前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(559)世界が尊敬した日本人ー明治維新を点火した草莽の革命家・吉田松陰

      2015/04/08

syouinn  日本リーダーパワー史(559)

    世界が尊敬した日本人

明治維新を点火した草莽の革命家・吉田松陰

                  前坂 俊之(ジャーナリスト)

 

NHK 大河ドラマ「花燃ゆ」が話題となっている。

今から150年前、「人に士農工商あり。農工商は国の三宝。武士は国の寄生虫はなり。厚禄をはみ、おごりたかぶるはもってのほか」「内政は貧院(生活保護)、病院、幼院(孤児・保育)を設けて、上を損じ、下を益すにあり」「外政は鎖国より国際貿易を推進し、民富、国力をこやせ」―など、今にもりっぱに通用する民主主義の理念と開国論を唱えた草莽崛起(くっき)の人・吉田松陰は「天朝も幕府も藩もいらぬ。ただ、6尺のわが身のみ」と「の革命家」に変身して国禁を破りアメリカ密航を企てわずか30歳で刑死した。明治維新に最初に火をつけたのは坂本竜馬、西郷隆盛らではなく吉田松陰その人である。

吉田松陰についての最初の伝記は英国で出版された。「宝島」(1883年)を書いた英国の文豪・ロバート・スティーヴンソン(1850-1894)は明治11年頃、英国に出張中の松陰の弟子・正木退蔵から話を聞いて感激して”Yoshida Trajiro”を著し「これは英雄的な一個人の話であるとともに、英雄的な一国民の話だ。このような広大な志を抱いた人々と同時代に生きてきたことは実に歓ばしい」と激賞した。

ところが、日本での松陰の評価ほど変化したものはない。昭和戦前までは尊王攘夷の志士、天皇崇拝主義者、太平洋戦争中は忠君殉国の烈士として英雄賛美され、戦後は全面否定され、その後、至誠の教育者、民主主義者として再び評価されるなど2転3転した。

松陰の実像はどこにあるのか。天保元年(1830)8月、山口県萩の半農の下級武士の子に生まれた松陰は早熟の天才で、兵法学を学び11歳で藩主に講義するまでになる。世は幕末の乱世。列強のアジア進出と外国船襲来に危機感をもった松陰は20歳のころから海防と兵学、海外事情の研究に熱中し、九州から江戸、東北までくまなく旅して、国事に奔走した。

安政元年(1854)3月、24歳で、ペリーの再来航にあわせて小舟で米艦への乗り込みアメリカ渡航を懇願するが、拒否される。下獄、幽囚されこと5年半に及び、刑死することになるが、その疾風怒涛の思想的営為はこのわずかな間に獄中から生れた。フランス革命がバスティーユの監獄から生まれたように、獄中での必死の思索と苦悶の果てに尊王攘夷から人民民主主義者、革命家に生まれ変わった松蔭の変革への情念が明治維新への扉を開き、日本を「チェンジ」したのである。

松陰は膨大な著作を残したが、それは日記、書簡、孟子講読などの断片的な思想的な萌芽といってよい文章で、体系的なものではない。ただ、そこには烈々たる気迫と変革への情熱と誠志がみなぎっている。松蔭の真骨頂は思索の人である以上に知行一致の実践の徒であり、有言実行の人、21回猛士を自称したように、何度失敗してもやる烈士(革命家)なのである。言葉だけの武士、政治家、学者を最も軽蔑していた。

それだからこそ、わずか2年ほどの「松下村塾」での教育で門弟・高杉晋作、久坂玄瑞らを筆頭に伊藤博文、山県有朋ら約30人の少年隊に革命精神を吹き込み、それが革命隊となって長州藩を動かし、怒涛となって明治維新を実現したといえる。

野山獄で76歳の重罪人を筆頭に11人の囚人をわずか8ヵ月ほどで真人間に生き返らせたその教育力、人格感化力は「一誠 兆人を感じせむ」(精神は万人を動かす)というように驚異的であり、超人的でさえある。結局、伊藤、山県らが牛耳った明治藩閥政府は偉大な師の実像を歪めて皇国史観に利用したのである。

松蔭はその「至誠の人格」から密航の罪を認め、その上、バカ正直に幕府の大官暗殺計画まで幕府役人に打ち明けたためついに死罪を申し渡される。

安政6年(1859)11月21日、江戸伝馬町の獄で打ち首となるが、辞世の句は「此程に思ひ定めし出立を けふきくこそ嬉しかりける」。享年30歳。

 - 人物研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(99) 日本最高の名将川上操六⑮山県有朋陸軍法王を解任、一喝したすごい男

日本リーダーパワー史(99) 名将川上操六⑮山県有朋陸軍法王を解任、一喝したすご …

no image
日本経営巨人伝⑫大沢善助ーーーわが国電気事業の先駆者・大沢善助の波乱万丈人生

日本経営巨人伝⑫大沢善助   わが国電気事業の先駆者・大沢善助 <波乱 …

no image
日本風狂人伝⑭ 頭山満・大アジア主義者の「浪人王」

      &nbs …

『オンライン講座/日本興亡史の研究』★『明治の富国強兵/軍国主義はなぜ起きたのか』★『明治政府が最初に直面した「日本の安全保障問題」は対外軍備を増強であり、ロシアの東方政策に対する侵略防止、朝鮮、 中国問題が緊急課題になった』★『現在の対中国・韓国・北朝鮮問題の地政学的ルーツである」

  2015/11/25/日本リーダーパワー史(612)日本国難史にみ …

『オンライン講座/最強のリーダーシップの研究 ⑪』★『児玉源太郎の電光石火の解決力⑦』★『日英同盟によって軍艦購入から日本へ運航まで、英国は日本を助けて、ロシアを妨害してくれたことが日露戦争勝利の要因の1つである』

2017/06/04 日本リーダーパワー史(820)記事再録『日清、日露戦争に勝 …

no image
現代史の復習問題/「延々と続く日韓衝突のルーツを訪ねるー英『タイムズ』など外国紙が報道する120年前の『日中韓戦争史②<日清戦争は朝鮮による上海の金玉均暗殺事件で起きた』

  2011年3月4日の記事再録 英『タイムズ』などが報道する『日・中 …

no image
近刊紹介「痛快無比!ニッポン超人図鑑ー<奇才・異才・金才80人の面白エピソード>」<新人物文庫、1月10日刊行>

  『痛快無比!ニッポン超人図鑑』<奇才・異才・金才80人の面白エピソ …

no image
百歳学入門(182)-山田恵諦(98歳)の座右銘「勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ」 

  山田恵諦(98歳)の座右銘・ 勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ    …

日本リーダーパワー史(537)三宅雪嶺の「日英の英雄比較論」―「東郷平八郎とネルソンと山本五十六」

       日本リーダーパワー史(537) 三宅雪嶺の「日英の英雄比較論」― …

『Z世代への昭和史・国難突破力講座③』★『吉田茂の国難突破力』★『GHQ草案を受入れるかどうか「48時間以内に回答がなければ総司令部案を発表する』★『 13日、日本側にGHQ案を提出、驚愕する日本政府』

2021/06/24日本リーダーパワー史(356)<日本の最も長い決定的1週間> …