日本リーダーパワー史(83) 近代日本二百年で最大の英雄・西郷隆盛を理解する方法論とは・(上)
2019/06/07
ただこの書にも難点はある。言うまでもなく『氷川清話』は勝海舟の談話を筆記したものだが、その中で海舟が言及しているさまざまの人物や、その人物が活動した明治維新という背景がわからないと理解できない。しかしそれらについてある程度の予備知識があれば、これにまさる本はない。
彼と比べれば同時代のナポレオン三世などは紙屑のごとく貧弱である。三度の食事も満足にできない貧家に生れ、十二歳にして将軍家慶に見出されて以来、海軍の創設、感臨丸による渡米は言わずもがな、長州征伐、対外折衝、その他すべての難局には召し出されてその任にあたる。その間、反対派の刺客に常につけねらわれながら一人のボディガードも置かず、両刀さえもたない。現状を正確に分析し、当面の問題を解決する手腕は文字通り快刀乱麻を断つで常人とは思えないが、一方、遠い将来をも正しく予測している、実にすばらしい人物であって、まさに「政治天才」の民族の典型であり超人であるといってよい。
事実、彼のことを少しでも知った外国人で、彼に感嘆しない人間はいない。私なども、イスラエルの歴史に、こういう人がひとりでも居てくれたらと思う。

「おれが始めてアメリカへ行って帰朝した時に御老中から『そちは一種の眼光を具えた人物であるから、定めて異国へ渡りてから、何か目をつけたことがあろう。つまびらかに言上せよ』とのことであった。そこでおれは『人間のすることは、古今東西同じもので、アメリカとて別にかわったことはありません』と返答した。

有名な品川における西郷・勝の会談は、絶対にヨーロッパ的な意味における交渉ではない。唯一の交渉らしい点は、その前日に勝が、皇女和宮を人質にするようなことは絶対にしないと西郷に保証した一事ぐらいのものであろう。あとは、勝はすべてを西郷にまかせるという。
さらにいよいよ江戸城あけ渡しで、双方から六人ずつ委員が出る。官軍の六人委員が江戸城に入ってくるわけだが、城内には殺気がみなぎっている。
この六人を斬り殺して城を枕に玉砕しようという考えが、一瞬すべての人の脳裏を走る(海舟すらー彼の告白によれば)。官軍六人委員にもそれが自然に伝わる。
名をあげていないが、そのひとりは、気が動転したためかぞうりを片方だけぬいで片方はいたまま城内に入るという珍事まで起こす。
六人委員のひとり西郷は、席につくと居眠りをはじめ、やがてぐっすりと寝てしまう。-こういうエピソードが次から次へと語られ、それを語るたびに、海舟は、「西郷は偉いやつじゃ」と嘆声を上げるのだが、さてどこが偉いのか。軍の、超人であり、また徹底的俗人(すなわち非宗教的人間)であった膵は、西郷の何を偉いといっているのか。
事実ではなくフィクションだからである。どうしても、時代とともに偉人は美化され、英雄視されがちである。西郷隆盛、坂本竜馬しかり。日本の英雄として何十倍もの虚像が膨んでおり、その実像をつかむのは容易でない。
関連記事
-
-
『オンライン講座/ウクライナ戦争と安倍外交失敗の研究 ④』★『「ロシアに対して日本式な同情、理解で仕事をしたら完全に失敗する。ロシアは一を得て二を望み、二を得て三を望む国であり、その飽くところを知らず、彼らに実力を示さずして協調することは、ロシアの思うままにやれと彼らの侵略に同意するのと同じことだ」(当時のロシア駐在日本公使・西徳二郎の警告)』
2016/09/25 日本リーダーパワー史(7 …
-
-
『わがビッグファイト・フィッシング回想録②』鎌倉カヤック釣りバカ・筋トレ日記(2016/10/22)約1ゕ月ぶりに材木座海岸を午前7時過ぎにスタート。『さかなクンと遊ぼうよーぶつぶつ,ボケボケ解説中継だよ②』
●『いきなり竿をひったくり、ソーダカツオにぶち切られる。 残念、あとはカモメと遊 …
-
-
日本リーダーパワー史(620) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 ⑭『福島安正のインテリジェンス『日本は清国と共に手を取り合ってやって行ける国ではない』
日本リーダーパワー史(620) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 ⑭ 『福 …
-
-
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉒ 『大日本帝国最後の日 (1945年8月15日) <かくして「聖断」は下った!>
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉒ 『大日本帝国最後の日― (1945年8 …
-
-
『オンライン/鎌倉1日ハイキング』★『鎌倉大仏を見物に行くのなら、すぐその先の800年 前の中世の自然、面影が一部に残る「大仏切通」(鎌倉古道)を 見に行こう」★『朝比奈や名越切通とは風情が異なり、苔むして古色蒼然とした岩崖の迫力は鎌倉七切通ではここが一番ではなかろうか。』
2013/12/10 動画再録 『鎌倉紅葉チャンネル』 …
-
-
『日中台・Z世代のための日中近代史100年講座⑤』★『世紀の恋の果たし状ー九州の炭鉱王の良人・伊藤傳右衛門氏に送った「筑紫の女王」柳原輝子の絶縁状の全文ー愛なき結婚と夫の無理解が生んだ妻の苦痛と悲惨の告白』★『1921年(大正10)10月23日「大阪朝日」朝刊掲載』
1921年(大正10)10月23日 「大阪朝日」朝刊掲載 朝刊新報の「筑紫の女王 …
-
-
『国難逆転突破力を発揮した偉人の研究』★『徳川幕府崩壊をソフトランディングさせた勝海舟(76歳)の国難突破力①『政治家の秘訣は正心誠意、何事でもすべて知行合一』★『すべて金が土台じゃ、借金をするな、こしらえるな』★『借金、外債で国がつぶれて植民地にされる』★『昔の英雄、明君は経済に苦心し成功した』★『他人の本を読んだだけの学者の学問は、容易だけれども、おれらがやる無学の学間は、実にむつかしいよ 』
2012/12/04 /日本リーダーパワー史(350)記事再録 ◎ …
-
-
『Z世代のための百歳学入門』★『義母(90歳)の<ピンコロ人生>を見ていると、「老婆(ローマ)は1日にしてならず」「継続は力なり」「老いて学べば死しても朽ちず」の見事な実践と思う』
2017/10/12 百歳学入門(183)記事再録 老いて …
-
-
『Z世代のための日中韓外交史の研究』★『米ニューヨーク・タイムズ』(1895(明治28)年1月20日付))の「東学党の乱と日本の態度」★『日本は過去10年間、朝鮮を支配してきた政治より、平和的で高潔で安定した政治を導入すると誓約したが,これまでのところ朝鮮の役人の二枚舌に悩まされている」』
2011/03/16 の記事再録 <朝鮮の暴動激化―東学党、各地の村 …