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『ガラパゴス国家・日本敗戦史』⑱日本帝国最後の日(1945年8月15日)をめぐる攻防―終戦和平か、徹底抗戦か➂』

      2017/07/13

 『ガラパゴス国家・日本敗戦史』⑱

 

 


『日本の最も長い日―日本帝国最後の日(1945

815日)をめぐる攻防・死闘―終戦和平か、徹底抗戦か➂』

 

       

 前坂 俊之(ジャーナリスト)

●「問題の「サブジェクト・ツー」

 

問題は、これも予想通りの第一項にある「サブジェクト・ツー」と、第四項の「日本国政府の形態は、日本国民の自由に表明する意思に依り決定」されるという項目で、軍部側は強硬に反対運動を開始した。

 

第一項の「サブジェクト・ツー」を容認すれば日本の国体護持はできないし、第四項も神ながらの天皇を否定することになるというのである。

 

外務省の条約局が「軍人は訳文にたよるに違いないから」と、問題の「Subject to」を本来の訳語とはニュアンスを変えて「制限の下にあり」としたのだが、参謀本部では独自に翻訳を済ましていたのだ。

 

その参謀本部の訳文は、まず冒頭に「これは数分間前、国務長官バーンズによって正式に発表されたものである」と但し書きを添え、問題の箇所をこう訳している。「日本ハ降伏ノ瞬間カラ、日本天皇及日本政府ハ降伏条件ヲ実行二移ス間、必要間卜認メラルヘキ措置ヲトルデアラウトコロノ連合国最高指揮官二従属サルへキモノトス」

 

さらに 「Subject」 についても懇切丁寧に注釈を付している。

 

Subject(形容詞)ノ意味

語源ノ意味ハ 「…ノ下二投ゲ出ス…或ハ置ク」ナリ。文章的二使用サルル意味左ノ如シ。一  他ノ権力或ハ支配ノ下ニアル右ノ意味二於イテ、特二国際法上デハ左ノ如ク使用サル。

 

  定ノ一主権者、或ハ国家二忠誠ヲ誓フコト

  特定ノ一主権者或ハ国家ノ臣下トシテアルコト(以下、略)そして軍務局は回答内容の説明資料まで付けて大臣や総長に配布している。

その説明資料では、これでは「天皇は連合国最高指揮官に隷属しあり、決して、対等の地位にあらず。天皇の上に統治者(支配者)あり、これ国体の根本的破壊なり」と決めつけ、こう結んでいる。

「帝国の企図する意図は全然達成せられあらざるものなり。賠償問題の明示しあらざるは降伏後、国民を奴隷化せんとする企図なり」と。

八月十二日午前八時三十分、梅津美治郎参謀総長と豊田副武軍令部総長が、いち早く参内して、天皇に連合国回答の受諾に反対意見を奏上したのも、このバーンズ回答の訳文を読んだからだった。

その行動の是非は別として、バーンズ回答への対応では、首相官邸や外務省よりも軍側の万が一歩先んじていたといっていい。だが、天皇は軍統帥部の反対意見には動じなかった。

 

一方、東郷外相は松本次官たちが帰った後の午前十時半ごろ、官邸に鈴木首相を訪ね、連合国の回答を受諾しても差し支えないむねを説明し、首相が同意なのを確かめてから参内した。陸海の両総長が参内した二時間半後だった。

東郷外相は、連合国の回答は受け入れても差し支えない旨奏上した。終戦直後の東郷外相の話によれば、天皇は「先方回答のままにて可なりと思考するにより、これを応諾するよう取り運ぶべき旨、なお総理にも右様伝うべき旨、御沙汰があった」 という。

東郷外相は再び首相官邸に取って返し、鈴木首相に陛下の真意を伝え、回答文の受諾を進言した。

 

そして東郷がその場から外務省にいる松本次官にこれまでの経過を電話で伝えていると、突然、平沼騏一郎枢密院議長が総理室に現われ、国体論の立場から第一項と第四項については断じて承服すべきではないと、受諾拒否を迫ってきた。

鈴木首相は、この日の午前十一時過ぎにも阿南陸相か受諾拒否の進言を受けており、外相と一致していたそれまでの「受諾」の気持ちが揺れはじめていた。

そして午後二時、そのまま参内して天皇に拝謁、一連の経過を報告した。鈴木の話によれば、天皇は「それではよく研究するように」といわれたという。

 

「単独上奏」で首相に迫った外相

 

八月十二日午後三時から、回答文受領後初の閣僚懇談合が開かれた。懇談会は大荒れだった。東郷外相と阿南陸相の議論が対立し、安倍源基内相と松阪広政司法相は再照会論を唱える。

 

合議の途中、東郷外相は外務省の松本次官に電話をし、「阿南陸軍大臣や平沼枢密院議長が強硬で形勢はだいぶ悪い」と知らせている。午後四時過ぎである。

合議は強硬派に押されて、東郷外相は窮地に追い込まれつつあった。頼みは首相だけであった。その鈴木首相が突然、東郷の足をすくうような発言をした。

「この回答文では国体の護持が確認されないし、また、武装解除も全く先方の思うままにされるのは軍人として忍びないから、再照会してみよう。もし、聞き入れられなければ戦争を継続するもやむを得ない」

東郷は愕然とした。首相自ら再照合云々といい出したら戦争は終結できない。日本政府が連合国に回答文の再照合をすることは、それ自体不信感を植えつけることであり、日本の「ポツダム宣言受諾」は欺瞞といわれかねない。

 

東郷は、なんとしてもこの閣僚懇談合で結論を出させてはいかんと考え、この間題は正式な回答文が届いてから改めて討議しょうと動議を出し、かろうじて閣議を散会に持ち込んだのだった。八月十二日も五時半になっていた。

散会後、東郷外相は官邸の別室で鈴木首相に面談を申し入れた。

 

東郷は厳しい口調で鈴木にいった。「ただいまの首相の言は納得しかねる。再照合のごときはもってのほかである。大御心は即時受諾して和平にあることは総理もご承知のはずではないか。閣議が逆方向に行くならば、自分は単独上奏するかも知れませぬからご承知願いたい」

 

東郷は、そういい置いて外務省に引き揚げた。外相が単独上奏を決行すれば、閣内不一致で内閣は瓦解する。実際、東郷は外相を辞任するつもりで鈴木に詰め寄ったのである。

 

外務省に帰った東郷は、大臣室に松本次官を呼んだ。松本の目には 「大臣はすこぶる元気なく」見えた。

 

<前坂俊之編著『日本帝国最期の日』 新人物往来社 2003年7月刊より転載>

 

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