前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(334)-『新型コロナウイルス/パンデミックの研究①-日本でのインフルエンザの流行の最初はいつか』★『鎖国日本に異国船が近づいてきた18世紀後半から19世紀前半(天明から天保)の江戸時代後期に持ち込まれた(立川昭二「病と人間の文化史」(新潮選書)』

      2020/04/24

  2020年4月22日                    

前坂俊之(ジャーナリスト)

新型コロナウイルスのパンデミックは一夜にして世界を変え人々を恐怖のどん底に陥し入れた。正体不明の大敵・新型コロナウイルスの猛威によって、人間活動は全面停止に追いこまれ、経済・交通・貿易の「グローバル世界」は機能マヒに陥っている。

 

平穏な生活を破壊し多くの人命を奪うものは戦争だけではない。地震・噴火・火災・水害などの災害、伝染病などの疾病による飢饉がある。

立川昭二「病と人間の文化史」(新潮選書、1984年)によると、日本に伝染病のインフルエンザ(流行性感冒)が入ってきたのは鎖国の日本に太平洋を渡って異国船がしきりに近づいてきた18世紀後半から19世紀前半(天明から天保)の江戸時代後期である。当時の日本は小氷期((しょうひょうき、ほぼ14世紀半ばから19世紀半ばにかけて続いた寒冷な期間のこと、小氷河時代、ミニ氷河期ともいう)の谷間にあった。江戸では隅田川、大坂では淀川が結氷したり、北洋のアシカが紀州沖まで南下したというほどの小氷期が出現した。

こうした異常気象の寒冷化で、冷害、凶作による飢餓が発生、栄養失調、風邪、病気によって亡くなる人が激増した。当時の古文書に「風邪」「風疫」「風疾」「時気感冒」などと記されているのはインフルエンザのこと。

1783(天明3)年の浅間山大噴火は東北の凶作を決定的なものとした。東北や関東地方では冷害のために農作物は壊滅的な被害を受けた。アイスランドのラキガル火山の大噴火による影響も加わり、「火山の冬」と呼ばれる現象が起きた。そしてこれが引き金となって近世日本で最大の「天明の大飢饉」が発生した。

http://www.japanserve.com/nihonshi/n-reki-050-tenmeinokikin.html

死亡者は数十万人にも及び、当時の日本の人口は約3000万人とする推定に基づけば、日本人の約1%が餓死したことになる。

こうした天変地異の連続したこの時期だけではなく江戸時代を通じて計27回のインフルエンザ流行が記録されている」と立川氏は書いている。

インフルエンザが猛威を振るい、1716(享保元)年、江戸の町で流行した時は1カ月で8万人以上を死亡したとの記録がある。

面白いのは流行の年によって風邪に異なる名が付けられたこと。明和6年(1769)流行した風邪は「稲葉風」と命名、安永5年(1776)「お駒風」。ほかに「谷風」「ネンコロ風」「お七風」「ダンホ風」「琉球風」「アメリカ風」というのもある。命名したのはこの記録を長く後世に伝え、教訓としたい気持ちがあったのであろう。

  • 貿易港長崎出島に寄港した船、その乗員がウイルスを持ち込んだ

  • いずれも全国的に猛威をふるい、多数の死者を出し、社会生活に大きな影響を及ぼしたが、その発生、感染の経路をたどると、ほとんどの流行がまず長崎「出島」ついた異国船から人と共に入国し中国から関西、東海道を経て関東に到り、さらに奥羽、東北へと東進している。それは長崎が当時唯一の外国に開かれた港だったから。風邪の名前について天保三年(1832)の「琉球風」、安政元年(1854)の「アメリカ風」などは、インフルエンザ・ウイルスが海を渡って、中国や米国からやってきたこと伝染病であることを証明している。

明和六年(1769)流行は、青森県津軽にまで及んだが、それは蜜柑(ミカン)の荷物が碇ヶ関(現在の青森県平川市碇ヶ関)に到着した日から流行がはじまったといわれ、津軽では「蜜柑風」と呼ばれた。

 病気は時代や社会につれて変動し、病気がさらに時代や社会を変える相互関係にある。いかなる時代もその時代、社会特有の疫病をもつ。その感染ルートも時代と共に人の移動に関する交通手段の変遷で陸上ルート(シルクロードなど古代から中世まで)②海上ルート(大航海時代から英国のインド征服、アジア侵略)③航空ルート(20世紀後半から現在)と進化している。

立川氏は「パンデミックとなった伝染病はヨーロッでいえば、13世紀のライ、14世紀のペスト、16世紀の梅毒、17、8世紀の天然痘・発疹チフス、194世紀のコレラ・結核、20世紀のインフルエンザ、ガン」(同書233P)という。

                            つづく

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究 , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★(動画)☆錦織圭が世界ランク1位ジョコビッチを破る大金星ー男子テニスのスイス室内(11月5日)

錦織圭が世界ランク1位ジョコビッチを破る大金星   男子テニスのスイス …

no image
速報(466)『日中韓外交座談会「支那政府は相手にせず」 近衛外交失敗の轍を踏むな』●『堺屋太一内閣参与の去就』

   速報(466)『日本のメルトダウン』  国際 …

no image
『F国際ビジネスマンワールド・ウオッチ㊹』「“安倍氏の危険な修正主義”(NYT(3/2)ー事態は極めて悪化している」

    『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊹ …

no image
新刊発行<『座右の銘』―人を動かすリーダーの言葉>『日本経済を再建した創業者たち80人の名言』

新刊発行<『座右の銘』―人を動かすリーダーの言葉>     前坂俊之編著     …

no image
★ 日本リーダーパワー史(139) 国難リテラシ①ーを養う方法・第2次世界大戦敗戦とを比較する★

 日本リーダーパワー史(139) 国難リテラシー①を養う方法・第2次世界大戦敗戦 …

no image
世界の最先端テクノロジー・一覧③『日本のリニア新幹線を吹き飛ばす新技術!動画:超高速交通システム「ハイパーループ」』●『コイン型電池を飲み込んじゃった→東工大ら、排出する「マイクロロボット」を開発』●『世界で最も稼ぐサッカー選手、ロナウドの1ゴールは8000万円』『Facebook、意図的に保守系ニュースを排除か ザッカーバーグ氏がコメント』など6本

    世界の最先端テクノロジー・一覧③   <日本のリニア …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(141)再録★<提言>『教育改革に①「英語の第2国語化」②「プログラミング」③「世界旅行【海外体験)を取り入れる』

    2017/12/06 の記事再録&nbsp …

『オンライン現代史講座/2・26事件とは何だったのか』②ー『日本最大のクーデター2・26事件(1936年/昭和11年)は東北大凶作(昭和6ー9年と連続、100万人が飢餓に苦しむ)が引き金となった』(谷川健一(民俗学者)

 昭和11年に起きた日本最大のクーデター2・26事件の原因には東北大凶 …

『Z世代のための歴代宰相の研究①』★『桂太郎首相は『陸軍参謀本部(インテリジェンス)の創始者、対ロシア戦争に備えて日英同盟(明治35年)を締結、日露戦争を勝利に導いた戦時宰相ナンバーワン①』

2022/11/29  日本リーダーパワー史(1230)再掲再編集 ・ …

『リーダーシップの日本近現代史』(339)-<国難を突破した吉田茂の宰相力、リーダーシップとは・・>★『吉田茂が憲兵隊に逮捕されても、戦争を防ぐためにたたかったというような、そういうのでなければ政治家ということはできない。佐藤栄作とか池田勇人とか、いわゆる吉田学校の優等生だというんだが、しかし彼らは実際は、そういう政治上の主義主張でもってたたかって、迫害を受けても投獄されても屈服しないという政治家じゃない。』(羽仁五郎の評価)

日本リーダーパワー史(194)<国難を突破した吉田茂の宰相力、リーダーシップとは …