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池田龍夫のマスコミ時評(21)「善良な市民感覚」と言い切れるかー検察審査会の「小沢氏起訴相当」議決

   

池田龍夫のマスコミ時評(21)
「善良な市民感覚」と言い切れるかー検察審査会の「小沢氏起訴相当」議決
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 小沢一郎・民主党幹事長の「政治資金疑惑」が新たな展開をみせ、一年余燻り続けている〝政治とカネ〟の行方が注目される。東京地検再度の事情聴取や衆院政治倫理審査会での小沢氏の説明によって、〝真相解明〟の道が開けるだろうか。
 
東京地検特捜部は二月四日、小沢氏の私設秘書だった石川知裕衆院議員と池田光智・元私設秘書や元公設第一秘書・大久保隆規被告の三人を政治資金規正法違反で起訴したが、小沢氏については石川氏らとの共謀の証拠が得られなかった(嫌疑不十分)として不起訴処分とした。

昨年三月三日の大久保秘書逮捕が、「小沢氏の政治とカネ騒動」の端緒だった。衆院選挙(09・8・30)前の時期だけに世論は沸騰し、当時民主党代表だった小沢氏は、鳩山由紀夫氏への交代を余儀なくされた。当初から、東京地検特捜部の強引とも思える捜査を批判する声もあり、十一カ月後の結論は「不起訴」だった。このため、「特捜検察の詰めの甘さ」を指摘する声もあがったが、世間一般にはメディアを含め「小沢氏の金銭疑惑」がいぜん根強く残っている。
 

 市民審査員11人の「全員一致」に驚く

東京第五検察審査会は四月二十七日、小沢氏を不起訴にした東京地検特捜部の決定に異を唱え、「起訴相当」と議決。特捜部はこの決定を受けて再捜査する新局面に立たされた。昨年五月施行された「改正検察審査会法」に基づき、検察側再捜査によって再び不起訴としても、検察審が二度目の「起訴相当」議決すると、裁判所が指定した弁護士によって強制的に起訴される。

公表された「議決書」によると、「『政治資金収支報告書に真実を記載していると信じ、提出前に確認しなかった』との供述を、きわめて不合理・不自然で信用できない。市民目線からは許し難い」と指摘、さらに「絶対権力者である小沢氏に無断で石川氏らが隠ぺい工作をする必要もない」と断定的に論難していた点に驚かされた。「小沢憎し…小沢潰し」の思い込みが垣間見える文体だ。しかも、市民から選ばれた十一人「全員一致の議決」と知って、二度びっくり仰天。
 

四月二十八日朝刊各紙はそろって一面トップで報じ、中面にも関連記事が満載された。ところが、検察審が「起訴相当」とした中身(被疑事実)につき明快にコメントし、問題点を指摘した新聞がほとんどないことが気懸かりだ。
今回、検察審が問題にした被疑事実とは、「陸山会が平成十六年に土地を取得し、代金として三億四二六〇万円を支出しているのに、そのことが同年の政治資金収支報告書に記載されておらず、翌十七年の報告書に書いてあった」という点。土地の取得代金の支払いを隠したわけではなく、記載時期がずれていたことに過ぎないが、小沢氏が秘書と共謀して虚偽記載させた〝共犯者〟と決め付けている。   
 
主要各紙の論説は、一様に「市民目線」を好意的に捉えた内容だったが、検察審が示した〝市民感覚〟に間違いないのか、一抹の不安を感じた。
 
朝日新聞は「小沢氏はまだ居直るのか」と題し、「これこそが善良な市民としての感覚」と持ち上げる。「正式な起訴に至るかどうかは、検察当局の再捜査やそれを受けた検察審の二度目の捜査を待つ必要がある」と断っているものの、「起訴相当」を肯定する筆致だった。『毎日』も「全員一致の判断は重い」との見出しで、「『政治とカネ』で政治不信が高まる中、市民目線からからは許し難いと主張する事実を解明し、責任の所在を明らかにすべき場所は、法廷だというのである。率直な問題提起だろう」と述べる。
 
「『公判で真相』求めた審査会」と題する『読売』は、「検察の判断に『善良な市民感覚』がノーを突き付けた形だ。…審査会の『市民感覚』が端的に表れているのは次の部分だ。『秘書に任せていたと言えば、政治家の責任は問われなくて良いのか』『政治とカネにまつわる政治不信が高まっている状況下、市民目線からは許し難い』。これは国民に共通した思いだろう」と断じる。

産経は「やはり議員辞職すべきだ」と手厳しい。「司法改革の一環で、裁判員制度の導入とともに検察審査会法が改正され、二度の『起訴相当』議決で強制起訴を可能にするなど民意を反映するために権限が強化された。…小沢氏の説明を『きわめて不合理・不自然で信用できない』と退け、『絶対権力者である小沢氏に(秘書らが)無断で資金の流れを隠ぺい工作などする必要も理由もない』との疑問を呈した」と検察審議決をなぞったような論調だ。
 

「小沢氏に進退を迫る『起訴相当の重み』」と題した『日経』、「重い市民感覚の議決」との東京(中日)新聞社説もまた、同じような内容だった。
 
 改正法施行から1年、問題点が…

『朝日』5・10社説が、前回の主張を修正・補足する問題点を指摘していたので紹介しておく。
 
 「改正検察審査会法の施行から間もなく一年になるが、運用が進む中で疑問点や疑念も浮かんできた。裁判所の判決ではないのだから細かな論議を求めるのは筋違いだが、審査会としての説明責任も念頭に置きながら工夫する余地があるのではないか。

審査員の任期は半年で、三カ月ごとに約半数が交代する。このため、最初に起訴相当と議決したときと同じ十一人で二度目の審査をするケース、最初の議決に関与したメンバーと初めての人が混在するケース、全員が入れ替わるケースの三つがある。審査員の間で情報量や心証形成のプロセスが異なる『混在型』には違和感があるし、健全な民意の反映をうたうのであれば『全員交代型』がふさわしいように思う。

ほかにも、検察官にかわって起訴と裁判を担当する弁護士の権限のあり方や、強制起訴した事件が無罪になり国家賠償を求められたときの責任をどう考えるかなど論点は少なくない」との指摘は傾聴に値する。さらに付け加えると、密室審議の検察審における審査補助員と称する弁護士の姿勢が気になる。法律に疎い市民審査員にどう説明したか、「民意の正当性」がどう担保されているかも問い正したい。
 

  審査申し立て人が「匿名」の怪

 もう一つの大きな問題点は、検察審査会に審査申し立て人が「甲」と匿名になっていることだ。大物政治家の政治生命にかかわる重大な審査申し立てを匿名で行い、それを受け入れて検察審が開かれた経緯が全く不透明である。噂が飛び交うナゾの「市民団体」や、申し立て人「甲」についての記事が見当たらないのは不可解だ。

小沢氏らを先に告発した市民団体は、「世論を正す会」「真実を求める会」と言われているが、正式名称なのか疑問視する向きもあって、正体不明なのが恐ろしい。この匿名集団が健全な「市民団体」といえるか、政治的意図を持った組織のような不穏さが気懸かりである。公安当局が調査・警戒しているに違いないが、メディアは「ナゾの集団」を洗い出し、的確な情報を市民に提供してもらいたい。
 

  健全な「司法行政」の再構築を

 検察審の「起訴相当」議決を検証して、その政治的・社会的波紋の大きさに気づかされた。世論に迎合的な「市民感覚」偏重に、〝落とし穴〟が潜んでいることも警戒すべきだろう。「小沢氏とカネ」をめぐる強引な捜査が「検察不信」につながったとの指摘を謙虚に受け止めたうえで、司法のあるべき体制を再構築すべきである。これは、「小沢擁護」とか「小沢潰し」論議を超えた、「日本国民の重大関心事」であると思えるからだ。
 
「もし検察審査会が『起訴相当』と二回議決し、強制力で裁判ということになれば、これは検察の問題じゃないから、まだ捜査が裁判で続いているとの考え方もできるかもしれない。ただ、私はそうあってほしくない。やはり、検察の役割をもっと日本の社会は重視すべきだと思っているし、検察が本当に適正な判断ができる捜査機関であれば、こんなことになっていないはずだ。何でこんなことになったかと遡って考えると、非常に残念だ。…最近の特捜検察の暴走、それらすべての咎めが跳ね返ってきているわけです。

こんなことをやっていたら、検察はおしまいじゃないかと心配している。世の中全体としては、いろいろな選択肢はあり得ると思う。でも、日本が今までやってきたように、検察が刑事司法に責任を持つ方向でまだまだ努力しようと、私は言いたいのです」という郷原信郎・名城大学コンプライアンスセンター長(元検事)の警鐘(同センター4・28定例記者会見)を重く受け止めたい。「市民目線」を尊重する政治改革を志向することは結構だが、無原則なポピュリズムに流されないよう警戒すべきである。 
    

池田龍夫=ジャーナリスト)
 

 - IT・マスコミ論

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