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池田龍夫のマスコミ時評(22) 普天間基地打開と日米交渉ー 菅直人・新政権の試金石に

   

 
池田龍夫のマスコミ時評(22)
 
普天間基地打開と日米交渉 菅直人・新政権の試金石に

ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
        
 
 菅直人・民主党代表が六月八日、第94代首相に就任した。「政治とカネ」「普天間飛行場移設」をめぐって迷走し続けた鳩山由紀夫政権(2009・9・16~10・6・2)退陣によるバトンタッチで、前途多難な船出となった。
 菅氏は市民運動の世界から政界入りした〝庶民派〟政治家で、異色の首相誕生に、社会の閉塞状況打破を望む声は強い。しかし、内外を取り巻く難問は山積しており、起死回生の道は険しい。政治資金の透明化・財政健全化・経済成長戦略・社会保障の拡充・少子化対策など内政問題のどれ一つとっても難題ばかり。
それに加え、沖縄基地問題など「日米同盟」再構築の〝宿題〟が、日本政府に重くのしかかっている。多岐にわたる問題を論じるには紙幅が足りないため、〝鳩山政権瓦解〟の一因となった「普天間基地問題」について検証、考察を試みたい。
 
  「国外・県外移転」の公約果たせず
 
 日米両政府は五月二十八日、米軍普天間飛行場移設に関する外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)の合意に基づき共同声明を発表した。普天間移設問題は、鳩山前首相が昨年秋、「宜野湾市民を悩まし続けている普天間基地を国外、最低でも県外に移設する方針で、五月末(2010年)決着を目指す」と公約したものの迷走を繰り返した挙句、〝振り出しに戻る〟政策転換を強行した政治責任は極めて重く、菅新政権は重い足枷を嵌められてしまった。
 
 日米安保協議委員会(SCC)メンバーは、岡田克也外相・北沢俊美防衛相、クリントン国務長官・ゲーツ国防長官の四氏。両政府共同声明の骨子は次の通りで、十四年前の「ロードマップ」をなぞったような内容に驚かされた。  
①縄を含む日本におけるプレゼンスが、日本を防衛し、地域の安定を維持するために必要な抑止力と能力を提供することを認識した。
 
②06年5月1日のSCC文書「再編実施のための日米ロードマップ」に記された再編案を着実に実施する決意を確認した。閣僚は、09年2月17日の在沖縄海兵隊のグアム移転に関する協定(グアム協定)に定められたように、第3海兵機動展開部隊(3MEF)の要員約8000人及びその家族約9000人の沖縄から米領グアムへの移設は、代替施設の完成に向けての具体的な進展にかかっていることを再確認した。グアムへの移転は、嘉手納以南の大部分の施設の統合及び返還を実現するものである。
 
③両政府は、オーバーランを含み、護岸を除いて1800㍍の長さの滑走路を持つ代替施設をキャンプシュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に設置する意図を確認した。普天間飛行場のできる限り速やかな返還を実現するために、閣僚は、代替施設の位置、配置及び工法に関する専門家による検討を速やかに(いかなる場合でも10年8月末までに)完了させることを決定した。
 
  「日米合意」押し付けに沖縄県民は反発
 
 鳩山前首相が「普天間基地移設」に取り組んだのは、在日米軍基地の七五%が集中する沖縄の負担を軽減し、国外・県外移設を求める沖縄県民の願いに何とか応えたいとの思いからではなかったのか。ところが、迷走の果てに米政府との合意を急いで、「辺野古沖移設の工法を八月末までに決定」するとの方針を打ち出して沖縄の県民感情を逆撫でしたため、早くも〝赤信号〟。菅新政権は対応に苦慮しており、十一日の所信表明演説に斬新さは感じられなかった。
 
 「責任感に立脚した外交・安保政策」の項で、「世界平和という理想を求めつつ、『現実主義』を基調とした外交を推進する。…日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産といえます。今後も同盟関係を深化させます」と前置きしたあと、「沖縄には米軍基地が集中し、沖縄の方々に大きな負担を引き受けていただいています。普天間基地の移設・返還と一部海兵隊のグアム移転は、何としても実現しなければなりません。
 
普天間基地移設問題では先月末の日米合意を踏まえつつ、同時に閣議決定でも強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力する覚悟です」と述べただけで、沖縄県民が納得できる展望を示せなかった。突然の首相就任で九月の民主党代表選挙までの暫定的色彩の濃い内閣で、「2プラス2」の岡田外相と北沢防衛相がともに留任、前原誠司・沖縄担当相も留任した顔ぶれからは、従来どおりの対米姿勢を示さざるを得なかったと推察できる。
 
 「菅内閣では、普天間飛行場問題を米国の意向に沿った形で『決着』させた岡田外相と北沢防衛相が再任された。沖縄側から見れば『沖縄切り捨て』に加担した形の二人を残した陣容は『日米合意した辺野古移設案は撤回しない』との宣言に他ならず、新政権の沖縄施策に疑念を抱かざるを得ない。菅氏は2001年沖縄での参院選応援演説で『海兵隊をなくし、訓練を米領域内に戻す』と主張。『日本は米国の51番目の州、小泉首相は米国の51人目の州知事になろうとしている』と批判した。
 
03年には本紙インタビューに党代表としてこう答えている。『第3海兵隊遠征軍のかなりの部分を国内、国外問わず、沖縄から移転すべきだ。米国も兵力構成の考えが変わってきている。日本国内への移転より、ハワイなど米国領内への移転が考えやすい』。さらに06年の沖縄知事選応援で『沖縄には基地をなくしていこうという長年の思いがある。普天間飛行場を含め、海兵隊をグアムなどの米国に移転するチャンスだ』と訴え続けた。沖縄県民は期待をかけていたが、昨年、政権交代を実現した頃から菅氏は外交・安保に関する発言を控えるようになった。
 
財務相ポストに就き、沖縄問題は担当ではないとの遠慮もあっただろうが、一国のリーダーについた以上、この問題を避けては通れまい。戦後日本の外交の在り方を痛烈に批判してきた菅氏である。古い政治との決別には、金権体質や利益誘導型政治の一掃に加え、対米追従外交からの大胆な転換が含まれているはずだ」との琉球新報の指摘(6・9社説)を、菅首相は深刻に受け止めるべきだ。七月参院選→九月民主党代表選挙を乗り切って本格政権の陣容を整えた菅内閣が、文字どおり対等な「日米同盟再構築」に全力投球してもらいたい。
 
  新政権は、緻密で大胆な日本外交を築け
 
「菅氏はオバマ米大統領との電話会談で『鳩山政権の下で形成された合意をしっかり踏まえることが引き継いだ私たちの責任だ』と、名護市辺野古に移設する日米合意を継承する考えを伝えた。 しかし、在日米軍基地の約75%が集中する沖縄県民の基地負担は限界を超えており、抑止力論では県内移設受け入れを説得し切れない段階まできている。ここはやはり、政権交代の原点に返って、沖縄にこれ以上の基地負担を強いることは日米安全保障体制を弱体化させかねないと警鐘を鳴らし、普天間飛行場の国外・県外移設を追求すべきだ。
 日米間では同盟関係を『深化』させる作業が進んでいるが、軍事面の協力に限らず、環境や核軍縮、テロ対応、エネルギーなど地球規模の課題にも対応できるよう『進化』させる必要もある。同時に、米軍のプレゼンスを徐々に減らせるよう東アジアの緊張を緩和させる、緻密で大胆な日本独自の外交努力も求められる。菅氏は今月下旬、カナダでの主要国首脳会議(サミット)出席時にオバマ氏と日米首脳会談を行うが、この初顔合わせが、菅政権下の日米関係を占う試金石となる」と東京新聞6・9社説の視点に共感した。
そもそも国家間の合意というのは、個々の政策の方向を決めるといわれるほど重いものだ。政権交代したからとはいえ、それを半年という期限を切って見直そうとしたこと自体に無理があったと言わざるを得ない。
大阪府の橋下徹知事が『沖縄の犠牲の上にただ乗りをしてきた』と指摘するように、日本の安全保障が沖縄の重い基地負担に支えられている現実がある。その点では『沖縄の痛みを国民全体で分かち合う』方向性は間違っていない。

ならばこそ日米の合意を先送りしてでも、幅広い議論をするべきではなかったか。海兵隊を含む米軍の抑止力の必要性についての説明も全く不十分だ」と、中国新聞(5・29社説)が指摘する通りで、新時代に適した対米再交渉に臨むべきであり、大胆でドラスチックな在日米軍基地縮小案を提示し、日本独自の平和外交の意気込みを世界に示してほしい。

池田龍夫=ジャーナリスト)
 

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