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 池田龍夫のマスコミ時評⑭ 普天「核密約」裏づける新資料が続々,<佐藤・ニクソン極秘文書が私邸に隠匿>

   

 池田龍のマスコミ時評(14)
普天「核密約」裏づける新資料が続々
 
<佐藤・ニクソン極秘文書が私邸に隠匿>
ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 沖縄返還交渉(1969~72)の際、「非核3原則」(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)を国会で明言、国民に約束した首相は佐藤栄作氏(1901~75)だった。その後、「『核持ち込み』密約があったのではないか」との疑惑が指摘され、特に昨年6月以降、元外務省高官らの〝暴露発言〟が相次いだが、新たに故佐藤栄作氏邸から「核密約文書」発覚の衝撃が走った。

まさに第一級資料であり、歴代自民党政権が隠蔽し続けたベールが完全に剥がされたと言える。折から鳩山由紀夫・民主党政権のもとで、外務省の「密約調査・有識者委員会」が作業中であり、その波紋は各方面に広がっている。

 
 
      「非核3原則」の根幹を揺るがす大問題
 衝撃のニュースは2009年12月22日読売新聞夕刊が特報したもので、他紙も23日朝刊での大報道となった。「1969年11月21日発表のニクソン米大統領と日本の佐藤首相による共同声明に関する合議事項」との表題がついた文書で、佐藤氏邸に隠匿されていた。故栄作首相の次男、佐藤信二氏(元通産相)が「父の遺品の中にあった」と、メディア各社に真相を初めて語り、日米両国首脳署名の「最高機密文書」が明らかになった。
 
[沖縄核密約文書]米国大統領=我々が共同声明で述べたように、米国政府の意図は、実際に施政権が日本に返還させる時までに、沖縄からすべての核兵器を撤去することである。そしてそれ以降は、共同声明で述べているように、日米安全保障条約と関連する諸取り決めが沖縄に適用される。

しかし、日本を含む極東諸国を防衛するという、米国が負っている国際的責任を効果的に遂行するためには、米国政府は、重大な緊急事態が起きた際、日本政府との事前協議を経て、核兵器の沖縄への再持ち込みと沖縄を通過させる権利を必要とするであろう。米国政府はその場合に好意的な回答を受けられるものと期待する。米国政府はまた、沖縄に現存する核貯蔵施設の所在地である嘉手納、那覇、辺野古及びナイキ・ハーキュリーズ基地を、いつでも使用可能な状態で維持し、重大な緊急事態の際には実際に使用できるよう求める。
 

    日本国首相=日本国政府は、大統領が上記で述べた重大な緊急事態の際の米国政府としての諸条件を理解し、そのような事前協議が行われた場合には、これらの要件を遅滞なく満たすであろう。大統領と首相はこの議事録を2通作成し、さらに、米国大統領と首相官邸にのみ保管し、更に、米国大統領と日本国首相だけの間で、最高級の機密のうちに取り扱うべきであるということで合意した。
     ワシントンDC、1969年11月19日 リチャード・ニクソン(直筆署名)
                          エイサク・サトウ(直筆署名)
 
      「プライベート文書」との認識に驚かされる
「非核3原則」を世界へ向かって発信、「ノーベル平和賞」まで受賞した日本国首相が、「重大な緊急事態の際は沖縄への米軍核再持ち込み」を密かに約束していたとは…。まさに「衣の下に鎧」――40年前の「最高機密文書」発掘によって、「核持ち込み密約」の策謀が証明されてしまった。
 
沖縄返還交渉当時の米国は、ベトナム戦争ドロ沼化に喘いでいる時期だった。米国が日本の求めた「核抜き本土並み返還」を受け入れ、沖縄・米軍基地からの核兵器撤去に応じた背景には、米国の財政ピンチと日米繊維交渉打開の思惑も絡んでいたようだ。米国にとっては、経済大国の地歩を固めてきた日本との連携強化のための「沖縄返還」だったわけだが、その代わりに米国は「有事の際の核再持ち込み」密約を日本の首相から取り付けていたのである。
 
佐藤信二氏が朝日新聞のインタビューに応じ、文書発見の経緯などを語っている重要個所をピックアップして参考に供したい。
①「父(栄作氏)が首相を辞めて私物を自宅に持ち帰った時に、公邸で日記などをつけていた机も運んだ。母も亡くなり、遺品を整理するため机の引き出しを空けたら、この文書が出てきた。間違いなく父が書いたものと思う。父の真意は分からないが、『核抜き本土並み』というのはだいたい固まりつつあった。そういう中で、文書を押さえにしないと壊れると本当に思ったのだろうか。次の首相の田中角栄氏にも、多分この文書を伝えていないと思う。」
 
②「この文書は『プライベートレター』だと思う。公私の別をはっきりする人で、私文書だから持ち帰ったと思っている。公文書というなら官邸に置いただろう。これによって沖縄が返ってきたと結びつけるのは短絡的だと思う。これまで積極的に発表しなかったのは、あまり意味がないんじゃないかと思ったからだ。文書を見つけた際、外交資料館で保管を頼もうかとも思ったが、外務省の人たちはあまり関心がないようだった。存在を知らない人が多かった。」
 
       〝密使〟若泉敬氏の告白は、本当だった
佐藤首相は、前段で紹介したニクソン大統領との「密約文書」には、「(この議事録を)首相官邸にのみ保管し、さらに米国大統領と日本国首相だけの間で、最高級の機密のうちに取り扱うべきであるということで合意した」と明記されていたのに、首相辞任後私邸に持ち帰ったこと自体、国家機密上の重大問題である。日米首脳だけが厳重保管するとの約束にも違反しており、とんでもない行為ではないか。息子の信二氏が最近の「密約報道」の高まりに便乗して文書公表に踏み切ったと推察されるが、国会議員だった信二氏の「プライベート文書だ」との認識には驚かされた。「親子そろって、密約文書を私物化し、秘匿した」との非難を浴びるのは、当然でなかろうか。
 
米国大統領が署名した「密約文書」には、「重大な緊急事態が起きた際、日本政府との事前協議を経て…」と断りつつも、「米国政府はその場合に好意的な回答を受け止められるものと期待する」と明記している。平たく言えば、「日本政府は、米国の申し入れに遅滞なく応じる」との前提に立ったレトリックで、事前協議を空洞化するものである。
 
以上の「密約」について、返還交渉の〝密使〟だった故若泉敬氏(京都産業大学教授)は1994年に出版した著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」で密約交渉の経緯を暴露しており、信憑性の高い資料と見られていたが、自民党政府は一貫して存在を否定してきた。このほど、日米首脳の直筆署名文書が白日のもとに曝されたことにより、「歴代政府のウソ」が完全に暴かれたのである。
 
  「沖縄返還、肩代わり密約」、「核搭載艦船寄港の密約」も…

日米間の「密約」として、①核持ち込み時の事前協議から艦船寄港などを外す核密約、②朝鮮半島有事の際に在日米軍基地を出撃拠点として容認する密約、③有事の際の沖縄への核再持ち込み密約、④沖縄返還の際、米国が負担すべき原状回復費400万㌦を日本側が肩代わりするなど3億2000万㌦を義務づける密約――があったと指摘されているが、まず③の密約が「佐藤栄作署名文書」発掘によって裏づけられた。
 
④の「沖縄返還時の3億200万㌦肩代わり密約」については現在、東京地裁の「沖縄密約文書開示訴訟」がヤマ場を迎え、注目を集めている。昨年12月1日開かれた口頭弁論で、交渉当事者だった吉野文六・元外務省アメリカ局長が原告側証人として、「肩代わり密約があった」とキッパリ証言している。証言内容は前回のリポートで詳報したので重複は避けるが、「沖縄返還密約」の国家賠償訴訟提起(2005年)から5年にわたる審理を通じて、これまた密約の存在が極めて濃厚になってきた。
 
①の「核兵器搭載艦船の日本寄港・通過」の密約もまた、昨年6月の村田良平・元外
務事務次官の「核持ち込み」発言を皮切りに、元外務省高官から次々と「密約発言」が飛び出している。今年1月になって、1960年の日米安保条約改定時に外務事務次官だった山田久就氏(故人)が語った録音テープが見つかった。共同通信が1月22日配信したもので、史料価値は高い。山田氏が81年5月、原彬久氏(東京国際大学大学院教授)のインタビューに答えたもので、既に明らかになっているライシャワー元駐日大使証言を肯定する内容である。これまた、日本政府が一貫して「事前協議がなかったから、核持ち込みはない」との主張を完全に覆す資料である。録音テープのやり取りが興味深いので、要点を紹介しておこう。
 
「(原)1960年に安保国会が始まって、赤城宗徳防衛庁長官がトランジット(通過・寄港)もイントロダクション(持ち込み)に入る。事前協議の対象になると言うんです。外務省で(国会対策用の)想定問答を作り、トランジットも入れています。だから取り繕ったわけですね。だけど日米間の問題意識としては、トランジットは全然入ってない。
 
(山田)入っていない。ライシャワー氏が『核艦船の通過・寄港は核持ち込みではない』と証言した通りです。通過・寄港を『持ち込み』に入れたのは、対野党戦術ですよ。安保改定時に、非核3原則なんてバカな話は考えていないからね。(核持ち込みの事前協議をしたら)完全にイエスもあれば、ノーもあるということでね、その時の状況によってね。それが両国間の了解ですよ」。―

―当初から、「核持ち込み」をカムフラージュする意図があったことを明白に裏づける証言である。米国の軍事戦略に「ノー」と言えない日本政府が、姑息な〝言い逃れ〟で糊塗し、ウソの上塗りをして国民を欺いてきた戦後政治の姿に、驚愕は深まるばかりだ。

 
    外務省「有識者委員会」が、密約文書解明に斬り込む
 鳩山民主党政権発足直後の昨年11月、外務省は「核密約を調査・検証する有識者委員会」を立ち上げ、自民党政権が閉ざし続けてきた難題に斬り込む作業に着手、当時の外交文書を洗い出している。有識者委員会は、北岡伸一・東大教授を座長に、河野康子・法政大教授、坂本一哉・大阪大教授、佐々木卓也・立教大教授、波多野澄雄・筑波大教授、春名幹男・名古屋大教授(元共同通信記者)の6委員で構成。いずれも日米外交・安保・沖縄問題の専門家で、外務省参与(非常勤国家公務員)として、守秘義務が課せられている。同チームの調査対象は、先に挙げた「密約」4件だが、外務省と財務省から問題文書は見つかるだろうか。

各省庁には、公文書を厳重管理・保存する義務が課せられているが、大臣間の引き継ぎを含めて文書管理は恣意的で、いい加減な実態という。「由らしむベし、知らしむべからず」の〝お上意識〟がなお根強く、「探したが、文書はなかった」との隠蔽体質は目に余る。特に「情報公開法」が施行された2001年前後、外務省幹部らの指示で、一部文書が廃棄(焼却、裁断)されたといわれ、「調査検証チーム」の証拠集めは生易しくないと推察する。ただ、「核搭載艦船の寄港密約」に関する大平・ライシャワー会談などの関連文書はかなり見つかっているようで、「寄港密約」に関する証拠集めは進んでいる模様だ。
 

 一方、「沖縄返還、肩代わり密約」については、大蔵省課長補佐時代に「原状回復費問題」を直接担当した森田一氏(大平外相秘書官のあと運輸相)の証言を受け、菅直人財務相が文書探しを命じるなど、外務・財務両省での掘り起こし作業が進行中だ。しかしここにも、2001年前後の〝廃棄〟文書はあるようで、「寄港密約」より証拠集めが難航すると予想されている。ただ、「肩代わり密約」については、東京地裁での審理を通じて、補強材料が次々出てきている。
 
      日米安保改定50周年、再検証のチャンス
 東西冷戦の終焉から20年、中国をはじめ新興国の経済発展によって、先進国(特に米国)優位の外交圧力がスンナリ通用しない時代になった。「日米安全保障条約改定」50周年を迎えたいま、日米関係のヒズミを検証し、軍事偏重でない日米同盟を再構築する絶好のチャンスである。当面「沖縄・普天間基地移設問題」がホットな課題ではあるが、その根底にある日米軍事協力の在り方を再検証し、日本が「核なき世界」への先導役となる覚悟が、鳩山民主党政権に求められていると思う。

その観点に立って見れば、歴代自民党政権の欺瞞的「核密約」を清算し、戦後の日本の道標になってきた「憲法9条」と「非核3原則」を再確認することこそ肝要である。ベールを剥がされた「核密約の存在」を逆手にとって、「憲法改正」「非核3原則見直し」論が台頭するような時代状況は危険きわまりなく、国家存亡の重大事であるからだ。

 
 最後に、寺島実郎氏が「東アジアの現状を冷静に捉えるならば、『戦略的あいまいさ』であっても、日本での米軍の存在は一定の枠において継続されるべきものであろう。ただ、これまでの惰性ではなく、熟慮の上、相互信頼に値する日米同盟の再構築に立ち向かうべきである」と前置きし、5項目の問題点を提起していたので、その概略を紹介しておきたい。(『世界』2010年2月号)
 
「①経済と安全保障の二本立てで討議を深め、日米同盟を再設計する。日米FTA(自
由貿易協定)などの具体化と米軍基地などの在り方についての戦略対話を実現する。
 ②日米軍事同盟の在り方について日本の考え方を明確にする。米軍基地・施設を使用目的ごとに検討し、目的を終えたものから削減、まずは10年以内に半減を目指す。
 ③地位協定については、米軍基地を順次『日本政府が管理する枠組の中で、米軍を自衛隊基地に駐留させる形での共同管理方式』へと移行する。
  ④米軍のプレゼンスを維持する仕組みとして、ハワイ・グアムに『緊急派遣軍』的戦
力を一定期間保持して、日本・韓国が応分のコスト負担をする方式などを模索する。
  ⑤普天間問題は、周辺住民への危険を配慮し、『2014年までの移転完了』を可能と
する現実的選択肢を速やかに決定する」
                          (20010年2月1日 記)

 - IT・マスコミ論

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