記事再録/日本リーダーパワー史(980)-『昭和戦後宰相列伝の最大の怪物・田中角栄の功罪ー「日本列島改造論』で日本を興し、金権政治で日本をつぶした』★『日本の政治風土の前近代性と政治報道の貧困が続き、日本政治の漂流から沈没が迫っている』
2015/07/29 /日本リーダーパワー史(576)
前坂俊之(ジャーナリスト)
「角さんが吉田ワンマンを抜いた」―戦後五十年の1995年(平成七年)終戦記念日の読売新聞世論調査で「戦後日本の発展に功績があった人」はトップが田中角栄(23%)、2位吉田茂(22%)、3位佐藤栄作(10%)の順となった。
「今秀吉」と呼ばれ「日本列島改造論」で一世を風靡した田中角栄は戦後政治の象徴、光とヤミである。絶大な人気を誇り54歳の若さで首相になったが、「金権腐敗政治」を批判されロッキード事件で失脚。それでも自民党の最大派閥「田中軍団」(最盛期120人)を率いて、4人の首相を次々に指名するなど絶対的な権力を握り「世界の非常識・永田町政治」の「キングメーカー」として君臨した。刑事被告人のまま世を去ったが、いまだにその評価は定まっていない。
1918年(大正7年)新潟の雪深い田舎(現・柏崎市)の馬喰のセガレに生まれた。
家が倒産し、貧乏のどん底生活をし、小学校を出ただけで土建屋となった。二歳のときドモリになったが、節をつけ歌うようにしゃべり、浪曲の猛練習をつんで直し、政治家でもトップの雄弁家に生まれ変わった。そのダミ声はこの名残りである。昭和14年から2年間は陸軍上等兵として、中国の満州国で兵役に従事し、生死をくぐり、辛酸をなめ尽くした。
敗戦後の1947年(昭和22)、新潟3区から衆議院選挙に29歳で出馬して初当選。以後、持ち前の馬力で八面六臂の活躍ぶりで「コンピューター付きブルドーザー」の異名をとり、田中が手がけた議員立法の数はトップ。39歳で郵政大臣、44歳で高小卒の角栄が東大卒のエリート官僚の総本山・大蔵省の大臣にのし上がった。
1965年(昭和40)5月に証券不況から山一証券事件が起きた。山一には大勢の客が押しかけ取付け騒ぎの様相となった。一歩処理を間違えると経済恐慌に発展しかねない。
5月28日夜、東京・赤坂の日銀氷川寮で政府、金融界トップの極秘会談が開かれた田中蔵相、大蔵事務次官、日銀副総裁、中山素平興銀頭取、富士、三菱の三行頭取が出席した。大蔵省、日銀側は三行経由の日銀特融を主張したが、銀行側は拒否し議論が長引いた。
そのうち三菱頭取が「証券取引所を閉めて、今後の方策を考えたらどうか」というと、それまで黙っていた田中が「それでもオマエは頭取か」と大声で一喝し、日銀特融を決定し証券恐慌を未然に防いだ。
この政治パワーで首相となった角栄は「決断と実行」をスローガンに、ただちに北京に飛んで昭和47年9月、日中国交正常化を実現、国内的には『日本列島改造論』をぶち上げたが狂乱物価を招き、1974年、月刊「文芸春秋」で立花隆の「田中角栄研究」で追及され、わずか2年半で、総理の座から滑り落ちた。
確かに、金権腐敗政治の代表といわれた角栄だけあって、金の使い方はかゆいところに手の届く気配りがあった。料亭で会合をする場合にも女中さんから玄関番まで必ずチップを忘れなかった。冠婚葬祭にも必ず金をだし、関係者の葬儀には一番に駆けつけ涙を共にし最後まで見送った。人からの頼み事は必ず果たし相手を感激させるた。早坂茂三秘書による数多くの「角栄一代記」には自ら政治資金を派閥メンバーに配って回った手口をあっけらかんと書いている。
ある人が角栄に百万円の金策を頼んだ。すぐ包みが届けられ、中を開くと三百万円入っておりメモがあった。「まず百万円で借金を返せ。しばらくの間、家族や従業員にうまいものを食べさせてないだろうから、次の百万円でうまいものを食え。残りの百万円は貯金しておけ。三百万円は全額返さなくてよい」
この人が一生恩を着きたのはいうまでもない。
このように角栄流の強力なリーダーパワーは「目配り」(政治的な見識、政策)「気配り」(人心収攬術)「金配り」(金権政治)の3本だが、「金配り」ばかり追及された。
そこに日本の政治風土の前近代性と政治報道の貧困があり、いまだに日本政治の漂流が続いている。
関連記事
-
-
知的巨人たちの百歳学(179)記事再録/「女性芸術家たちの長寿・晩晴学④」―石井桃子、武原はん、宇野千代、住井すゑ
2013/01/02   …
-
-
お笑い日本文学史『文芸春秋編」ー直木三十五『芸術は短く、貧乏は長し』 と詠んで『直木賞』に名を残す』●『菊池寛・文壇の大御所を生んだのは盗まれたマントだった。
お笑い日本文学史『文芸春秋編」① ●直木三十五-「芸術は短く、貧乏は長し」 と詠 …
-
-
日本リーダーパワー史(627)日本の安保法制―現在と150年前の「富国強兵」政策とを比較するー「憲法で国は守れるのか」×「軍事、経済両面で実力を培わねば国は守れない」(ビスマルクの忠告)
日本リーダーパワー史(627) 日本の安保法制―現在と150年前の「富国強 …
-
-
記事再録/巨人ベンチャー列伝ー石橋正二郎(ブリジストン創業者)の名言、至言、確言百選②-『新しき考えに対し、実行不能を唱えるのは卑怯者の慣用手段である』★『知と行は同じ。学と労とも同じ。人は何を成すによって偉いのではない。いかに成したかによって価値あるものなのだ』
2016年7月13日 /巨人ベンチャー列伝ー石橋正二郎(ブリジストン …
-
-
日本リーダーパワー史(63)『インテリジェンスの父・川上操六』⑨の「日本最強のリーダーシップ」とは・・・・①
日本リーダーパワー史(63) 名将・川上操六⑨の『最強・究極のリー …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(54)『米軍再編と普天間基地の行方-〝日米軍事一体化〟促進に狙い』
池田龍夫のマスコミ時評(54) 『米軍再編と普天間基地の行方-〝 …
-
-
日本リーダーパワー史(889)-NHKの『西郷どん』への視点<自国の正しい歴史認識が なければ他国の歴史認識も間違う>●『今、日中韓の相互の歴史認識ギャップが広がる一方だが、明治維新、西郷隆盛、福沢諭吉への日本人の誤認識がそれに一層の拍車をかけている』
日本リーダーパワー史(889)- NHKの『西郷どん』―自国の正しい歴史認識が …
-
-
日本メルトダウン( 981)『トランプ米大統領の波紋!?』★『「米中新秩序」到来!日本はついに中国との関係を見直す時を迎えた 対抗ではなく、協調路線でいくしかない』●『トランプ支持層と「ナチス台頭時」に支持した階層はきわめて似ている』●『麻生大臣を怒らせた、佐藤慎一・財務事務次官の大ポカ なぜこんな人を次官に据えたのか』★『さよなら米国。トランプの「米国ファースト」がもたらす世界の終わり』★『若者が動画で自己表現するのはなぜ? 古川健介氏が語る、スマホ世代の“3つの仮説”』★『スピーチを自在に編集できる“音声版Photoshop”登場か–アドビが開発中の技術を披露』
日本メルトダウン( 981) —トランプ米大統領の波紋! …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(89)原爆・敗戦の夏―広島、長崎「平和宣言」さ(8・19)
池田龍夫のマスコミ時評(89) 原爆・敗戦 …
-
-
『大正の言論弾圧事件』 日本初の政党内閣である大隈・板垣内閣『隈板内閣』で起きた尾崎行雄の共和演説事件
『大正の言論弾圧事件』 日本で初めての政党内閣である大隈・板垣内閣『隈板内閣』で …
