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『ガラパゴス国家・日本敗戦史』⑬『 戦争も平和も「流行語」とともにやってくる』(上) 月刊『公評』(2011年11月号掲載)

      2015/01/01

 


『ガラパゴス国家・日本敗戦史』⑬

 


『アジア太平洋戦争と流行語の関係は―

『 戦争も平和も「流行語」とともにやってくる』(上)

月刊『公評』(2011年11月号掲載

 

 

 

        前坂 俊之

             (静岡県立大学名誉教授)

 

来年の2015年は戦後70年。歴史認識、集団的自衛権、従軍慰安婦問題などをめぐって日中韓の対立が激化し、戦後最悪の関係に冷え込んでいる。また、第一次世界大戦から100年目を迎えてヨーロッパではウクライナをめぐるEUとロシアの対立も一触即発の情勢だ。

世界は再び、第3次世界大戦に逆もどりしてしまうのか。歴史は再び繰り返すのか、世界中で懸念が高まっている。

 

今こそ、歴史をふりかえり、過去の戦争の苦い教訓を生かさねばならない。日本の15年戦争への道の失敗の教訓を「時代の空気」「時代の熱風となり、人々の心に火をつけた『流行語』や「国策スローガン」の関係を、現在の【流行語】と比較しながら考えてみたい。

 

今は昭和史の揺り戻しで、15年戦争という言葉も「死語」と化しているが、この歴史的用語は有効と思う。

大東亜戦争(アジア太平洋戦争)への道は満州事変(1931(昭和6)年9月)が発火点で、その後、約5年サイクルで、1936(同11)年2月の226事件の発生(陸軍内部抗争の爆発、統制派によるファシズムの完成)までが第一期、翌年7月の支那事変開始)で第2段階に入る。これ以降、中国大陸での戦線拡大、泥沼化が続き、米国からの経済封鎖、石油輸出禁止などの措置で1941(同16)年12月の日米戦争開戦が第3レベルへの突入である。緒戦の勝利から中国、英米、オランダなどを相手に太平洋全域での全面戦争へと発展、戦局は米軍の圧倒的な軍事力による反撃で1転して全面敗北を続き、本土空襲、広島、長崎原爆投下でついに、1945(昭和20)年8月に無条件降伏(終戦)した。結局、約15年間で大日本帝国は膨張し滅亡した。

局面は第1期(非常時)、第2期(戦時下、戦線の拡大、激戦化)、第3期(英米との全面戦争、敗北、破滅)と約5年ごとに一回転したのである。

 

 

  15年戦争の第一期、満州事変からの軍国熱の昂進、国際連盟脱退へ

 

戦争に突き進む過程での流行語の変遷をみていくと、日本人の思考、情勢判断、見通の甘さが端的に示されている。

第一期の満州事変のスタートとなったのは『満蒙は我が国の生命線である』という松岡洋右(のち外相)の言葉で流行語となった。「満州国の建設」(昭和73月)により『5族協和』(日本民族、漢民族、満州族、朝鮮族、蒙古族)「王道楽土」「夢の大陸」などがキーワードになり、流行するが、国際連盟リットン調査団による「満州国は侵略」という結論から日本は国際連盟から脱退を表明(昭和8年3月)し、「世界の孤児」へと転落していく。このとき、国際連盟に対して「日本と満州の現状への認識が足りないとして、「認識不足」が流行語になった。

この満蒙問題を解決しようとした犬養毅首相は1937(昭和7)年5月15日に、首相官邸を襲った9人の海軍軍人によって暗殺される。

 

テロの瞬間、犬養首相は「話せばわかる」と制したが、2人が「問答無用、撃て!」とピストルを頭部に発射した。77歳の老首相を、若い軍人が銃撃する前代未聞のテロであり、当時の日本の軍人の野蛮さ、軍部ファシズムの昂揚を象徴している。ところが、この軍人たちに「国家改造の愛国的な気持ちはよくわかる」と国民から減刑嘆願が殺到、陸軍大臣も同情発言したところに、テロ賛美の病理が現れている。このテロが政党政治にとどめをさす1撃ともなった。

 

そのころの『流行語』を年代順に追っていくと

 

・昭和6年(1931)減俸時代―減俸時代 生命線、のらくろ二等卒、軍国の妻

・昭和7年(1932)時局非常時時代-肉弾三勇士、「はなせばわかる」「問答無用」天国に結ぶ恋、非常時内閣

・昭和8年(1933)非常時小康時代―ヨーヨー 三原山投身自殺、東京音頭防空演習

・昭和9年(1934)軍需景気時代―神風 「戦いは創造の父、文化の母)「あじあ」号、大日本東京野球倶楽部(プロ野球の始まり)

・昭和10年(1935)増税時代―忠犬ハチ公、増税時代 暁の超特急、喫茶店

 

 

犬養首相暗殺後は、軍人が政治に介入して軍人宰相が相次いだ。昭和7年5月26日に誕生した齋藤実内閣は〝挙国一致″をスローガンに掲げて「非常時内閣」と呼ばれた。以来、時局は準戦時体制、非常時、挙国一致、官民一致、総親和、国家総動員、戦時体制、聖戦、銃後などが流行語化したが、「非常時」は戦前、戦中を通じて使われる長い流行語になった。

 

その第一期のおわりが1934年(昭和112月の226事件である。陸軍内が『皇道派』「統制派」に分裂、内部抗争が激化して、日本の歴史上最大のクーデターに発展した。前年(10年)8月には陸軍省内で執務中の統制派トップの永田鉄山軍務局長を皇道派の中佐が日本刀で切り殺すという常軌を逸したテロ事件が起きた。

 

この血みどろの抗争で昭和維新断行を叫んだ『皇道派』の若手将校ら1400人が決起して、首相官邸、各大臣を襲い、齋藤実内大臣(元首相)、高橋是清蔵相、渡辺錠太郎陸軍教育総監らが暗殺されるという日本の近代史上最大のテロ事件である。国民も新聞もこの暴力の応酬とテロの総本山としての陸軍の存在に震え上がってしまった。政治のブレーキの利かない陸軍運転の暴走列車としての軍国主義ファシズムはここに完成する。

 

この第一期で、歴史の教訓となるのは『流行語』に戦争への足跡がきっかり刻印されていること。肉弾三勇士、軍神、「問答無用」「戦いは創造の父、文化の母」(陸軍パンフレット)などから、軍靴がどんどん大きくなって近づいてくるのを感じる。

 

さらに、軍も政治家も新聞も国民の大半も戦争への道をバンザイして歓迎し世界の現状への認識不足であったことだ。満州事変、満州国建設が侵略であると国際連盟から全¥認定されたのを『認識不足』として批判、脱退した日本は、当時、国際連盟の常任理事国であった名誉ある地位をわざわざ投げ捨てて脱退したのである。

 

今、日本は国連の非常任理事国になるために賛成国を必死で集めているが、80年前の日本はどんなに「認識不足」「外交音痴」「視野狭窄の独善主義」に陥っていたか苦い教訓である。

 

つづく

 

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