前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー非史(969)「厚労省の不正統計問題」は「不正天国日本」を象徴する事件』★『大本営発表ではウソの勝利を発表し、戦果は米戦艦、巡洋艦では一〇・三倍、空母六・五倍、飛行機約七倍も水増した』★『昭和の軍人官僚が国をつぶしたように、現在の政治家、官僚、国民全体が「国家衰退、経済敗戦」へ転落中であることを自覚していない』

   

「厚労省などの統計不正問題」

前坂俊之(ジャーナリスト)

一九四一(昭和十六)年十二月八日午前七時、ラジオで臨時ニュースが流れた。陸軍報道部長大平秀雄大佐が「大本営陸海軍部午前六時発表、帝国陸海軍は今八日未明、西太平洋上において米英軍と戦闘状態に入れり」と緊張した声で読み上げた。真珠湾攻撃の発表でこれが大本営発表第一号だった。

午前十一時四十分には「米英国に対して戦を宣す」との「宣戦の大詔(たいしょう)」が換発された。

こうした大本営発表は太平洋戦争中に計八百四十六回もあった。最初の半年間は戦果や被害の発表はほぼ正確な数字だった。半年後のミッドウェー海戦(1942年6月7日)では虎の子の空母4隻、航空機約300機を失う大敗北を喫したが、損害は空母1隻喪失、同1隻大破のみと過少に発表された。惨敗を隠すため生き残った兵士たちは口封じのために監禁され、激戦地に送り込まれた。これを境に戦局は一挙に敗北に傾き、日本海軍は壊滅したにもかかわらず、ウソ八百の勝利と誇張した戦果を最後まで流し続けた。

太平洋戦争の全期間を通じて、戦果は米戦艦、巡洋艦では一〇・三倍、空母六・五倍など、戦闘艦艇では五・三倍、飛行機約七倍、輸送船は約八倍も水増しした発表が行われた。(富田謙吾著「大本営発表の真相史」自由国民社 1970年)

この結果、国民は大本営発表を信じて疑わず、最後まで戦い続けた。

1945年(昭和20)8月15日敗戦。国土は焦土と化した。この年は冷夏と台風によってコメ収穫量は平年の6割に激減し深刻な食糧難で餓死者が続出した。翌年5月には戦後初めての「食糧メーデー」(米よこせメーデー)が皇居前広場で25万人が集結して開催かれた。吉田茂首相はGHQ(連合軍総司令部)のマッカーサー元帥に食糧物資の援助を要請した。「四五〇万トンの食糧輸入がないと、餓死者がさらに増える」と農林省の統計に基づいて陳情したが、実際は七〇万トンで何とかしのげた。数字のデタラメさに気づいた同元帥が怒ると、吉田がケロッとして答えた。

「わが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、また戦争に勝っていたかもしれない」。これにはマッカーサーも大笑いして、それ以上責めず、食糧放出を認めた。マッカーサーと外交上手の吉田はこれ以来、肝胆相照らす仲になった。吉田首相は大内兵衛(マルクス経済学者、財政学)の「戦後経済復興のためには政府統計の充実が必要だ」とのアドバイスに従って大内を大蔵大臣に起用しようとしたが、断られたため英国流の統計法を制定した。

統計、統計学は英語では「statistics (スタティスティクス)」という。「state(国家) 」の客観的な状態、その国勢を数学的、科学的に調査、分析するのが統計学である。国の政治経済政策、予算の編成、その他、もろもろの政策策定の基礎資料がこの統計データ、ビックデーターなのである。いわば、この情報統計データの正確さがその国の信用性、民主度、国力、経済力、科学技術力、情報公開度などの判断指数となる。世界競争力ランキングからあらゆる分野で順位を低下させている事実、最近連発する企業の不正、大学入試の水増し不正、政府が連発する情報隠し、不正事件の連鎖反応は、この国が先進国から後進国に転落している証拠である。

さて、今、国会に目をうつすと「厚労省などの統計不正問題」で大揺れだ。厚生労働省の「毎月勤労統計」と「賃金構造基本統計」に不正、数字のごまかしが見つかり、雇用保険などで、もらうべき金額をもらえなかった人が実に2000万人超という一大事件に発展した。

「毎月勤労統計」の補正に使う基礎資料のうち平成16年から23年分の一部を廃棄・紛失していた事実も判明した。「毎月勤労統計」は賃金や労働時間に関する統計で、調査結果はGDP(国内総生産)の算出にも用いられる重要な政府の基幹統計の一つ。この統計が正確でないと、労働者の賃金の上下や、残業の増減など、いわゆる労働環境の変化について正しくは把握することができない。安倍政権の「アベノミクス」「働き方改革」の評価の根幹にかかわる問題で、その数字がデタラメであったというだから。アベノミクスの信用性はまるつぶれだ 。ところがメンツをつぶされた首相がカンカンに怒って、厳罰にしないのが不思議でたまらない。

 

今回のケースは従業員500人以上の事業所は全数調査をすべきなのに、2004年から東京都だけ一部調査に勝手に変更していた。その場合は通常は調査した割合の逆数を掛けて、全体の数字の合計を復元・膨らまさなければならないのにそれもしなかった。しかも、その初歩的なミスがチェックできず、15年にわたって誤った数字の上に統計が出し続けられたというとんでもないお粗末ぶり。

当該の厚労省統計部局は、10年間で担当職員は約2割削減され、予算縮小と人手不足、経費の削減などが原因と弁明しているが、日本の旧態依然たる政治、官僚制度で政治家、キャリア官僚、中央官僚を含めて全体的に知的劣化、モラル低下がひどくなっている。その背後に政財官(政界、官界、財界)の鉄のトライアングルで、国も国民も「因循姑息」(いんじゅうこそく=古い習慣ややり方にとらわれてなかなか改めようとせず、その場しのぎに終始するさま)して、日本の制度疲労も極限に達している事の表れだ。

このままでは、昭和の軍人官僚が国をつぶしたように、現在の政治家、官僚、国民全体が「国家衰退、経済敗戦」へ転落中であることを物語っている。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ ニュース・ウオッチ(188)』●「とんがったことを」富士フイルム、76歳の変革者 富士フイルムHD会長兼CEO古森重隆氏に聞く』●『ソフトバンクが英ARM買収、過去最大規模3.3兆円IoT強化へ』●『「ポケモンGO」大ヒットに見る、ソニーが敵わない任天堂の強み』●『LINE上場で“1兆円企業”入りも課題は深刻な人材不足』

  『F国際ビジネスマンのワールド・ ニュース・ウオッチ(188)』 …

no image
『オープン講座/金子堅太郎の人物評』★『山口愛川著「 波蘭立志-大臣」(内外出版協会 1928 年)より。

『山口愛川著「 波蘭立志-大臣」(内外出版協会 1928 年)より。金子堅 太郎 …

no image
「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など 外国紙は「日韓併合への道』をどう報道したか⑫『いとしく,やさしい朝鮮』(「仏ル・タン」)

「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など 外国紙は「日韓併合への道』をどう報 …

「Z世代はチャットGPT大学をめざせ!」★『2023年はチャットGPT元年①』★『わずか2カ月間で1億2千万ユーザーを獲得、動画SNS(交流サイト)「TikTok」を超えて世界最速のペース』★『グーグルに変わって知の世界の王者になる!』

「Z世代はチャットGPT大学をめざせ!」① 2022年11月末に登場した対話型A …

『リーダーシップの世界日本近現代史』(294)★『 地球温暖化で、トランプ対グレタの世紀の一戦』★『たった1人で敢然と戦う17歳のグレタさんの勇敢な姿に地球環境防衛軍を率いて戦うジャンヌダルクの姿がダブって見えた』★『21世紀のデジタルITネイティブ」との世紀の一戦』★『2020年がその地球温暖化の分岐点になる』

 地球温暖化で、トランプ対クレタの戦い』           …

no image
  日本メルトダウン( 967)『東京五輪、反対してもいいですか?「やめる」を納得させる5つの理由』●『「悲惨なアメリカ」を証明した、二つの衝撃レポートの中身 大統領選の行方にも影響アリ?』●『ドゥテルテ大統領来日で再確認!アジア外交の主役はやはり日本だ 中国はこの接近に焦っている』●『  スマホが子どもにもたらす「隠された3つの弊害」』●『ウェブメディアの「検索回帰」が始まったワケーSNSのアルゴリズム変更に高まる不信感』●『ネットニュースの虚実に迫れるか 「Google News」に「ファクトチェック」タグ導入』

  日本メルトダウン( 967)   東京五輪、反対してもいいですか? …

no image
 池田龍夫のマスコミ時評(12)大詰めの「沖縄返還密約文書開示訴訟」91歳の吉野・元アメリカ局長の証言

 池田龍夫のマスコミ時評(12) 大詰めの「沖縄返還密約文書開示訴訟」 91歳の …

no image
速報(180)『日本のメルトダウン』『原発リスク・フクシマの教訓と新小型原子炉』『原発事故の子供、経済への影響 ―チェルノブイリ』

速報(180)『日本のメルトダウン』   『原発リスク―フクシマの教訓 …

日本メルトダウン脱出法(617)『ヨーロッパのイスラム教は今まさに重大な局面」『世界最速の自動車 時速1000マイル」など6本

    日本メルトダウン脱出法(617)   &n …

no image
『F国際ビジネスマンのワールドニュース・ウオッチ①』☆『キミマロがニューヨークタイムズに登場!スゲー!』

『F国際ビジネスマンのワールドニュース・ウオッチ①』   ●『With …