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池田龍夫のマスコミ時評⑯ 「沖縄密約文書開示訴訟」の結審 4月9日の「判決」の行方を注視

   

池田龍夫のマスコミ時評⑯
「沖縄密約文書開示訴訟」結審 49日「判決」の行方を注視
ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
        
 
沖縄返還に関する「日米密約文書開示訴訟」第5回口頭弁論は2010216日、東京地裁第103号法廷(杉原則彦裁判長)で開かれた。原告側が「文書は存在する」と強く主張したのに対し、国側は吉野文六・元外務省アメリカ局長の証言(09121)を「推測による供述」と指摘し、文書の存在を否定し続けた。この「文書開示訴訟」は、昨年316日の提訴から11カ月、弁論開始(09616)から8カ月という「行政訴訟では異例の早さ」(原告弁護団)で結審、49日に判決が言い渡される。
   杉原裁判長の訴訟指揮に、「不存在」を主張し続けた国側
沖縄返還(1972515日)をめぐる日米交渉の背景に「密約」があったことを西山太吉・元毎日新聞記者が告発して以来、その存在につき論議が続いてきた。米国の公文書公開によって「密約」を裏づける資料が発見されても、日本政府は一貫して「不存在」の姿勢を崩していない。このままでは埒があかないため、西山氏、桂敬一氏、新崎盛暉氏ら有識者25人が原告となり、昨年3月提起したのが「日米密約文書開示訴訟」。返還交渉時の「財政密約」につき、「米軍用地の原状回復補償費400万㌦やヴォイス・オブ・アメリカ(ⅤОA)の国外移転費用1600万㌦肩代わりなど密約文書3通」の開示を求めたもので、2月16日の第5回口頭弁論が締め括りの審理となった。
杉原裁判長の訴訟指揮は際立っており、第1回口頭弁論の冒頭、「米国に密約文書があるのだから、日本側に同じ文書が存在するはずだとの原告側主張は理解できる。もし密約が存在しないと言うなら、米国の公文書をどう理解すべきなのか、国側は合理的に説明する必要がある」と述べ、その後の弁論でも、国側の「不存在の弁明」に再三「確認作業」を求めてきた。しかし国側は今回の第5回弁論に提出した書面でも「合理的で十分な探索をしたが発見できなかったので、文書は保有していない」と主張し続け、原告側の請求棄却を求めたのである。なお原告側は、新崎盛暉・沖縄大学名誉教授の陳述書を提出した。
<最終弁論要旨>
【原告】行政文書は外務省や財務省のものではなく、「国民共有の知的資源」である。これまでの主張書面、米国立公文書館で入手した英文資料をはじめとする証拠、吉野文六・元外務省アメリカ局長と我部政明・琉球大学教授の証言などに基づき、3つの密約文書の存在は完全に証明された。
 沖縄返還がどのような交渉を経て成立したかについて国民は「知る権利」を有している。その背景情報を知らなければ、今なお沖縄が抱えている基地問題と日米関係を国民が正しく理解できないことになるからである。国家からの情報の流れは、国民が政治を民主的にコントロールする手段として不可欠であり、情報開示請求権は最大限の保障を必要とする。
 日本は現在、在日米軍の駐留に伴い「思いやり予算」と呼ばれる在日米軍駐留経費を負担しているほか、普天間基地移設・米海兵隊のグアム移転という米軍再編費用も負担することになっている。その源流は沖縄返還交渉時に交わされた財政密約にあると考えられる。
 公開を求める財政密約の文書は、国民にとって今なお、現在性を有する重要文書だ。行政文書の公開は民主主義の礎であり、日米間に伏在する安保条約、軍事、外交の諸問題の実相を正確に知るためには、財政密約文書の存在が日本で公式に認められ、その公開が保障されなければならない。
 行政文書の不存在については、情報開示請求権の性質、当事者の公平、事案の性質、事物に関する立証の難易などから、国が具体的事実に基づいて立証主張する責任を負担している。
【被告】外務省、財務省は、それぞれ合理的かつ十分な探索を行ったものの、対象文書を発見することができなかった。外務省は、200512月から062月にかけて、北米局北米第1課で1965年から76年にかけて作成された沖縄返還交渉に関する行政文書ファイル合計308冊を特定し、1冊ごと職員が確認したが、いずれも保有していないと判断した。吉野文六証言は「日本側にも写しを取らせたと思います」と推測による供述にとどまり、その後の保管状況についても具体的な供述は一切せず、作成当日以降、外務省勤務時代も一度も見たことはなく、保存の有無や状況をまったく知らないと述べている。
 財務省でも行政文書ファイル管理簿で「沖縄」をキーワードに1969年から72年の間に作成、取得された行政文書ファイルの有無を検索、探索したものの、対象文書を廃棄、または移管した記録のいずれの文書も発見できなかった。作成されたとされる時点から40年近く経過し、外務省としては当該文書が存在していたか否かについて把握しようがなかったため、過去の一時点の作成や保有の有無を把握し、理由を付記することは不可能だった。したがって「当省は該当文書を保有していないため、不開示(不存在)としました」と記載せざるを得なかった。
以上の通り、外務省・財務省が本件各対象文書を本件各処分時に保有していないことを理由とした本件各処分はいずれも適法であり、原告らの請求には理由はなく、棄却されるべきである。
 
  具体的資料を発掘・分析し、「密約」を暴いた原告側弁論
原告最終弁論本文は、A444㌻に及ぶ膨大なもので、具体的資料に基づいて密約の存在を論証している。これに比べ、被告最終弁論はわずか5㌻、「外務省・財務省で探したが文書はなかった」との〝釈明文〟のような印象だ。
多くの証拠に基づいて論証した「原告最終弁論」は見事で、今裁判の重大性を浮き彫りにしている。全文を紹介する紙幅がないため、一部の印象的な記述を抽出して原文どおり引用、参考に供したい。
▼「本件情報公開訴訟は、提訴から11カ月余りで第1審の最後の口頭弁論を迎えるという行政訴訟においては異例の早さで進行した。裁判所が的確な訴訟指揮によって審理の促進に尽力されたことについて、原告らは深く敬意を表する。情報公開制度は、情報公開制度が定める手続・期間に基づき適時に情報が開示されることによって、国民による政府の諸活動に対する理解と批判を可能とするものであり、情報公開訴訟における救済の遅れは、救済を拒否することとなりかねない。この点で裁判所の訴訟指揮は刮目に価する。」
▼「原告らが本件訴訟を提起することができたのは、アメリカ国立公文書館で1990年代から公開されている財政密約を示す文書類の入手と研究者による真摯な分析に負うところが大きい。開示請求書にアメリカで公開されている3つの密約文書そのものを添付し情報公開請求を行い、訴状に同文書の説明を付けて裁判を提起した原告らに対して、被告国は、3カ月後の第1回口頭弁論において、外務省及び財務省は本件文書を保有しておらず、『原告らが主張する事実関係については確認し得ない』との答弁を行った。
外務省には沖縄返還に関する308冊のファイル(報道では571冊、在米大使館のファイルは約400冊とされる)が存するにもかかわらず、自国が行った交渉経過の事実関係を確認し得ないというのである。これは、小さな鍵穴から目をこらして、外交文書という『開かずの扉』をのぞきながら、アメリカで公開されている資料に基づいて日本の歴史を理解することを国民に強いているに等しい。アメリカの公文書のみに依拠して歴史を考察することが、現在及び将来の国民の利益に反することはいうまでもない。行政文書は、外務省及び財務省の占有物ではなく、『国民共有の知的資源』である(公文書等の管理に関する法律1条)。沖縄返還交渉時から財政密約を否定し、アメリカの公文書が公開された密約の存在が客観的資料によって裏付けられるに至っても、なお否定を重ねる日本政府の反応は、次の言葉を思い起こさせる。
『すべての人々をしばらくの間愚弄するとか、少数の人々を常にいつまでも愚弄することはできます。しかしすべての人々をいつまでも愚弄することはできません』(アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーン、185898日にワシントンで行った奴隷制度廃止に関する演説の一節)」。
 ▼「1972515日、沖縄の施政権は日本に返還されたが、これに伴い、在日米軍の再編が行われ、日本本土の米軍基地は約3分の1に縮小され、沖縄に日本本土の米軍基地の約75%が集中することになった。こうした日本とアメリカとの間の安全保障、軍事、基地等の政策の影には、以下の5つの秘密の合意=密約があるとされ、1980年代から、アメリカ国立公文書館等で逐次公開された文書や、直接交渉を担当した者らの発言や著作などによって確実視されてきた。
・ 1953年に日米行政協定(地位協定の前身)17条の改正時に交わされた米軍構成員等に対する刑事裁判権(捜査・起訴の権限)の放棄に関する密約
・ 1960年の日米安保条約改定時に交わされた核持ち込みに関する密約
・ 1960年の日米安保条約改定時に交わされた朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する密約
・ 沖縄返還交渉時の1969年に交わされた有事の際に沖縄に核の再持ち込みを認める密約
・ 沖縄返還交渉時の1969年及び1971年に交わされた財政密約
 これらの密約は、戦後の日米関係と分かちがたく結びついている。戦後の日米関係は、『勝者(アメリカ)の権利行使を敗者(日本)への恩恵(たとえば核の傘や市場開放)というフィクション』で覆い隠すことによって形成されてきたといえるが、このフィクションでは覆い隠すことのできない矛盾を沖縄にしわ寄せし、構造的沖縄差別を生みだしてきた。さらに日本政府が国民に対して行ってきた説明と明らかに矛盾する部分については、アメリカとの間で秘密の合意=密約を結び、アメリカの権利行使を保障してきたといいうる。
 そして、日本は現在、在日米軍の駐留に伴い、『思いやり予算』と呼ばれる在日米軍駐留経費を負担しているほか、沖縄に関する特別行動委員会(SACО)の合意に基づき、普天間基地の名護市辺野古への移転と米海兵隊のグアムへの移転という米軍再編費用の負担も求められている。その源流は、沖縄返還の交渉時に交わされた財政密約にあると考えられている。沖縄返還が、どのような交渉、駆け引き、妥協、決定などの敬意を経て成立したのかという情報を知らなければ、全島米軍基地化されている沖縄の現状が抱えている諸問題及び日米関係を、私たち国民は正しく理解できないこととなる。
本件訴訟で原告らが公開を求める財政密約の文書は、過去の一時期の出来事を記す文書に止まるものではなく、国民が日本とアメリカとの間に伏在する日米安保、軍事、外交の諸問題の実相を正確に知るために、今なお現在性を有する重要な文書である。国家から国民への情報の流れ、すなわち行政文書の公開を求める情報開示請求権は、政治に対する民主的コントロールを及ぼす点で民主主義の礎であり、最大限の保障を必要とする」。
 
    「情報公開」は、民主政治の羅針盤
 昨年からの口頭弁論を集大成した「原告最終弁論」は、証拠に基づいてキメ細かく論理構成されており、説得力に富むだけでなく、「情報公開訴訟」の歴史的意義を強調する文書の趣があった。
 折から、鳩山由紀夫・民主党政権発足直後に発足した「密約調査・有識者委員会」(座長・北岡伸一東大教授)の検証作業は進行中で、3月末までに報告書が出る予定だが、果たして「密約」を裏付ける日本側文書がどの程度明らかになるだろうか。20014月の「情報公開法」施行前後に、一部文書が廃棄されたとも囁かれており、有識者委員会の〝証拠集め〟は難航している。故佐藤栄作氏邸から昨年暮、「ニクソン大統領・佐藤首相サイン入りの機密文書」が見つかった衝撃も大きく、「有識者委最終報告」後も〝消えた文書〟の掘リ起こし作業は当分続くだろう。
 「原告らは2009316日、情報公開という船に乗り、錨をあげて帆を張って難航海に出た。目指す最終寄港地は、原告らそして私たち国民が理想とする民主主義社会である。そこでは、政府が国政について説明責任を果たすために、政府の保有する情報の公開が適時になされ、情報の自由な流れが保障され、国民の知る権利が過不足なく満たされている。外交の冷徹なリアリズム、過去の政権の意思決定、政府の政策の立案・実施における過ちが引き起こした歴史のゆがみ。情報開示請求権=知る権利は、これらに光をあて、国民自身が政府の政策を検証・評価し、歴史のゆがみの原因を発見することによって、過去の誤った政策を正道に戻す政治の民主的復元力を担保する。民主政の過程に極めて重要なこの権利が徹底的に傷つけられている本件において、その救済の道を開き、情報公開の羅針盤を正しく合わせるのは裁判所をおいてほかにない。原告らは、民主主義社会の道標を指し示す裁判所の判断を心から期待している」。 
この「原告最終弁論」締め括りの文章は、民主主義を確立するため「情報公開制度」がいかに貴重であるかを鮮明に示したものだ。
<注>情報公開法第1条(目的)この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。
         (なお、「柏木・ジューリック会談で合意した財政密約」についての原告側主張は、先のリポートで触れたので割愛した)
 
    国側は「6000万㌦の対米無利子預金」返却にも答えず
 今回の第5回口頭弁論は、提出済みの「最終弁論書」を確認し合って10分足らずで結審したが、「6000万㌦の対米無利子預金」に関する国側の説明が気になった。この問題は今回の訴訟の本筋ではないが、前回の弁論で国側は「対米預金が日本側に戻っているかどうか」との質問に答えず、今回もまた「財務省で調査・確認中」と返答して逃げ切ってしまった。米連邦準備銀行に確かめれば分かることで、確認作業に手間取る問題ではないはずだ。
米国の公文書には、「沖縄返還に伴い、日本が米銀行に最低6000万㌦を25年間預金し金利相当額の1億1200万㌦を日本が受け取らず、米側に利益供与する」と明記されているというのに、まことに摩訶不思議なこと。ここにも〝密室政治〟のカラクリが潜んでいることは明らかだ。この点について、日隅一雄弁護士ブログの指摘は的を射ている。「1972年、日本の一般会計予算は、11兆4677億円だった。そのときに、6000万㌦、当時1㌦=308円だったので184億8000万円もの金を納税者に黙って米国に無利子で預けた。つまり利息分を米国にプレゼントした。この金が返されているかどうかが答えられないとは余りにも納税者をバカにしていないだろうか。そして、そのバカにした行為をマスメディアが伝えないことも残念だ。マスメディアは、現在も密約に関することになると、とたんに腰が引けるような感じがする。地位協定における米兵に対する裁判権不行使の密約、普天間移転について移転先が拡大したことに伴う密約、そして返却されているかどうか不明の6000万㌦の預金に関する密約…。歴史を検証することは学者に任せてもよいが、現在の政府の行動を伝えることはジャーナリストの仕事だ。そうそう、結審にあたって、国から反論がなされたが、密約がなかったとの主張はもう諦めたようだ。単に探したがなかったというのみ…。つまり、国が事実上密約の存在自体は認めたともいえる。そういう視点での指摘もあまりなかったようだ…」と、厳しく指摘していたが、全くその通りである。
 
〝問題意識〟希薄な、本土・新聞各紙の報道 
 「文書開示訴訟」について、メディアはどう伝えただろうか。91歳の吉野文六・元外務省アメリカ局長が証言台に立った第4回口頭弁論(09・12・1)の時は、かなり詳しく報じていたが、その時以外は、沖縄県紙を除き簡単すぎる報道だったのは極めて遺憾である。沖縄返還交渉は40年前のことだが、今日の日米関係に影響を及ぼす問題点が多々あったことを認識すべきだった。今回の弁論を振り返ってみて、普天間基地移設など今日的テーマと通底する重要課題であることが明白ではないか。
ところが、「結審」を伝えた2月17日朝刊・在京大手6紙すべてが、第2社会面か第3社会面ベタ扱いだった。「4月9日に判決」のお知らせ記事のみの新聞もあったほどで、取材・整理記者双方が勉強不足で、価値判断に誤りがあったと指摘せざるを得ない。問題点をきちんと整理して報じた沖縄県紙(琉球新報、沖縄タイムス)のニュース判断こそ妥当であり、「沖縄だから…」との視点で捉えた本土紙の感覚マヒを厳しく批判しておきたい。
                  ◆
最後に、新崎盛暉氏提出の陳述書と琉球新報2・18社説の要旨を付記しておく。
新崎盛暉氏陳述書(要旨)
 戦後の日米関係は対米従属と構造的沖縄差別を本質的属性としてきたといっていい。対米従属関係は、覆い隠せない矛盾を沖縄にしわ寄せするという構造的沖縄差別と表裏一体の関係にあったといえる。それでも覆い隠せない部分を日米安保・沖縄関連の密約がカバーしてきたと言っていい。
 国民の反米機運を鎮めるために日米両政府は地上戦闘部隊、特に海兵隊を日本本土から沖縄に移駐させることに合意した。こうして対日平和条約・旧安保条約成立から60年の安保改定までに日本本土の米軍基地は4分の1に減少し、沖縄の基地は2倍に増えた。基地のしわ寄せの第1段階といっていい。この時期、日本全土の面積の0・6%しかない沖縄と、99・4%の日本本土に同一規模の米軍基地が存在した。
 1972年、米軍の沖縄支配は破綻し、アメリカは沖縄の施政権を日本に返還せざるを得なくなるが、返還を契機に日米両政府は、在日米軍の再編を行い、日本本土の米軍基地を約3分の1に縮小し、沖縄に日本本土の米軍基地の約75%を集中させた。基地のしわ寄せの第2段階だ。その結果、日米の軍事協力関係は一段と強化されたにもかかわらず、日本全体としては米軍犯罪や基地被害は見え難くなった。
 沖縄返還には、有事の核再持ち込み密約のほか、本件訴訟が対象としている財政上の密約も伴っていた。アメリカは米軍支配時代の投資資金を日本側に支払わせたのみならず、表面上はアメリカ側が負担すべき経費について、密約によって日本側に負担させた。本件訴訟で私たち原告は沖縄返還交渉の際に日本とアメリカとの間で合意された、財政に関する密約文書の情報公開を求めている。その存在が否定され続けてきた密約が一つでも明らかになれば、構造的沖縄差別や対米従属という歴史のゆがみに光があたることになり、歴史のゆがみを明らかにする手がかりが得られることになる。それは、将来に向かって、そのゆがみを正し、より良い歴史を紡ぎ出すきっかけをつかむことになる。また現在、あるいは将来において、国や社会の命運を左右する決断を行わざるを得ない立場の人々に歴史的責任を自覚させることにもなる。

   琉球新報218社説(要旨)
 沖縄返還時の日米密約文書開示を求める訴訟が東京地裁で結審した。密約の存在はすでに元政府高官の証言や米国の公開文書により明らかで、東京地裁には密約の存在を明確に認定し、政府の責任を問う判決を求めたい。
 裁判で元外務省アメリカ局長の吉野文六氏は、返還米軍用地の原状回復補償費を日本が肩代わりした密約の存在を認めた。政府は長年、「密約はない」とした同氏の発言を根拠に存在を否定してきただけに、これを覆した法廷証言は密約の存在を決定的に裏づけた。
 にもかかわらず被告の国は最終弁論でも「外務省、財務省が十分に探索したが対象文書を発見できなかった」と密約文書の存在を否定する主張に終始した。密約文書が2001年の情報公開法施行の前に廃棄された可能性も指摘されている。文書がないから密約もなかった、では済まされない。密約の存在が諸証拠で明らかな以上、文書が現存しない理由、保管の在り方、廃棄の有無など法的責任を含め洗いざらい解明する必要がある。裁判所には「密約の存在」を認定した上で、文書の保管と開示についての国の責任を明示する判決を期待したい。
 
 国民に多大な財政負担を強い、安全にかかわる日米間の重要施策が、国民や国会に明らかにされぬまま密約が交わされ実行されたとすれば民主主義の否定に等しい。密約訴訟は主権者である国民の知る権利に基づいており、安保・外交政策の“闇”を払拭する歴史的検証を求めるものだ。返還米軍用地の財政負担の密約は、その後の駐留米軍への思いやり予算の源流ともいわれる。密約のベールを払い、国民が国政を統治するガラス張りの政治への改革が鳩山政権に求められている。
                     (2010225日 記)
 

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