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野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ③『コンテンツ産業で急がれる海外で稼げるビジネスモデルの構築』

   

野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ③
 
『コンテンツ産業で急がれる海外で稼げるビジネスモデルの構築―統一した世界戦略と多様な現地化戦略の組み合せが重要』
                             
 by  野口 恒(ジャ-ナリスト)
 
 家電産業を始め日本の製造業が衰退し、厳しい経営環境にある中で、次の成長産業として期待されているのがコンテンツ産業である。日本のコンテンツ産業の市場規模(2010年352億ドル=約2兆7000億円、2011年も2~3兆円程度の規模で推移)は、米国(2010年の市場規模は1078億ドルで日本の約3倍)に次ぐ規模を誇り、コンテンツ大国と言われている。

ただ、日本のコンテンツ産業・最大の弱点は、海外でも人気のある数多くのキャラクタ-ブランドを持ちながら、これまで国内市場にのみ目を向ける余り、海外市場の開拓を積極的に取り組んでこなかったことである。

そのため、日本のコンテンツビジネスは海外で稼げるグロ-バルビジネスに成長していない。日本のコンテンツ産業の海外輸出比率は5%程度で、米国の18%の3分の1以下である。

 例えば、日本のアニメ産業の市場規模は2011年度でおよそ2300億円、関連産業を含めても4000億円程度の市場規模である。若者の人口減少の影響で国内の市場規模が縮小していく中、国内市場のみ目を向けていては今後の成長が望めない。

日本のアニメ産業が成長していくには海外市場の開拓が大きな目標になる。幸いなことに日本のアニメキャラクタ-は海外で非常に人気があり、ドラゴンボ-ル、セ-ラ-ム-ン、ポケモン(ポケットモンスタ-)、キティちゃん、マリオ、ピカチュウ、ドラえもん、マジンガ-Z、仮面ライダ-、NARUTO、忍者ハットリくんなど数多くのブランドが海外で受け入れられている。せっかくこれだけ多くの海外で人気のあるキャランタ-ブランドを持ちながら、これまで海外市場開拓に熱心でなかったのが不思議なくらいである。

 アニメを始めコンテンツ産業は、それぞれの国の法律や制度、歴史・言語・文化、宗教や価値観、教育や生活習慣などの影響が大きいため、世界中で普遍的に通用し易い工業製品と違ってビジネスの海外展開が非常に難しい。これまで日本のコンテンツ業界が海外進出にあまり熱心でなかった理由の一つは、こうした制度や規制、言葉や文化の“大きな壁”があったからだ。今後日本のコンテンツ産業が海外展開していくにはこれらの壁をいかに突破するかが最大の課題になる。
 
 たとえば、米国のディズニ-社ではアニメ作品などコンテンツを制作する当初段階から世界中でのビジネス展開を考えている。米国内だけでなく世界中でヒットする作品をいかに作るかにエネルギ-を集中する。そのため、コンテンツ制作に当たっては
 
① 徹底してエンタ-テイメント性を志向している。エンタ-テイメント分野でまず世界中でヒットする作品を企画し、制作する。それがヒト、モノ、カネ、情報、技術を呼び集め、さらに大きなビジネスチャンスを作っていく。
 
② 脚本はス-ト-リ-構成もしっかりしていて、民族・宗教・人種・習慣などの違いや壁を超えて、人類や人間社会に普遍的に当てはまるテ-マを選び、みんなが楽しめるように創意工夫している。
 
③ キャラクタ-も世代や国境を越えてひろく、末永く愛されるように、キャラクタ-づくりにきめ細かい配慮がなされている。アイデアもプロの制作スタッフだけでなく、世界中のファンからいろいろなアイデアや意見を募り、作品づくりに生かしている。
 
ディズニ-の場合、海外を含めたライセンス収入などで構成するコンシュ-マ-プロダクツ部門の2011年度の売上高は30億4900億ドル(約2400億円)に上る。海外展開の拠点として各国に現地法人などを作り、①ブランド戦略やライセンス管理など本社主導で統一して行う世界戦略と、②現地のニ-ズに応え、現地企業とも連携して行なう現地化戦略をうまく組み合わせて行なっている。これは何もディズニ-社に限らず、米国の大手エンタ-テイメント企業はどこも世界戦略と現地化戦略をうまく使い分けている。
 
 
      <日本企業の課題:アニメなどコンテンツビジネスの世界展開と現地化戦略>
 
     キャラクタ-   商品開発     マ-ケティング     ライセンス契約    法律・制度・規制
ブランド    商品化戦略    販売戦略       権利ビジネス      言葉・文化・習慣
    ・世界統一ブ  ・世界的な  ・統一したグロ  ・ライセンス契  ・世界共通のビジ
    ランドの構築  キャラクタ  -バルマ-ケテ  約・権利ビジネ  ネスル-ルや仕組み
    ・世界ブラン  -商品開発  ィングの展開   スの国際展開   の構築
    ドの一元管理  ・商品開発  ・世界的な市場  ・ライセンス契  ・言葉・文化・習慣
             主導権確立  ・販路の開拓   約・権利ビジネ  の違いや壁を超える
                             スの統一管理   コンテンツの制作
 


  ・国・地域・  ・ロ-カル  ・国・地域・商  ・現地企業への  ・国・地域ごとに異
  商品分野ごと  ニ-ズを取  品分野ごとにき  柔軟で緩やかな  なる法律・制度・規
  の「ロ-カル  り入れた商  め細かなロ-カ  ライセンス契約  制への現地化対応
  ブランド」の  品開発とリ  ルマ-ケティン  ・供与・提携   ・国・地域ごとに異
  構築      メ-ク    グの展開     ・ライセンスの  なる言葉・文化・習
・ロ-カルブ  ・現地企業  ・現地市場の開  共同管理     慣の違いに配慮して
ランドの現地  との共同開  拓、現地企業と  ・権利ビジネス  柔軟にコンテンツの
化と管理    発・共同制  の販売提携    協力関係の構築  変更・修正・リメ-
作                        クを行なう
 
 最近になって日本でもコンテンツビジネスの海外展開に積極的に取り組む企業が増えてきた。

タカラトミ-は人気キャラクタ-の「ポケモン」の玩具を日本・アジア・欧米など世界市場で企画・販売する権利を取得し、ブランド戦略・商品化戦略・マ-ケティング戦略・ライセンス戦略を有機的に結合し、統一したビジネス戦略を効果的に展開することで海外市場の開拓を進めている。

これまでこれらのビジネス戦略がバラバラに行なわれていたため、海外市場の開拓や海外収入の確保という面で大きな成果が生まれていなかった。統一した世界戦略と現地に適応した現地化戦略を巧みに組み合わせたビジネスモデルをどう構築するかが今後の課題になる。
 

現地化戦略では、たとえば日本の人気野球マンガ・アニメの「巨人の星」がインド版「ライジングスタ-」にリメ-クされて企画・制作・放映されている。「巨人の星」のアニメ化を手掛けた日本の制作会社とインド企業がそれぞれ分担して、原作の内容やスト-リ-の大筋を生かしながら、現地のニ-ズを柔軟に取り入れて共同制作している。

舞台はインド最大の都市ムンバイで、星飛雄馬ならぬ主人公のインド人「ス-ラジ」が挑むのは野球ではなくインドで人気のクリケットだ。ディズニ-社の場合、自社の作品の変更・修正・リメ-クは一切認めておらず、ブランド・商品化・ライセンス・マ-ケティングまで本社主導で完全にコントロ-ルされている。
 

しかし、海外ビジネス展開や海外市場開拓に遅れた日本の場合、海外市場開拓や海外ビジネス展開では、①本社主導の統一した世界戦略と②現地企業と連携した現地化戦略との柔軟かつ巧みな組み合せ(ハイブリッド戦略)が必要になろう。こうしたハイブリッド戦略の成功事例としてはサンリオの「ハロ-キティ」などがあるが、今後早急にグロ-バル戦略とロ-カル戦略を組み合わせたビジネスモデルの構築が課題になる。
 
インドは中国のように外国アニメの規制がほとんどなく、日本の国内市場が縮むなかで成長市場として大いに期待できる。日本とインドの間では2012年4月にアニメ・映画・デザインなどクリエイティブ(コンテンツ)産業に関する経済交流・産業協力の政府間合意がなされており、その意味でも追い風になっている。
 
さらに、海外の市場開拓・ビジネス展開で注目されるのは日米合作アニメ「トランスフォ-マ-」シリ-ズの成功とその経験事例である。日本の玩具大手のタカラトミ-が制作・販売している変形玩具「トランスフォ-マ-」が、米国の玩具メ-カ-・ハズブロ社やマ-ベル・コミック社と連携して日米合作の「トランスフォ-マ-」シリ-ズとして設定されて販売されたことにより、米国を始め世界中で大ヒットした。

この作品は、玩具(タカラトミ-社)、アニメ(多彩なアニメ作品)、ゲ-ム(ニンテンドウ、プレイステ-ション)、映画(マイケル・ベイ監督による日米共同制作)、テレビ番組(日本テレビ、テレビ東京)などの複数のメディアで「ワンソ-ス・マルチユ-ス」で商業展開されて成功を収めている。トランスフォ-マ-の世界的なメガヒットは、マルチメディアのシリ-ズ作品において日本企業だけでなく日米合作で作ったことが大きな成功要因だ。
 

(1) ロボットは悪魔という西洋人のロボットに対する偏見を打ち破った独特の「世界観」(トランスフォ-マ-と呼ばれるロボットは生命体で宇宙人であるが、地球の環境に溶け込むため擬似能力をもっていて様々に変形するという斬新なアイデア)
 
(2) “宇宙人が攻めてくる”というドラマチックに設定された「スト-リ-」展開。トランスフォ-マ-と呼ばれるロボットが正義のサイバトロンと悪のデストロンに分かれて抗争する。
 
(3) 敵味方に分かれて登場する多彩な「キャラクタ-」を持った登場人物たち
 
 日本人だけではとても思いつかないような「斬新でユニ-クな世界観やアイデア、多彩なキャラクタ-の登場人物、ドラマチックなスト-リ-設定」が日米合作の制作チ-ムによって作られたことは、メディアコンテンツの世界展開をおこなう上で「何が重要で、どう作ったらよいか」非常に貴重な経験やビジネスモデル構築のヒントを提供している。
 
 アニメに限らずコンテンツ作品は価格勝負の工業製品と違って価値が優先される。世界中の多様な価値観に受け入れられるには、柔軟な提携戦略や協力関係の構築が必要だ。

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