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日本リーダーパワー史(265)『シンドラーを超えて6千人のユダヤ人にビザを発行した外交官・杉原千畝』(白石仁章氏の講演)

   

日本リーダーパワー史(265
 
世界が尊敬した日本人
 
『シンドラーを超えて6千人のユダヤ人に
ビザを発行した外交官・杉原千畝(白石仁章氏
 
 
5月27日、「自然環境と人間性生活を考える会」主催で鎌倉生涯学習センターで 白石仁章氏(外務省外交史料館)による『6,000人の命のビザー悲劇と栄光の外交官杉原千畝」
』の講演会が開かれた。白石氏は1963年、東京生。上智大学大学院史学専攻博士課程修了、外務省外交史料館に勤務。東京国際大学、慶應義塾大学大学院で教鞭をとり「外交史とインテリジェンス・システム論」を専門としている。昨年2月、『諜報の天才杉原千畝』(新潮選書)を出版した。


「6,000人の命のビザ 悲劇と栄光の外交官杉原千畝」の講演レジメ

○はじめこ 杉原千畝研究の特徴と盲点―オーラル・ヒストリーの有効性と限界、史料研究の遅れ
 
1.杉原千畝のカウナス派遣’
1) ノモンハン事件の余波
2)「欧州ノ情勢複雑怪奇ナリ」:独ソ不可侵条約の衝撃
3)第二次欧州大戦の勃発:ポーランドの悲劇
 
2.カウナスでの情報収集
1)情報戦の最前線となったカウナス
2)ポーランド人将校との協力と信頼関係
3)ユダヤ人少年との友情と情報収集
 
3.ソ連のバルト三国併合
2)苦悩するリトアニア政府
3)各国外交官の引揚げと日本領事館を囲んだユダヤ避難民たち
 
4.「命のビザ」発給の決断
1)ビザの有効性を保つための緻密な工作
 2)ビザ発給に追われながらも続けた諜報活動
 3)ホテルや駅で発給した渡航証明書
 
5.独ソ開戦情報を入手=凄腕外交官の真骨頂
1)杉原の能力を評価した外務省
 2)危険を冒して手に入れた貴重な情報
 3)杉原千畝の悲劇=同盟国から忌避された外交官
おわりに 今日、杉原千畝を学ぶ意義
      =21世紀の子供たちに夢や希望を伝える希有な人物
 
著書の『諜報の天才杉原千畝』は「ユダヤ人へのビザ発給と同時に、インテリジェンスオフィサーとして杉原が携わった諜報活動について豊富な史料に基づいてその業績を具体的に明らかにしている」と評価されている。
―――――――――――――――――――――
 
 


2
005年3月20日
         世界が尊敬した日本人③
6000 人のユダヤ人の命を救った勇気ある外交官・杉原千畝

         
前坂 俊之(ジャーナリスト)
1940 年(昭和15年)7月27日朝、バルト海沿岸のリトアニアの首都・カウナスの日本領事館の建物は数百人の群集に取り巻かれた。杉原千畝領事代理が驚いて調べると、ナチス・ドイツのユダヤ人狩りを逃れてきたポーランドの難民たちだった。
前年9月、第2 次世界大戦勃発でポーランドは分割され、オランダもフランスもドイツに敗北し、ナチスから逃れる道は、シベリア-日本経由で米国に行くしか残されていなかった。
大量ビザ発行の指示を仰いだが、外務省は日独伊防共協定から否定的だった。ユダヤ系難民は増える一方で、領事館に長蛇の列をつくり、公園に野宿しながら「死から脱出できるかどうか」必死の形相でビザの発行を訴えた。
『この人々を見殺しにするわけにはいかない。見捨てれば私は神に背く』。苦悩の末、杉原は訓令違反のビザ発給を決断した。領事館の門を開いた瞬間、難民からは大歓声が沸き起こった。杉原は連日、すべて手書きのビザを数百枚も書き続けた。
8月3日には、ソ連がリトアニアを正式に併合、外務省から「早く撤収せよ」との指示が
届いた。しかし、杉原は毎日毎日、ビザを書き続け、疲れて夜は倒れ込む。ビザを書いてもらった難民の中には杉原の足もとにひざまずいて感謝のキスをする女性もいた。
8月28日に領事館を閉鎖して、ホテルに移ったが、ここでもありあわせの紙でビザを書き続けた。9月1日、退去のためベルリン行きの国際列車に乗り込んだが、最後の最後までビザを書き続けた。杉原が書いたビザは合計2139 枚にのぼる。
個人ビザ以上に家族兼用の旅券が多かったので、「杉原ビザ」で脱出した人は約六千人と見られている。これらのユダヤ人難民はシベリア鉄道などで大陸横断し、船で日本に渡り米国へと逃げていった。その数は約1万5千人にのぼったという。
映画「シンドラーのリスト」のモデルとなった人物が救ったのは約1200人と言われて
おり、杉原はこの五倍である。ガス室からユダヤ人を救った世界最大の恩人といっても過言ではない。
一九四五年(昭和20)8 月、敗戦。杉原はソ連軍が占領したルーマニアのブカレスト郊外のソ連収容所に抑留された。二年後の四七年二月に帰国し外務省に復職した。
ところが、同六月、突然、岡崎勝男事務次官から呼びだされ「お分かりでしょうね」と解雇の通告を受けた。独断でビザを発行した責任を追及されたのである。
この時、家に戻った杉原の落ち込んだ暗い表情を妻・幸子は死ぬまで忘れなかった。杉原は四七歳。以後、外交官から民間人となった杉原は占領下の貧困と混乱の中を必死で生き抜いていく。
一九六〇年、杉原はソ連、東欧での専門的な知識、体験を買われて「川上貿易」モスクワ事務所長となって、再びソ連の地を踏んだ。五年後には「国際交易」のモスクワ支店代表となった。
「命のビザ」は戦争の悲惨なエピソードの一つとして歴史の中に埋もれようとしていたが、昭和四三年八月、イスラエル大使館から杉原への一本の電話でよみがえる。
同大使館のニシュリ参事官が二十八年も探し求めていた杉原を突き止めて会い、ぼろぼろになった紙(杉原ビザ)を示し、感動の再会を果たしたのである。すでに杉原は六十八歳の晩年を迎えていた。翌年、杉原はイスラエルから招待されて訪問したが、バルハフティック宗教大臣が丁重に出迎えた。領事館でユダヤ人代表として杉原と会った人物であった。
昭和60年1月、杉原はイスラエル政府から「諸国民の中の正義の人賞」(ヤド・バシェ
ム賞)を日本人としてはじめて受賞したが、翌年7月に杉原は鎌倉市内の病院で静かに息を引き取った。享年86歳。

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