『中国紙『申報』など外紙からみた『日中韓150年戦争史』㊺ 「日清戦争の勃発はロシアの脅威から」(英『タイムズ』)
2015/01/01
『中国紙『申報』など外紙からみた『日中韓150年
戦争史』日中韓のパーセプションギャップの研究』㊺
1894(明治27)年7月3日 英『タイムズ』
日清戦争勃発約1ヵ月前の英タイムズの分析―
「ロシアの不凍港獲得の南下政策で「朝鮮支配」
を着々と進めていることに、危機感を持った
日本が日清戦争に踏み切った」
咋日付の本紙に掲載された上海の通信員からの電報には.憂慮せざるを得ない情報が含まれている。もっとも.日本の意図について,目下,上海で広まっている驚くべきうわさがことごとく根拠のあるものと見る必要がないのは確かだ。
現に日本は.1885年に中国と締結した条約で許され.なおかつ朝鮮王国の秩序の維持と国家保全の観点から必要とみなされる以上の行動をとる考えは毛頭ないと強く否定している。こうした言説は一見罪がないばかりか.善意すら感じさせるものだが.朝鮮国王が中国皇帝の臣下であることをやめたということを中国が1度として認めたことがなく.またこの先も自発的に認めることなどないと思われるので,こんな言葉で中国の抱いた疑惑が払拭されるはずはない。
本社上海通信員は,日本が明らかに朝鮮における支配権の獲得を狙っていると断言し,その根拠として,日本が国王に対し,中国の属国たることをやめ,独立を宣言し,中国の駐在官を退けて日本の保護下に入ることを要求していると言っている。
日本は朝鮮国王の領土を保全し.その国民に改革を導入したいという気持のあることは認めている。彼らは中国がこの有為な事業に協力してくれることを切に願っているが,協力を断られたときには,ためらうことなく単独ででも実行する構えでいる。
結局、日本の狙いに関する中国と日本の認識はかなり似かよった
ものと言える。実を言えば,この隠者の王国,朝鮮における情勢は,全く変則的で,世界の他の地域の有名な事例からも類推されるように,直接的な利害関係を持つ国家同士の紛糾を招きやすいのだ。朝鮮は,朝鮮を守る特別の権利があると主張している2つの隣国を持っている。
中国は,ソウルの現王朝が少なくとも今から500年前に誕生したときからの歴史的宗主権を持っている。現在の国王は,歴代の国王同様,中国の皇帝から王位を授与され,北京には定期的に朝貢する一方.中国の駐在官が宮廷の政策を事実上取り仕切っている。
国王とその国民は.民族.宗教.伝統などの点で中国と類縁関係にあり,仮にも両国がこうした歴史的関係を断ち切る意志を持って
いると判断する理由はどこにもない。
中国は.これまで朝鮮の宗主国としての主張を直接的に取り下げたことは1度もない。しかし,朝鮮が数年前,列強との間で悶着を起こしたとき,中国は愚かにもこの領国を擁護することを拒み.自力で交渉に当たるよう気弱な励ましをするにとどまった。
日本は早速このライバルの失態をかぎっけると,独立国の君主としての朝鮮国王と速やかに協定を結び.以後,ことあるごとに,朝鮮国王を独立国の君主として扱うことを公言するようになった。
こうして始まった「二重支配」は.世界の他の地域における類似の方策同様,うまくはいっていない。日本の使節は近年,大衆によって2度もソウルを追われるという目に遭い,そのたびに日本は朝鮮出兵を余儀なくされた。
中国は.最初の暴動の発生とともに駐屯部隊を派遣し,2度目の暴
動の後,朝鮮ではなく日本の要請で撤兵することになるまで駐留を続けた。天皇の政府と中国皇帝の政府との間で.いくつかの点について今後の朝鮮との関係を規制する協定が結ばれ,その後数年間は両者の間に大きな争いもなく事態が推移した。
むろん,さまざまな軋轢はあったが,これは複数国の代表が.奇特にも非力な隣国の繁栄を深く案じる場合には避けがたいことかもしれない。しかし,ここにきて突然,緊張が高まってきた。
日本の庇護下にあった朝鮮の亡命者(金玉均)が.さる3月,軽率にも危険を冒して上海へ渡り,現地で殺害されたのだ。この事件が朝鮮政府の教唆を受けたものであることはほぼ間違いなく,日本側がほのめかしているように,中国当局も承知の上だったと見られている。これとほぼ時を同じくして朝鮮本国で暴動が起きた。おそらく失政をきっかけにしたに違いなく.ソウルの宮廷のいずれかの派閥が,自分たちの目的のためにあおったものと見られるが,その暴動がこの朝鮮半島に住む日本人が形成する大きな商人社会の財産と生命を脅か
なく速やかに兵を派遣して騒動を鎮圧し,秩序の回復を日本側に伝えた。しかし,日本は構疑心を募らせている。日本の見るところ,この平和は長続きしそうになく,憂慮すべき事態である上に,今度暴動が起きれば,中国はその機をとらえて朝鮮全土を占領し.日本がとりわけ重視している朝鮮の独立を奪うことも考えられ,そうなってはいっそう悪いと考えているのだ。
こうしたことから,日本は本気であることをしきりに強調している。日本は,できれば中国と共同で.しかし単独でも,そして必要な
らば中国を敵に回しても.朝鮮に対し教訓を垂れることが自分の使命だと感じている。そしてまた,少なくともその点を中国にくんでほしいと考えているのだが,幸いにして,日本が将来にわたる大きな利益を棒にふってまで極端な手段に訴えるようなことはまずないものと思われる。
こうした中で.中国は実際にロシアに調停を求めている。これが極東では政策として通用するのだから驚かされる。もっとも,北京の外交官たちも,この調停にそれほど期待するつもりがないのは確からしい。彼らにすれば,それによって,自国の広大な領土に存在する莫大だが扱いにくい資源を引き出すための時間稼ぎになると思い込んでいるのではなかろうか。
たとえロシアに調停を頼んだとしても.時期が来れば丁重かつ速やかにお引き取り願えるものと考えているのだ。そうでなければ,あれほど恐るべき助っ人に協力を求めるはずはない。
わが国が巨文島から撤退する隆に中国がロシアから引き出した誓約が.どんな場合にも必ずスラブ人の野望を完璧に阻んでくれるとは彼らも考えてはいないだろう。
その誓約は確かに明確なものではあるが,世界中が知っているように,ロシアから出た他のさまざまな誓約も同様に明確なものだっ
たが,それを破るのに都合のよいときが来た場合,守られたことはなかったのだ。
その誓約は.ロシアが朝鮮の領土を占領することを否定したものだが,中国がその誓約を要求するだけの価値があると考えたという事実は,この地域におけるロシアの野心が何かを彼らが知っていることを物語っている。
その野心は,ロシアの置かれた地理的条件から必然的に出てこざるを得ないものだ。北太平洋に年間を通じて使用可能なすぐれた港があるということは,ウラジオストクのような凍結港を持つロシアにとって,計り知れない利益になるはずであり.朝鮮にはそうした良港が数多くある。ロシアがそれらの港のどれかを占領すれば,歴史的文明を誇る中国にとっても,また,興味深い社会発展をとげつつある日本にとっても,永久的な脅威となることは,アジアの政治の常識の1つになっている。
また.それによって中国海域に大きな商業的かかわりを持つすべの国々の利益が著しく侵害されるということも等しく確かであり,関
係者によって十分に認識されていることだ。
結局,この危険が現実的で大きなものであるため,中国が属国朝鮮において大いに必要とされている改革にあくまでも反対することはなく.日本も,結局のところは保守的とはいえ御しやすい国王の不興を買ってまで,朝鮮の保全を執拗に主張することはあり得ないものと,信じてもいいかもしれない。
関連記事
-
-
「75年たっても自衛権憲法を全く変えられない<極東のウクライナ日本>」★「ウクライナ戦争勃発3日後に<敗戦国ドイツ連邦議会>は防衛費を1,5%から2%に増額した」★『よくわかる/日本国憲法制定真相史③』★『わずか1週間でGHQが作った憲法草案 』★『30時間の憲法草案の日米翻訳戦争』★『米英ソの対立が決定的となり、2月4日にはチャーチル英首相が「鉄のカーテン」演説を初めておこなった』★『冷戦勃発で、日本の憲法改正問題はこの代理戦争の色彩を帯びた」
日本リーダーパワー史(357)●『東西冷戦の産物の現行憲法』『わずか1週間でGH …
-
-
終戦70年・日本敗戦史(134)満州事変報道で、軍の圧力に屈し軍縮論を180度転換した「朝日」,強硬論を突っ走った『毎日』,敢然と「東洋経済新報」で批判し続けた石橋湛山
終戦70年・日本敗戦史(134) <世田谷市民大学2015> 戦後70年 7月 …
-
-
★『日本経済外交150年史で、最も独創的,戦闘的な国際経営者は一体誰でしょうか講座①(❓) <答え>『出光興産創業者・出光佐三(95歳)』ではないかと思う。そのインテリジェンス(叡智)、独創力、決断力、勝負力、国難逆転突破力で、「日本株式会社の父・渋沢栄一翁」は別格として、他には見当たらない』
『戦略的経営者・出光佐三(95歳)の国難・長寿逆転突破力① …
-
-
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 米国、日本、東アジアメルトダウン(1063)>★「第2次朝鮮核戦争!?」は勃発するのか③ 』★『トランプは「もし何かすれば、見たことないこと起きる」と警告、北朝鮮は「日本列島を焦土化、太平洋に沈没させる」 小野寺防衛相を名指しで非難のエスカレート!』
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国、日本、東アジアメルトダ …
-
-
★『アジア近現代史復習問題』・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(2)ー「北朝鮮による金正男暗殺事件をみていると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」★『脱亜論によりアジア差別主義者の汚名をきた福沢の時事新報での「清国・朝鮮論」の社説を読み直す』★『金玉均暗殺につき清韓政府の処置』 「時事新報」明治27/4/13〕』
『アジア近現代史復習問題』 ・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(2)ー 「北 …
-
-
世界リーダーパワー史(935)ー『迷走中のトランプ大統領のエアフォースワン』★『米中間選挙の予備選挙は事実上、9月12日に終わったが、情勢はこれまでとは一変して民主党が上、下院を奪還する勢い!(世論調査の結果)』
世界リーダーパワー史(935)ー 中間選挙の情勢はこれまでとは一変して民主党が奪 …
-
-
よくわかる日中韓150年戦争史ー「約120年前の日清戦争の原因の1つとなった東学党の乱についての現地レポート』(イザベラ・バード著「朝鮮紀行」より)
まとめ「東学党の乱について」各新聞の報道 イザベラ・バード著、時岡敬子訳「朝鮮紀 …
-
-
『Z世代のための日本戦争史講座』』★『パリ五輪で総合馬術団体で92年ぶりに銅メダル獲得』★『1932年(昭和7)、ロサンゼルス大会馬術で金メダルを獲得した国際人・西竹一選手の偉業を偲ぶ』
パリオリンピックで7月28日、総合馬術の団体で日本が銅メダルを獲得した。日本が馬 …
-
-
『オンライン講座/ウクライナ戦争と日露戦争の共通性の研究 ⑧』★『日露戦争勝利と「ポーツマス講和会議」の外交決戦①』★『その国の外交インテリジェンスが試される講和談判』
前坂 俊之(ジャーナリスト) 日露戦争は日本軍の連戦連勝のほぼ完勝 …
-
-
<イラク戦争から1年>―『戦争報道を検証する』
2003年 12月5日 前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授) …
