ込んで.通商条約を結ぼうという無分別な試みをあえて行ったときにも,日本人のこういった感情はなかなか消えてはいなかった。そうして結ばれた条約は,国民が尊敬している中央権力の威厳を損なう,危険なものだ。そのうえ大君によって署名されたと思われている条約は大君の権限の及ぶ限られた範囲内で有効なだけだ。日本の法律によれば,その条約は少数独裁階級で強大な封建世襲貴族である大名およびその家臣に対してはなんの拘束力もない。したがって私は,日本にとっては革命にも等しい譲歩をした条約のために.わが国は日本との戦争を起こそうとしていると主張する次第であり,そのようなやり方は正当とは認めがたいと考える。

 

2番目の質問は「われわれはだれと争おうとしているのか?」である。相手は大君だろうか?もしそうだとしたら.大君こそがわが国の日本における唯一の友人である。

 しかし.また一方では.イギリスが外国人の侵入を嫌悪している人々,すなわち強大な貴族である大名と争おうとしているのなら,その力がどれほどのものかはまだ知られていない?もっとも彼らが法律を守り外国人の侵入を阻むため,農奴の身分にある人々を召集することのできる強大な力を持つ領主だということはよく分かっている。

 

大名たちが戦いの準備を推し進めているという信ずべき理由が十二分にあるそのときに.地球の裏側で事を起こすというのは不安なことだ。地球の裏側で,確たる認識がなく想定だけで戦争をするというのは高くつくものだ。

 

というのは,戦争の相手方がだれだかわきまえずに戦うというのは,それこそ観念的なものだからである。私は議会が散会する前に,この最も関心を呼ぶ問題について政府がさらになんらかの説明をすることを望むものである。

 

                                つづく

 

 - 現代史研究 , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉘『開戦1ゕ月前の「独フランクフルター・ツワイトゥング」の報道』ー「ドイツの日露戦争の見方』●『露日間の朝鮮をめぐる争いがさらに大きな火をおこしてはいけない』●『ヨーロッパ列強のダブルスタンダードー自国のアジアでの利権(植民地の権益)に関係なければ、他国の戦争には関与せず』★『フランスは80年代の中東に,中国に対する軍事行動を公式の宣戦布告なしで行ったし,ヨーロッパのすべての列強は,3年前,中国の首都北京を占領したとき(北支事変)に,一緒に同じことをしてきた』

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉘『開戦1ゕ月前の       …

「30年間カヤック釣りバカ老人の鎌倉海定点観測」-『海を汚染、魚を死滅させる有毒マイクロプラスチックが食物連鎖で最終的に魚食民族・日本の食卓を直撃する』★『プラスチックを規制し、1人年40 枚にレジ袋を減らす規制をしたEU対1人が年300枚のレジ袋を使う日本はいまだ規制なし』

「老人と海」-海を死滅させるマイクロプラスチックの脅威 30年間鎌倉カヤック釣り …

人気リクエスト記事再録 百歳学入門(185)-『画狂老人・葛飾北斎(90)の不老長寿物語』★『70、80洟垂れ小僧、洟垂れ娘に与える』★『クリエイティブ/熱狂人間は年など忘れて不老長寿になる』★『画業三昧で時間に追わて描きまくり、気がつけば百歳』

  百歳学入門(185) 『画狂老人・葛飾北斎(90)の不老長寿物語』 ★『創造 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(71)大東亜戦争開戦の「朝日,毎日新聞紙面」-「その朝、ラジオは軍艦マーチ高らかに」「株式相場は買い一色」

終戦70年・日本敗戦史(71)  大東亜戦争開戦の「朝日,毎日の新聞紙面から」ー …

no image
知的巨人の百歳学(153)記事再録★『昭和経済大国』を築いた男・松下幸之助(94歳)の名言30選」/★『松下の生涯は波乱万丈/『経済大国サクセスストーリー』● 『企業は社会の公器である』 ● 『こけたら立たなあかん』● 『ダム経営は経営の基本である』● 『経営は総合芸術である』●『無税国家」は実現できる』●『長生きの秘けつは心配すること』

  2016/12/23 記事再録/『明治から150年― 日 …

no image
日中北朝鮮150年戦争史(18)世界史『西欧列強の植民地争奪合戦』の中での日清戦争勃発〈1894年)『ヨーロッパ列強(英、仏、独、ベルギー、ロシア)のアフリカ、アジア分捕り合戦の同時進行」①

  日中北朝鮮150年戦争史(18) 世界史『西欧列強の植民地争奪合戦』 の中で …

「Z世代のための台湾有事の歴史研究」②★『2023年台湾有事はあるのか、台湾海峡をめぐる中国対米日台の緊張関係はエスカレートしている』★『1894年(明治27)の日清戦争前夜の雰囲気に似てきた歴史の復習問題

前坂俊之(ジャーナリスト) 、徳川時代の鎖国政策で、小さな木造船さえ持つことを自 …

no image
『リーダーシップの世界日本近現代史』(293)★『安倍・歴史外交への教訓(5)』「大東亜戦争中の沢本頼雄海軍次官の<敗戦の原因>」を読む―鳩山元首相の「従軍慰安婦」発言、国益、国民益無視、党利党略、 各省益のみ、市民、個人無視の思考、行動パターンは変わらず

    2015/11/08 &nbsp …

「オンライン・日本史決定的瞬間講座②」★「日本史最大の国難をわずか4ヵ月で解決した救国のスーパートップリーダーは一体誰でしょうか?」★『何度も死からよみがえった不死身の大人物ですよ』

鈴木は「海戦の勇士」「不死身の貫太郎」 鈴木貫太郎(1868年(慶応3)1月―& …

no image
 ★『アジア近現代史復習問題』福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(6) 「北朝鮮による金正男暗殺事件をみていると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」●『『日本人も東学党の乱を他国の内乱と見過ごすことなく、朝鮮が自カで鎮圧でき なければ、我兵力を派兵する覚悟が必要だ』

   ★『アジア近現代史復習問題』・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(6) …