前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史 ⑦ 最高のリーダーは西郷従道,その機智とユーモア②

   

 
                            2009、08,15
 
西郷従道③―『何でも大臣』の機智、ユーモア 
 
 
       前坂 俊之
   山本権兵衛が西郷従道に認められる
 
傲岸をもって知られた山本でも西郷従道侯には一目おいて居られたと云ふが、其内幕を覗くと中々面白いものがある。山本英輔はかって、
 「西郷侯でもいなかったら.叔父も少佐か中佐位で終ったかも知れぬ、あんな悼馬はよほどな豪傑でたければ乗れぬからね…」
といはれた事がある。この悼馬が従道侯に知られ初めがなかなか振っている。
 
 「閣下は新参、私は古参だ!」
 
と、これが伯のあいさつだった。
従道侯は初め陸軍に籍をおき中将時代を経て後、海軍卿の顕職に就かれた事は世間周知のところだが、私は曾て当時の事を伯に確かめた事がある、すると伯は次のように語られた。
 
 「ソーね、西郷さんが陸軍から回って来られた時に、早速、我輩を呼ばれて、種々海軍に関する事を問はれたから一応は答へたが、何しろ海軍の一般を知るのに一日や二日で分るものじゃないから、

我輩が七ヶ月かかつて漸く書き上げた調査書があったので『これを御覧下されば大体判ります』とその調査書を提供した。すると二週間位経って再び呼ばれたから行って見ると、その書類を『モー済んだから』と云って返されたヨ。

我輩もイクラ従道侯でもそんな短時日で分るものかと思って『お判りなりましたか』と尋ねたら『判った』との返事だ、そこで我輩は開き直って大声一番……『閣下それは何事ですか!閣下は海軍においては新参者ではござらぬか、

 然るに山本は海軍に生れ海軍に育ったのですから海軍においては私が古参です。その古参が七ケ月の日々を費ひやして調べた事を、一週間や二週間で判ったとはあまりにも無責任ないい分と思ひます』……ときめつけると、西郷サンは『ソンなら・今一度貸してもらおう。さらに拝見しょう』と素直に出られたヨ、

  それからまた二週間もすると呼ばれたから行って見るとー前と同様この書類を返された。今度は『お読みになりましたか』と尋ねると『読みません』と云う返事じゃないか、之には我輩も驚いたね……そこで『それじゃ閣下はいくら読んでも判らぬから、一切お前に任かすと云ふ意味ですか、

それなら話が分ります』と聞き返したところが、頭をかかれながら『その通り、その通り』と来たね、西郷サンはこうしたふうの底の知れぬ図太いところのある人だったヨ、そうなると信頼された者も中々責任が重くなるものだ。」

この時が2人の初対面ともいうべきだろうが、いう者もいう者だが任かす者も、また常人では出来ぬ芸当である。かくて両者が全く相信じ相和して今日の我無敵海軍の基礎をつくられたのだが、誠に汲めども尽きせぬ風格が偲ばれ、おくゆかしい限りではある。
 
 
   西郷海相の奇智
 
 何時の頃かはっきり記憶せぬが、何でも黒田内閣か、伊藤内閣の頃であったと聞くが、ある問題で閣議がすこぶるるもめた事がある、其時後藤象次郎伯が偉らい剣幕で大議論をおっぱじめ、今にも山雨到らん形勢となって来たので、西郷海相はソツと、真っ赤になって脇目もふらず論じている後藤伯の背後に回りその椅子を後ろに引いて置いた。

それを知らぬ後藤大臣が議論終って座らんとして、見事スッテンコロリと倒れた。そのところを西郷海相はすかさす手を叩いてアー後藤サンが倒れたーーハハハハ

「これは仕舞った内閣が倒れた」 - と大声で笑ひ出した。

するとどの計略を知らぬ閣僚は初めあっけに取られていたが、間もなく西郷海相の奇智と判って、一同ドット吹き出した。そのために今にも鉄拳が飛ぶかと思った後藤伯までも苦笑ひして、今までの緊迫した場面も一掃されたという逸話がある。

ところが、この従道侯の上を行く豪傑もいた。それは同じ鹿児島の人で明治の中頃まで滋賀癖知事をした故原敬氏の岳父に当たる極めて奇行の多い中江櫻洲翁であった。

この人と西郷さんとの間に面白い話がある。従道侯はあれでなかなかハイカラだったので、早くから西洋式のベッドを用いるており、それをだれ彼れにもしきりに勧めて居られたものだ。ある時、中江翁が

「君もベッドを造り給へ、寝心地もよいが、健康にもよい、芝の何某家具屋が上手に作るよ」

と言われたので中江は「アーソウカ……」と言ったままま、その家具屋に命じて造らせ、出来上がった代金の請求が来ると、家具屋に「それは西郷の宅に取りに行け、あれが造れと言ったのだから」との事なので、家具屋は西郷家に請求支払いを求めた。

ところが従道侯は中江翁に勧めたことなどすっかり忘れており、「変だな」と無論金は支払った。後になって「中江にしてやられた」と思いだしたという。昔の政治家はこうしたいたずらも平気だった。

                                                                                                                                            
                                                     続く

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%83%B7%E5%BE%93%E9%81%93

 
 

 - 人物研究 ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(179)記事再録/★ 『本田宗一郎(84歳)』ー画家シャガール(97歳)に会ったいい話「物事に熱中できる人間こそ、最高の価値がある」★『私は生きていく大きな自信をもったのは貧乏な家に生まれたからだ』★『貧乏はクスリ、人生も企業も、一度貧乏とか不況とか克服すると一層強くなる』

 2015/03/11 / 百歳学入門(105)の記事再録 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(146)再録★『昭和戦後宰相最大の怪物・田中角栄の功罪ー「日本列島改造論』で日本を興し、 金権政治で日本をつぶした』★『日本の政治風土の前近代性と政治報道の貧困が重なって、日本政治の漂流が続く』★『 2014/12/09 /安倍首相は「土光臨調」で示した田中角栄の最強のリーダーシップを見習えー<言葉よりも結果>だ』

2015/07/29 / 日本リーダーパワー史(576)記事再録 日本 …

「世界的日本人びっくりクイズ①」<日本の歴史上の人物で、最大の世界的天才とは誰か>南方熊楠こそグローバル・スーパーマンです>

  「世界的日本人びっくりクイズ①」 <日本の歴史上の人物で、最大の世 …

no image
<名リーダーの名言・金言・格言・苦言・千言集④●『他人の不幸による、漁夫の利を占めるな』小平浪平(日立製作所創業者)ら10本 

  <名リーダーの名言・金言・格言・苦言 ・千言集④>       前 …

no image
記事再録/日本リーダーパワー史(575)明治維新革命児・高杉晋作の「平生はむろん、死地に入り難局に処しても、困ったという一言だけは断じていうなかれ」①

  2015/07/29  日本リーダーパワー史( …

『Z世代のため百歳学入門』★『平櫛田中(107歳)、鈴木大拙(96歳)の教え」★「六十、七十 はなたれ小僧、はなたれ娘、人間盛りは百から、百から」 平櫛田中』★『人間は過去と他人は変えられないが、自分と未来は変えられる。老人は過去から、未来に生きるスイッチに切り換えなさい」(鈴木大拙)』

2024/06/02  記事再編集 <写真は25年5月7日午前7時に、 …

『日本の運命を分けた<三国干渉>にどう対応したか、戦略的外交の失敗研究』⑰』★『なぜ「黄禍論」は「日本禍」となったか 』★『W・K・フオン・ノハラ著、 高橋輝好訳『黄禍論-日本・中国の覚醒』(2012年)二冊を読んで、大変啓発された』★『三国同盟の主犯は在日ドイツ公使「マツクス・フオン・ブラント」だった』

 逗子なぎさ橋珈琲テラス通信(2025/11/17am700) なぜ「 …

no image
知的巨人の百歳学(142)明治維新/国難突破力NO1―勝海舟(75歳)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」★『人間、長寿の法などはない』★『余裕綽綽(しゃくしゃく)として、物事に執着せず、拘泥せず、円転・豁達(かったつ)の妙境に入りさえすれば、運動も食物もあったものではないのさ』

明治維新/国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」 ① …

『リーダーシップの日本近現代史』(333)記事再録★『日本議会政治の父・尾崎咢堂の国難突破力③>』★『世界に例のない無責任政治、命がけで職務に当たらず 辞任しても平気で再び顔をだす3代目政治家』③』

    2012年2月25日/日本リーダーパワー史(238) …

no image
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 米国、日本、東アジアメルトダウン(1063)>★「第2次朝鮮核戦争!?」は勃発するのか③ 』★『トランプは「もし何かすれば、見たことないこと起きる」と警告、北朝鮮は「日本列島を焦土化、太平洋に沈没させる」 小野寺防衛相を名指しで非難のエスカレート!』

★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国、日本、東アジアメルトダ …