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107歳、世界最長寿の彫刻家・平櫛田中の長寿の秘訣は!・・・

      2015/01/02

2008,10,10
 「60、70洟垂れ小僧、男盛りは百から、百から」の精神を見事に実践!>

「いまやらねばいつできる」の精神で・・・

107歳、世界最長寿の彫刻家・平櫛田中の長寿の秘訣は!・・・

                                                前坂 俊之
                               (静岡県立大学国際関係学部教授)
 
                
平櫛田中記念館(東京都小平市学園西町1)。
 
西武多摩湖線一橋学園駅南口を下車、土手の両サイドに高い樹木が生い茂り、真ん中を流れる玉川上水の静かなせせらぎが響く遊歩道をゆっくり歩く。
約10分。都会とはまるで別世界の自然空間を抜けると、閑静な住宅街の一角に白塀と生垣に囲まれた和風平屋建築の記念館につく。
 
平櫛田中翁(107歳) が最晩年この景観に魅かれて移り住んだ終の棲家であり工房跡である。中に入ると、正面玄関横に直径二メートルを超えるクスノキがドンと置いてある。
 
田中百歳を迎えた際に、600万円出して木彫りの材料となるクスノキを三本も買いこんだ。10年乾燥させないと使えない。つまり130歳まで仕事を続けるつもりなのだ。
 
「わしもとうとう満百歳、まだまだ仕事が残ってる、朝から工房晩めしがうまい、ぶどう酒ぼっちり・粥(かゆ)一椀、とろりとまぶたが重くなる」との手紙を若い友人あてに出している。この田中翁の気迫と、不屈の闘志を伝えるためにヒノキ材をそのまま保存しているのである。
 
1・・・禅僧、西山禾山和尚の臨済録を聞く
 
平櫛田中は1872年く明治5)6月、岡山県井原市で生まれた。実家は没落し、七歳で平櫛家の養子となる。15歳で、大阪に丁稚奉公、朝から晩まで身を粉にして働く。同30年上京し、高村光雲に師事しながら、独自で木彫り彫刻の道を進んだ。
 
この時、下宿近くの谷中の寺で、禅僧、西山禾山和尚の臨済録の講話を聴き、3年にわたり入門参禅した。『禅の心とは、日常生活そのもの。あるがままじゃ」という教えに大きな啓示を受け、田中の重要なモチーフとなった。
 
彫刻の世界はそれまで日本伝統の木材を使った仏教彫刻などの木彫りが主流だったが、明治に入ってきた西洋彫刻におされて、木彫刻は衰退の一途だった。明治40年ごろ、平櫛は生涯の師である芸術上の指導者・岡倉天心と出会う。天心は芸術革新運動の1環として日本彫刻会を組織、平櫛も加わり、大正3年には天心の日本美術院研究所で西欧流の塑造研究にも取り組み、木彫刻と西洋彫刻とを融合させていった。
 
もともと食えない木彫刻の世界で、若いときから還暦を過ぎても長い間、貧乏の連続だった。36歳のとき、天心に思い余って『先生、彫刻は売れません。どうすれば売れますか』と質問すると、天心は「みんな売れるようなものを作ろうとする。
 
だから、売れないのです。他人をマネせず売れないものを作れ。そうすると、必ず売れる」という言葉にハッと気ずき、よし自分の作りたいものを作る、と決心して「活人箭」(かつじんせん)を作り、傑作として高く売れた。まさしく、「貧乏極楽、長生きするよ」の人生だったのである。
 
大正九年に代表作「転生」(48歳)や「烏有(うゆう)先生」(47歳)、天心を描いた「五浦釣人」(58歳)など・写実性と禅による深い精神性が渾然と一体化した作品を次々に作り上げて・木彫刻界の第一人者となった。
 
しかし、苦難が次々に襲いかかってきた。五十代後半に子供三人が相次いで結核にかかり、愛児二人を失った。悲しみから立ち直るのに数年間かかった。長年、苦楽をともにした妻も七十六歳のときに先立たれた。仕事に没頭することで、忘却し悲しみの心を奮い立たせた。
 
 
2・・22年の歳月をかけ『鏡獅子」の大作を完成
 
昭和十一年、64歳で歌舞伎の名優六代目尾上菊五郎をモデルにした『鏡獅子」(座高2メートル、彩色付)の大作に取り組み、苦心惨懐の未、22年の歳月をかけ八十六歳で完成した。この累世の大作は現在、国立劇場の正面ホールに展示されている。
 
37年(1962)、九十歳で文化勲章に輝いた。伝達式の日、天皇から「一番苦心されたことは」と聞かれ、「それは、おまんまを食べることでした」と率直に答えた。貧乏こそが創作のバネとなったのである。
 
田中のすごさは、単に長寿だったということだけではない。晩年まで次々に意欲作を作り百歳過ぎても制作意欲が全く衰えなかったこと。文字通り、「60、70歳は鼻たれ小僧」で、80,90歳、100歳超えても元気に仕事を続けた点にある。世界の芸術家の中でも最高齢は、ギネス記録間違いないであろう。
その長寿の秘訣は「何もありませんなあ。養生法といったものもない。庭は千坪と広いが散歩も仕事が忙しいからしない。不老不死の妙薬もない。ときどき下痢や風邪の薬を飲むくらいで…・」と100歳のインタビューに答えている。
 
<現役のヒケツ>
<食事法>百四歳のころは、朝食は好物のお雑煮、昼食はイングリツユマフィンにハムエッグなど、午後3時には抹茶に和菓子、夕食は笹まきずし。
<健康法>特にない、木彫刻はかなりの重労働であるが、百歳過ぎてからは庭の散歩、104歳では歩く練習をしたり、指圧を週2回受ける。
<趣味>趣味は仕事一筋、日々精進すること。「実践、実践、挑戦、挑戦、修練、修練」「今やらずしていつできる」の精神。
 
 
1979年(昭和54年)12月30日、107歳10ヵ月で亡くなった。

平櫛田中は1872年2月―1979年12月、岡山県出身。日本近代を代表する彫刻家の一人、岡倉天心に師事、東京芸大教授、文化勲章受賞、代表作は「鏡獅子」など。

 - 健康長寿

Comment

  1. 久保公治 より:

    65歳で1人で土木工事(現場管理)の施工支援会社を立ち上げ1年と3ケ月税理士が1年目で車を買っても黒字70万円と誉めて頂いた。体が続く限りまだまだやって行く自信が湧いて来た。俺は、平成時代の毛利元就に成った気分!!

    • mae より:

      ありがとうございます。その意気やよし「老いて学べばすなわち朽ちず」「思い立ったら100年目、いまやらねばいつできる、おれがやらねばだれえがやる」の田中精神です。

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