池田龍夫のマスコミ時評(30) 「情報公開(『知る権利』)」をめぐる重大な裁判ーー沖縄密約開示・控訴審の行方に注目
「原状回復費肩代わりに関する機密公電のコピーを毎日新聞の西山太吉記者(当時)が外務省事務官から入手し、それを基に野党が国会で疑惑を追及した時期にまとめたとみられる交渉過程の関連文書や想定問答などが綴じられている。
焼却を示すメモは、日米外相レベルで返還交渉の最終合意をする71年6月9日前後に行われた愛知揆一外相とマイヤ一駐日米大使による会談録などの一覧表の脇にあった。『機密電報』のタイトルで、作成日の記載はなく「5―1」「5―2」など8つをあげ、うち3つの隣に、「焼却後5/31」と書き込まれていた。
このメモ以降会談録などが続くが、数字で示された『機密電報』が何を指し、何を焼却したかは不明だ。また、ファイル内容を記した手書きの目次では、番号1の『沖縄返還交渉機密漏洩事件』が横線で消され、『文書なし』と書かれていた。他の文字と違う細い線と字で、事後的に書き込まれたとみられる。
実際に、目次番号2~11の文書は綴じられているが、『沖縄返還交渉漏洩事件』は表紙だけで、文書は欠落していた。その後の94年3月に新たにタイプしで作成された目次には『沖縄返還交渉機密漏洩事件』そのものが消え、この時期までに何らかのことから欠落した可能性が高いとみられる」。
その後紆余曲折の末、2000年に密約を裏づける米国外交文書が発掘され、西山氏は05年国家賠償訴訟を起こした。しかし〝司法の壁〟は厚く、最高裁は民法の除斥期間(20年)を盾に上告を棄却、「原告敗訴」となった。この判決の後、有識者とジャーナリストが「密約3文書」開示請求訴訟を提起、09年6月から10年4月まで東京地裁の審理が行われた。
杉原則彦裁判長は4月9日、「外務大臣および財務大臣は、原告が求めた『文書を不開示とする決定』を取り消し、原告らに一連の行政文書を開示せよ」と命ずる画期的な判決を下した。同年3月には、民主党政権下で設置された「密約問題・有識者委員会」が、4件のうち3件を「密約」(広義を含む)とする報告書を提出、「密約文書不存在」を強弁し続けた歴代自民党政権のウソがほぼ暴かれたと思えたが、民主党政権は一審判決を不服として控訴。――以上が、10年10月の第1回口頭弁論につづく、11年1月27日の控訴審第2回弁論に至る経過の概略である。
また、文書の存否に関する立証責任に関し、憲法の視点から、控訴人国に主張立証責任が重く課されることについて主張を補足して、かつ、日本政府が密約を否定し続け、違法な文書管理を行ったという先行行為があることから、正義と公平の観点に照らし、控訴人国において、信義則上、合理的かつ十分な探索をしたとの主張をすることが制限されることを主張する。
最後に、憲法の保障する知る権利に基づき、控訴人国は、アメリカ国立国会図書館が公開する財政密約文書を、本件各文書の代替として、説明及び翻訳文を付して、被控訴人らに開示しなければならないことを主張する」――と前置きし、第1から第8までの柱を立てて56㌻にも及ぶ理路整然たる文書で、「情報公開訴訟」に賭ける意気込みを感じた。
被告の立場は、ただ『無い、無い』と繰り返すだけであった。……第一審判決文を何度も読み返しているうちに、地裁のアプローチは抜群のものがある、と私は感じ入るにいたったのである。東京地裁は、『原告は米公文書館で所蔵するスナイダー・吉野間でイニシャルを付して合意した文書、ジューリックと柏木とので間に各ページごとにイニシャル入りで作成された文書などを挙示し説明することによって、被告両行政府庁が〝密約〟文書が過去において保有していたことを立証しえたことになると解する』と述べたうえで、『過去に保有した文書等が〝不存在〟となっていることの主張立証責任は被告国側にある』と判事した」。
この考えは、『国民の知る権利』論として1970年代それなりの範囲で論議されてきた。80年代になって、地方公共団体が『情報公開条例』を制定するときには、多くの場合、その前文あるいは第1条の目的規定において『知る権利』の語句を掲記したのであった。中央政府レベルの『行政情報公開法』制定過程ではしかし、『知る権利』コンセプトへの拒絶反応が強く、法文の中に取り入れないで終った」。
かくして、こうした憲法原則が謳われるとともに、実は、政府保有情報の市民への一般開示請求権(『国民の知る権利』)の保障は憲法の中にいわば潜在的に嵌めこまれていた、と考えられるべきなのである。現実には、しかし、憲法施行以来非常に長期にわたって、こうした権利保障の要請は人々の意識において、課題として登って来ることはなかった。
むしろ彼らは、時に全く恣意的な個人プレイも許容される行政裁量の世界で振舞いえていたのである。これら外交・財務官僚らが関わっていた対米交渉事務は徹底して対米屈辱的・従属的な内容のものであったが、沖縄の人々・日本国民たちの諸般の事情から、それぞれの交渉事項につき若泉敬流に『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』といわんばかりの境地で、対アメリカとの合意に達したのであろう。
こうした背景をもとにし、わが官僚たちは交渉の流れを文章化したに違いない。その事務(製作・整理・保管・廃棄)は、マックス・ウェーバーの意味する『官僚的合理性』などかけら程もなく、ただ単に恣意と裁量とが許される状況のもとでのプラクティスなのであった。
第一にしかし、これら合衆国文書は、単に合衆国政府職員が独自に合衆国のために作成したものなのではなくて、日本国政府職員との共同作業の一環として作成されたものなのであって、当該各文書は使用言語の違いがあるとしても、それぞれの国にそれぞれ正式の行政文書として作成保管されていたと合理的に考えられる。その意味では、それぞれが『一卵性双生児の片われ』というのに似てidenticalnessの強いカウンターパートであったのである」。
これは止むをえざる代替案である。この案に頼ることを余儀なくさせているのは、本来の日本版文書の『不存在』を固執する外務・財務両省にほかならない。外務・財務両省はそれぞれが抱える『欠落』文書問題を補整すべきものとして、米公文書館から自らの責任において『欠落』文書に対応するところの英語版を入手し、それぞれそのコピーを2部作成し、1部は原告に交付し、他の1部は各省史料館あるいは日本の国立公文書館に保管し、市民の閲覧の用に供されるよう配慮すべきであると思う。
……米国政府の保有する当該文書を以って『代用』させる妙手を使うことで市民の情報開示請求権を肯定することを通じて『行政の内部関係(行政裁量領域)』の呪縛を解くことができるのである。私が本件において『知る権利』の名で請求するのは、決して突拍子もないことではない」。
これからも国民の「権力監視」の目を強化するため、原告団は「有識者委員会、外交文書調査委員会は廃棄や抜き取りの形跡を指摘していない。両委員会の調査は不十分である」と指摘。1月20日「市民による沖縄密約調査チーム」(澤地久枝代表)を設置し、不開示文書の独自調査に乗り出した意義は大きい。
証拠隠滅の疑いは否定できないだろう。財政密約の場合、国民の知らぬ間に国民の税金が米国の国益のために使われたことにほかならない。実際に米政府は密約などを通して『節約』できたと評価している。一審判決は、文書がなぜないのか、廃棄されたなら誰がどのように廃棄したのかを立証するよう求めている。問題なのは、廃棄は『必ずしも違法とは言えない』と開き直っている点だ。国は司法判断に誠実に応えていない」と指摘した
琉球新報1・30社説(『密約調査チーム 証拠隠滅は許せない』)の主張は、正鵠を得たものである。関連記事
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