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日本リーダーパワー史(843)★『新刊「世界史を変えた『明治の奇跡』(インテリジェンスの父・川上操六のスパイ大作戦、海竜社 2200円+税)を出版』★『川上のインテリジェンス(知性、智慧、智謀、スパイ、諜報、謀略なども含む概念)を知ることこそ、明治の奇跡を解くキーワード』

   

 日本リーダーパワー史(843)★

『新刊「世界史を変えた『明治の奇跡』

(インテリジェンスの父・川上操六のスパイ大作戦、

海竜社 2200円+税)を出版』

978-4-7593-1555-4

はじめに - 今こそ「明治の奇跡」を解き明かすとき

2017年の世界」は、トランプ米大統領の登場で大激動期を迎えた。英国のEU離脱をはじめ、欧州にナショナリズムのうねりが強まっている。米科学誌は「地球最後の日までの残り時間を概念的に示す『世界終末時計』を30秒進め、残り2分半」とした。

 著名な国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、「今年、世界は地政学的後退期に入る。第二次大戦後で最も変動の激しい節目の年、米中関係が急激に悪化する可能性が高い」と指摘する。

 過去五500年の世界史で既存の覇権国(現在のアメリカ)と新たに台頭してきた国(中国) が対略したケースは計16回あり、そのうち12回が戦争になったという研究データも公表された。戦争勃発の確率は実に75%にのぼる。

 今回のトランプ政権で「米国通商会議」委員長に指名された対中強硬派ピーター・ナヴアロ氏の最新刊『米中もし戦わばー戦争の地政学』 (赤根洋子訳、文蛮春秋、2016年)でも「米中戦争が起きる可能性は非常に高い」と警告した。

 米中覇権争いが起こりかねない原因は、習近平主席が「2030年代には中国がアメリカを抜いてGDP世界一になる」との目標のもとに、「中国の夢」(中華民族の偉大なる復興、清国が侵略される前の状態)の実現をめざし「核心的利益政策」(台湾、南シナ海、尖閣諸島、チベット、東トルキスタン独立問題など)を武力を背景に強引に進めているからだ。「国際秩序」(欧米思想)対「中国の夢」 (中華思想) との文明の衝突である。

 今年(2017年)は大政奉還 (1867年)から150年目に当たる。

 良い鎖国から目を覚ました日本は、世界が驚くほどのスピードで封建制度を打破し、西欧文明を取り入れて、近代国家づくりに成功。わずか40年で日清、日露戦争に勝利して西欧先進国の仲間入りを果たした。

18、19世紀の欧米諸国によるグローバリズム(帝国主義、植民地主義)に対して、軒並み植民地化されたアジア、中東、アフリカの有色人種各国の中で、唯一独立を守り通したのが「明治日本」なのである。

 イギリスの文明評論家HG・ウェルズやアーノルド・トインビーは「明治日本の躍進は世界史の奇跡である」と賞賛しているが、肝心の日本は「歴史忘却病」「歴史過少評価症」に陥り、自画像を喪失している。

 HG・ウェルズは『世界文化史大系』(北川三郎訳、大鐙闇、1927年)で次のように書いている。

「日本国民は驚くべき精力と叡智をもって、その文明と制度を欧州諸国の水準に高めようとした。人類の歴史において、明治の日本が成し遂げたほどの長足の進歩をした国民はどこにもいない。

一八六六年の日本は、まだ極端なロマンチック封建主義の、荒唐無稽きわまる漫画のような中世の国民にすぎなかった。それが1899年には完全に西欧化して、最も進歩した欧州諸国と同列に並び、ロシアよりも進んでいたのである。

 ァジアは絶望的に欧州から立ち遅れて、もう取り返しがつかないという考えを、日本は完全に吹きとばした。日本に比べれば、どんな欧州の進歩でさえも、まどろこしくて試験的だったと思える。その上で日本は帝政ロシアとの戦争(日露戦争)で、アジア史にエポックをつくり、欧州の尊大倣慢な態度に終止符を打った」

 明治維新を達成した西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允の「維新三傑」はいずれも187778年の間に没し、「歴史の舞台」から一斉に姿を消した。

 この後は伊藤博文、山県有朋、大隈重信らがトップに立ち、不平等条約改正に取り組み、朝鮮嬉宗主国大清帝国・弱小国日本との対立が延々と続いた。これにロシア帝国が介入して、三っ巴、四つ巴の外交紛争に陥る。約「五年間モメにモメ続けた結果、1894年についに日清戦争となって火を噴いた。

 この時、明治天皇も伊藤内閣も、山県有朋らの元老も野党も、清田、ロシアの国力、軍事力に恐れをなして、「日清戦争には反対」だった。

 この120年前の日清戦争前夜の外交雰囲気と現在もモメ続けている中国、韓国、北朝鮮とのまじめにパワーバランスはよく似ている。

当時世界一のGDP大国の活国は「中華思想」「華夷秩序」にどっぷり浸り、中国伝来の漢字文化、仏教、儒教思想の恩恵を受けた日本が生意気にも何を言うかという態度で、日本を一貫して蔑視していた。

「小中華の属国朝鮮」は事大主義に凝り固まり、李氏王朝は統治能力、経済力ゼロで、宮廷内で血で血を洗う内紛が絶えない。ロシアは不凍港を求めて、シベリア鉄道を建設し、満州、朝鮮を虎視眈々と狙っている。

「国難迫る⊥と危機感を持った日本は、清国・朝鮮との提携を求めて外交交渉を続けたが、反日清国・朝鮮は聞く耳を持たない。この日本、清国、朝鮮、ロシアの四国のパーセプションギャップ(思い違い、認識ギャップ)、エスノセントイズム(自民族優先主義)、異なる文化の衝突が日活、日露戦争の対立構図なのである。

 この時のロシアの領土拡大、海洋進出の帝国主義的侵略は、現在の習近平主席の「核心的利益政策」による南シナ海紛争、海軍力増強と同一のものである。

 4年前に日本でもやっと「国家安全保障会議」(日本版NSC)が誕生したが、明治の陸軍参謀本部は「長期国家戦略」、「国家安全、防衛政策」の計画立案、情報収集、インテリジェンス(諜報活動)をする唯一の組織である。

 そのトップに座った川上操六参謀次長(のち総長)は、優秀な人材を薩長藩閥に関係なく抜擢し、参謀本部に集めて、ドイツのモルトケ参謀総長のもとに一年半にわたって弟子入りし、クラウゼヴィツの戦略論などを学んで日清戦争で実践した。

 帰国後は参謀本部を大改革し、陸軍大学校で情報将校を養成。清田、ロシア、西欧列強に派遣して、情報網を張り巡らせて戦略情報を収集し、「日清、日露戦争の勝利の方程式」を解いた。

 その結果、「活国は敵ではない。一度、反日倣慢の活国の鼻をへし折って覚醒させる必要がある」と陸奥宗光外相とタッグを組んで、明治天皇や伊藤首相らの反対を押し切って、モルトケ直伝の「はじめ熟慮、おわり断行」で、強引に開戦に持ち込み、先手必勝で完勝した。明治天皇は「日清戦争は朕は反対だったが、川上、陸奥宗光らが起こした戦争である」(明治天皇記)と書いているほどだ。

 戦後72年を経過し、世界のパワーバランスが大きく変化した現在、国会では一〇年一日のごとく「憲法改正」、「共謀罪」などを巡り、延々と論議を続けているが、戦争に勝った国は栄え、負けた国は滅びる。それは人類文明の「生存競争」の必然であり、各国の興亡の歴史でもある。

 歴史に「ifはないが、もし、川上が「勝つチーム参謀本部」を作らなければ、また「富国強兵」政策を最優先しなければ、明治日本の奇跡はなかったであろうし、日清、日露戦争も勝てたかどうか疑わしい。「優柔不断なリーダーたち(その後の昭和のリーダーたちはもっとひどいが)」はズルズル決断を先延ばしにして、勝機を逸した可能性は高いと思う。

 日清、日露戦争でアジアの無名の貧乏小国「チームジャパン」が勝利できたのはなぜか。「最強の参謀本部」を作り上げた川上操六のリーダーシップのおかげである。

 川上のインテリジェンス(知性、智慧、智謀、スパイ、諜報、謀略なども含む概念)を知ることこそ、明治の奇跡を解くキーワードなのである。

 ところが日清、日露戦争本や明治の軍人伝記、戦略本を探しても、川上についての単行本は七〇年前に徳富蘇峰が著した『陸軍大将川上操六伝』(第一公論社、1942年)の一冊のみ。戦後は全くその存在さえ忘れ去られている。

 これこそリーダー、歴史研究者、国民のインテリジェンスの欠如を示すものと思い、資料の少ない中で取り組んできた。まだまだ不十分な内容だが、いずれ補充するつもりである。

2017年7月

                  前坂俊之

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

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