『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』➈『英ノース・チャイナ・ヘラルド』報道ー『日露開戦6ヵ月前ーロシアの満州併合は日本の保全と独立にとって致命的打撃の前段階となる』●『(ロシアの主張)シベリア鉄道と東清鉄道はロシアと中国の貿易を促進するため,また中国にいるロシアの競争相手たちを追い出すためのもの』
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑧
『英ノース・チャイナ・ヘラルド』報道ー
1903(明治36)年7月3日
『英ノース・チャイナ・ヘラルド』
『満州問題』(ロシアが日本を納得させるなど不可能)
情勢の最大の困難は,ロシアが日本を納得させるなどとても不可能だということにある。
イギリスや合衆国は,口約束でごまかすことができる。どちらの領土も独立もロシアの侵略によって脅かされることはないし,両国政府はどこに自分たちにとっての脅威があるのか,まだ理解していないからだ。
だが,前にも指摘したように,日本の場合は違う。日本の政治家が政治家たるに値するためには,先を見越す能力が必要であり,わがイギリスの外務省のように,ただあるがままの状況をうのみにして満足していてはとてもやっていけない。
日本の政治家ならどんなに目端の利かない者でも,ロシアによる満州併合が日本の拡張計画にとって命取りであるばかりでなく,日本の保全と独立にとって致命的打撃の前段階となることくらいは,嫌でも見えてしまうのだ。
日本の政治家たちは,もともとの盟友である中国の同意を得て,満州に余剰人口を送り込んで住まわせたいと望んできたし,それは公然と認められてもいた。
だが,満州がロシア化してしまえば,この期待は完全に打ち砕かれるわけだし,そればかりか,ロシアがいったん鴨緑江に腰を据えてしまったら,ロシア人がもう1歩南下しようとしたとき,朝鮮半島の王国ではとても防ぎきれないだろうということも考えざるを得ない。
ロシアの政治評論家が最近語ったところによると,朝鮮海峡は極東のボスポラスとも言うべきところで,この海峡を日本の支配下に置いておくのはロシアに
とって危険だという。
かつて対馬を占領しようというロシアのたくらみを打ち砕いたのはイギリスの軍艦だったが,この試みは忘れられたわけではなく,ただ延期されているだけだと思って間違いないかもしれない。
イギリスのジャーナリストたちは.ドイツ嫌いという伝染病にかかっていて,ロシアと手を組んでドイツをいじめたいと思っているから,どこが満州を併合しようと関係ないと盛んに言う。
満州が中国の支配下からロシアの支配下に移っても,今まで通り,いやたぶん今まで以上の貿易ができるに違いないから,と言うのだ。
だが,もしもその地に日本の移住者の開拓地があり-これは消費者であると同時に抜目のない生産者でもあるのだが-またサー・ロバート・ハートが管理する税関ができていたなら,わがイギリスと満州の貿易はきっと急激に拡大していたに違いない。
それにひきかえ,ロシアが3省を併合する第1の目的は,イギリスや合衆国の貿易を押さえ込んで,自国の貿易を伸ばすことにあるのは明らかなのだ。
フオートナイトリー・レヴュー誌の6月号にこのことを詳しく述べた「満州の災い」と題する記事が載っている。筆者は,アジア・ロシアの旅行記が最近注目を集めたウィルト・ジェラール氏だ。
ジェラール氏は当然のことながら,ヨーロッパ列強を弱腰の優柔不断と決めっ
け,こう述べている。
彼らは「日本に満州地方の支配権を放棄させ,ロシアが残ることは黙認している。ロシア側に居残るより正当な権利があると認めたからではなく,ロシアを追い出そうとすれば必ず戦争になるからであり,どの国も不満を抱いているくせに,戦争は他国にやってもらいたいと思っているからなのだ。
どこかの外国の権利をロシアが侵害し,ついにはだれかが何か事を企て,その結果自分たちにはなんら害が及ぶことなく,しかも望ましい結果が転がり込むことになればいいと,どの国も願っているのだ」と。
しかも,ロシアが何度も撤退の約束をしているということは,満州に対するロシアの権利の弱さを自身認めでいるということだと,同氏は指摘している。
わが外務省がいかに容易に巧言にまるめ込まれてしまうか,その証拠として,ジェラール氏はつい2か月前にランズダウン卿が得意げに語った言葉を引用している。卿はこう言った。
ロシアの公式見解は,「外国との通商の発展こそ,ロシア政府が満州における鉄選敷設に着手した主眼の1つだ」というものだと。しかし,事実はその逆だとジェラール氏は言う。彼はこう続けている。
「シベリア鉄道と東清鉄道はロシアと中国の貿易を促進するため,また中国にいるロシアの競争相手たちを追い出すためのものだ。ロシア政府自身がロシア国民に向かってそう言っている。
これはロシア政府自身がロシア商人に信じ込ませようとしてきたことでもあるし,中国の港で交易しているアメリカ人やヨーロッパ人がその通りだと知っていることでもある。
だが,ロシア貿易産業促進協会のメルクロフ氏は先ごろ,この鉄道ではロシアの貿易利益を守るには不十分なことがすでに分かっていると述べ,ロシアは満州に外国商品が入ってくるのを防ぐ手立てを講じなくてはならないと言明している。ロシアから見ても,他の国から見ても,満州支配は貿易問題抜きにしては考えられないことは明らかだ。
生命と財産の安全が保証されるなら,そして中国の他の地域と同じように自由に貿易させてくれるなら,外国人にとって,だれが満州を治めようとたいした問題ではない。ロシアは生命と財産の安全の方は保証するだろうが.自由貿易の方は認めないだろう。
ロシアの政策は一貫している。細部は変わるだろうが,それは,ロシアがめざす目的を達成するため,つまり外国貿易をロシアのルートに変更するため,その時々に最上の策と思えるものに合うように変えられるに過ぎないのだ」
すべての約束や取決めにもかかわらず,ロシアに満州から撤退する意志のないことがはっきりして以来,われわれはロシアの主な目的の1つがアメリカやイギリスの製品を追い出し,代りに自国製品を送り込むことにある,と主張してきた。
ロシア人の抱いている思いについては,3年ほど前にこの欄でも述べたが,ある著名なロシアの政治家がこうはっきり言葉にしている。
「われわれは東シベリアに膨大な金を注ぎ込んできたが,何も戻ってこなかった。それを満州で取り返すのだ」と。
ロシアが満州を併合するのも,モンゴルや中国領トルキスタンやチベットに徐々に迫ろうとするのも,狙いは,中国との膨大な量の貿易をやがてはその手に収めようということにある。日本はそれを知っている。中国にいる外国人も知っている。やがてはわが外務省や合衆国国務省も知ることにはなるだろう。だが,そのときには,たぶん手遅れになっているだろう。
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