前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

池田龍夫のマスコミ時評(73)世論調査、その過剰報道に物申す(12・10)

   

池田龍夫のマスコミ時評(73)
 
世論調査、その過剰報道に物申す(12・10)
 
 
                                                       池田龍夫(ジャーナリスト)
 
 
12月6日付在京6紙の1面を開いて驚かされた。4日公示の衆院選挙・序盤戦の世論調査揃い踏みである。特に、朝日、毎日、読売、日経4紙が「自民単独過半数の勢い、民主100議席割れか」とのトップ扱いだった。
 
         朝日など4紙が「自民党単独過半数の勢い」と大報道
 
朝日新聞6日付朝刊は「4、5日に電話調査を実施、全国の取材網の情報を加えて序盤の情勢を探った」としたうえで、
 
①民党は単独で過半数を確保する勢い
②民主は惨敗で100議席を割る公算
③第三極の日本維新の会は比例区で民主と肩を並べ、小選挙区と合わせて50議席に――
 
などとの情勢分析」を報じた。読売、毎日、日経3紙の主見出しが朝日とが同じだったことにビックリした。朝日・読売は独自世論調査、毎日・日経は共同通信の調査に独自取材を加味したものである。
 
毎日新聞同日付朝刊も「自民党は小選挙区、比例代表ともに優位に立ち、単独過半数(241議席)を確保、公明党と合わせ、300議席をうかがい、政権奪還の公算が大きくなってきた。民主党は公示前の230議席から激減し、70議席前後にとどまる可能性がある」と分析していた
 
        「自民が優勢だが、過半数は投票先決めず」と書いた東京新聞
 
産経も1面トップ扱いだったものの、「自公政権奪還の公算、民主激減、第3極も伸び悩み」との見出し。
 
1面2番手扱いの東京新聞は「自民優位、民主苦戦、半数が投票先決まらず」と、控えめな扱いだった。東京新聞が「現時点では自民党が優勢だが、選挙戦次第では情勢も大きく変わる可能性もある。半数の有権者が投票する候補者を決めていない」と慎重に扱った点に、私は同感である。
 
        公示直後、突然の電話に支持政党を答えられるだろうか
 
いずれの世論調査も、乱数番号(RDD)方式による電話調査。公示翌日に電話がかかってきて、「何党を支持しますか」と突然問われて、的確に返答できる人が何人いるだろうか。
 
ましてや12党が乱立した今回の選挙、一般の有権者は咄嗟に、民・自・公・維新などの党名しか思い浮かばないのではないか。また各紙とも、世論調査に加えて各地の取材網を動員して補強したと報じているが、10人前後の支局記者の取材には限界がある。
 
地元の選挙通や選管OBなどが主たる取材先に違いない。以前の世論調査の際、〝独自調査〟を加味しない〝ナマ数字〟の方が、選挙結果に近かったケースもあった。選挙世論調査の精度がたびたび指摘されてきたが、メディアの姿勢は旧態依然たる〝お祭り騒ぎ〟の印象である。
 
自民党は予想外の世論調査人気にやや困惑、「党内引き締めに当たっている」という。7日夜のテレビ朝日の報道ステーションに出演した安倍晋三総裁も「自公で過半数を取れれば…」と発言、圧勝ムードの世論調査に、むしろ警戒気味だった。
 
          〝数字の魔術〟にひっかかる恐れ
 
私は世論調査の誇大報道の悪影響をかねがね指摘してきたが、今回の調査は突出していたように思う。特に序盤戦での予測を大々的に報じることには反対だ。
 
世論調査を否定するわけではなく、紙面扱いの問題である。麗々しく1面で報じるのではなく、2~3面などで「本社の世論調査によると、こんな結果が出ました。参考にしてください」といった扱い方が望ましいと考える。
 
さらに得票予測まで見出しに掲げることは控えた方がいいだろう。民自公以外の党に投票したいと考えていても、「自民圧勝で決まり」との世論調査数字を示されると、一般有権者は戸惑ってしまう。
 
それでは「既成政党のうち、よりましな政党に」鞍替えする有権者も多いだろう。従って世論調査報道は、「何党が優勢」程度の表現に留めないと〝数字の魔術〟にひっかかり、投票行動に影響するだけでなく、白票や棄権が増える可能性がある。
 
そもそも2大政党重視、少数党軽視の選挙制度自体に問題があるわけで、〝死に票〟を増やしかねないな制度は見直さなければならない。
 
今後、中盤・終盤の世論調査を実施するだろうが、RDD調査の対象者は違うはずだ。また序盤調査で「まだ何党に投票するか考えていない」と返答した人が約5割というが、その人たちが投票先を決めたかどうかも注目される。
 
            「日本国の分岐点」との認識で投票を
 
各紙とも原発、憲法、景気浮揚策などについて解説を報道しているが、どの程度読まれているだろうか。異例ずくめの今回の選挙は、「日本国の分岐点ともなる重大な総選挙」との認識を再確認して、16日の投票に臨んでもらいたいと思う。
 
(いけだ・たつお)1953年毎日新聞入社、中部本社編集局長・紙面審査委員長など。

 - IT・マスコミ論 , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
立花隆氏が拙著『『言論死して国ついに亡ぶ』を激賞 (2003年11月)

1 立花隆氏が拙著『『言論死して国ついに亡ぶ』を激賞 (2003年11月) 前坂 …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(124)「新国立競技場建設に2520億円とは・」(7/10)

池田龍夫のマスコミ時評(124) 「新国立競技場建設に2520億円とは・」(7/ …

no image
片野勧の衝撃レポートー『太平洋戦争<戦災>と<3・11>震災』⑩中国引き揚げと福島原発(上)

片野勧の衝撃レポート   太平洋戦争<戦災>と<3・11>震災⑩ &n …

『Z世代のための世界天才老人・「ジャパンアニメ」,「クールジャパン」の元祖・葛飾北斎(88歳)の研究』★『その創造力の秘密は、72歳で傑作『富嶽三十六景』を発表、80歳でさらに精進し、90才で画業の奥義を極め、百歳で正に神の領域に達したい。長寿の神様、私の願いをかなえたまえ!』★『「100歳時代」「超高齢少子化社会」の最高のモデルではないでしょうか』

2022/02/09   の記事再録 葛飾北斎(88歳)米タ …

『オンライン講座/百歳学入門』★『日本一の大百科事典を創るため土地、家屋、全財産をはたいて破産した明治の大学者(東大教授)物集高見(82歳) と長男・物集高量(元朝日記者、106歳)は生活保護の極貧暮らしで106歳まで長生きした長寿逆転人生とは①』★高見は「学者貧乏、子孫に学者は出さぬ」と遺言し、高量はハチャメチャ流転物語」

物集高見が出版した大百科事典『群書索引』『広文庫』 前坂俊之(ジャーナリスト) …

no image
日本リーダーパワー史(978)ー「米中貿易5G戦争勃発」★『五四運動から100年目、文化大革命(1989年4月)から30年目の節目の年。その五四運動百周年記念日の数日後に米中関税交渉が決裂したことは、「歴史の偶然なのか、必然なのか」気になる!?』

「米中貿易5G戦争勃発」 米中関税交渉はついに決裂し5月13日、米国は第4弾の追 …

no image
情報家電の巨大市場

情報家電の巨大市場 静岡県立大学国際関係学部教授 前坂 俊之 インターネットで「 …

『昭和戦後の戦略的宰相の系譜講座』★中曽根康弘元首相の戦略とリーダーシップ』★『「戦後総決算」を唱え、国内的には明治以来の歴代内閣でいづれも実現できなかった行財政改革「JR,NTT,JTの民営化」を敢然と実行』★『「ロン・ヤス」の親密な日米関係だけでなく、韓国を電撃訪問し、日韓関係を一挙に改革し、胡耀邦氏と肝胆合い照らす仲となり、日中関係も最高の良好な関係を築いた、有言即実行型の戦後最高の首相だった』

    2019/12/14 &nbsp …

no image
日本リーダーパワー史(973)ー『イチロー引退』★『日本最高のプロフェッショナル』★『「イチローに最大の敬意を払う。彼の球界における国際的なインパクトは殿堂入りで締めくくられるだろう。常にプロフェッショナルで、常に素晴らしい。引退後の人生が素晴らしいものになりますように」』★ <イチロー記事一覧>

日本リーダーパワー史(973)ー 引退イチローにMLB各球団が惜別投稿「素晴らし …

no image
世界リーダーパワー史(922)-『暗愚の帝王・トランプは予備選挙で負けさせねばならない。』★『米ロ会談、プーチンの肩持った裏切り者トランプにアメリカ騒然』★『もはやトランプは米安全保障上の脅威─米ロ密室会談に同席した通訳に証人喚問求める』

日本リーダーパワー史(921) 暗愚の帝王・トランプは予備選挙で負けさせねばなら …