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池田龍夫のマスコミ時評(36)『核と人類は共存できない――ヒロシマ・ナガサキ・フクシマの悲劇』

   

         池田龍夫のマスコミ時評(36)
 
『核と人類は共存できない――ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ
の悲劇』
 
池田龍夫(ジャーナリスト)
                       
 
 ヒロシマ・ナガサキ原爆惨事から66年、例年と違った緊張感の中で迎えた「原爆忌」への思いは深い。5カ月前の福島原発事故の恐怖が、重くのしかかっているからだ。
 
〝核の平和利用〟の名の下に半世紀も進められてきた「原子力発電」の大事故が全世界に衝撃を与え、「核と人類は共存できない」ことが立証された〝核兵器と原発は別〟との理屈が破綻し、「脱原発」へのウネリが高まってきており、「3・11惨事」を転機に、核廃絶とエネルギー政策大転換に総力を挙げることこそ、再生日本のカギとの認識を共有したいと思う。
 
 今年の広島原爆忌・長崎原爆忌の「平和宣言」が、福島原発事故を反映し「核の軍事利用反対」に加え、「平和利用にも反対」の姿勢を打ち出したことは特筆すべきことで、宣言内容を読み比べたうえで、主要各紙の論調を検証したい。
 
      「原爆忌」平和宣言を行動に移そう
 
 松井一実・広島市長は平和宣言で「福島原発事故によって、原発に対する国民の信頼を根底から覆した。そして『核と人類は共存できない』との思いから脱原発を主張する人々、あるいは、原子力管理の一層の厳格化とともに、再生可能エネルギーの活用を訴える人がいます」と述べて政府にエネルギー政策の見直しを要望したが、明確な表現を避けて「脱原発を主張する人々がいる」と述べただけの宣言内容に、迫力不足を感じた。
 
 田上富久・長崎市長は、平和宣言の冒頭に福島原発惨事を掲げ「爆発によってむきだしになった原子炉。『ノーモア・ヒバクシャ』を訴えてきた被爆国の私たちが、どうして再び放射線の恐怖に脅えることになってしまったのでしょうか。
 
自然への畏れを忘れていなかったか、人間の制御力を過信していなかったか、未来への責任から目をそらしていなかったか……、これからどんな社会をつくるべきか、根底から議論をし、選択する時期が来ています。
 
たとえ長期間を要するとしても、より安全なエネルギーを基盤にする社会への転換を図るために、原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要です」と主張しており、「脱原発」への転換を力説していた。
 
 両宣言とも、原爆被爆者への鎮魂と核兵器廃絶への粘り強い行動を主軸にしているが、〝安全神話〟が崩壊した原発の恐怖を盛り込んだことに、核問題の深刻さを痛感する。
 
      原発事故で飛び散った放射線汚染物
 
 中国新聞8・8社説は「再生可能エネルギーの拡充や電力浪費社会の見直しを進めながら原発ゼロへの見取り図をどう描くのか、国民的議論を巻き起こしたい。米国が昨秋から臨界前核実験を再開するなど、核兵器廃絶への道のりは険しさを増す。
 
その打開策について、松井市長の宣言も首相の発言も物足りなかった。前の2代の市長が政府に求めた米国の『核の傘』からの離脱を、松井市長は盛り込まなかった。被爆地の市長としては、踏み込み不足と言わざるを得ない」と論評。
 
 長崎新聞(8・10論説)は「菅直人首相はあいさつの中で『白紙からエネルギー政策見直しを進める』ことを改めて表明。式典後の記者会見でも田上市長の平和宣言に関し『方向性は同じ』として再生可能エネルギーの拡大に取り組んでいくことを強調した。
 
… 米国は昨秋から臨界前核実験や新たな模擬核実験を実施するなど、2年前のオバマ大統領の演説とは裏腹に、核兵器廃絶への歩みは、むしろ後退している。原爆を投下された広島、長崎でどのような悲劇が起きたのか。福島の原発事故が今、どれほど多くの人たちに不安を与え続けているのか。
 
人類の未来を考えるうえで、大きな選択の時にある。それは、『核兵器のない世界』から『核のない世界』へとさらに歩みを進めることを意味する。そのためにも被爆の実相を、放射線の脅威を、被爆地は世界に訴え続けていかねばならない」と強調しており、地元県紙2紙の率直な指摘に共感を深めた。
 
福島第1原発事故で破壊された炉心格納容器から漏出した放射線濃度が異常に高いため、事故収束へのメドは依然立っていない。放射線汚染が、広島・長崎より広範囲なため、除染対策が焦眉の急になってきた。東大アイソトープ総合センター長・児玉龍彦教授が現地調査に基づいて発した警告は衝撃的だ。「福島原発汚染は広範囲で、広島原爆の29・6個分、ウラン換算では20個分が漏出した。
 
原爆による放射線の残存量が1年で1000分の1程度に低下するのに対し、原発の放射線汚染物は10分の1にしかならない」と、衆院厚生労働委員会(7・27)で証言したもので、その10日後に迎えた「原爆忌」だけに、例年以上の緊迫感を覚えた。
 
「脱原発」の道は険しくとも…
 
東京新聞8・7社説が「核の平和利用自体、米国の核戦略の一環だったことが、近年の研究で明らかになりつつある。米国にとって被爆地のお墨付きを得ることは『平和のための原子力』を成功に導き、核戦略で優位に立つための必要条件だった。
 
米国の核政策はともかく、原子力は安価で、小資源国の日本には欠かせないという意見もある。しかし、福島での原発事故を見れば、とても安価とは言えない。事故収束や補償の費用は優良企業とされた東京電力の存立すら危うくするほど膨大だ。そもそも核燃料サイクルは未完の技術であり、使用済み核燃料はたまる一方だ。
 
原爆忌での『脱原発依存』宣言は、むしろ遅きに失したのかもしれない。政権延命意図の有無にかかわらず、目指す方向性は支持する。……自らも被爆し、核兵器廃絶と被爆者援護に半生をささげた故森滝市郎・広島大名誉教授は『核と人類は共存できない』と語った。核廃絶と脱原発。ともに実現の道は険しいが、今の世代で無理ならば、次世代に引き継いででも成し遂げねばならない目標だ」と。極めて明快に指摘した姿勢を評価したい。
 
『毎日』社説も「核兵器と原発はこれまで切り離して考えられてきたが、福島の事故は原発の危険性に改めて目を向けさせた。唯一の被爆国としての経験を原発対策にも生かしながら、従来にも増して核廃絶のメッセージを発信続けるのが私たちの責務である」と述べ、『朝日』社説も「核被害の歴史と現在に向き合う日本が、核兵器廃絶を訴えるだけではなく、原発の安全性を徹底検証し、将来的にゼロにしていく道を模索する。それは広島、長崎の犠牲者や福島の被災者、そして次の世代に対する私たちの責任である」と強調している。
 
      在京6紙の論調に、問題意識の差
 
 在京6紙のうち『朝日』『毎日』『東京』は、「脱原発→エネルギー政策転換」を社論として表明しているが、他の3紙はどう論評しただろうか。『読売』社説は、菅首相が福島原発事故に言及したことを取り上げ「原爆と原発事故を重ねることで自らの主張をより効果的にアピールしたかったのだろう。鎮魂のセレモニーのいわば“政治利用”ではないか。…

世界の経済が景気後退の危機に瀕している今、日本が生き残るために、原子力エネルギーの平和利用はなお欠かせない」と批判。『産経』社説は「菅首相は平和記念式典あいさつで『非核3原則堅持などをうたう一方で、原発依存度を引き下げ、原発に依存しない社会を目指していきます』と持論の脱原発を繰り返した。だが同じ6日、東北電力が東京電力に緊急の電力融通を求めたように、原発なしで日本が立ちゆかない現実は既に明らかといえる。脱原発にこだわる首相の言動は無責任としか言いようがない」と酷評している。

 
『日経』社説は「『非核』を訴え続けてきた日本で最悪レベルの原発事故が起きたことに私たちは正面から向き合わなければならない。そこで得られた教訓を踏まえつつ世界平和へのイニシアティブを発揮していこう」と述べただけで、エネルギー政策転換には、触れずじまいだった。 
 
福島原発事故は、原爆と共通の「放射性物質の被害を引き起こす」恐怖を見せ付けており、原爆忌に当たって原子力の平和利用を検証、危険除去を論議することは、被爆国・日本国民の責務ではないか。その点、『読売』など3紙の「原爆忌・社説」には〝後味の悪さ〟が残った。
 
 最近の世論調査を見ると、「脱原発→新エネルギー政策への転換」を期待する声が7割を超えている。原発の新設どころか、点検中の原発再稼動への道も険しい。菅首相退陣後の政権担当者も「クリーンエネルギー開発」の政策目標を継承してもらいたいと切に願っている。
 
 
 
 

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