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梶原英之の政治一刀両断(3)『原発国策の果ての歴史に残る大惨事–まず「国策」の座から引きずり下ろして脱原発に進むしかない』

      2015/01/02

梶原英之の政治一刀両断(3)
 
原発国策の果ての歴史に残る大惨事-
まず「国策」の座から引きずり下ろして脱原発に進むしかない
             
 梶原英之(経済評論家)
 
 
 
●疑義ある東電株主総会
 
 東京電力の株主総会が六月二十八日に行われた。一部株主から「脱原発」経営へ移行すべしとの提案が行われたが、予想通り銀行など大株主の「異議なし」により否決された。
 しかし今回の東電の株主総会には法的な疑義がある。脱原発派株主が本格的に訴訟すれば勝つ可能性はある。
 
 なにより企業としての被害金額の見通しさえ発表されなかった。3・11では東電の23%を占める原発の半分くらいのフクシマ一号の実物設備が毀損した。この損失を国が面倒見るものではない。最後のリスクマネーである資本金(つまり株主の株)の償却(株主の損、減資)でまかなわざるを得ない。最重要の株主総会の議題である。しかし説明はなかった。減資という株主責任について<ないことに>したのである。こんなディスクロージャーなしの総会は違法である。
 
●資本金まで国は面倒見ない
 
 現行の「原子力損害賠償法」には「異常に巨大な天災地変」が原因で原発が損害を与えた時の損害賠償と自社の原発の損害と混同したまま株主に対するディスクロージャー違反を犯したのではないか。
 しかも現行「原子力損害賠償法」を補う「原子力損害賠償機構法案」は6月14日に閣議決定しただけで、成立は未定。つまり株主総会は東電が債務超過の可能性があり、資金繰りがつかない中で開かれた。今も同じ状況なのだが、株式市場で東電株は管理ポストにも入らず、総会は株主に事実を知らせぬまま押し切ったのである。国策企業だから出来た技である。
 
●「東電仕分け」は間に合わず、電力料金アップ
 
 その裏話が7月3日の毎日新聞に出た。4月から五月上旬の間に東電の勝股会長は官邸内で仙石官房副長官に対して「免責」を主張。仙石氏は断り、「東電を仕分けする」と宣言した。しかし総会間近になると官邸も株主総会乗り切りのために通産省の例の15%電気料金アップの案を呑み、それに発送電分離を組み合わせた”東電解体の本格検討”をペーパー化し東電に渡した。これが「原子力損害賠償機構法案」の元である。
 株主総会を乗り越えるためとはいえ、官邸・民主党、東電がび縫策をペーパー化したのは、その後、なにより放射能拡散被害が歴史に残る災害に発展し国民の「脱原発」選択にストップを掛けることは誰にも出来なくなったからである。
 
●安全に国が責任を持つと言われても
 
 ところが原発は自民党時代「国策」として進められてきた。民主党はマニフェストで原子力発電比率を50%にする方針をいまだに変えていないからである。民主党もまだ原発「国策」から転換していない。だから「発送電の分離」を原発に代わる“新電力国策”にすると半分決めたところで株主総会が来てしまった。
 
 原発国策の看板は「将来の脱原(希望)発派」にとっても簡単には下ろせないのである。現に生きているからだ。
 海江田経済産業相は六月末佐賀県に行き限界町長に「国が責任を持つから(つまり国策だから)原発再開を了解して欲しい」と懇願した。古川佐賀県知事は「菅首相の気持ちが直接聞きたい。菅首相に来て欲しい」と言った。
 
●錦の御旗はどこにった
 
 大体フクシマ一号の放射能汚染に国は責任が取れていない。将来にいたってはどんな政府が出来ようと、責任など取れないのだ。3・11から、まだ三ヵ月半なのに「国策」の失敗が生んだ放射能漏れの量はチェルノブイリを超えた。なのに政府は電力不足の行政責任を優先させ、泥にまみれた、いや放射能にまみれた「国の責任」=国策を持ち出さざるを得なかったのである。7月4日になって玄海町長から逆に再開のお墨付きを頂いて喜んだのである。電力国策の錦の御旗が政府から原発自治体に奪われた瞬間だった。
 
 ところで国策とは何か。自民党の経済産業大臣経験者は六月半ばまで「原発は国策だから菅首相はだめだ」と菅下ろしの本音をテレビで語っていたが、その後言わなくなった。この放射能惨状と東電のモタモタのもとで国策はヤブ蛇になったからである。
 
●ほんとうに国策だったのか。だれが決めた
 
 しかし原発はなぜ国策だったのか。どういう法律的な要件を備えているのか。一つは3条に「異常巨大な天災地変」のばあい発電会社の賠償責任を免責とする規定を持つ現行「原子力損害賠償法」が1961年に成立・施行された。これは根本法規なのだ。電源三法は自治体へのカネのながれを国が補償するもので重要な法律だが、事故の時の危機管理法ではない。
 
 このほか原子力発電の推進には、原子力安全保安院などの行政組織をつくる法律に、その精神が謳われている。それは他の法律と同じで閣議決定が行われている。
 原子力発電の安全性(時に危険性)は高校の教科書に書かれているが、閣議決定を受けて推進官庁の旧科学技術庁の意向が反映したものである。旧科学技術庁はその後、文部省と統合され文科省になった。
 
 しかし原発国策は国会で宣言されたことはなく、「政府が安全に責任を持ち、なにかあれば、すべて国が責任を持つ(地方自治体にはビタ一文かねを使わせない)」という言葉は、その時の内閣の責任の範囲内で言われただけである。そして原発の推進は自民党の方針を国策としたものである。
 
 7月初め現在のいま菅民主党政権が原発国策を継承しているのかどうか。国会で質問して欲しいが、そういう質問はない。
 
●国策の失敗はあまりに悲惨である
 
 原子力の国策とは、そんな程度の意味しかなかった。しかし日本の近代史で国策が敗れる時、その被害は甚大である。
 
 「国策」の歴史をみてみよう。なんといっても日露戦争の後にできた南満州鉄道(満鉄)だ。あらゆる本に「国策にそって出来た」企業と書かれているが、満鉄を作った政府の命令書(勅命)、定款には国策の文字はない。「政府の命令を聞け、しかし株式会社である」というのが趣旨である。それが「国策」という解釈の元に尽きる。普通の株式会社と違うのは「株主を日本と清国の国民に限ると」した点だ。これはポーツマス条約の規定により設立されることを謳った部分で、現在の満鉄観とは全く違うことに驚くだろう。
 
 のちに初代満鉄総裁の後藤新平が満鉄を「文装的武備」などと語ったものが、「満鉄国策会社」の間違いの元になった。後藤が「文装的武備」(要するに満鉄は武力の一部である)と語ったのは退任六年後の大正三年だった。このころ満鉄は鉄道官僚を総裁に迎え大正的資本主義会社に向かい政友会の利権の元になりつつあった。後藤はそれが嫌だったのだろう。後藤にはこういう発言が多すぎる。
 
 その後、これも満鉄総裁になった政友会の政治家・山本条太郎が昭和五年に「経済国策の提唱」を出版、十万部のベストセラーになった。しかし経済国策とは、いまのことばでいえば民活、公社公団化による経済構造改革案だった。
 「国策」が生きるか死ぬかの経済戦争の国是とされたのはキャッチフレーズ造りの名人・北一輝の「対外国策ニ関スル建白書」(昭和7年)ではないか。そして矢次一夫が「国策研究会」を造り、ジャーナリズムの流行語となった。
 
●国策とは湯水のようにカネを使えること
 
 もちろん政府は利用した。満州移民こそ「国策だ」といわれ、移民の男性と結婚するために行く大陸花嫁を国策によって満州国の開拓に行く勇気ある若い女性と称えた。しかし一方満州で死んでも保証はない。民間人も国のために死ぬことはありうるという政策が「国策」である。
 
 不思議なことに満州国を作ること自体を国策とはいわない。戦争そのものだからである。
 国策は戦争のサブ目標。しかも経済活動に触れるものを政府全体で応援するという閣議了解事項のことのようである。その政策が国策にはいると経費は無尽蔵(国債の対象)で、だれはばかるところなく宣伝・広報はやり放題。これが国策に昇格した事業である。つまり国策とはその結果を考えずに政府広報やりほうだいの事業という事である。
 だから戦前の出版界では、「××国策」だらけである。出版界も悪い。
 
●国策とはリスクを考えないという事
 
 国策が失敗するとき、その結果は悲惨である。経済的効果を期待しながら、そのリスクを計算しないというお墨付きだからだ。いやお墨付きと多くの官僚がすき放題するからだ。
 満州国崩壊の悲惨さは、移民ほか満州国の国家事業の多くが、リスクを考えない経済行為で構成されていたからだ。
 
 原子力の平和利用にアクセルを踏み込んだのは岸内閣で、そこで中途半端に作られたのが現行の「原子力損害賠償法」だったのに注意が必要だ。
 
 岸信介は戦前満州国を作った商工(現経産)官僚である。東条内閣では商工大臣だった。戦争被害を「賠償」出来なかった政治家が原発の損害賠償でいかなる事態を想定したのか呼び出して聞いて見たいものである。
 
●実際の原発「国策民営」は最近のことだ
 
 しかし原子力は「国策」と業界が言い出したのは1980年代である。600ページに及ぶ明治以来の電力業発展を描いた本がある。その著書が今後の原子力行政にいかなる方針か不明だから書名、著者名を書かないが、信頼にたる本である。その原発を「国策民営」という言葉で推進しようとしたイデオローグは、電力中央研究所の研究員で、事故多発による反原発運動を防衛するために国策と言うお墨付きの必要を感じたからだと言う。
 ここから電力会社の自己責任による経営ダイナミズムは交代したとこの浩瀚な本の著者は書いているようである。
 
●国策になったから東電は失敗続き
 
 筆者は放射能災害の人災としての真因は、甘えによる事故発生後の準備不足だと思っている。
 放水車を中国から送ってもらったことに始まり機材がない。最近出てきた新兵器のロボットが掃除機そっくりなのを見て涙がこぼれた。いそいで放射線除去のために発注した痕がありありである。
 にわかにフランス、米国の支援を受けている。戦前だった国辱原発だ。国策が国辱なのだ。
 
 案の定というよりあらゆる対策は水漏れで支障を来たしている。しかし実態は違う。原発は管とお釜で出来ている。普通の工場だ。違うのは反応が凄いので管などの素材が丈夫、事故が起きても必要最小限りの部品交換で立ち直るとの設計思想が売り物だった。
 ところが起きてみたら、管には亀裂が走り、管はスパゲッテー。そこに行く作業員は放射線のなかで短時間でしか作業できず、絶対数は足りない。
 復旧の二字がないのが福島原発だったのだ。事故など原子力村の名折れになるから誰も言い出せなかったのだ。
 
 秋になっても休止原発の運転再開などできるはずがない。
 
●支援機構法をつくり直せ
 
 よって「異常巨大な天災地変」とは関係ない。復旧の責任は東電にしかあり得ない。「天災地変」など江戸時代的なことばを使った賠償法規(これから『天変地異法』と呼ぼう)を変えずに「国策」に悪乗りした自民党政権の間違いだが、それで気が緩んだ東電は信じられない会社である。
 東電の株主総会はその象徴だが、一里塚に過ぎない。福島と広い周辺地域の住民はあと百年ガンの発生に悩むのである。
 
 いま菅政権は『天変地異法』にかわる原子力損害賠償支援機構法の成立に足踏み状態である。一方菅首相は観点を変えて「再生可能エネルギー法案」の成立を自らの退任のきっかけとしようとしている。
 
●反省してドイツ並みの近代国家になろう
 
 そして国民の脱原発は不可避の状況である。にも関わらずしばらくは休止原発の再開に電力不足の首根っこを押さえられているのだ。
 これも「国策」の果てである。ドイツは経済的にリスクがあるとみれば、事もなげに原発推進から脱原発を決めた。
 
 近代国家としての実力の違いを見せ付けられて筆者が深く傷ついている。
 
 幸い民主党政権に原発政策全体と経過に責任はないのだから、原子力「国策」の継続を否定した上で『天変地異法』を否定し、原子力損害賠償支援機構法の中に脱原発の結果である廃炉期間までの損害への補償、債務超過にいたった電力会社の破綻・再建規定(その後の補償義務の政府引継ぎ)、地域独占などその地域の電力体制のペナルティー的制度変更を明記すべきである。
 
●原発は性格を変えた。固定資産税を重課せよ
 
次回に詳しく書くが全原発は3・11で物体としての性格を変えた。いずれ危険物になる物体に転化した。立地自治体は2011年度から原発に対して固定資産税を重課する権利が発生した。近くの工場のタンクの中身が爆発物と分かれば、我慢税や追い出し税を取るのは当然だ。
 
廃炉の完了まで(休止中でも)固定資産税が重課されなければ、これから2、3年の間の休止原発の再開さえ無理だ。固定資産税は一義的に電力会社は払うのだが、電力会社が起こした災害で電力料金があがる国民の身になってみろ。給料下げればいいのだ。
 
 脱原発といっても瞬時に出来る訳ではない。当分原発は生きるのである。その間にこそ第二の大事故の危険がある。なぜなら私企業たる電力会社はドル箱の原発を失うのが嫌さに<自暴自棄>となるからである。
 
 この過渡期の政策こそ近代国家、色あせた高技術の実力が問われる。禍根を立てるかどうかの要諦である。
 
 原子力村の解体は当然だが、原子力、放射能医学の人材育成は不可欠なのである。筆者も脱原発しか道がないと信じるが簡単な道ではない。なにより原発国策の復活を抑えるべきである。

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