前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

明治150年歴史の再検証『世界史を変えた北清事変⑥』-服部宇之吉著『北京龍城日記』(大正15年)より②」★『著しく現世的で物質的/拝金主義の支那(中国)人民にとっては、来世的、禁欲的なキリスト教精神は全く理解できずパーセプションギャップ(認識ギャップ)が発生し、疑惑が増幅し戦争になった』

      2017/08/27

 明治150年歴史の再検証『世界史を変えた北清事変⑥』

 西教(キリスト教)に対する異議は、その根底を支那の教学、社全組織のなかにある。

これは実に有力な反対の理由である。西教と支那の祖先教(仏教、道教、儒教のミックスされた伝統的な思想、宗教)との衝突である。もとより儒教は南朝梁の儒学者皇侃(おうかん)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%87%E4%BE%83

 のいうがごとく現世をもつてその立脚地となし、過去・未来の二世詳しく説明していない点もあるが、鬼神(死者の霊)と生人との関係については、旧来の信仰を保持し、これに反対していない。

その説くところでは、鬼神は人によりて安んずるものにして、生人はその祖先の祭祀を怠らないかぎり、祖先の霊はつねに子孫により、子孫の福利(幸福と利益)を保持増進するものである。

しかれば、祖先崇拝は祖先の霊を安慰するためとはいえ、実は生人自身の福利のためになされるものだ。

今いっさいの偶像を拝するなかれという西教(キリスト教)の戒に従いて、祖先の祭祀を廃止すれば、生人の福利はなににより得ることができるのか。

西教(キリスト教)は神に事(つかえ)ることによって福を得ると説くけども、祖先を祀ることで得る福利は、生人が現世において収めることができるものなのに、西教が説く神の与える福は、むしろ未来の幸福である。

また祖先を祀ることで得る福利は、富貴功名など、いわば物質的のものに属し、西教の説くところの福は精神上の幸福に属す。

著しく現世的にして、かつ物質的なる支那人民にとっては、現世において収むべき物質的福利をすてて、未来において得ることができる精神上の幸福を取ることは難しい。そんなことは決してできることではない。

また、祖先崇拝は古来、支那社会組織の根幹をなすものであり、もろもろの風俗習慣の源泉となっている。

そうであれば、西教がいっさいの偶像を拝するなかれとの神戒に従い、祖先教を排斥することは、一方よりみれば、支那における徳育(道徳の基本)をくつがえし、社会組織を破壊することにもなる。

他方よりみれば、支那人をしてそのもっとも貴ぶところの福利を捨てさせることとなる。

 このため、政府は主として、第一の側の観察より西教(キリスト教)に反対し、人民はもっぱら第二の側の観察よりこれを排斥す。

最初、布教のためにきたジェスイット派の教士中には、この難関はふつうの手段では克服できないと見てとり、荻滑なる方便を案出し、一方理論上では、支那における祖先崇拝は、宗教的儀式にあらずして礼俗的儀式なり、ゆえに祖先の祭祀は、拝偶像戒を犯すものにあらずと付会し、一方、拝礼上にては、祖先祭の時に、香または花のなかに細小の十字架を蔵しておき、心裏にわれは十字架に向かって拝をなすなり、けっして偶像類似のものを拝するにあらず、と念じて拝すという逃げ道をつくった。

これもとより一時の計略にすぎず、そのうえ、祖先崇拝を礼俗的儀式とみる説は、ローマ法王の裁決により斥けられたが、祖先教が西教の布教に対し有力の妨害となった証拠である。

今日なお西教(キリスト教)に反対する者は、ロを開けば必ず、まず、西教は祖先を祀らない鬼となるものなので、決して信仰してはいけないという。これが西教反対の有力なる理由で、今回の事件の遠因となっている。

西教反対の理由は、この他にもいろいろある。

今この大略をあげる。第一は布教ということについて起こる疑惑である。儒教は、支那人のため支那の地に生まれ、支那の地に成ったもので著しく支那的にして、その教義には、広く万国に普及して世界の人を救わんとする精神は含まれていない。したがって布教を重要視していない。

ゆえに支那人は、いまだかって自ら進みて儒教を他国民に伝播・弘布したことはない。仏教は早く支那に入ったことはと疑いないといえども、正史の記すところによりて、一般には後漢の明帝の請来したるものと信じられている。

古(いにしえ)に遡(さかのぼる)るときは、われ求めざるに彼よりきて教を伝えしと思われる例なきにあらざれども、史乗(事実の記録。歴史)記載明らかならず。

かつ、これらの教は、あるいは早く支那人の思想と混和、融会して久しく、すでに外国伝来のものたる痕跡をとどめていないため、一般に支邦人の考るところでは、われ求めないのに彼(外国)よりきて西教(キリスト教)を弘めたることは、その例ははなはだ稀れである。したがって、布教については疑惑の念を生ずることを免れない。

これは支那(中国)民族が自ら布教の経験がないこと、従来、支那に行なわるる外教は、みなわが請来したるものに係わると思う誤謬による疑惑である。

 かつ、支那人はその特性として、利益の念を外にして(もたずに)もっぱら道のために道を弘める、という精神を理解することができない。

西洋人は中国に求むるところはないのにかかわらず、自ら進んでキリスト教を中国に弘布するのは、その神面(神の顔を語って)に必ず測りがたき野心を隠しているのではないか、と疑惑をますます高めた。

いわんや事実上、布教と通商(貿易)とは密接に関係しており、通商上の出来事よりたまたま闘争がエスカレートして、ついに支那の土地割譲の事態に発展したことがある。

 また、ジェスイット派教士は、土田を買い教会堂を建てる方針をとり、その教会に係わるものようやく多くなり、今日では、イタリア、フランス二国の教会所有にかかる土田はすこぶる多い。

康熙帝(こうきてい)は、はじめは宣教師に対して寛仁の態度をとったが、宣教師が教徒をまったく自己の支配の下に置いて、朝廷の支配を免れさせる意志と挙動があるものと見て以来、宣教師に対する態度を一変した。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究 ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本メルトダウン脱出法(827)「黒田バズーカ」第3弾を生んだ崖っぷち事情ー計り知れないマイナス金利導入のインパクト」●「鍵は中国「毒」の伝染遮断、資本規制だ 世界株安底入れのかすかな曙光が見え始めたー武者 陵司」●「黒幕発覚はこれから!?ー廃棄食品横流し事件の深い闇」

   日本メルトダウン脱出法(827)   http://toyoke

no image
日本メルトダウン脱出法(803)「にわかに危険度の増す米ロ核戦争、発端は間違い』●「FT執筆陣が占う2016年の世界、恒例の大予測:原油価格から米大統領選、サッカー欧州選手権まで」●「日本のイノベーションに光を当てたパイオニア 青色LEDで世界を変え、次の奇跡の開発に挑む中村修二氏」(英FT紙)

  日本メルトダウン脱出法(803) にわかに危険度の増す米ロ核戦争、発端は間違 …

湘南随一の海辺のレストラン「なぎさ橋珈琲 逗子店」から見た絶景富士山はワンダフル!

          &nbsp …

『Z世代のための<日本政治がなぜダメになったのか、真の民主主義国家になれないのか>の講義⑥『憲政の神様/尾崎行雄の遺言』★『先進国の政治と比べると、日本は非常識な「世襲議員政治』★『頭にチョンマゲをつければ江戸時代を思わせる御殿様議員、若様議員、お姫さま議員のバカの壁』★『総理大臣8割、各大臣では4割、自民党世襲率は30%。米国連邦議会の世襲率は約5%、英国の世襲議員は9%』★『封建時代の竹刀腰抜けの田舎芝居政治を今だに続けている』

2018/06/29   日本リーダーパワー史(921)記事 …

『トランプ大統領と戦う方法論⑰』★『明治の国家参謀・杉山茂丸の国難突破・交渉力を見習え」➃』★『軍事、外交は、嘘(ウソ)と法螺(ほら)との吐きくらべで、吐き負けた方が敗れる』★『杉山35歳は一片の紹介状も持たず単身渡米して金融王・モルガンを煙に巻き、1億3000万ドル(約1900億円)の融資に成功した。』★『その時のタンカの切り方』

 2024/11/15/記事再編集 2014/08/09 /日本リーダ …

no image
日本リーダーパワー史(282)『尖閣問題を巡る世論の高まり、衝突をリスク管理せよ、日中外交失敗を繰り返すな』

日本リーダーパワー史(282)   <尖閣諸島問題を考える視点> &n …

no image
百歳学入門(70)日本の食卓に長寿食トマトを広めた「カゴメ」・蟹江一太郎(96歳)の長寿健康・経営10訓①

 百歳学入門(70)   日本の食卓に長寿食トマトを広めた「トマトの父」 ・カゴ …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(215)ー『リーダー不在の人材倒産国・日本の悲劇①> 『明治の日本を興したリーダー』と『昭和の日本 を亡ぼしたダメリーダーたち』(上)★『 近衛文麿 、石原莞爾、松井石根 板垣征四郎、松岡洋右 、富永恭次、野村吉三郎 、永野修身』

  2011/12/30  日本リーダーパワー史( …

『大谷のドジャーズ移籍を祝い、デビユーした2018年4月4日の大谷フィーバーの記事を紹介する」★『Shohei Ohtani fever is really heating up in Angel Stadium』★『大谷が自己の可能性を信じて、高卒 即メジャーへの大望を表明し、今それを結果で即、示したことは日本の青年の活躍の舞台は日本の外、世界にこそあることを示唆した歴史的な事件である、、

    2018/04/04 記事再録 『F国際ビ …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(274)★『江戸を戦火から守った <勝海舟、山岡鉄舟と共に幕末三舟の一人として知られた高橋泥舟の国難突破力②-泥舟の槍・淋瑞の禅』

       2011/06/11&nb …