前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(57)記事再録/『日中韓の外交戦・『日米同盟』のルーツを林董(ただす)の外交論を読む=「日本は開国以来、未だかつて真の外交なるものの経験なし」

   

 2013年4月25日 日本リーダーパワー史(378) 

<日中韓150年三国志『日清戦争勃発に至る<日中誤解>(パーセプション・ギャップ)の研究

 林董(ただす)の外交論を読む=「日本は開国以来、未だかつて真の

外交なるものの経験なし

 

     前坂 俊之(ジャーナリスト)

 

①    連休中に安倍首相はロシア、中東を訪問するという。「近攻遠交」の外交政策をとっている。

②    米国は参謀総長が習近平主席と会談するなど、話のできない日本の頭越しに米中外交を積極的に進めている。

③    日本の政治家に外交センスなし、首相以上に「外務大臣」ほど、コロコロ変わる軽く扱われているポストはない。

④    林 董(明治の外務大臣、日英同盟の締結者)は日清戦争の後に「臥薪嘗胆論」を唱え、日本の外交政策のないことを批判した。この外交論は大いに参考になる。

⑤    安倍自民党は「日米同盟」を何かというと強調する。しかし、100年前に英国のソールスベリイ首相は「同盟の条約とは一片の故紙(ホゴ)に過ぎず。利害を共にする者の相提携こそ、真の同盟なる」といっている。

 

 ◎『日本は外交の大方針を定めるべし』
1895年(明治285月28日 時事新報掲載)

 

外交の術はすなわち談判の術(交渉術)なりとは、もっぱらその連用について説き明かしたる言葉にして、外交術なるものの結局の目的に至りては、ただ自国の利益を謀るの一事に外ならず。

 

そもそも国の利益に2種の別あり、①は貿易の利を収得する事と、また②は国勢を伸暢する事なり。こうして貿易上の利害のごときは、これに従事する各商人輩(経済人)が、中旬から抜け目なく注意して、決して等閑に附することなければ、この事に付き外交術に倍る所は、わずかに通商条約締結の手加減位に過ぎざれども、もしそれ国勢を伸暢するの一事に至りては、最も外交家の苦辛経営を煩わす所にして、外交の術は要するにこの一事に在すと云うも過言にあらざるべし。

 

けだし国土いかに大なりといえども、兵力いかに強しといえども、孤立して列国連合の衝に当り、なお久しさを保つの国はあるべからず。

故に大国の間に列して国勢の伸暢を謀る者は、まず第一に意気相投じ、利害相共にすべき所の者を選んでこれに交わり、以って敵とする所の者を孤立せしむることを勉めざるからべからず。支那戦国時代の合従連衡の策、もしくは我が元亀・天正時代に行われたる諸侯の味方積りなるものは、すなわちその実例にして、いずれも利を共にする所の者と相結んで、害となる者を制御するを以って目的となすものなり。

 安政以来我が国は弘く外国と交通を開くといえども、その締結したる条約はいわゆる偏務的(片方、平等条約ではなかった)の条約にして、我が貿易を利するがために計画したるものにあらず。また連合同盟の策のごときにいたりては、とんとこれに心を傾けたるととなく、列国を見ることと平等一様、あたかも賓客のごとくにこれを待遇し、一国に親交して他国を制するなどの政略は、未だ.かつて実際に施したることなし。

 されば甲国の公使がたまたま有為の人物なるときは、多く甲国の文物を採服し、乙国に留学したる書生が帰朝して要路に立つときは乙国の学風、風俗にわかに奨励を受けで世に流行する等、

百般の取捨去就、すべて一時の感情よれ生じて、従って朝野ともに各自その好悪の情を基本として親疎(親しい、疎遠、好き嫌い)の区別を立てるが故に、親交決して真交ならず、疎外必ずしも疎外ならず、その親疎は国の親疎にあらずして、むしろ人の親疎と云うべき可なり。

右のごとき次第にして英国といいドイツといい、フランスといい米国という、その学問の行わるること、その機械の輸入せらること、皆、一時の流行に止まり、決して国の利害に基づいて計定したる不抜の根拠ありて、以って親疎を分かつにあらざれば、我が日本は開国以来、未だかつて真の外交なるものの経験なしと云うも不可なきがごとし。

 

しかるに、昨年初夏、干戈(兵)を朝鮮に動かして(日清戦争)より以来、事態にわかに一変し、我が国もまたいよいよ外交の政策を講ぜざるを得ざるの位置に臨めり。

将来の国運の、消長は全ぐこの一事に係ることなれば、当局者は宜しも深く察して以って計画する所なかるべからず。

それ東洋に国を立つるもの、トルコ、ペルシャ(イラン)、いずれも我を距ること遼遠にして、いわゆる風馬牛相及ばざるものなり。支那(中国)、朝鮮、シャム(タイ)の三国のごときは、近く我に隣国といえども、勢い微かに力弱く、兵に攻防同盟の事を語るに足らず。

ただ欧洲列国の中、露、仏、英の三国は、その境土、一葦帯水を隔てて我と相接し、常に東洋に数十の戦艦を備えて、以って彼此椅(けものへん)角の勢いをなすを以って、我もし今後の策を講ぜんと欲せば、この三国の中に就いて親交する所を撰ばざるべからず(選ばざるを得ない)。

 しこうして、列国もまた各々その利害を異にするが故に、予めこれを察知することを最も肝要なりとす。たとい彼等は東洋に於いて、いかに日本の親交を利とすると云うも、欧州に於ける列国間の関係またこれよりも更に切なるものあるとき時、むしろ東洋に於いて且本を敵とする不利益あるも、これを忍んで以って欧洲同盟の利益を収めんとすることなきにあらず。

 

例えばこのごろのごとき、ドイツは東洋に於いて敢えて大利害を感ずるの国柄にあらざるにも、かかわらず「自ら進んでかの「友誼的忠告」(三国干渉)の主動者、発頭人たりしにあらずや。また仏国(フランス)は平素、常に我に対して交誼を敦うしたるにも拘わらず、なお忠告同盟の一国たり。けだし彼等は必ずしも日本を仇とするの心あるにあらざれども、その自己の利とす所、さらに更に大なるものあるよりして、ついにやむを得ずかかる挙動に出でたるものと知るべし。

すなわち彼(フランス)は、我(日本)を愛せざるにあらず、ただ彼、自から己れを愛すること、我を愛するよりも更に切なればなり。

 

昔、蘇子斉の閔王に説いていわく、

「諸侯の故に明にし、地形の理を察する者は、約せずして親しみ、相質せずして固く、趨(は)しらずして疾(はや)し。事を衆(おも)くして反せず、こもごも割して相憎まず、ともに強くしてますますもって親し。なんとなれば、形、憂を同じうして、兵、利に趨(は)ればなり」と。

 ききに英国の首相—ソールスベリイ侯は、同盟の事を釈して、「同盟の条約は一片の故紙(ホゴ)に過ぎず。利害を共にする者の相提携するこそー天然真乎の同盟なれ」と云えり。

 同盟の極意を説く者へ古今東西符節を合すがごとし。できれば今日、欧洲列国中より我が同盟たるべきものを選ばんと欲せば、まず彼(相手国)、列国相互の関係、内情を観察することはなはだ肝要なるは、多言をまたずして明らかなり。

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論 ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの世界日本近現代史』(284)★『医師・塩谷信男(105歳)の超健康力―「正心調息法」で誰でも100歳まで生きられる』★『 「生れるということは「生きる(息きをすること)、これが人間の最初であり、水を飲まなくても飯を食わなくても、多少は生きられる。ところが息が止まるとと生きていけない。息を引き取り臨終となる。これが根本!」』

  2015年3月29日/百歳学入門(109)記事再録 医師・塩谷信男 …

『Z世代のための  百歳学入門』★『日本超高齢者社会の過去から現在の歴史』★『来年2025年は昭和終戦(1945)から80年。明治時代〈約45年間),大正時代(15年),昭和戦前(20年 )まで約80年間の平均寿命は約40-50歳だった』

<Q1>それでは、日本人の寿命の歴史的な変遷について話してくれますか。 明治以後 …

no image
★10 これぞ日中韓外交の教科書―英国タイムズ報道の「日清戦争4ヵ月後―『日本と朝鮮―日清戦争の真実』(上)

     日中韓外交の教科書―英国タイムズが報道の …

no image
<F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(211)>「6/8付『エルサレム・ポスト紙(6/8)のキャロライン・グリック女史副編集長の”カタール紛争を 取り巻く諸情勢”に関する分析記事は目からウロコ』★『現カタール首長に反旗を翻すどの様な動きも、イランとの開戦の公算を強める。 』●『エジプトとサウジアラビアがカタールを攻撃するならば、NATO同盟国のトルコとアラブの同盟国が戦争状態になる危険が増幅する』

 <F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(211)>   。『Qat …

『日本リーダーパワー史』(1234)ー『2023年―戦後安保の歴史的な転換点』★『昭和戦後一貫して否定してきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%へ倍増も明記』

2023年―戦後安保の歴史的な転換点 政府は2022年12月16日、外交・防衛政 …

『オンライン100歳学講座』★ 『日本一の大百科事典『群書索引』『広文庫』を出版した物集高量(朝日新聞記者、106歳)の回想録」★『大隈重信の思い出話』★『大隈さんはいつも「わが輩は125歳まで生きるんであ~る。人間は、死ぬるまで活動しなければならないんであ~る、と話していたよ』

  国語学者・物集高量(106歳)の思い出話は超リアルだよ。 大隈さん …

「今、日本が最も必要とする人物史研究➂」★『日本の007は一体だれか』★『日露戦争での戦略情報の開祖」福島安正中佐➂』★明石元二郎の「明石謀略」は裏で英国諜報局が指導しており、福島安正、宇都宮太郎(英国駐在武官)がバックアップした。

日本リーダーパワー史(553)記事再録                前坂 俊之 …

no image
『オンライン/日本リーダーパワー史講座』◎国難最強のリーダーシップ・勝海舟に学ぶ(11) すべて金が土台じゃ、借金するな』★『政治家の秘訣は正心誠意、何事もすべて知行合一』★『借金、外債で国がつぶれて植民地にされる(中国の一帯一路戦略、アフリカ各国援助がこの手口』

    2012/12/04  日本リー …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉟』「最終期限まで田中投手にとって多くの選択肢が残る“」ニューヨーク・タイムズ(1/19)

   『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉟』 …

no image
『知的巨人の百歳学(158)記事再録/吉川英治創作の宮本武蔵の師・沢庵禅師(73)の『剣禅一致』 <打とうと思わず、打たじとも思わず、心海持平(しんかじへい) なる時、前に敵なく、後ろに物なし。ここが無の境地じゃ>

百歳学入門(73)   前坂 俊之 (ジャーナリスト)   …