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『リーダーシップの日本近現代史』(59)記事再録/『高橋是清の国難突破力①』★『日露戦争の外債募集に奇跡的に成功したインテリジェンス

      2019/12/02

 

  

 日本リーダーパワー史(172)

 『高橋是清の国難突破力①』 

 
     前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
この論考は2011年3月の福島原発事故の4か月後に書いたもの。福島原発事故の「未曽有の国難」にいかに対処すべきかを考えた結果、近現代史の中で先人たちが戦争、災害、地震、大事故、大事件に対して、リーダいかに対応してきたかの1つのケーススタディーとして日露戦争への対応をしらべたもの。
ーーーーーーーーーーーー
 
① 国家戦略本部がない国、対外インテリジェンス組織のない珍国がわが日本である。国益がなにかの規定もない。だから、タテ割の各省庁が自らの省益に固執して、国益を無視して暴走し、利用もされない箱モノ行政を続けて、天下りの組織、団体を作り続ける。民主党益、自民党益、公明党益、経団連益は追及しても、日本全体の利益、国民の利益、国益を目指す『大同小異』の『大同団結』の行動はとらない。つまり、『頭脳のない図体(経済)、のおおきな私益的な国家が日本なのである。
② 以上の点は、日本人にいかに戦略的思考がないか、インテリジェンスがないか、の証明だが、このシリーズの中では再三その点を指摘してきた。その証拠の1つとして、日露戦争について見てみても、膨大な本が出版されているが、大半の本は軍事的な視点で、軍人中心に記述したものがほとんど。その軍事的なものでも戦略的、インテリジェンスの面から日露戦争を分析した本はまだまだ少ない。ましてや、高橋是清のロンドン市場での外債募集の奮闘記を徹底して調べた本は、軍事日露戦争本に比べるとあまりにも少ない。
 
③ 「金がなければ戦(いくさ)は出来ぬ」は世の東西、歴史の法則である。日露戦争は表向きは日露の軍事衝突と同時に、グローバルに見れば英、仏両金融資本の極東における覇権争いの一部である。ロシアは軍費をフランスからの外債に頼り、日本はイギリスに頼り、高橋是清がロンドン市場での外債募集に成功したのが勝利を決定した。
 
④ 今回は、高橋是清がなぜ成功したのか、その情報、交渉術、インテリジェンスを見てみる。明石工作が何個師団のh兵力に相当したように、、高橋のインてテリジェンスが日本を救ったのである。
 
⑤ 今、日本は『第3の敗戦』、福島原発暴走阻止戦争に突入している状況である。日露戦争、太平洋戦争と同じである。敵国との人間がもった武器と武器との戦いではなくて、未知なる放射能物質との戦いであり、敗北すれば大量の被爆死がでる国難であることにはかわりはない。ここでは歴史的な想像力を駆使する必要がある。
 
⑥ 日露戦争では難攻不落の203高地を陥落させるために下から38歩兵銃をもって、上から丸見えの、丘をよじ登って、夜間突撃を繰り返すことによって、ロシア側から機関銃、大砲で一斉射撃されて死者累々の屍の山を築いた。日本軍兵力は10万人のうち死傷者:6万212人という日本兵の集団自殺的な戦死といわれた。これほど長期にわたって災害をもたらした例は、戦争史上に類がないと言われる。
 
⑦ 一橋大学名誉教授・藤原彰氏の調査によると、アジア太平洋戦争における戦死230万人の内、その約六割、約140万人が「餓死」と推定している。
その出典『餓死した英霊たち』(藤原彰著 青木書店)では「餓死」とは、栄養失調による「不完全飢餓」によって病気に対する抵抗力を失った結果としての戦病死をもふくむ広義の規定である。
 「ガダルカナル島の場合、方面軍司令官は死者2万、戦死5千、餓死1万5千と述べている。ブーゲンビル島では、死者約2万はほとんど餓死。 …ソロモン諸島の死没者の四分の三にあたる 6万6千名が餓死したと考えられる」。
 「厚生省の調査では、東ニューギニアの戦没者は12万7千。いずれも死者の九割以上、実に11万4840名が餓死だったとしている。
 インパール作戦をふくむビルマ方面軍でも死者の78%、14万5千人かそれ以上が餓死者と推定。中部太平洋では、サイパン、グアム、テニアン、ベリリューなどの諸島では日本軍は上陸した米軍と戦って「玉砕」した。全体では12万以上が病死・餓死していたと見られる。
 日本軍が最も多くの死者を出したフィリピン戦線で、8割の40万人が餓死と推定。中国戦線での死者は45万5千だが、栄養失調に起因するマラリア、赤痢、脚気などによる病死者は死因の三~四割を占める。中国戦線での全死者の約半数が栄養失調にもとづく病死であり、22万以上である。合計では 1,276,240名に達し、全体の戦没者2,121,000名の60%強。77年以後の戦没軍人軍属230万という総数に対して換算すると 140万前後が戦病死者、そのほとんどが餓死者ということになる」と結論づけている。       

 
⑧ 太平洋戦争での米軍による空襲によって1945年3月10日 米軍による東京大空襲死亡8万、負傷4万人 被災家屋:26万,同年8月6日  米軍による広島への原爆投下 死者十数万―30万人、8月9日 米軍による長崎への原爆投下 約7万4千人―15万人が死亡するなど、数十万人が犠牲になった。
⑨ 今回の福島原発事故、放射能漏えいは広島型原爆の50発以上に相当すると言われる。海洋汚染、地下汚染はなお続いており、事故の収束には数十年かかる見込み。いま、長期の阻止戦争が始まったばかりだが、地球上での最凶、最悪の「死の灰」「放射能」との阻止戦争を迎え撃つわが国の体制は、いまだ国防に当たる政府、防衛省などの1本化された体制ではなく,大失敗をした民間の営利会社・東電が中心となってわずか千人単位の下請けの作業員でおこなっているという前代未聞の体制である。(ちなみにチェルノブイリでは軍隊など60万人の総動員体制で一挙に鎮圧した)       

日露戦争、太平洋戦争とくらべても、最凶、最悪の敵に対する兵力、軍備、情報は天文学的にすくない。これで勝てるわけがなく、数年後、数十年後の『静かなるガン死者続出』、死者累々という国難、戦争になるののではと危惧する。かつてのテツを絶対踏んではならない。

 
⑩ 古来「国、大なりといえども、戦いを好む時は必ず亡ぶ。国、平和といえども戦いを忘れた時は必ず危うし](史記)と言われる。明治以来の歴史は正にこの通リである。日露戦争に勝って発展し、大東亜戦争で敗戦し、昭和20年から経済至上主義(GDP至上主義)の経済大国化の暴走は、1千兆円の財政赤字を増やし、原発自爆テロ(日本病―腹切り民族の特­性)によって、最悪の場合、日本民族絶滅の危機にひんしている。
人類にとって最悪、最毒、最凶の放射能との、これまた人類の経験したことのない戦いが始まっているとの認識がなければ、日本は亡びるみちしかない。平和は叫ぶのではなく、­戦うことによってのみ勝ち取ることができる。       

 
⑪ そのためには、情報戦、インテリジェンス戦争に切り換えること。よく考えて、徹底して情報を集め、国際的な英知を結集し、適切な戦略、戦術を立て、IT技術を総動員し、命令指揮1本化によって人海戦術で高度技能の作業者を大量動員し、昼夜兼行で、短期決戦で当たるしかない。
 
⑫ 今回は日露戦争での外債募集で奇跡的に成功をおさめた高橋是清の国難突破力、インテリジェンスを参考に見て行く。『金がなくては戦(いくさ)は出来ぬ』は戦争ばかりでなく、復興にもあてはまる。原発廃炉にも当てはまる。1000兆円に積みあがった財政赤字を無視して、この問題の解決の道筋なくしては、復興も原発暴走阻止もなにも出来ないのである。政治家は今、日本が2重、3重どころか人類が経験したことのない何重もの難問題、困難な問題を全部一度に突きつけられていることを直視する必要がある。永田町で亡国の井戸端会議などやっている場合ではない。       

 
 
国家予算の4倍もの外国から借金をして日露戦争を行った。
 
 
 日露戦争いうまでもなく日露の軍事的衝突だが、それは一面にすぎず、世界史的見地からいえば英、仏両金融資本の極東における争覇戦の一部であった。帝政ロシヤがその軍費をフランスから友好国・外債をあおいだのにたいし、日本はイギリスにこれを求めた。ロンドン市場での奇跡的な外債募集の成功が日本のロシヤに対する勝利を決定づけたのである。
 
そ日露開戦直前の明治三十六年末のわが国正貨保有額、当時日銀所有の正貨はわずか1億7500万円。そのうち日露開戦ともなれば三千五百万円は外国銀行が持ち出すことが予想され、また輸入品の代価支払いに三千万円を必要で、結局六千五百万円が海外に流出するから、日銀は差引き五千二百万円しか正貨しか残らない。しかも、これには開戦後、激増する海外発注んp軍需品代価は含まれていない状態であった。
 
これに対して、政府の戦費予算は四億五千万円、その三分の一、一億五千万円は正貨で外国に支払われる。日銀所有の5200万円の正貨では1億円ほどにたりない。この問題が解決されなければ開戦と同時にお手あげの事態も予測された。解決策とといってもべつに何の妙手もない、外国から金を借ること以外にないのだ。
中国もおなじように外国からあちこち借金して、その形に土地を奪われ、港をつくられ、植民地化していったのである。戦争に負ければもちろん植民地とならざるをえないし、東洋のちっぽけな島国がいきなりヨーロッパ第一の陸軍強国に戦いを挑んだのだから、ヨーロッパ人は仰天した。
 
しかし、戦費のない日本も外国から借金する以外に、戦費調達の方法はない。当時、日銀副総裁の高橋是清でその交渉役にえらばれたのである。井上馨、松方正義らの両元老はじめ当局者の期待をにない、高橋是清はのちの日本銀行総裁深井英五を秘書兼助手として、開戦後間もない二月二十四日渡米した。
 
しかし、ほとんど絶望的な困難が最初からよこたわっていた。出発前、高橋のもとに正金ロンドン支店長山川勇木からとどいた電報によれば「ロンドンで募集の見込みはない。今日正金銀行のごときはビタ一文の信用もない」という状態であったのだ。開戦後ロジヤの戦費調達市場となったパリでのロシヤ公債の値はむしろ上がり気味なのに反し、以前に発行されていた日本のわずかの四分利付公債はロンドンで戦前の八十ポンドから、たちまち六十ポンドに暴落するありさまだった。       

 
大島清『高橋是清』(中公新書1969年)によると、当時のアメリカの空気は、大国ロシアに小っぽけな日本がたちむかっても、所詮負けるであろうというところであったから、到底日本の公債を引きうける可能性はなかった。高橋はそうそうにアメリカを切りあげ、ロンドンに向かった。
 ロンドンの空気も、けっして日本にとってよいものではなかった。日英同盟はあったが、これは戦争の相手が二カ国になったとき共同参戦するというもので、相手が一国の場合はあいは援助する必要がなく、イギリスは中立国の立場にあった。また王室の関係からいっても英露は近親であった。そしてまた経済上の関係からいっても日本に金を貸すことの危険は大であった。
                                                                (つづく)

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