前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

渡辺武達(同志社大学社会学部教授)の震災レポートー『震災・原発事故報道と企業の社会的責任』

   

 
『震災・原発事故報道と企業の社会的責任』
 
                 渡辺武達(同志社大学社会学部教授)
 
 3月11日以来、報道の多くが東日本大震災関連で、いつもはほっとできるCMも今は道徳的なACジャパン制作が中心。しかし、新聞は論理とデータで、テレビは映像で、ラジオは現場を中心に、人びとの生命と財産の保全に大奮迅で、報道機関の使命を果たしている。

ネットにはチェーンメールや未確認情報が飛び交い、「巨大井戸端会議」化しているとはいえ、国民にはそれらを割り引いて理解するメディアリテラシーがあるから、原発問題を除き、日本の社会情報環境はまずまずの水準にあるといってよい。
 

 加えて、被災者を救援する消防士、警察官、自衛隊員、医師、原発の修復作業員の方々の無私の行動には頭が下がる。若い警察官が恋人に「今行かないと自分は一生悔やむことになる」と述べ、福島へ向かったそうだが、そうした人びとが日本の凄さとして世界中から称賛されている。
 
しかし、政府と企業、メディアと国民との関係には今後改善していかねばならい問題点がないわけではない。
第1は、自然災害の地震と津波については私たちはかなり正確に理解できるが、原発事故についてはCNN(米国)やBBC(英国)、その他の外国メディアでしか、実体がほとんどわからないことだ。

日立製作所の元高速増殖炉設計技師、マッキンゼー日本支社長の大前研一氏(67)が19日の公開講演で、東京電力(以下、東電)の情報隠蔽体質を告発している。筆者もまた東電だけではなく、原発については各社ともCSR(企業の社会的責任)を果たしてこなかったと思う。
 

建屋の水素爆発を「大きな音がして外壁がはがれ、白煙が出た」、放射線量は「直ちに健康に影響しない」といい、官房長官や原子力保安院がオウム返しする。同時に、飲料水や野菜の汚染、摂取注意が報道されるから人びとの不安感が増す。日本人は致命的なパニックなど起こさないから、初めから真実を公開すべきなのだ。
 
第2は、メディア自体もCSRの問題は免れないということだ。電気業界はCM提供などあらゆる方法で原発の「安全神話」を作りあげてきた。東海村JCO臨界事故(1999年)や中越沖地震による柏崎刈羽原発事故(2007年)では下請け企業の失敗や「想定外」の自然災害を原因とし、メディアもそれを是認してきた。今回も事故現場の被曝者は下請け会社員がほとんどだから、これは、現在起きていることの正確な説明という報道原則に反する。
 
そうした無理の連続が日本の経済外交の柱の1つである「原発システム」の対外販売を絶望的にしてしまった。筆者は原子力発電がどうしても必要であれば、政府と事業者はその功罪を正直に公開し、民意を問うべきだと主張してきた。

かつて、四国の自然食品店が小さなフリップ広告の片隅に、「原発バイバイ」書いたときも、現地のテレビ局はそれを片寄ったメッセージだとして契約を途中で打ち切った。筆者はこの裁判の特別弁護人を務め、それこそ、強者の論理による自由な言論の抑圧だと断じた(拙著『メディア・トリックの社会学』世界思想社刊を参照)。
 

報道原則の第3は、同種の事件を繰り返させないこと。だが、週刊誌はそんなことはお構いなしで、「新聞や放送が報じない…」とか、「次の大地震はいつ、どこか」などと恐怖だけを煽る記事も多い。現総理が平時の日本のリーダーとして最適人物でないと筆者も思うが、「菅直人、亡国の7日間」などとの貶め方はいかがなものか。
 
現在の原発政策を進めてきたのは歴代の自民党政権だ。それを大半の国民が受けいれ、地元には利益還元もなされたのだから、現内閣への批判は復興作業にかかってからでもよい。半面、東京都知事の、「震災は日本社会の我利私欲化への天罰だ」、大阪府議会議長の「震災は大坂への天の恵みだ」といった放言はKYであるばかりか、人格さえ疑う。
 
仙台の自宅で地震の恐怖と被害のひどさを体験したある作家が週刊誌で、「テレビは真実を映していない」と怒っているが、そんなことは神戸地震の報道で現地被災者がさんざん批判したことだ。
メディア情報はすべて取材された間接的なものであり、メディアの評価は被害の実相と被害者の気持ちにどこまで寄り添えているかで決まる。
 
2011年3月30日(水)掲載.
SANKEI EXPRESSコラム「メディアと社会」第90回
を著者の了解のもとに転載させていただきました。

 - IT・マスコミ論 , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
世界リーダーパワー史(938)-『「トランプ氏解任提案か=司法副長官が昨年春」』★『『もう外食は無理? トランプ政権幹部、相次ぎ退店や罵倒の憂き目に』(AFP)』

世界リーダーパワー史(938) 「トランプ氏解任提案か=司法副長官が昨年春」<時 …

no image
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日本の新聞が伝えた日英同盟」②『極東の平和維持のため締結、協約の全文〔明治35年2月12日 官報〕 『日英協約 日英両国政府間に於いて去月三十日、左の協約を締結せり』

★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日本の新聞が伝えた日英同盟」②   …

日本の最先端技術「見える化』チャンネル『CEATEC JAPAN 2017』★『muRata(村田製作所)の「チアーリーダー部の応援ロボット」は可愛いいね』★『OKI(沖電気)の交通・防災・製造などの各種ソリューションを紹介』

日本の最先端技術「見える化』チャンネル 「CEATEC JAPAN 2017」( …

『リーダーシップの世界日本近現代史』(294)★『 地球温暖化で、トランプ対グレタの世紀の一戦』★『たった1人で敢然と戦う17歳のグレタさんの勇敢な姿に地球環境防衛軍を率いて戦うジャンヌダルクの姿がダブって見えた』★『21世紀のデジタルITネイティブ」との世紀の一戦』★『2020年がその地球温暖化の分岐点になる』

 地球温暖化で、トランプ対クレタの戦い』           …

no image
近現代史の復習問題/記事再録日本リーダーパワー史(236)ー<日本議会政治の父・尾崎咢堂が政治家を叱る。 日本一の政治史講義を聞く①>「150年前の明治中期の社会、国民感情は、支那(中国)崇拝時代で元号を設定し、学問といえば、四書五経を読み書きし、難解な漢文を用い、政治家の模範の多くはこれを中国人に求めた」

2012年2月23日/日本リーダーパワー史(236)   <日本 …

no image
★日本の最先端「見える化』チャンネル(1/30)『省エネ大賞を受賞した三菱電機の家庭用エアコン『霧ケ峰FZシリーズ」の高い技術力がよくわかるプレゼン動画(15分間)』

  「ENEX2019 第 43回地球環境とエネルギーの調和展」(1/ …

no image
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 世界、日本メルトダウン(1039)>『トランプ大統領の就任100日間(4/29日)が突破した』②「トランプ大統領は『恐ろしいほどのナルシスト』」★『[FT]米大統領選、ツイッターの4分の1が偽ニュース』●『速報、スクープ中心の報道から、BBCが打ち出した『スローニュース』戦略への転換だ』★『ルペン氏、偽ニュースも利用=挽回に必死-仏大統領選』

 地球の未来/世界の明日はどうなる< 世界、日本メルトダウン(1039)> 『ト …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(65)●自民党総裁選をめぐる過剰報道に物申す(9・26)●日米同盟強化に基づき、グアムで軍事共同訓練

           …

no image
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争カウントダウン』㉝『開戦2週間前の「英タイムズ」の報道/★★『ロシアが極東全体を独占したいと思っており、一方、日本は,ロシアの熊をアムール川の向こうの自分のすみかに送り返して,極東における平和と安全を,中国人、朝鮮人,そして日本人のために望んでいるだけだ』

    『日本戦争外交史の研究』/ 『世界史の中の日露戦争カウントダウン』㉝ 『 …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(67)●沖縄米兵「夜間外出禁止令」に実効性あるか●米兵の強姦事件で、沖縄の怒りは高まる

池田龍夫のマスコミ時評(67)   ●沖縄米兵「夜間外出禁止令」に実効 …