日本リーダーパワー史(889)-NHKの『西郷どん』への視点<自国の正しい歴史認識が なければ他国の歴史認識も間違う>●『今、日中韓の相互の歴史認識ギャップが広がる一方だが、明治維新、西郷隆盛、福沢諭吉への日本人の誤認識がそれに一層の拍車をかけている』
2018/02/27
日本リーダーパワー史(889)-
NHKの『西郷どん』―自国の正しい歴史認識が
なければ他国の歴史認識も間違う
NHK歴史大河ドラマの『西郷どん』には失望した。原作者の林真理子やシナリオライーターらは『歴史はよく知らない。
女性の視点から書きました』という。NHKのHPで「極貧の下級武士・西郷どんが、南国奄美で愛に目覚め、勝海舟、坂本龍馬らと出会い、革命家へ成長し、明治維新を達成する物語」とある。
NHK大河ドラマは前回の「おんな城主 直虎」といい女性を主人公としたものが多いが、歴史ドラマである以上、史実、歴史的背景はできるだけリアルにしてもらいたいと思う。
視聴者はいくらフィクションといっても、歴史的事実と勘違いしがちで、特に若い人にはそうだと思う。私は最初の何本か見たがいつもの青春恋愛メロドラマのノリで、ついていけなくなった。
薩摩藩は徳川時代でも最も戦国武士の激しさを残し、「郷中教育」(6歳から25歳までの武士の子弟の文武両道の集団地域教育法)」で、女性との接触、話題も一切禁止していたほどだ。質実剛健、勇猛果敢な「いも侍」の伝統を守り、身分制度、男尊女卑に固執し、メロドラマとは対極の世界であった。
今年は明治維新から150年だが、21世紀のグローバル・インターネット、スマホ、3D映像時代のわれわれが、徳川時代の武士の生活、思想を知ることはますます困難化している。
いつものごとく書店の棚には「明治維新の過ち~日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」「明治維新の正体――西郷隆盛のテロ」など西郷本がならび、中にはこのようなテロッリストと非難するタイトルもみられる。
近代化する以前の封建社会、武士社会でテロリストという概念は存在しない。古代から革命は戦争は殺戮、暗殺の世界であり、これらのタイトルには歴史認識の齟齬がある。
徳川時代の武士の生活は一体どうだったのか。福沢諭吉の「旧藩情」がインターネットの青空文庫で公開されているので、これを読むと一番よくわかる。
明治最大の思想家・福沢は一八七七年(明治十)に『旧藩情(旧藩事情)』を出版した。才能に恵まれながら、貧乏下士(下級武士)に生まれたばかりに一生、うだつの上がらなかった父親のために「門閥制度は親の仇でござる」とその恨みを果たしたのである。
日本一の「徳川時代の日本史」授業ー福沢諭吉が語る「中津藩で体験した封建日本の差別構造の実態」(旧藩情)を読み解く①→⑧
http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/1168.html
半世紀も経てば人々は歴史を忘れる。社会学者の福沢は後世に武士の生活の真実を語り継ぎたいと、生まれ育った中津藩の武士階級内のきにしい身分制度とその差別構造の実態を明らかにしている。
福沢によると、中津藩は上は大臣、家老から、下は帯刀を許された者まで約一五〇〇の武士がいた。その身分、役名は一〇〇以上に細分化されていた。官職は世襲制度で固定され、子が跡を継ぎ、立身出世は身分の垣を越えてはできない。階級別に格式、俸禄(給与)、教育、婚姻、礼儀、作法も言葉遣い、風俗もきびしく規定されていた。結婚は各身分内の相手を親が決めて、身分を超えた自由恋愛はご法度だった。
これは中津藩(大分県)だけでなく、全国各藩、薩摩藩でほぼ共通した身分差別、男尊女卑の階級社会であった。
この点で『西郷どん』の最初で、マラソンで女児が男子に化けて一緒に競争するシーンなどは、フィクションと断っていたが、絶対にあり得ない場面であった。
西郷は13歳の時、上士(上流武士)の子弟から「貧乏人の分際でなぜ道を譲らぬか」とケンカをふっかけられ、西郷が怪力に任せて投げ飛ばした。これを恨んだ少年は夜道で、西郷の右腕に切りつけて、西郷は生涯、刀を使えなくなった。そのため武道をあきらめ、読書と禅の修行で心胆を鍛錬した。
西郷は強力なリーダーシップを発揮したが、地位や名誉には恬淡とし政治的野心はなかった。身近で仕えた大隈重信は「人情に厚い人、涙もろい人で、とても義侠心にとみ、政治はきらいだった」という。(「大隈伯昔日譚」)
また、岩倉欧米使節団が旅立ち、薩摩に引っ込んでいた西郷がいやいや留守番役に座った際、政務は大隈に「自由にやってくだされ」とハンコをわたし、決裁をまかせ総理執務室には出てこなかった、という。(同書)
大久保利通も『情においては女みたいな人ですからね』と評したが、西郷は決して武闘派ではなく、政治家でもなかった。そこを誤解してはいけない。
もし、この平和主義者の西郷隆盛と勝海舟の名コンビがなければ、明治維新の実現も江戸の無血開城、江戸を戦火から守るーこともできなかったであろう。
西欧諸国の近代化の先駆けとなったフランス革命(死者490万)、アメリカ南北戦争(70万)、ドイツ統一戦争(30万)などと比べても、明治維新は「最も血を流すことの少ない平和革命(死者10万人以下)」であった。
西郷、吉田松陰、明治政府がテロッリストとする歴史誤認は世界各国の独立戦争や国内戦争による殺戮数を比較すれば一目瞭然である。
国内戦争の混乱と飢餓、独裁者による殺戮、粛清、処刑などの総死者数を比較すると➀「中国4千万」②「ソ連2千万」③「民主カンボジア(ポルポト)170万」④「イラクサダムフセイン30万」「シリア内線30万」などとなっている。(マッシュ・ホワイト著『殺戮の戦争史』早川書房、2013年)
この数字の意味を読み解かねば、歴史の真実はみえてこない。
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